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文学・芸術など創作方面を中心に、国内外の歴史・時事問題も含めた文化評論weblog

2月に買った本

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内訳:
張文成『遊仙窟』今村与志雄訳 岩波文庫 :400円
石塚友二『松風』岩波文庫        :630円
寺山修司『書を捨てよ、町へ出よう』角川ク:250円
川崎洋『すてきな詩をどうぞ』      :210円
『中谷宇吉郎随筆集』岩波文庫      :400円
 
合計5冊                :1,490円 

張文成『遊仙窟』岩波文庫
 文成は張さく(さくの字は“族”冠に“鳥”)の字(あざな)。「遊仙窟」は唐代伝奇小説であり、本来は中国の古典である。遣唐使によって日本にもたらされ、かつて日本の知識人は皆この「遊仙窟」に眼を通したはずである。読んでみるとなるほど、万葉集など日本の古典、ことさらに源氏物語などはその影響が強いように見える。
 黄河の源流へ向けて複雑に入り組んだ谷を上っていくと仙人の住まいがあり、そこには美しい女がいる――というのは、実は遊里への道のりを暗に示している。登場人物の王侯の姉妹『十娘』は遊女――いわゆる“おいらん”であり、『五嫂』はその仲介をした“やり手”である。
 この玄人女とのやり取りはその後日本の“花柳小説”に引き継がれ、近代になって“私小説”の基礎となった。文壇における事件は、文壇人同士では誰でも知っていることであり、その時の“心情”を描出し、文壇を中心とした情報のやり取りが私小説の本来の目的と言える。

 因みに「遊仙窟」は“佚存書”として、長い間中国からは失われていた。日本に「遊仙窟」があることを発見したのは、清代になり、日本への留学が流行しはじめてからのこと。中国において遊仙窟を復活させたのは、他でもない「狂人日記」などで有名な魯迅だという。
(一部、辻原登氏の講義を参考)


石塚友二『松風』岩波文庫
 石塚友二氏は本来俳人であり、小説はほとんど書かなかった。この本では「松風」のほか「祖~之燈」(祖も旧字体の“示且”)「秋夜」「春と夫婦」「夜の雛」など全五篇を収録。「松風」は第十五回芥川賞候補作。
 複文がやたらと多いが、なかなか流麗な文章である。簡単なあらすじを書く。
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 以前、峰本琴音という女性に一目で惚れ、結婚を申し込んで断られた主人公である無名の作家津村は、その後別の女性に一方的に想いを寄せる。そうした時に富岡という知人を仲介にして、逆に琴音の方から縁談が入ってくる。しかし津村は吹っ切れず、今の想い人へ向けて恋文を書いて送る。そして三日の後に返事が無ければ結婚する――と心に決める。
 琴音は16歳の時に母親を失くし、母替わり、妻替わりとして貧乏の中を生きてきた苦労人である。津村の住むおんぼろのあばら屋を前にしても、琴音は「いい部屋だこと」と讃える。あらかじめ周囲から生活の荒廃ぶりを相当誇張して伝えられていたせいである。
 結局、特にこれといったこともなく琴音と結婚し、新婚旅行へ。新婚旅行先で、津村はここに至るまでの自分のことを思いだして恥じる。
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 たったこれだけの内容。物語性に乏しく、いわゆる私小説的・純文学的仕上がり。現代の視点で見れば、間違いなく中島敦「光と風と夢」の方が遙かに読み応えがあり、優れている――と評価されるでしょう。時代の不運というかね。

寺山修司『書を捨てよ、町へ出よう』角川クラシック
 実は寺山修司は大して好きではない。随分前に買っていた気がしますが、何んとなく買ってしまった。人生斜め向き。少しハードボイルドに行こうかと。

川崎洋『すてきな詩をどうぞ』
 中原中也、草野心平、など色々な詩を紹介し、解説してくれている。詩は本来絵解きなんてやるもんじゃありませんが、やっぱりやってくれないとどう読んでいいか解りませんから、こういうのはなるたけ沢山読んでおくと、知ったかぶりが出来ます。(笑)

『中谷宇吉郎随筆集』岩波文庫
 中谷宇吉郎は雪の研究で世界的に有名な物理学者。物理学者とは言っても暗記や計算だけが能の人ではなく、創造的精神を多分に持った本当の科学者である。寺田寅彦のお弟子さんで、とにかく文章が簡潔で美しい。荒川洋二氏が『寺田寅彦さんよりも文章はいい』『文章を良くしたいなら』読むべしと言っていたので、買ってみた。
 雪に関する話はもちろんのこと「天才は忘れた頃来る」「立春の卵」など、有名どころの話が収録されており、この一冊を読むだけでもかなりの知ったかぶりが出来る。そこら辺の雑学本なんかよりもよっぽど実用的だろう。
 とにかく中谷宇吉郎は科学に対する姿勢が素晴らしい。知識を蓄えても、決して世の中の“不思議”に対する眼を腐らせてはならないな、と心に深く思った。いやむしろそういう直感を失くしてしまうくらいなら、子供のうちには知識なんて要らないのかもしれない。科学者を志す人には、是非とも読んで欲しい本。

 62年にお亡くなりになったとのことで、あと6年ほどで随筆の著作権が切れる。電子テキスト化されたら、なかなか便利かもしれない。

Posted at 2006/03/03(Fri) 09:14:41

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