オモシロイ!マークはあくまで私の趣味です。
原田宗典「幸福らしきもの」「幸福」について語ったエッセイ。村上春樹風に言うと「小確幸」的なもの。
例えば、カレーを一心に食べてる時、ふと目を上げたら、汗をかいた冷水入りのグラスがある。そんな瞬間だって幸福。
受け取り方次第で、幸せな瞬間っていくらでも見つけだせる、そんな気分になった。
「(幸福感というのは)本人すら見過ごしてしまいがちである(中略)心が萎んでいたり、焦っていたり、目先の雑事にかまけていたりすると、簡単に見過ごしてしまう 」ということ。
読んでいると、「あるあるあるある〜!そういう時って幸せだよね〜」という幸福を再確認できます。
京極夏彦「嗤う伊右衛門」四谷怪談を別の角度から解釈した京極夏彦風「お岩」が本書「嗤う伊右衛門」。
朴訥で生真面目な伊右衛門に、進歩的で強い意志を持つお岩。縁があって結ばれたもののやて・・・。
・・・ラブストーリィと言っても間違ってないぞ、ぐらいに伊右衛門とお岩の解釈が従来の四谷怪談とは違います。怪談もここまでアレンジできてしまうものなのですね。裏切りと復讐の怪談が、引き裂かれた男女の悲哀ストーリィにまで。まさに「不思議などないのだよ」という感じで、四谷怪談とは違い、怪異にはすべて現実的な説明がつく仕組み。
語り手が次々バトンタッチし、テンポ良く物語は語られていきますが、中に御行の又市が登場しているのは、うれしかった。「巷説百物語」の以前の姿でしょうか?
悪役・伊東喜兵衛を「御行 奉為!」でやっつけたらまさしく「巷説百物語」だ。
村上春樹「村上ラジオ」2000年3月から2001年3月までananに連載されていたエッセイをまとめたもの。
ひさしぶりのムラカミ文章を堪能。なごむ〜〜〜。
柿ピーの柿の種をツッコミ役、ピーナツをボケ役と言ってみたり、ネコのことを相変わらず「猫山さん」と擬人化して呼んでいたり、相変わらずです。
「猫の自殺」では『自殺全書』という本に載っていたという、失恋して自殺した猫の話と漁師に飼われていた年老いた猫の投身自殺の話などが題材になっていて、興味深かった。
ほのぼのしたエッセイ集で、サクサク気持ち良く読る。大橋歩さんの挿し絵もシックながら朴訥とした味があってストーリィにマッチしてました。
吉本ばなな「ハードボイルド/ハードラック」古いホテルでの不思議な一夜の出来事を綴った「ハードボイルド」と、死にゆく姉を見守る妹の心情を描いた「ハードラック」の二本立て。
どちらも、「死」の存在を静かに受け入れる心の過程を描いている。
近しい人が亡くなって、その悲しい気持ちを昇華させるには、時間とちょっとしたキッカケが必要で、この小説はまさにその部分がストーリィとして切り取られている。
例えば、これから誰かの死に遭遇し、その時ものすごく辛い気持ちになることがあるかもしれないけど、でもきっといつか受け入れられる、そんな気持ちにさせられる。
相変わらず、サラリとすごいこと書いてます。奈良美智のイラストもかわいい。
恩田陸「上と外6」待望の最終巻、物語はクライマックス!練&千華子は無事救出されるのか!?
ギリギリまでハラハラさせられる、ジェットコースタームービーならぬジェットコースターブックだった!
読み終わった時はしっかりカタルシスを味わいました。練の「俺、じいちゃんだったらどうするかなって、ずっとそればっかり考えてて」という言葉にじ〜んときた。身近にこんなふうに尊敬できる人がいるというのは幸せです。
ただ、サブタイトルが「みんなの国」というわりに、クーデターによって樹立された政権(新生G国)や「電子政府」の説明が少なく、マヤがらみの壮大な舞台がもったいない。しかし、子ども達の冒険&成長物語としてみれば、このくらいの情報量で良かったのか・・・。
爽やかで気持ちの良い温かいラストだった。
恩田陸「上と外5」当初は全5巻で完結というフレコミでしたが、一冊増えた模様です。
最終巻ではありませんでしたが、今回もハラハラドキドキでひっぱるひっぱる。
世界は「楔が抜ける」と盛り上がり、 練は「成人式」で王と対決、千華子は地下通路を暗中模索しつつも進み出す。
それぞれの局面の中で考えうる限り最善を尽くそうとする、その姿や思考にエールを送った。
一方の両親&ミゲルも子ども達救出作戦を実行。この風船作戦には感嘆!なんというか、サバイバルの心得書にしても良いかも。
黒田研二「硝子細工のマトリョーシカ」“マトリョーシカ”とはロシアの民芸品で、民族衣装を着た空洞の人形の中にまたひとまわり小さい人形が入っている・・・という入れ子構造になっているもの。
本作もまさにそのような入れ子(劇中劇)構造というトリッキーな作りになっている。
「ウエディング・ドレス」「ペルソナ探偵」そして本作「硝子細工のマトリョーシカ」とこれまで、3作の作品を読んだこの著者の作品の感想ですが、すなわちトリッキー。(あくまでナカノの独断的イメージです)叙述トリックに近いですね。
アイディアやその着眼点には感心するが、登場人物に魅力的がない(今回の安藤レオ君は個性的だったけど)のと、せっかくのアイディアをストーリィにうまくのせきれていないのが残念なところ。「これからどうなるの?」という探求心をもっと煽ることが出来れば、おもしろさは倍増するはず。せっかくのトリックがもったいない。
この著者にはもっと良いキャラクターやストーリィが作れると思うので期待しています。
群ようこ「ヒヨコの蠅叩き」日常の出来事系エッセイ集。
この人のエッセイは、すごい爆笑なわけでも、すごいトホホなわけでもないけど、日常のちょっとしたことが、まっすぐな目で描かれていて、気持ち良い。
すこしだけ古い時代の芯の強い女の人、という感じ。佐藤愛子路線に近いかも。
そして特筆すべきは、動物の描写が良い!今回も鳥や猫など、活き活きと描かれています。
中では「心理テスト・鬼退治編」の心理テストがおもしろかった。
鬼退治に行くときサルキジイヌの他にどんな動物を連れて行きたいか?ところがそれが連れて行くことができなくなりました、それは何故か?
・・・というもの。考えましたか?
これは「どういう理由であなたが嫌われるのか」というテストだそうです。
ちなみにナカノは連れて行く動物は「ネコ」で、駄目な理由は「自分勝手で言うことをきいてくれないから」でした。
石田衣良「池袋ウエストゲートパーク」池袋西口公園(これが池袋ウエストゲートパーク)をねじろにしているマコトは、とくにどこのチームにも属さない。しかしその中立の立場と、回転の速い頭を見込まれ、様々なトラブルを請け負うことになる。
連作短編集で、主人公のマコトだけじゃなくリンクした脇役もだんだん成長していく様子もうまく描けている。ちょっとしたエピソードなども印象深くキレがあり、今後も充分期待できる器の大きさを感じた。
鯨統一朗「九つの殺人メルヘン」オモシロイ!日本酒バーで繰り広げられる現在進行中の事件の話を、大学でメルヘンを専攻している桜川東子が酒のつまみにひょいと解決してしまう、しかも得意のメルヘンに例えて。
軽妙でちょっと凝った連作短編集。とりあげられるメルヘンは「ヘンゼルとグレーテル」「赤ずきん」「フレーメンの音楽隊」「シンデレラ」「白雪姫」「長靴をはいた猫」「いばら姫」「狼と7匹の子ヤギ」「小人の靴屋」しかもそれぞれ9つのバリエーションのアリバイ崩しのヒントになるという凝りよう。童話の新解釈もなかなか興味深い。
他にも、日本酒の講義やら、昔のハヤリモノや遊び、風物など、ついニヤリとしてしまう仕掛けもたくさん!何重にも楽しめる作品です。
宮部みゆき「模倣犯」下 スゴクオモシロイ!「高井和明は人殺しじゃない!」妹由美子と網川が立ち上がる。そして、警察でも意見は割れていた。
簡単に終結しそうに見えた事件があちこちで、くすぶりはじめる。加害者の家族、被害者の家族、それぞれの関係者のそれぞれの立場で。
終盤「模倣犯」のタイトルの意味がわかった時は、鳥肌ものだった。そしてラスト・・・切ないです。(実は泣きました)
これだけ心揺さぶられた小説は久しぶり。間違いなく、今期のNO1でしょう。
それぞれの人物像の造形もうまく、主役級の老人と少年はもちろん、ちょっとした脇役すべてが光っていた。とくに「建築屋」というキャラクターが良く、この人で連作ミステリ書いてくれないかな・・・と思うくらい。
長い・暗いと尻込みせずに、是非いろいろな人に読んでもらいたい1冊。
宮部みゆき「模倣犯」上 オモシロイ!公園で若い女性の右手が発見された。失踪中の自分の孫ではと気をもむ有馬義男のもとに犯人からの電話が入る、連続猟奇殺人事件の幕開きだった。
あたりまえなことだが、人が死ぬということは、周りの人々にも様々な波紋を投げかけるものだ、ということ。
ましてマスコミが騒ぐような猟奇的事件ならなおさら周囲の人々に計り知れない深い傷を残す。
ミステリを読み慣れてしまうと、「殺人」という言葉はある一つの出来事として扱われがちで、つい事務的に受け止めてしまう、人が死ぬということの辛さや苦しみを忘れがちになり、ついトリックや犯人追及に目を向けがちだが、この本では、不意に理由もなく近しい人の命を奪われた人々の、日常生活や言動を細かに描写することによって、「人の命を奪う」事件の残酷さが鮮明に浮かび上がっている。
その描写は細かく、様々な角度から語られ、その度に各エピソードに引き込まれるので、長さのわりに飽きさせることがない。
中盤から、犯人サイドのストーリィが始まるが、その暗い胸の内は戦慄もの・・・とにかく凄いです!
上遠野浩平(かどのこうへい) 「殺竜事件」舞台は竜が生き、魔法や呪詛が平然とまかり通る、異世界。
戦地調停士エドワード・シーズワークス・マークウィッスル通称ED(エド)と風の騎士・ ヒースロゥ・クリストフ、それに才女の特務大尉・レーゼ・リスカッセは殺竜事件の犯人を捜す旅に出る。
RGBの世界に入り込んだような設定のファンタジーミステリ(?)。独得の世界観や、金子一馬氏のイラストなど、見所は多い。物語とイラストのマッチングが見事です!
ミステリ部分は、一般的な殺人事件とは違う要素をうまく活かし、物語世界に合う謎と解決が用意されている。講談社ノベルスに、もっとこういうのあって良いかも、と思った。
西澤保彦「夢幻巡礼」能解匡緒の部下・奈蔵渉は実は連続殺人鬼。そんな彼のもとへ、10年間行方不明だったリュウからの電話がはいる。
惨劇のあった山荘へ、今再び向かう能解と奈蔵、10年前嵐の山荘で起こった事件の犯人はいったい誰だったのか?
チョーモンインシリーズ第4弾ですが、嗣子ちゃんは登場せず、能解警部が少し顔を出している程度。しかし今後のキーワードとなる(らしい)作品です。著者によると、奈蔵渉の息子が嗣子ちゃんの最後の敵となるそうで・・・。
さて、本編は奈蔵渉が回想をまじえつつ事件を語る1人称。その淡々とした語り口の異常性には寒いものを感じるほど。
作中の「グラッシオ」、ちょっと苦しめ。シリーズ中では異質な本書ですが、複雑にからみあった人間関係など、読みごたえは充分。
森博嗣「スカイ・クロラ」パイロット・カンナミの物語。キルドレという単語が早々に出てきて、その謎でひっぱりつつ飛行機操縦の描写が続く。
淡々と、そして少し詩的な語り口は村上春樹っぽいが、更にドライな印象が強い。
著者自身が「これが一番森らしい」言ってたそうですが、こういう方向の人だったのだ、と再確認。
飛行機には特に思い入れが無いので、操縦の描写が続くとややうんざりするが、乾いた語り口はテンポが良く、時々ハッとするフレーズもあったりでイイカンジ。道路沿いのドライブインのミートパイとコーヒーとか・・・こういう何気ない風景がふとしたときに浮かぶ気がする。
後半キルドレがらみの展開で盛り上げたが、ちょっと消化不良気味、もう少し補足が欲しかった。
ちなみにスカイ・クロラ = 雲一つある天気だそうです。
森博嗣「墜ちていく僕たち 」5編からなるのオムニバス短編集。共通するある出来事が、登場人物各人の視点で個性的に描かれている。
1.墜ちていく僕たち:普通の大学生の視点。先輩のイケイケぶりがスゴイ。
2.舞いあがる俺たち:オタク女の視点。すぐそうなるかなぁ?
3.どうしようもない私たち:愛人・和子の視点。マニアキラー?ミステリっぽいお話。
4.どうしたの君たち:ストーカー(?)の視点。この人これからどうなっちゃうんだろ。
5.そこはかとなく怪しい人たち:追っかけの視点。TACK BOCK(タク・ボク)って・・・。
なかなか好き嫌いが別れそうな一品ですが、ワタシは楽しんだ派。
言葉に対するユニークな感覚がいかんなく発揮されてるし、読んでいて単純におもしろかった。
スバル氏(著者の奥方)の影響が色濃いです。チキチッチッチ。
流れるような口語調からは、橋本治の桃尻娘シリーズを連想してしまった。懐かしいなぁ。
あと!カバー(装丁)には騙された。イメージちゃうやんか!
京極夏彦「ルー=ガルー 忌避すべき狼」オモシロイ!21世紀半ば、都市では学校というものが廃止され、人と会うこと(リアルコンタクト)は特別なこととされていた。そんな世界で14.5歳の少女だけを狙った連続殺人事件が起きる。
著者初の本格SF作品。近未来の設定はネットで公募したそうですが・・・それを反映させすぎてしまったのか、やや説明がうるさい。特に序盤が辛かった。
しかし、中盤以降スピーディに登場人物が動きだすと、引き込まれるように一気読み。
やはり、うまい!ミステリーとして申し分ないし、少女達の成長物語的としても読める。
「なぜ人を殺してはいけないの?」という問いの(作者なりの)解答には考えさせられた。
主要キャラもそれぞれ個性的で、特に天才児・美緒の榎木津を彷彿とさせる破天荒っぷりが爽快。京極堂シリーズからはゲスト(?)出演しているキャラもいます、粋なハカライってやつ?
石田衣良「うつくしい子ども」オモシロイ!モデル都市で起きた9歳女児殺人事件は意外な犯人の逮捕で幕を閉じた。しかし主人公ジャガこと三村幹生は、犯人はどうして人を殺してしまったのか、その疑問を解こうと仲間とともに事件を調べはじめる。
・・・神戸連続児童殺傷事件を思い出させる内容。
いろいろな障害にめげないジャガの孤軍奮闘ぶりが痛ましくもまっすぐで、それを助ける学級委員の男の子と図書委員の女の子も個性的で生き生きと描かれていた。この女の子の台詞がふるってた。
「男がチンチンかゆい。って言えるみたいに、女だってマンコかゆいって言いたいよ。隠さなくちゃいけないものだったら欲しくない」
カッコイイというかなんというか・・・この小説のステキさがよくワカル台詞です。
ジャガははニキビだらけで、綺麗な弟や妹とは違うけれど、とてもうつくしい子どもだと、思いました。
西澤保彦「転・送・密・室」チョーモンインシリーズ5弾は短編集。
「現場有在証明」分身を作り出すリモートダブルという超能力を使った事件。
「転・送・密・室」未来へ飛ぶジャンプインという超能力モノ。
「幻視路」聡子の見た夢は予知夢だった!?
「神余響子的憂鬱」嗣子のライバル(?)出現!チョーモンインの内部事情がわかって興味深い。
「神麻嗣子的日常」嗣子の視点から語られる、日常???
・・・とバラエティに富んだ内容ですが、登場人物が出る度に前説がうるさい。短編として雑誌連載されていたのである程度はしょうがないけど、「詳細はべつの機会に」と書くくらいなら、最初から触れずにサクサク進んでほしい。しかし!なかなか波乱含みの内容で、嗣子の同僚・神余(かなまり)響子(ユニホームは作務衣)や謎の編集者・阿呆梨稀(あぼうりき)の登場など、今後の楽しみが増えた。
ただし!表紙が派手なので、持ち歩くにはカバーが必要カモ。
西澤保彦「実況中死」オモシロイ!チョーモンインの嗣子ちゃんシリーズ(←と今まで言ってるけど、嗣子ちゃんが名推理を披露するってことはないのね。それどころか、出番はあんがい少ない、けどその特異な存在感でこのシリーズの顔であることは確か)
ま、そんなチョーモンインシリーズですが、今回は落雷にあった主婦の目に他の誰かのヴィジョンが紛れ込む、というお話し。この超能力もソウル(映像を受け取る側)やボディ(実際の映像を見てる側)などの言葉を使った独得の設定で、超能力とミステリが破綻しないよういろんなガードがかかっていて、考えたなーと思った。
あと、主人公(←多分・・・)保科の、森博嗣といっしょに出版したい!という妙な思いこみがウケた。著者もそうなのだろうか?と勘ぐってみたり。
前回「幻惑密室」に比べてテンポ良く、ラストのドンデン返しも決まって、良いです。
しかし、なんで保科がもてるのかが未だにわかりません。
西澤保彦「幻惑密室」チョーモンイン嗣子ちゃんシリーズ。
ワンマン社長の自宅に新年会ということで呼ばれた男女4人の社員達、気が付くと屋敷から出られなくなっていた。そして発見される社長の死体・・・。
ニューキャラクタの超能力を無力化するネコアーノルド・ボルシチ(←名前の由来がオモシロイ)の登場など、ますますキャラが立ってます!萌え萌え。
事件は超能力で密室化された室内で起こる殺人、この超能力の設定もおもしろい、「ハイパーヒノプティズム」通称「ハイヒップ」に、「ヒップワード」とか「ベィビィワード」など。超能力にそういう括りってほんとにあるのでしょうか?
しかもその設定内でキチンと推理小説していて、おみごとです。しかし前回(発表順では後ですが)の「念力密室」に比べると、ややおとなしめな印象。長編にしては、内容が薄い?
小野不由美「黒祠の島」孤島「夜叉島」に、失踪したノンフィクション作家・葛木志保の行方を追って上陸した調査員・式部は、島民の閉鎖的な態度に違和感を持ち、独自に捜査を続けた。結果、殺人事件が隠蔽されようとしていることつきとめる。
風車や風鈴という小道具が、島の風景を視覚的に訴える。古い因習をかたくなに守る島のイメージが効果的に浮かび、印象深い導入部だった。
黒祠(邪教)と殺人を通しての、島民の深層心理に息づく宗教の重みや、罪と罰という難しいテーマなど、いろいろ考えさせられる。が、それぞれのモチーフは良いが、中盤の推理合戦は、ちょっとダレ気味。解決編もいきなりで慌ただしい印象が残った。しかし、ラストが綺麗に決まって、読後感は良い。
東野圭吾「超・殺人事件」短編集。系統的には「名探偵の掟」系。ミステリーをパロディ化しつつ考える、というような・・・。「小説家」そのものをちゃかしてみたり、ミステリの設定自体で遊んでみたり。
シリアスなミステリーだけではなくこういう実験的(?)な試みをどんどん試す、型にはまらないところがこの著者の強みであり、そして魅力でもあるな、と再確認。昔からのミステリファンにはたまらない1冊。
有栖川有栖の「ジュリエットの悲鳴」収録の「登竜門が多すぎる」もわりと似た内容、読み比べてみるとオモシロイ。
村上春樹「神の子どもたちはみな踊る」「UFOが釧路に降りる」「アイロンのある風景」「神の子どもたちはみな踊る」「タイランド」「かえるくん、東京を救う」「蜂蜜パイ」の6篇からなる短編集。
それぞれ何らかの形で阪神大震災について言及があるが、といっても間接的に語られているにすぎない。それぞれの人生に小さく影を落とす事象として。
以前より地に足の付いた文章になったな、と思った。より現実的というか・・・。その中で「かえるくん〜」は羊男を彷彿とさせるカエルキャラが活躍する、不思議なストーリィ、異色だがおもしろかった。一番好きなのは「蜂蜜パイ」。読後、穏やかな気持ちになれた。
島田荘司「涙流れるままに・下」オモシロイ!判決の決まった死刑事件の再捜査という、いわば警察組織に背く行為に葛藤を覚えつつも、真実を求めて、吉敷の孤高の捜査が続く。組織の対面のために「国が人殺しをしてもいいのか!」と訴える吉敷。そして通子も自分の失われた記憶を取り戻し、新たな自分を再構築していく。
著者は近年「秋好事件」や「三浦和義事件」という冤罪を扱った本をものしており、そういうバックグラウンドで生の声をきいたことによって、きっと本書の「冤罪」というテーマにも重みやリアリティを与えているのだろう。ほんとに、重い。
いわば、島田ミステリの一つの集大成、熱い血の通った佳作。
後半の峯脇との口論も圧巻、警察のお偉いさんがソチン・・・。
そしてラスト、良いです!ちょっと甘めだけど、ほんとに良かった。
久しぶりの島田ワールド、堪能しました。やっぱりシマソウは、すごい。
島田荘司「涙流れるままに・上」オモシロイ!捜査一課の刑事・吉敷竹史シリーズ。御手洗潔シリーズと違いコツコツとハードボイルドに調査し、推理を組み立てていく、そんな吉敷シリーズ(「北の夕鶴2/3の殺人」など)には別れた妻・加納通子(みちこ)の影がチラチラしていたのですが、今回ついにその謎めいた女・加納通子の半生が描かれます。そしてそれは吉敷が刑事という職を賭けてまで追いかけることとなった、40年前の殺人事件ともリンクしていくのです。
通子の幼少時代のトラウマがもたらす記憶の混乱や、吉敷の出会った非道な冤罪事件、それぞれの物語は交互に語られていくのですが、主要人物に限らず、細かい描写や魅力的な謎に(歩く首無し男など)、どんどん物語にひきこまれていく、こんなに下巻を読みたいと思った小説は久しぶりです。
群ようこ「トラブルクッキング」自ら料理オンチを名乗る、著者がいろいろな料理にチャレンジして巻き起こすまさにトラブルクッキング話。
普段、適当に作っているけど、いざ基本からちゃんとと思うと、料理ってなかなか難しくて面倒です。その作業の中にどんな落とし穴が待っているか・・・そして失敗したブツを「まずい」と思いながら食べる切なさが、サクサクと書かれている。
読んでると食べたくなるものがあって、ワタシもオムレツにチャレンジしたのですが・・・見事失敗しました。火に長くかけすぎて、中がトロトロじゃくなってしまった、くやしい。
森博嗣「恋恋蓮歩の演習」豪華客船に乗り込んだ例の4人組。いろいろな思惑をのせた船でやがて銃声が聞こえ、乗客が消失、そして高価な絵画も消え失せる。
タイトルに「恋」という文字が2つも使われるくらい、アチコチで微妙な心の動きがあります、これ、見どころ。あと、盗まれた絵画が関根朔太の自画像ってことで、前作「魔剣天翔」ともつながりあり、というか前作読んどかないとキツイ。
いろんな感情うずまく中で、紫子さんけなげでかわいかったのに、保呂草の態度、気にくわねぇな。お酒に睡眠薬入れたでしょ!(←ネタバレ、読んだ人だけ反転して下さい)紅子さんの忠告通り、保呂草いいかげんにしろよ!
しかし、おもしろかった。よかった。ちょっとジーンとした。ラストもグー!
ちょっと甘めで趣向の変わった一品でした。今までのVシリーズで一番好き。
鷺沢萠「でんでん虫国、創立!」あの「サギサワ@オフィスめめ」第2弾!今回もわたべ嬢とのかけあいで笑わせていただきました。建国なさいまして、そこで憲法(第11条の「怒りは巻き舌で表現すること」が好き)が成立されたり、国王争奪や、さっそく憲法違反などがあって、波瀾万丈。直木賞作家いおりんも登場なさってナイス茶々を入れてます。お、おもしろいよ、おかあさん!
鷺沢萠「コマのおかあさん」愛犬コマとの出会や、現在の暮らしぶりを語ったもの。
自らを「おかあさん」と名乗り、数々のイタズラや抜け毛にトホホとなりながらも、やはりコマのことがかわいくてしょうがない、という気持ちはバッチリ伝わってくる。ホント、動物と暮らすというのは、時に思いも寄らない、驚きや、幸せを感じさせられるものです。もっと写真が掲載されているとよかった。
矢崎存美「刑事ぶたぶた」ぶたぶたシリーズの刑事編。赤ちゃん誘拐事件に絡みつつ、その特色を生かした捜査方法でさまざまな事件を解決する。
ぬいぐるみ売り場の潜入捜査、もちろんぬいぐるみに化け(?)て、とか。
長編だけど、連作短編的な内容でもあり。いろんな事件に僧遇するのは良いけど、ぶたぶたの魅力はイマイチ引き出されていない、かな?その分、他の登場人物が頑張っていた。
乾燥機にかけられ、その回転に合わせて楽しげに走ってるぶたぶたが良かった。ちゃんとイメージ写真付きだし!
ただメインの誘拐事件そのものの実体がいささかオソマツ。
銀色夏生「島、登場」つれづれノートシリーズの10冊目。
今回は南の島(沖縄・宮古島)への移住にむけて、着々と準備中という内容。
荷物を減らしたいから、とレーシック(レーザーを使って視力を回復させる)にもチャレンジ。相変わらず、行動的。
その実行力・精神力・財力がスゴイ。そしてときどきつぶやかれるハッとするような言葉たち「しょせん人は、人のことを心配してもしょうがない。相手を信じていれば、むやみに心配はしないはず。(中略)心配性な人というのは、自分の不安を相手にそそぎこんで、相手を不快にさせたりもしている。生きる覚悟ができてないんじゃないかと思う。」にはいろいろ考えさせられます。
鯨統一郎「北京原人の日」銀座の交差点に突然降ってきた老人は、戦時中に失われた北京原人の化石を持っていた。
事故の目撃者で、カメラマンでもある山下達也は化石を発見して一発あてようと北京原人の謎にせまる。
「隕石誘拐」 のような内容になるのか?と思ったが、もう少しマトモでした。(笑)
化石消失にいたる変遷は、元々歴史に詳しくないだけに、どこからがフィクションかわからなくなる緻密なおもしろさ。
登場人物が謎にせまるうち成長し、イイ男イイ女になっていくあたりは見所。とは言うもののその課程はちょっと雑でご都合主義でもあり。しかし、とんでもないところに行き着く歴史ミステリ、健在です。
本多孝好「Alone together」オモシロイ!フリースクールで問題児を相手にアルバイト講師をしている主人公が、安楽死殺人を問われる医師からその被害者の娘を「守って欲しい」と依頼される。
正直「おもしろい!」とサクサク読んでしまいました。前作同様に村上春樹っぽさは感じられるものの、だんだん著者なりの消化が出来てきたカンジ。しかし、中盤まで丁寧なよいペースだったのが、後半ストーリィが荒れてしまったのが残念。
「謎」も主人公の「能力」話も尻すぼみになってしまっていたし、「神」「悪魔」などの言葉は余計、いろんなことに手を出しすぎ。
だた、読んでいて気持ち良い部分はあるので、まだまだ今後に期待できると思う。
西澤保彦「念力密室」オモシロイ!チューモンイン(超能力者問題秘密対策委員会)出張相談員見習い・神麻嗣子シリーズ。
タイトル通り、超能力によって施錠された密室が、「どうやって」ではなく「なんのために」作られたのか探っていく短編集、全5編。
とにかく主要キャラが立ってます。しかし、それだけではなくサイコキネシスで密室を作るという推理小説ではアンフェアな手法を使いつつも、それは何故?という問題は徹底的に追求しまくる、不思議な感覚のミステリ。読ませます、おもしろいです!
あと、個人的に嗣子ちゃんの作る食事に釘付けになってました、おいしそう・・・。
最期に収録されている書き下ろしの「念力密室F」はかなり意味深な内容。FはFutureのF?
ミステリ、SF、そして恋愛小説でもある、お得な一冊。
乙一「石ノ目」「石ノ目様にあったら、目を見てはいけない。見ると石になってしまう」そんな伝説の残る地をおとずれた「私」と「友人」は山で不思議な老婆に出会う・・・という表題作「石ノ目」の他3編収録の短編集。
この本のスタンスがどうもよくわからなかった。オビではホラーと謳われてますが、ちょっと違います。現代童話のような感じ。ヒネリはないが、心情的にはいろいろ訴えてくるものがある。
石ノ目:上記のようなストーリィで民話ふう。安易に先が読めてしまうのが残念。
はじめ:空想上の少女との不思議でせつない日々。ノスタルジックな雰囲気はよかったです。
BLUE:やさしい人形BLUEのちょっと悲しいお話。自分が見てない時にぬいぐるみが動いたりしゃべったりしてるんじゃないか?そういえば子どもの頃そんなこと考えました。
平面いぬ。:動く犬の入れ墨がかわいかった。家族交流をもっと描いていたらもう少し深い作品になっていたかもしれない。
古処誠二「少年たちの密室」【2001/06/16】オモシロイ!地震で倒壊した建物の地下駐車場に閉じこめられた高校生6人とその担任教師。
そして闇の中で起きる殺人事件。
閉じこめられ、いつ救出されるかわからない極限状態での人間関係や、どうしようもない悪の存在に対する、学校という機関の体質、いじめとも微妙に違う歪みをリアルに描いている。
絶対悪の前で歪まされてしまった人々が悲しい。
更に、過去に起きた主人公の親友の死にまつわる疑惑もからみ、この物語をさらに奥行きの深いものにしている。
この著者の自衛隊モノ以外の作品ははじめて読んだが、完成度の高さに今まで以上に満足。ホンモノです、この人。
森博嗣「臨機応答・返問自在」【2001/06/14】森助教授の授業には講義後に学生から提出してもらった質問に答える、というシステムがあるそうで、その質疑応答を抜粋したものが本書だそうです。専門的なことからキミタチほんとに大学生?とツッコミを入れたくなるような下らない質問まで、森氏が淡々と答えています。迷いのない返答が気持ち良い。
乙一「きみにしか聞こえない」【2001/06/14】オモシロイ!きみにしか聞こえない:リョウの空想上の携帯に見知らぬ男の子から電話が入る、話すうちに二人はやがて心を通わせるようになるが・・・。
傷-KIZ-KIDS:乱暴者のレッテルを貼られた主人公の少年と、不思議な力を持つアサトの出会い、そして痛ましい現実。
華歌:入院中の「わたし」は院内の庭で不思議な花を見つける、その花はミサキという入院患者の生まれ変わりだというが・・・。
コピーで「切なさの達人」と謳われていますが、さもありなん。心のやわかいトコロを刺激する作品集。
特に「傷-KIZ-KIDS」が少年達の真摯な気持ちや痛ましいほどのやさしさが伝わってきて良かった。あと「華歌」のラストは衝撃的。
収録内容のイメージに合った淡い水彩画タッチの挿し絵もステキです。
近藤史恵「unhappy dogs」【2001/06/12】ミステリではありません。恋愛小説です。
パリで暮らす倦怠期のカップルのもとに、空港で盗難にあった新婚夫婦が転がり込むことになり、それぞれの微妙なバランスがすこしづつ壊れていく。
ミステリ(推理小説)ではないけれど、人の心(の動き)こそがミステリ(謎)だと思う、そんな1冊。
パリィ〜のオシャレな暮らしぶりや、料理の描写がうまくて、美味しいカフェオレとクロワッサンが食べたくなった。
サラリと読め、しかし軽すぎず重すぎず、読後感も良い。 ラストよかった。ほんとうによかった。
浦賀和宏「眠りの牢獄」【2001/06/12】妹の事故を疑う兄に、核シェルターに閉じ込められた三人の青年。そして外ではメールを使っての殺人計画が持ち上がっていた。
オオモトのオチ(からくり)はわりとすぐ想像がつきました。だってあのやり方ヘンだったし・・・ねえ?(#^.^#)
しかし、シェルターの3人とメールでの殺人計画がどこでリンクしてくるか、を考えつつぐいぐい読まされてしまった。
カバー裏に「切断の理由」という文字があったので、バラバラ殺人?と思いきや、著者のお得意のアレでした、切断とは違うでしょ。ほんとに異常好きなんだから!
村上春樹「羊男のクリスマス」【2001/06/09】10年ぶりの再読です。羊男ワンダーランドもの。
クリスマスソングの作曲が進まない羊男は、羊博士のアドバイスで、呪いを解いてもらうための旅に出る。
・・・考えてみると、これって「ぶたぶた」に通じる?原点!?
羊男には「ぶたぶた」のようなかわいい安らぎは無いが、妙なおかしみがある。
単語の組み合わせの持つおかしさ、みたいなもの、例えば、「キミも羊男のはしくれなら」。「はしくれ」なんて単語が「羊男」にくっつくこのモゾモゾする違和感が、このシリーズの魅力では?
で、もうひとつ抜粋。「夏の盛りに羊男でありつづけるのはなかなかつらいことなのだ」・・・辛いでしょうね。いくら夏用の羊衣装でも。
乃南アサ「死んでも忘れない」【2001/06/09】父親の起こした事件が家族に過酷な波紋を投げかける。心理サスペンス?
うまくいってると思っていた家庭が追い詰められ崩壊していく凄まじさに、入り込んでしまった。社会的地位のもろさ、継母問題、いじめ、ささいなキッカケでそれらが表面化し、家族それぞれがどん底に陥る。
一方息子・渉の成長物語でもあるかもしれない、後半になって渉の冷静なガンバリは痛々しく、その分大きく成長したように感じた。(じつは一番渉にシンクロしていた)「死んでも忘れない」というタイトルも「良くて忘れない」のか「悪くて忘れない」のか最後まで気が抜けず、緊張感を持続させた。
京極夏彦 他「妖怪馬鹿」【2001/06/08】妖怪好きを自認する作家&研究者( 京極夏彦・多田克己・村上健司)がひたすら妖怪について語った対談集。
ページ間に突如あらわれる京極夏彦の1ページ漫画がスゴイ。著名マンガ家のタッチをスゴイ精度でコピーしている、そしてくっだらねぇオチ!これはたまりません!
しかし、読んでいると京極の器用さがよくわかる、かなり広範囲にわたっての知識も豊富だし、話題が脱線した時のまとめ方も巧い。
クレバーな人だなぁと、再確認した。
近藤史恵「この島でいちばん高いところ」【2001/06/07】夏休み、17歳の少女たち5人が孤島で出会った事件。
孤島ミステリというにはちょっと違うし、サスペンスというのもいまひとつピンとこない。
少女たちが残酷な事件にどう対処していくか、そして成長していくか、がポイント。
高校ではちょっとはみ出しモノな彼女たちの微妙な心中がそれぞれうまく表現されている。
後半ちょっと物足りない感もあるが、この長さならしょうがないのかな?ミステリと思って読まない方が楽しめるかも。
三雲岳斗「 海底密室 」【2001/06/06】海底に存在する研究施設での密室殺人事件。2重密室構造になっている。
火の気のない密室での焼死など、なかなか魅力的なナゾが提示されるが、施設の説明が多くやや緊張感に欠けた印象。とはいえ、密室ミステリとして久しぶりにしっかりしたモノを読んだ気分。
ただ、登場人物をもう少しかき込んでもよかったのでは?少人数のわりにそれぞれのイメージがつかみにくかった。
遊(ユトリ)とアプリカントのミドーのコンビから「M.G.H. 」とのつながりもうかがえて興味深い。寺崎女子のキャラがすごく森博嗣っぽい。
確固とした世界感があるので、もっと続編を読みたい。次回は遊の過去編をお願いします。
乙一「夏と花火と私の死体 」【2001/06/01】9才の殺された少女の視点(一人称)で、死体を隠そうとする幼い兄妹を描くという、変わった趣向の中編。
兄妹が死体を持ってうろつく度に見つかりそうになってハラハラする(←このタイミングが絶妙)、というサスペンスモノ。
死体の1人称という奇抜さはスゴイが、実際はたんたんと語られており、夏の風景など、ノスタルジックでとらえどころのない不思議な余韻が残る。
同時収録の「優子」はホラータッチの作品。内容はありがちだなぁと思っていたが、ラストで少しだけ(良い方に)裏切られた。
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