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文学・芸術など創作方面を中心に、国内外の歴史・時事問題も含めた文化評論weblog

5,6月に買った本その3、『フランス短編傑作選』

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『フランス短編傑作選』編・訳山田稔 岩波文庫
 フランス文学といえば難解で衒学的でマニアックで、しかもクソ長いというイメージしか無く、私はカミュやサルトル、あるいはロブ=グリエなど、要所要所を点で読むことしかしていない。そんなわけで、アンソロジーはとても便利だと思って購入した。何より、現代に近く、なおかつ長くないフランス文学に触れられるのは良いことだと思う。
 内容は以下の通りである。


ヴェラ         オーギュスト・ヴィリエ・ド・リラダン
幼年時代――『わが友の書』より
            アナトール・フランス
親切な恋人       アルフォンス・アレー
ある歯科医の話     マルセル・シュオッブ
ある少女の告白     マルセル・プルースト
アリス         シャルル=ルイ・フィリップ
オノレ・シュブラックの失踪
            ギョーム・アポリネール
ローズ・ルルダン    ヴァレリー・ラルボー
バイオリンの声をした娘 ジュール・シュペルヴィエル
タナトス・パレス・ホテルアンドレ・モーロワ
クリスチーヌ      ジュリヤン・グリーン
           (ジュリアン・グリーン)
結婚相談所       エルヴェ・バザン
大佐の写真       ウージェーヌ・イヨネスコ
ペルーの鳥       ロマン・ギャリー
大蛇(ボア)      マルグリット・デュラス
ジャスミンの香り    ミッシェル・デオン
さまざまな生業(抄)  トニー・デュヴェール
フラゴナールの婚約者  ロジェ・グルニエ

 ぶっちゃけ、アポリネールとアナトール・フランス、マルセル・プルースト……この三人以外は全く知らない。wikipediaで検索できなかった分については、フランス文学案内にも載っていないため、詳細は解らなかった。使えねー本だな。(笑)

 載ってない作家については、巻末にある山田稔氏の解説からプロファイルをちょっと拝借しておく。なお、文章はそのまま抜いたわけではなく、ここに掲載するために“情報”だけを選別し、辞書並みの表現に圧縮してある。


オーギュスト・ヴィリエ・ド・リラダン
(Auguste Villiers de L'Isle-Adam 1838-89)

 ブルターニュ地方出身。名門貴族出身の伯爵。後、パリへ移住。
 詩才をボードレールに認められ、それがきっかけでポーやワーグナーと交友を持つ。
 没落貴族として、ときに浮浪者にまで身を落とすほどの極貧を経験。
 最期は施療院にて友人マラルメに看取られて窮死。
 生前はほとんど無名。死後、象徴主義の先駆者として評価される。

 代表作は「ヴェラ」を収めた『残酷物語』(1883)、『未来のイヴ』(1886)、『トリビュラ・ボノメ』(1887)、戯曲『アクセル』(1890)など。

アルフォンス・アレー(Alphonse Allais 1854-1905)
 セーヌ河口オンフルール出身。
 薬屋の家に生まれ、パリに出て薬剤師となるはずが文学へ傾倒。
 モンマルトルのカフェ「黒猫」を根城に作家活動をはじめる。
 ミスティフィケーションや言葉あそびをもとにしたコント(フランス語でショート・ショートのこと)を多く残し、そのブラックユーモアは後にアンドレ・ブルトンから『エスプリのテロリスム』と高く評価された。

マルセル・シュオッブ(Marcel Schwob 1867-1905)
 博識と繊細な文体で十九世紀末のパリ文壇に君臨。短編小説を得意とする。
 古代ギリシャ語、サンスクリット語、フランス語俗語に通じ、中世の詩人フランソワ・ヴィヨンの研究者としても有名だった。
 アルフレッド・ジャリやアンドレ・ジードを発見。

 代表作は「ある歯科医の話」を収めた『二重のこころ』(1891)、『黄金仮面の王』(1892)、『少年十字軍』(1896)など。

シャルル=ルイ・フィリップ(Charles-Louis Philippe 1874-1909)
 フランス中部のセリイ出身。木靴職人の家に生まれる。
 二十歳のときにパリへ出て市役所の第四区照明課に勤め、創作をはじめる。
 故郷である田舎町の日常を題材に、多くのコント(フランス語でショート・ショートのこと)を『ル・マタン』紙に書いた。
 貧困、病気、老年、死など暗い題材を扱いながらも、どこかとぼけたようなおかしみ、独特のユーモアがある。

 代表作は『ビュビュ・ド・モンパルナス』(1901)、死後編纂された『小さな町で』(1910)、『朝のコント』(1915)

ヴァレリー・ラルボー(Valery Larbaud 1881-0957)
 フランス中部ヴィシー出身。裕福な鉱泉経営者の一人息子として生まれる。
 生涯病弱で、56歳で脳溢血により半身不随に。以後、無為の日々を過ごす。
 しかし元気だった頃は自由を求めてヨーロッパ各地を旅し、その体験から作品にはコスモポリチスム的傾向が濃厚である。
 1909年、『新フランス批評(エヌ・エル・エフ)』の創刊とともに中篇『フェルミナ・マルケス』などを発表して注目されるようになる。
 繊細な感受性、内的独白の手法、喚起力の強い詩的イメージはプルーストに激賞された。

 他、代表作は『A・O・バルナブース全集』(1913)、「ローズ・ルルダン」を収めた短編集『幼なごころ』(1918)など。

ジュール・シュペリヴィエル(Jules Supervielle 1884-1960)
 南米ウルグアイの首都モンテビデオ出身。両親は南仏バスク地方出身。
 生後僅か八ヶ月で両親と死別。叔父の許で少年時代をモンテビデオで過ごす。
 後、パリで教育を受け、ソルボンヌを卒業。
 詩集『悲しきユーモア』(1919)で注目を受け、『桟橋』(1922)、『万有引力』(1925)などで名声を得た。1960年に「詩王」に選ばれた後、パリで死去。
 同郷の詩人ラフォルグの影響で、シュールレアリスムに近いが、つねに運動の外にあり続け、孤高のうちに宇宙的・神話的な独自な世界を築いた。 

 他、短編小説集に「バイオリンの声をした娘」を収めた『沖の少女』(1931)、『ノアの方舟』(1938)がある。

アンドレ・モーロワ(Andre Maurois 1885-1967)
 本名エミール・エルゾーグ

 ノルマンディ地方のエルブフ出身。
 家業の織物工場の経営をしていたが、第一次大戦のときにイギリス軍の連絡将校となり、その体験を書いた『ブランブル大佐の沈黙』(1918)を発表し、認められた。
 「小説化された生涯」と呼ばれる歴史読み物や伝記の分野を得意とした。
 1938年アカデミー・フランセーズ会員。

 代表作は『イギリス史』(1937)、『アメリカ史』(1943)、『フランス史』(1947)、『シェリー伝』(1923)、『風土』(1928)、「タナトス・パレス・ホテル」を収めた短編集『ピアノだけのために』(1960)、『バルザック伝』(1965)、など。

エルヴェ・バザン(Herve Bazin 1911- )
 祖父ルネ・バザンはアカデミー・フランセーズ会員の作家。
 最初は詩を書き、その後、家への犯行を描いた自伝的小説『蝮を手に』(1948)で小説家に転向。
 ブルジョワ的秩序に対する火案をリアリズムの手法で描く。

 他、『壁に頭をぶっつけて』(1949)、短編集『結婚相談所』(1951)、『愛せないのに』(1956)など。

ロマン・ギャリー(Romain Gary 1914-1980) 本名ロマン・カチェフ
 リトアニア出身のロシア系ユダヤ人。十四のときにフランスへ移住。
 sねごしばらく外交官を勤め、世界各地を巡歴した。
 1956年、赤道アフリカを舞台に、植民地における人種差別などを描いた『空の根』でゴンクール賞受賞。しかし、その後フランス文壇での評価は上らず、1980年12月に自殺。
 死後、1975年にゴンクール賞を受賞し映画化もされた『これからの人生』の作者エミール・アジャールが、実はギャリーの偽名であったことが判明し、話題となった。

ミッシェル・デオン(Michel Deon 1919- )
 大学で法律を学んだ後、『アクション・フランセーズ』『マリ・クレール』などに寄稿。その後、編集者の仕事を経て小説家となる。
 サルトル、カミュ、アラゴンらアンガジェ(社会参加)文学への反動として、1950年代に台頭した作家群に属する。
 1973年、『薄紫色のタクシー』でアカデミー・フランセーズ小説大賞を受賞。1978年にその会員となった。
 他、短編集『ジャスミンの香り』(1967)など。

トニー・デュヴェール(Tony Duvert 1945-)
 異端作家のひとりと数えられる。経歴不詳。
 1973年、二十八歳で異常な性的幻想や逸脱に満ちた少年の同性愛世界を描いた『幻想の風景』を発表し、メディシス賞を受賞。この作品の文章にはピリオドもコンマもなく、また文の冒頭に大文字が用いられず、文中に空白があるなど、文体面での逸脱もみられる。
 他、代表作は『旅する男』(1970)、『薔薇日記』(1976)、『大西洋の島』(1979)など。

ロジェ・グルニエ(Roger Grenier 1919-)
 ノルマンディ地方のカーン出身。
 クレルモン=フェラン大学卒業後ジャーナリストとなり、新聞・ラジオで活躍。第二次大戦の終わり頃から戦後にかけて、カミュらと『コンパ』紙の特派員としてヨーロッパ各地へ赴く。
 1948年から1963年まで『フランス=ソワール』紙の記者を勤めた後、ガリマール書店の編集顧問となる。
 作品には短編集『編集室』(1977)のようなジャーナリスト的な題材を扱ったものと、『冬の電動』(1965)、『シネロマン』(1972,フェミナ賞受賞)のような青春時代を描いたものがある。
 他、二つの中篇からなる『木の鏡』(1975)、短編集『フラゴナールの婚約者』(1982)など。

 次回、レビューとして簡単なあらすじを紹介したいと思う。

Posted at 2006/07/09(Sun) 14:39:09

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