http://www.cnn.co.jp/showbiz/CNN200603280007.html
2006年3月27日、一つの時代を作った人がコノ世を去った。レムは、SFに限らず、文学そのものにとって誇りとすべき古典的作品を書いていた。
代表作は「ソラリス」や「砂漠の惑星」など。重厚な描写で書かれた宇宙モノが多い(というよりも、他のものは知らないのだが)。
中でも「ソラリス」はお奨め。これは面白い。知性を持ったゼリー状の海で覆われた惑星ソラリスの描写、そしてそれについての論文といい、これほどリアルに、説得力をもって壮大な嘘をつける人は他にいないかもしれない。
大抵の文化系読者は、海が主人公の記憶から作りだした恋人の像とのロマンスに眼が行くだろうが、そんな安っぽいものに終わらないのが、この作品の奥深さ。
やはり、徹底したリアリティである。しかも、単なる理系のSF趣味に終わらず、立派な物語を構成している。
他の作家によるSF……例を挙げれば、アイザック・アシモフのSFは私には少し食傷気味だった。読んでいると苦しくなってくる。しかし、レムの作品の場合、読者は物語の魔力に取り憑かれ、次はどうなる――次はどうなる――と好奇心を切られることがない。
そして人物もみな一級品である。薄っぺらでない。主人公以外の人物の秘密は、ほとんど明かされないところなど、もはや憎いくらいだ。
一つ一つの要素、全体のバランス感覚、どれをとっても文句が無かった。
参考:
毎日新聞;今週の本棚;辻原登氏による書評より
三十数年の時間を隔てたふたつの読書で『ソラリス』はどんなふうに違った相貌をみせてくれたか。薹(とう)が立ったせいか、ハリーと<私>のラヴ・ロマンスにはかつてほど心ときめかなかった。その代わり、<私>とスナウトが物語の終わりのほうで交わす神学論議……、海は神のようなものなのか、という問いかけがあってのち、「この神は物質の外には存在しないし、物質から解放されることもない。それを願っているにせよ……」「あの海はむしろ、宇宙の世捨て人、宇宙の隠者」「絶望する神の萌芽」といったやりとりに惹かれたし、ハヤカワ版では欠落しているとされる海の異様なほどリアルで精細な描写に酔った。むろん、およそリアリズムとは程遠い、つまり描写に対応する現実は百パーセント存在しないということを前提にしたリアルな描写の面白さ。
最近出たレム・コレクション・シリーズより完訳版:
ソラリス
伝統的なハヤカワ版の飯田訳(ロシア語からの重訳・削除箇所あり):
ソラリスの陽のもとに
Posted at 2006/03/30(Thd) 06:29:51
文学・歴史・民俗学 | コメント(0) | トラックバック(0) | この記事のURL
この記事のトラックバックURL ->