アンデパンダン展とは、フランスで起こった非審査・自由出品の展覧会のこと。フランス印象派及びアンリ・ルソーはこれが無ければ始まらない。
――日本でもこの精神に則った非審査の公募展たる「日本アンデパンダン展」があるというので、昨日(3/9)出掛けるついででしたが、春のうららかな日差しの中を上野公園へ。暖かいを越して熱い熱い。もうYシャツだけで充分ですね。公園内ではパンフルートの演奏の他、学習院みたいな制服を着た女学生を見掛けました。
日本アンデパンダン展の会場である東京都美術館へ到着しましたが、閑散としていて気持ちがいいほど。普段企画展で、人の後頭部ばかり見ているので、たまにはこんな美術鑑賞も悪くないです。
肝心の出品物に関しては、意外と皆さん真面目を通り越して保守的な気が。“いかにも”という作品が多かった。アニメ調の作品なんて2〜3枚見掛けたかどうか、という程度。主催者の影響でしょうか。そういえば、やたらと反戦モノが多かった気がします。(小泉)政治批判も二つ三つ。
気持ちは解るのですが、底まで伝わるほどの強いメッセージ性を有したものは無かったかも。絵に詩文を書き連ねたり、新聞をコラージュしたり、言葉で表現されると解りやすくはあるのですが、あくまで表面的に過ぎないな、と。それよりも、原爆ドームだけ描いてある方がピンと来ますし。しかし、それも使い古されたモチーフ――というよりももはや符合と化していますから、見る者へもっと強く訴えたいのなら、やはりより強烈な、或いは少し違ったアプローチも必要なのかもしれません。
一見文字に見える一つ一つが人間の姿をしている(戦争批判)力作もありましたが、やはり過去において既に用いられている手法では、どうしても度肝を抜かれるようなことは無いわけで。
気に入った作品達:
岩崎孝「もう近い」
女性が椅子に座ってポーズを取っているだけの、一見普通の絵なのですが、極めて微妙なところにおいて心を惹かれた。見る者の危機感を煽る、というか。
酒井あきら「メッセージI」「メッセージII」
一見岩崎ちひろかと見まごうようなタッチ。もちろん、作者自身が持っているものも出ていて、そこに不思議な魅力が宿っていたような気がする。やさしさにも訴える力はあるよなー、と。
浅野琢也「ブルーシートTOKYO」
“時転”する地球の光学ホログラフや、塩で固めた(?)ソルティドッグなど、単純に見ていて面白かった。見る側の好奇心をそそるのも、アートの使命のうちの一つかと。
----(08/24追記)----
画像の転載許可を戴けたので、紹介します。
こちらがブルーシートTOKYO。この視点からだと、ちょうど下の方に“時点する地球”が見えています。これは上から覗くことでホログラフが浮かんで見えます。
平和を祈願していながら、口うるさく平和平和とは言わない。そしてただの『ブルーシート』ではなく『TOKYO』と付いているところが、利いています。『ブルーシート』と『TOKYO』とは、妙にしっくり来る言葉のように思う。神奈川県がブルーライトなら、東京都はブルーシート。
左手の向こう側は、ソルティドッグの小屋になっています。まさにソルティドッグ!
これだけ愉しい展示とは、なかなか出会えない。チープなところに、童心に返ったような懐かしさを覚えました。見る者の好奇心を刺激し、『何んだろう?』『どうなってるんだろう?』と思わせるのは、単に並べられただけではなく、その作品が強い物語性を持っているからだと思います(いつもこればかり言っててすみません)。物語には芸術へと昇華する力が必ず備わっているのだと、信じています。
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会場内は鑑賞者の思うまま自由に観賞出来るスペースが出来ていました。犬の散歩が出来る作品や、鑑賞者が鶴を折ったり、毛糸を結ぶ作品などなど。陶器作品のように、美術的価値以上に物品的価値のあるものには“監視”が付いていましたが。そういえば、田中美香「THE USAGI」という詩画本が持ち去られたようで。舞台裏では結構ゴタゴタがあるのかもしれません。
会場を出た後は上野公園を気持ちよく歩き回りました。しばらく袋小路に迷い込んだような状態だったので、気分もすっきりしました。人が多いのは大嫌いですが、上野の雑踏は嫌いではない。托鉢中の坊さんを尻目に帰りました。
(画像はアンリ・ルソー「アンデパンダン展へ行こう!」)
Posted at 2006/03/09(Thd) 10:27:29
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この記事へのコメント
ソルティードックの画像発見
初めまして。
GEISAI#10のサイトで出品者の作品紹介のブログがあり「浅野琢也」氏も参加するらしく作品の写真を見られます。
Posted by at 2006/07/25(Tue) 11:33:50 URL
はじめまして。
情報ありがとうございます。リンクを追加しておきました。ソルティードッグは白いせいで写真だと解りにくいですが、もっとリアリティがありました。
浅野琢也氏はファッションデザイナーでもあり、発明家でもあるんですね。マルチで凄い方のようで……。
一言で簡単に言ってしまえばセンスということになるのでしょうが、ファッションも発明も科学もみな創作ですし、創作の力というのは、ある程度分野が違っていても、共通しているように思います。
一つの分野に卓越した職人さんのような人もいいですが、マルチな人というのは、世界を大きく転換させるとき、不可欠な人材かと思います。
9月17日、面白そうなので行けたら行ってみたいものです。
Posted by 紫陽 at 2006/07/26(Wed) 08:57:03
GEISAI#10の画像スゴイ数でした。
GEISAIもデザインフェスタみたいに作品の展示販売のあるイベントですけど浅野氏に限らず、大勢の作家が過去に発表した作品も紹介していてスゴイ数です。実際に出品されるのは、どれになるのか良くみないとわかりにくいかも?
Posted by at 2006/08/22(Tue) 14:17:03
現代アートのカタログ状態
ちょっとした現代美術カタログですよね。何か特別気に入った作品などありましたか? 私は「はにわ作家」さんが面白いな、と。
http://www.geocities.jp/the_eustam/
現代アートを広くアピールするには、インターネットで画像を手軽に入手できることも必要だな、と思います。本物を欲しい人は買いますからね。
WEBでの展示も実際にはなかなか難しいのでしょうけど。下手すると、なんだか安っぽくなりますしね。
Posted by 紫陽 at 2006/08/23(Wed) 11:52:08
はにわのアニメーションも出来たらスゴイ
アニメーションのペンギンのピングーを作るのはスゴイ手間らしいけど素焼きでもハニワでアニメ作れればスゴイかも知れませんね。GOTTA氏の水族館と木で出来た潜水艦みたい魚も大作でお金と手間かかっていそうですね。現代アートは、手早くリズミカルに安くとはボクシングペイントの篠原氏の基準?から大艦巨砲主義の賞ねらいが見え見えですけど・・・浅野氏は「庶民芸術」の定義をしっかりしてますね。安く買えそうで作ろうと思えば作れそうでオレもやゆってみようか??みたい部分と別の世界で使用するの?みたい服からコスブレ流行る前に先端いってる服、いろいろあってカタログのスペックまで読みきれてません。
Posted by at 2006/08/24(Thd) 14:29:11
GEISAIの応援メッセージありがとうございます。
アンデパンダン展の「批評と感想」と言う冊子に書かれている内容より展覧会を的確に分析していて驚いています。ルソーの「アンデパンダン展に行こう」は国立近代美術館蔵だったと思います。(記憶に自信ないです)作者の死後50年で著作権の期限が切れるのでパブリックドメインになりますが、使い方が巧いですね。私もムンクをインスパイアした「無限の叫び」をアップしています。今後とも宜しくお願いします。
Posted by 浅野琢也 at 2006/08/24(Thd) 18:50:47
はにメーションなど
>はにメーション
最近はあのようなアナログな手間を掛ける人が少ないので、新鮮でした。パソコンには詳しくない方のようで、そこが妙に象徴的な気がして。
必要以上にパソコンの扱いに慣れすぎると、面倒なことは出来なくなってしまうのですよね。結局、高いお金を出して便利なツールを購入し、操作方法を覚えることに必死になり、やっと操作方法を覚えたころには新しいソフトが出てくる……。パソコンの世界とはそんな本末転倒なものです。
小説も同じで、パソコンに慣れてしまうと、手書きで言葉を編むのがとても辛くてしょうがなく感じられてしまいます。人間って怠惰なもんです。
>庶民芸術
面白いうえに理に適っていますよね。
どう発展していくのか、たのしみです。
>浅野さま
転載許可ありがとうございます。
雑な文章でお恥ずかしい限りです。ありがたいお言葉まで戴き恐縮の次第です。
ルソーの作品はあまり本国では大事にされていなかったようなので。「アンデパンダン展へ行こう!」は手許の画集だとチューリッヒの個人コレクションとなっています。古い本なので、今はわかりませんが。
ところで雑学本によれば、ムンクの「叫び」は悲鳴を挙げているのではなく、悲鳴を聞いて怯えている様子なのだそうです。所詮雑学本なので本当かどうかは怪しいものですが、私はずっと叫んでいるものだとばかり思っていました。
現在「叫び」は強奪されたままですが、無傷であることを祈るばかりです。
Posted by 紫陽 at 2006/08/24(Thd) 23:02:47
画像入手おめでとう
ブルーシートTokyoは、記憶に残る作品ですね。印象が強くても記憶に焼きつく程のアートには、めったに出会えない中で良く発見できたと管理人さんの行動力に脱帽です。
Posted by at 2006/08/29(Tue) 15:54:59
ご無沙汰してます。夏といえば、東京都美術館での「第55回・平和美術展」(美術家平和会議)の搬入を済ませてきました。7月28日〜8月11日まで出品しています。
Posted by 浅野 at 2007/07/17(Tue) 05:39:58
お久しぶりです。
経済的に不安定ですが、可能な限り行ってみようと思います。
Posted by 紫陽 at 2007/07/17(Tue) 07:37:23
行ってきました
面白い展示物でしたが
今日は疲れたのでとりあえずもう寝ます
Posted by 紫陽 at 2007/08/08(Wed) 16:37:44
足を運んで戴きありがとうございました。作品の稼動している
状態の時、ご覧戴けていれば良いのですが・・・今回は電池
での稼動と照明でした。
Posted by 浅野 at 2007/08/14(Tue) 05:46:50
ご無沙汰しております。今年2008年は新国立美術館にて
アンデパンダン展が、開催されます。お時間がございましたら
是非、ご高覧下さい。(ソルティードックにオプションの骨が
付いているので、自分で改めて写真を見ると、「ヤッターマン」のメカみたいにも見えてきました。メカを仕込んで「ワンワン」鳴く機能を追加して箱に入れてあります。)
Posted by 浅野 at 2008/03/01(Sat) 03:45:04
会期は3/19〜3/31ですね
たのしみにしています
このところ、ちょっと忙しくてコメント反映が遅くなりました
申し訳在りません
Posted by 紫陽 at 2008/03/04(Tue) 12:29:41
今日行ったら休館日でした
Posted by 紫陽 at 2008/03/25(Tue) 16:26:27
会期中に25日だけ休館日がありました。招待券を郵送出来ればと思っております。 浅野
Posted by 浅野 at 2008/03/26(Wed) 08:27:21
昨日拝見してきました
お気遣いなく
詳しいことはまた後日
Posted by 紫陽 at 2008/03/27(Thd) 05:35:43
コメント本文以外は全て入力不要です。