ストローブ=ユイレ『階級関係』 紀伊国屋書店
こんな映画がDVD化されているなんて、いい時代である。
ストローブ=ユイレということで普通の映画は期待できないのだが、比較的マトモ――というよりも他に無いくらい原作に忠実であった。
映像美術としては長まわしが多く、また主演に役者ではなく素人を用いていることもあり、小津安二郎作品のような味わいがある。
クリスティアン・ハイニッシュ(カール・ロスマン役。素人さん)
ラウラ・ベッティ(ブルネルダ役。プロの女優・歌手・映画監督)
原作の『アメリカ』(マックス・ブロードの編集版)または『失踪者』(後に公開されたカフカのオリジナル版)で最も納得のいかなかったのがホテルを解雇されるシーン。主人公のカールが反論もせずにボーイ長と門衛長から陥れられるままにされているのが、どうしても解せなかった。冒頭の「火夫」のときに見せたカールの果敢な様子はすっかり失われて、相手から言われるがままにされている。それはお世話になった調理主任が疑いの眼差しを向けていることに気づいた途端である。
しかし、文章ではなく映像で見せられるとカールの気持ちがよく解るような気がした。自分が仮にあの場面にあったとしても、カールと同様にうつむいたままだったろう。信頼していた人達から疑いの眼を向けられると、反論したくてももう出来なくなってしまうものである。
文章だと『ちゃんと無実を証明しちまえばイイのに』としか思えないのだが、実際に人の顔を前にすれば、そうはできないことがはっきり解るのだから、不思議なものである。もしこれをカフカが計算して書いていたのだとしたら、カフカにはこのシーンが確かな映像として見えていたに違いない。
カフカの『アメリカ』は他にもいくつか映画化されている作品である。そのうち全部をレポートできればいいのだが、恐らく不可能である。一番手軽に観られるのはフェリーニの「インテルビスタ」くらいだろうか。ただし、映画化とはかなり違うのだが。
Posted at 2006/07/27(Thd) 18:59:39
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