このウェブログの名でもある“I teie nei e mea rahi no'ano'a”はタヒチ語で、“今はとてもいい匂い”という意味だ。文明から逃避したある貧乏画家が、その言葉を深く焼き付けた。そして今、私の心にも確かに焼き付いている。
ある貧乏画家とは、もちろんポール・ゴーギャンのことである。ゴーギャンと言えば、アート好きの間では『考え方や行動は好きだけど、作品はどちらかと言うともう一つ』という何んとも歯切れの悪い感想を持たれることが多い。
かく言う私も、ゴーギャン入門は「ノアノア」というタヒチ滞在記が先だった。さらに言えばゴッホのような周辺の画家達から辿ることが多く、作品不在、思想ありきの何んとも情けない状態だった。
しかしゴーギャンの作品世界は何も知らずに作品を鑑賞するよりも、その背景を知っていた方がより魅力を感じるのは事実だ。ゴーギャンの哲学が色彩を浮き立たせるし、「ノアノア」で語られている物語世界が、作品に奥行きをもたらすのである。「マナオ・トゥパパウ」などはその典型例。一方、パリにいた頃のゴーギャンの絵は、まるでその精神そのものを直接描いているかのように蔭鬱で、特徴の無い絵。もしゴーギャンがタヒチに渡らなければ、その名は美術史に残るばかりだったのかもしれない。
文明から逃亡する文明人……思想と緊密に繋がった作品世界……
ゴーギャン――彼はきっと根っからのインテリだったに違いない。
Posted at 2005/10/29(Sat) 17:15:02
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