あまり絶版本ばかりを紹介しても詮ないことなので、新しい本を。
- 川に沈む夕日
- 菊人形異聞
- おとし穴
- もん女とはずがたり
- 夢からの手紙
- 有馬
江戸時代を舞台にした独立した六篇の短篇小説が収められている。
ほとんどが男と女の話。
全体的に夢野久作臭く、「菊人形異聞」や「おとし穴」中でも特に「もん女とはずがたり」はその傾向が顕著で、夢野久作の新作ではないかと錯覚するほど黒い。
夢野久作を知らない人にとっては不親切だが、これ以上適切な紹介の仕方はないものと思し、何より読んで素直に面白い作品集となっているので、極力ネタバレはしたくない。あらすじを書くなどあまりにもったいない行為。いくつか難しい言葉が出てくるものの、すらすら読めるので何も心配は要らない。
「有馬」に柿本人麻呂の話が挙がっている。言わずと知れた万葉歌人であるが、柿を『かき』と読まずに『こけら』と読ませている。こけらは木屑とも書くが、かんなくずのことである。
紙の貴重だった当時、歌はそのこけらに書かれたのではないか。そしてそのこけらに最も多くの歌を書いたためのが人麻呂という人だったため、柿本【こけらもと】と呼ばれるようになり、後に【かきのもと】と誤読されたのではないか、という説である。
これは至極尤もな説だが、あいにく考古学的に検証されたことはないし、証拠も何一つ残っていない。
一般的にかきという字とこけらという字には微妙な違いがあるとされる。

しかし、本当にかきとこけらについての違いはこちらで紹介されている通り、厳密な区別などは存在しないという。
こういうに、学問が解決していないことを書けるのも小説の面白さかもしれない。
Posted at 2007/03/09(Fri) 13:49:08
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