『旧約聖書外典・上』関根正雄編 講談社学芸文庫
「第一マカベア書」
イスラエルの軍記物のような本。コノ手の歴史書の好きな人は単純に読みはまるような内容である。
主にイスラエルとシリアとの戦争の記録。
アンティオコス四世の即位と共に、イスラエルはギリシア化が進む。その中で敬虔なマタティアスらはユダヤの習慣を重んじ、異教徒達とギリシア化した同胞達とを廃するべくレジスタンス活動を始める。
マタティアスが死ぬと、マカベアの異名をもつユダがその後を継いだ。ユダは僅かな兵力でシリアの大軍を次々と撃ち破っていく。しかし、そのユダもベレトにて、シリア軍二万の歩兵と二千の騎兵の前に、三千の兵力で挑もうとしたところ脱走兵が続出。結局八百しか残らなかったにも拘わらず撤退せずに果敢に攻め、ついに戦死してしまう。
ユダの死後は、弟ヨナタンが跡を継ぐ。ヨナタンもユダに負けないほど数多くの戦果をあげ、アレクサンドロス王から大祭司の地位と、紫の衣、金のバックルなどを与えられ、ユダヤにとって有利な条件を数多く飲ませた。ローマ、スパルタとも同盟を結んだが、アンティオコス六世の後見人であるトリフォンから騙し討ちにあい、捕われ、後のシモンとトリフォンとの戦争のときに殺されてしまう。
ヨナタンの跡は兄シモンが継ぐことになる。しかしそのシモンも年老いてからプトレマイオスという女婿によって宴席で騙し討ちにされ、死んでしまう。その跡はシモンの息子ヨハネが継ぐことになる。
「ユデト書」(抄)
これはユデトという女性が、酒と色目によってネブカドネザル王の将軍ホロフェルネスの首を獲り、ベツリアを救うお話し。内容は全くのフィクションである。
どう見ても色仕掛けの策略だが、宗教の世界ではこれも神のお導きになる。
「トビト書」
これについては、小説のネタにしたことがあるので、そのまま引用してみる。
キリスト教外典トビト書にある『トビアスと天使』は人気のあるエピソードである。大天使ラファエルと少年の並んだ絵が、これに当たる。ジャンはかつてアブラーモから教訓混じりに聞かされたことがった。
これはごくごく簡単にいえば、捕囚の地にあってもユダヤ人の戒律と慣習を守り、息子のトビアスと大天使ラファエルが悪魔を追い払い、結婚相手を連れ帰るというお話である。
あまりに簡単すぎるので、もう少し詳しい筋を紹介しておく。チグリス川の上流にあるニネヴェに捕囚されたトビアスはトビトの息子である。トビトは逆境にあってもユダヤ人の戒律と慣習を守ったが、中でも王によって殺された死体を葬ったことが王の逆鱗に触れ、死刑を宣告される。トビトは身を隠していたが、それから五十日と経たずに王は自分の息子らに暗殺され、どうにか死刑は免れる。
そのようにして助かった後もトビトは相変わらず慣習を守って死体を葬っていた。ある日、死体に触れた不浄な身体だから――と家に入らず中庭で眠っていると、その間にすずめの糞を眼に受け、白い膜がかかって盲目となってしまう。
ある日、妻のアンナが報酬として、賃金の他に子山羊を一頭もらい受けた。しかし眼の見えないトビトはそれを盗んできたものと勘違いし、妻からなじられる。そして嘆きの祈りを捧げる。
場所は変わってメディア王国に捕囚されたエグエルの娘サラは、これまで七人の男と結婚しようとしたが、夫婦になる前に、サラに惚れた悪魔アスモデウスがことごとく殺してしまった。サラは自殺を思い、嘆きの祈りを捧げる。
二人の祈りは聞き入れられ、大天使ラファエルが地上に遣わされる。
トビトはメディアのガバエルにお金を預けていたことを思い出し、トビアスに命じて、そのお金を取りに行かせる。メディアまで同行するお供を探していると、ラファエルと出会ったので、トビアスはラファエルと共にメディアまで赴くことになる。
トビアスと大天使ラファエロが共に旅立った時に犬が一匹ついてきたが、この場面は最も人気があり、フィレンツェの大彫刻家アンドレア・デル・ヴェロッキオがレオナルド・ダ・ヴィンチと共に描いている。ダ・ヴィンチが担当にしたのは白い犬の部分だといわれているが、事実この犬は他の作品にもしばしば出てくる。
旅の途中、チグリス川のほとりで、ラファエルはトビアスに命じて魚を捕らせる。そして心臓、肝臓、胆嚢だけを取り出して大切に持たせた。トビアスは魚を食べたが、ラファエルは捨ててしまった。
この魚を捕る場面も人気があり、幾人かの画家が同じ場面を描いている。
さて、エグエルの地に着いたトビアスは、ラファエルから従姉妹であるサラと結婚するように奨められる。二人はその通り結婚するが、魚から取り出しておいた、心臓と肝臓を燻してアスモデウスを退治しておいたので、トビアスは死なずに済む。
祝宴の後、家に帰ると、ラファエルはトビアスに、父の眼に胆嚢を絞った汁を注がせ、痛みのためにトビトが眼をこすると白い膜が取れ、眼が見えるようになった。そこでラファエルは正体を明かし、天へ帰っていくのである。
「三人の近衛兵」(エスドラス第一書・第三章―第四章)
ダレイオス王が眠っている間、王の護衛をしていた三人の若者達が、この世の中で一番強いものは何か――という賭けをはじめた。
一人目の若者曰く『酒が最も強い』
二人目の若者曰く『王が一番強い』
三人目の若者曰く『女が一番強い。しかし、真理はすべてのものに勝る』
王が起きたとき、三人から事情を聞いた。
一人目の若者曰く『酒は全ての人の心を迷わせる。酔いがさめれば何をやったか、きれいさっぱり忘れてしまう。人にこんなことをさせる酒こそ、この世で一番強い』
二人目の若者曰く『陸地と海とそこに住む人々を治める支配者たちこそ、最も強い。しかも王は支配者達の上に立つ主人であり、彼等は王の命令によって何んでも従う。みなが服従する王こそ、一番強い』
三人目の若者曰く『王を生むのも、海陸を支配する人々を生むのも、女である。酒を造るぶどうを栽培する人もみな、女が育てた。男は女がなければ生きられない。
仮に男たちが金銀そのほか美しいものをあつめたとしても、愛らしい顔形の美しい女を見れば、これら一切を放り出して呆然と見とれ、口をぽかんとあけて女を見つめ、金銀その他美しいもの全てに換えても彼女を手に入れようとする。
男は自分を育ててくれた父親も、自分の国も捨てて、妻のところにゆき、生涯妻とともに暮らして、父も母も、国も心にとめなくなってしまう。
男は苦労して働き、そして手に入れた物をすべて女に与える。多くの男たちが女のために理性を失い、彼女らの奴隷となった。多くの者が女のために滅び、つまずき、罪を犯した。
王は愛妾のご機嫌ばかりをとろうとしている。女が一番強い』
『女は確かに強いが、真理はもっと強い。酒は不義のもの、王も不義、女も不義、すべての人の子らと、そのなす業は全て不義である。しかし、真理は永遠に残って強く、とこしえに生きて栄える。
真理には不公平や偏見がなく、不義やよこしまなことではなく、正義を行う。すべての人が真理の行うところを認め、その裁きには不正がない。真理はあらゆる時代にわたって強さと王権、力と威厳とを持つ。真理は偉大である。それは全てのものよりも強い』
そして三人目の若者が最も賢いとされ、王はエルサレム再建の願いを聞く。
「ベン・シラ」
これはなかなか解説が難しいので一部面白い処を抜いてみる。
どんな傷でも心の傷よりはましだ
どんな意地悪も女の意地悪には及ばない
意地悪な妻と共に暮らすくらいなら
ライオンや龍と一緒に住んだ方がよい
女の意地悪はその顔形を変え
熊よりもおそろしい形相にする
悪妻にまさる悪はない
罪人の運命が彼女にふりかかるように
悪妻ははずかしめをもたらし
軽蔑と 心の傷をもたらす
夫を喜ばすことのできない妻を持つ人は
滑る手と弱い膝になやむ
女は罪の源
女によってわれわれはみな死ぬべき者となった
現代風に言い換えれば、怠惰な男にまさる悪は無い――ってか。現代日本は女性が択ぶ立場に立つことが多く、立場が逆転している。
下巻は次回にて。
Posted at 2006/07/18(Tue) 20:30:16
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