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オモシロイ!マークはあくまで私の趣味です。


2001年[1][2][3][4]


古処誠二「未完成」【2001/05/31】

前作「UNKNOWN」に登場した、朝香二尉と野上三曹が、九州の小さな島の陸自駐屯地で小銃紛失事件に挑む。
前作同様、自衛隊の内情が詳しく記されており、興味深い。もちろん自衛隊という特種な職業についている人々の心情なども細かく描かれており、一見地味な内容ながらグイグイ読ませる。射撃練習中に小銃が盗まれるという舞台設定も新鮮。
そして徐々に浮かび上がってくるテーマが重く、深く、いろいろ考えさせられる、本格の香りだたよう傑作。


近藤文恵「凍える島」【2001/05/29】

喫茶店「北斎屋」の慰安旅行で孤島を訪れた、8人の男女、いびつな人間関係の中、ついに密室殺人が起こる。
孤島とくれば連続殺人事件でしょう、というおきまりコースなのに、新鮮味があった。
それは作者の持つ独得な雰囲気作りと、「孤島の連続殺人 」に「恋愛」という要素を深く絡ませているからかもしれない。
ただし、この恋愛感は少々重く、私の肌にはあわなかったけれど・・・。
ちょっと気になるカタカナ使いは、この世界においてはアリで良いでショ。
「ビール」が「ビィル」になっていようと。(笑)


有栖川有栖「ジュリエットの悲鳴」【2001/05/28】

短編集。それぞれのタイトルは「落とし穴」「裏切る眼」「遠い出張」「危険な席」「パテオ」「多々良探偵の失策」「登竜門が多すぎる」「世紀のアリバイ」「タイタンの殺人」「幸運の女神」「夜汽車は走る」「ジュリエットの悲鳴」で、計12編。かなり多種多様な短編がまざりあっています。
「落とし穴」は東野圭吾の短編集でも似た題材があったような・・・。「タイタンの殺人」は読者への挑戦状付き、のわりにしょーもない内容なんだけどね、でもそのしょーもな具合がよいです。
一番スキなのは「登竜門が多すぎる」。これはウケました。


近藤史恵「ガーデン」【2001/05/25】

「ねむりねずみ」「散りしかたみに」に登場の今泉探偵最初の事件。
エキセントリックな女性・火夜がある日姿を消した。数日後同居人・真波のもとに小包が届く、小包の中に意外な物を見た真波は、今泉に火夜探しを依頼する。
その後の今泉探偵ワールドのいろいろな要素が散りばめられています。
山本少年が探偵助手となった理由も明らかになるし、後に飼うことになるテリアの親犬も登場。
読む順番としては一番に読むべきだったのかもしれないが、後の作品を読んだからこそ山本少年の過去が衝撃的だったとも言える。
火夜のキャラが奔放で魅力的な女という、小説家のいかにも書きそうなタイプ、で終わってしまったのがもったいない。


矢崎存美「ぶたぶたの休日」【2001/05/23】オモシロイ!

ぶたぶたシリーズ第3弾。前作同様に出会った人をびっくりさせ、癒しまくります。
キックボードに乗ったり、野球をしたり、トン汁(!)を作ったり。
特に、分割収録されている「お父さんの休日」がほのぼのしていて和みました。
ぶたぶたの家族が登場するのがミドコロです。
ひとつ、「評判のいい定食屋」はタイトルこれじゃないほうが、前半も楽しめたんじゃないかな、と思った。ある意味ネタバレタイトルだから。
「女優志願」はぶたぶたが刑事役のシリアスムードな作品。
ミステリ的にも、まとまっている・・・かな?良いと思います。
ぶたぶたが刑事コロンボに見えた(イメージ的に)よ。


西澤保彦「黄金色の祈り」【2001/05/22】オモシロイ!

主人公の中学時代に起きた不可解な楽器紛失事件、その後の友人の死をミステリの軸にし、その謎をからませながら、主人公の成長を描いた作品。
主人公の中学時代から中年と言ってもよい年齢くらいまでが描かれている。
この主人公がまたカッコ悪いヤツで、楽して成功することばかり考えて、あげくに失敗し、その原因を他に転化しちゃう、というようなヤツで情けないことこのうえない。
しかし、それだけ内面を赤裸々描いたとも言えるわけで、人間くさいストーリィだった。
ミステリとしては物足りなさを感じるが、青春小説としてみれば、佳作。


矢崎存美「ぶたぶた」【2001/05/18】オモシロイ!

山崎ぶたぶたはぬいぐるみである。バレーボール大のピンクのぶたのぬいぐるみ。
生きてしゃべり、定期を使って通勤したり(もちろん仕事は優秀)、一流レストランのシェフになったり、と神出鬼没で、初めて会った(見た?)人を混乱させながらも、やがてそのかわいさで心を癒す。
そんなぶたぶたに会った人たちのツッコミもナイスで笑える!
このおもしろさはキャラの勝利。コミカルで安心できてやさしくてあたたかい。
駅の売店で牛乳を飲んだり、やぶれたところを自分で修繕するぬいぐるみなんて、
欲しいじゃないか!
と、そんな気にさせてくれます。
9編の短編の中では「銀色のプール」「ただいま」がよかった。


雨宮早希「EM顔のない女」【2001/05/15】

EMリーズ第3弾。
過去エンバーミングを施した少女の母親と名乗る女は、連続殺人を犯し13年も逃亡生活を続ける凶悪殺人犯・今井葉子だった。
巧みに捜査の裏をかき逃亡を続ける葉子。着実に葉子を追いつめていく平岡刑事。
そして平岡にひきづりこまれる形で事件に巻き込まれていく美弥子。
そんな美弥子の身辺は、新しい技術者フェイの入社、恋人・啓とのケンカ、継母との確執と相変わらず、気苦労が耐えなさそう。
しかし、文句を言うでもなく、キッチリ自分を保ち、仕事にはいっさい手抜きをしない、そんな彼女はやはりカッコイイ。
あの「福田和子時効寸前逮捕劇」を彷彿とさせる内容。後半、ストーリィがしりすぼみに終わってしまったのが、残念。


乙一「失踪HOLIDAY」【2001/05/11】

短編「しあわせは子猫のかたち」と、中編で表題作でもある「失踪HOLIDAY」の2編入り。
「しあわせは〜」は一人暮らしを始めた大学生が遭遇するちょっと不思議な体験談。
引っ越し先の家で姿の見えない同居人と暮らすうちに、ある事件の真相を知る。
「失踪〜」はジャイアンのような性格のお嬢様の誘拐騒動顛末記。
このお嬢様の性格がイカしていてかわいい、実際はそんなに甘くないぞ、と事件のオチに不満はあるものの、「しあわせは〜」同様メルヘンかも、と思えばヨシなのでしょう。


本多孝好「MISSING」【2001/05/10】

2000年「このミス」10位作品。そして、どこでも言われまくってるけど、村上春樹の文章に似ている。
ちょっとした比喩に動物をつかったりとか・・・。
村上春樹似なら好きな作風か?というとやはりどうしても本家と比べてしまうし、そうなるとどうしても粗が目立ってしまう。
もうすこし彼個人のオリジナルティが出、作品にも深みを出せることを期待する。
4編からなる短編集で、いずれも死と喪失のようなものが描かれている。
「MISSING」というのはそういう意味でつけられたタイトルなのだろう。
中では「瑠璃」がヒロインの女性が魅力的で良かった。


近藤史恵「散りしかたみに」【2001/05/07】

「ねむりねずみ」で登場した小菊&今泉が今度は、舞台に降る1枚の花びらの謎を探る。
全体に地味であいまいな感じで、いまひとつピンとこなかった。
今泉が事件に乗り気じゃなかった理由もあいまいだったし、小菊の活躍もイマイチで、光る部分がなかった。残念。


東野圭吾「片思い」【2001/05/03】オモシロイ!

大学ラグビー部でクォーターバックだった哲朗は、当時のマネージャー日浦美月と再会する。
久しぶりに会う彼女は「彼女」ではなく「彼」になっていた、しかも殺人を犯したことを彼に告げる。
スポーツや友情という東野らしい題材に、更に「男女の性とは」という要素が加わり深い作品になっている、美月の中世的な魅力や性同一性障害という問題になやむ女性達が細やかに描かれている。
男と女はメビウスの帯のように裏と表に分かれているように見えて、実はつながっている、しかも一度捻れて、という解釈になるほどと思った。
もちろんミステリとしての多くのみどころもあり、せつないラストも決まり、力作。
今期ミステリベスト1の作品に巡り会えたかも。


鯨統一郎「なみだ研究所へようこそ」【2001/05/01】オモシロイ!

文庫のアンソロジーで短編「アニマル色の涙」を読んだ時から良いなと思っていたが、一冊にまとまった本書も、裏切られることのないおもしろさで、かなりツボ。
メンタルクリニック「なみだ研究所」就職することになった松本は伝説のセラピスト波田煌子に会い、来院する人々の悩みを解決していくことになる。
この解決法が、セラピーというより推理、しかもものすごい荒技のこじつけもあったりして笑える。
波田先生のすっとぼけっぷりとあいまって良い味がでていた。
人のココロっておもしろい。


西澤保彦「依存」【2001/04/26】オモシロイ!

知らなかったのですが、これはタックシリーズとかいうのの5番目の本らしいです。
まず、読んですぐ新井素子の小説に似てる!と思った。登場人物が大学生のグループで、女の子の一人称であるとか、新井素子を読んだ人にならわかると思うんだけど。とにかく雰囲気が似ています。
タックとかボアン、それにウサコケーコたんとか、味のあるあだ名がまた・・・。
現在と過去が交互に描かれていて、その合間にちょっとした問題が提出され、それを彼らが議論していくウチに真相にせまってしまう、いわゆる日常の謎系?
今回の主なテーマはストーカー。様々なタイプのストーキングがあるものだな、とちょっといろいろ思い出してしみじみしてしまいました。
ミステリアスなタック&タカチの今後や、それにまだ読んでいない過去が気になるので、とりあえず今後は1〜4作目をたどっていきたいと思います。


宮部みゆき「堪忍箱」【2001/04/23】

著者お得意のちょっと不思議な江戸人情物語、の短編集。
「堪忍箱」「かどわかし」「敵持ち」「十六夜髑髏」「お墓の下まで」「謀りごと」「てんびんばかり」「砂村新田」の8編。
かつかつの暮らしの中でやっと生きている人たちに起こる、ちょっとした心のさざ波が切り取られている。やり手のおかみさんや、幼くして奉公にでる女の子など、よく使われるシチュエーションなのに、毎回読ませるストーリィー作りはさすが。
「いい人」が、つい邪念を抱いてしまったり、あるいは暗い秘密を背負っていたり・・・という人間の陰の部分みたいなものが伝わってくる、そしてそういう邪念を跳ね返す強さも描かれているところが宮部作品。タイトルにもなった「堪忍箱」は言葉としておもしろいけど、中身(ストーリィ)では「かどわかし」のちょっとビターな結末や、「てんびんばかり」の切なさなどが、印象に残った。


近藤史恵「ねむりねずみ」【2001/04/22】

「言葉が頭から消えていくんだ」と人気女形でもある夫に告白された一子。上映中の劇場で起きた殺人事件を追う、探偵・今泉と大部屋役者・小菊。そして事件の真相とは・・・。
1幕目と2幕目ではガラリと違う印象。言葉が消えていくというアプローチがおもしろいし、2幕目、それに3幕目の解答編以前は良かったが、いかんせんあのオチはあんまり。
舞台であんなことが起こって観客が気づかないわけないと思うんだけど?
しかし、やっと近藤作品で探偵に会えたことだし、小菊のキャラもイイカンジ、このコンビの登場する次作は「散りしかたみに」、これも要チェックでしょう。


近藤史恵「演じられた白い夜」【2001/04/20】

閉ざされた雪の山荘で、推理劇の台本とシンクロするかのように起こる連続殺人。
「雪の山荘」「連続殺人」という設定からもわかるように、かなり本格っぽい。
劇中劇という入れ子構造になっていて、お得感もあるし、場面転換も鮮やかで飽きがなくサクサク読める。
名声を得ようと集まったエキセントリックな役者達や、ヒロイン麻子と演出家で夫でもある神内匠の関係も、どこかミステリアスで読ませる。
長編にしては短く、その分あまり余韻が残らなかったのが残念。


近藤史恵「茨姫はたたかう」【2001/04/20】オモシロイ!

「カナリヤは眠れない」に続く、整体師探偵シリーズ第2弾。今回もおもしろいです。
前作のように被害者の女性と編集者・小松崎の2つ視点からストーリィが描かれ、ヒロイン梨花子側のストーカーを扱った本筋とは別に、小松崎の恋の行方も気になるところ。梨花子のまわりの女性達も個性があり魅力的で、彼女達に影響を受け、力先生のアドバイスを受け、どんどん変わっていく梨花子の成長っぷりが読後に爽快感をあたえる。
作中の「白馬に乗った王子様とストーカーはどう違うのか?」のやりとりもおもしろい。
ただ、ストーカーのフーダニットはちょっと・・・だが、それを補う魅力にあふれた作品。


近藤史恵「スタバトマーテル」【2001/04/17】

タイトルのスタバトマーテルというのはキリスト教聖歌のひとつでした。
あがり症のため声楽の道をあきらめ、大学の副手を続けるりり子は同じ大学の講師・瀧本と知り合い、やがて惹かれ合うようになる、しかし瀧本には不吉な影がまとわりついていた。
この主人公、なんだか生々しい。あるいは女っぽいとでも言うのか、現実にものすご〜くいそうな感じ。
昔の恋人・西に対する気持ちなんかはすごく伝わってくるが、瀧本に惹かれた理由は今一つピンと来なかった。
ラストは・・・キレイにまとまってると思うけど、やや不満。


恩田陸「上と外・4」【2001/04/17】

毎度ひっぱられるのにコリて、5巻が出るまで待とう、と思いつつガマンできず、読了。
そして・・・、やはり先が気になる!どうなるんだ、いったい?(←思うツボ) 
物語の舞台は地下に移り、千華子を人質に捕られた練は「成人式」に参加することを決意する。一方千華子もなんとか脱出を試みるが・・・。
成人式がスリル満点で、ハラハラとひきつけられたあげく、いいところで続く、悲しいです。
儀式と同時にこの世界でもなにか、大きなうねりみたいなものが起こっているし、次回クライマックス&最終巻、決着はいかに?


近藤史恵「カナリヤは眠れない」【2001/04/13】オモシロイ!

依存症に悩む女性の苦しみを、整体師・合田力が解きほぐす。
単純に言ってしまうと↑こうですが、これがおもしろい!
語り手も、被害者の女性と、ひょんなことからこの整骨院に通うようになった編集者・小松崎雄大の2方向から描かれ、事件を違う角度から見ることができ、良い効果をあげている。
それに探偵役が整体師ってのも新鮮。整体を武器にするなんて・・・。
ストーリィのテンポも良く、キャラクターそれぞれが活きていてバランスのとれた作品。これから(←続編がある)も期待できそうです。


服部まゆみ「シメール」【2001/04/12】

火事で家を失った失意の木原一家に、両親の旧友・片桐が手をさしのべる。
少年・翔にとって夢のような暮らしが始まったが、次第に家族の歯車はズレていくのだった。
中盤までオモシロイ!マークものだ!と思って読んでいたが、全体にしてみれば5分の1くらいの後半がナカノ的にどうも・・・だったので結局マークはなし。
前半の書き込みにくらべ、アッサリと終わってしまったのが、つくづくもったいない!
もう少し後半で翔の心の動きが描きこまれていたら間違いなく傑作だと思うのですが?
しかし、おもしろい作品であることは確かです。太鼓判を押します。


和田はつ子「ママに捧げる殺人」【2001/04/07】

家庭に問題を抱え、自らは徐々に拒食症に冒されていく女子大生・愛奈(マナ)、彼女は連続猟奇殺人犯。
独特の理論で殺人を繰り返す愛奈と、フトしたきっかけから犯人に近づく精神科医・知子、交互に描かれている彼女たちの生活が、更に物語に奥行きを作る。
細ければ綺麗と思いこみ、ダイエットのはてに拒食症に陥る女の子達がリアルに感じられるのは、共感する部分があったりするからか?
犯人の心情がよく描きこまれ、この手のサイコパスものとしては浮いたところがなく、良い出来だと思った。


夢枕獏「陰陽師 付喪神の巻【2001/04/04】オモシロイ!

更に物語に磨きのかかった3冊目。
「ゆかぬのか?」「う、うむ」「ゆこう」「ゆこう」そういうことになった。
と出掛けていく先に、また様々な呪が待ち受ける。
1作目に出てきたキャラが再登場したり、清明のライバル的存在である陰陽師・蘆屋道満(あしやどうまん)が新登場したりと、世界にも広がりが出てきた。
好きなのは「瓜仙人」。飄々とした丹蟲(たんちゅう)のキャラが味があって良いし、ちょっとおとぎ話的なエピソードも今までになくコミカルで楽しめた。
もうひとつ!「迷神」から抜粋します。
博雅「今、凄いものを見たぞ」
清明「何を見たのだ」
博雅「桜の花びらが、ただひとつ、風もないのにはらりと落つるのを見たのだよ」
清明&博雅の性格がなんとなくわかるこの会話、優雅さ、そしてテンポ・・・良いです。
「陰陽師」三冊目は折り紙付きの名作。


夢枕獏「陰陽師 飛天の巻【2001/04/02】

前作「陰陽師」の続編。安倍清明&源博雅の個性もますます引き立っている。
さまざまな呪(しゅ)の形・・・それはもつれた人の感情であって、清明が謎を解決する、というより、呪の根元を突き止め、自然な方向へ導く、そんな風に事件が収まってゆく。
大概、博雅がやってきて、清明の家で庭を愛でながら酒を酌み交わすところから始まる、そして「そういえば、こんな噂をきいたことが・・・」と事件に首をつっこむことになるんだけど、ここの掛け合いや独特の間が良い。
内容は・・・7編の短編の中で「鬼小町」が特に印象深かった。


夢枕獏「陰陽師」【2001/03/30】

まだ、人ともののけが近くに共存していた、そんな頃のお話。
都で起こる怪異現象の謎を解く陰陽師・安倍清明、そして武士源博雅、この二人のコンビ、味があって、いとおかしです。ホームズ&ワトソンの関係なんだけど、ワトソン役である博雅が一見無骨な武士に見せかけ、実は音楽に通じ笛の名手だったり、時にはスッっとものごとの本質を言い当てたりと、魅力的に描かれていて、清明つきあえるのはそんな邪気のない彼だからだろうという説得力もある。
そんな二人の典雅なかけあいもまた一興。


真保裕一「ホワイトアウト」【2001/03/28】 

雪に閉ざされたダムが占拠され、多くの職員が人質として監禁されるなか、富樫だけは監禁をまぬがれた。仲間を助けるため、そして亡くなった親友の恋人を守るため、単身雪山と革命軍に立ち向かう。
いうなればダイハード雪山編。読むと寒くなれるので暖かい場所で読みましょう。
富樫のガンバリが、以前自分のせいで親友を亡くしたという負い目からくるんだけど、その辺の心情がリアル。富樫と人質の女性、それに警察側の3つの視点から描かれ、ちょっとしたトリックもあり、読みだすとどんどん加速してのめり込んでしまう。
ラストをもう少し描きこんでもらいたいような気もしたが・・・このくらい余韻を残すほうが良いか・・・。


花井愛子「ご破算で願いましては」【2001/03/22】

作者自身が「自己破産」するまでの出来事をつづったもの。
少女小説で売れまくり、月1000万円かせぎ出し、自分や両親用に不動産を買ったものの、両親が相次いで不幸にあい、父親の前妻の子と叔父による遺産相続問題にもまれ、あげく少女小説の黄金時代も去り、不動産も下落、残るはすんごいローンのみ、というコワイお話。
どこが、いけなかったんだろう?どこで道を誤ったのだろう、と考えながら読むと、勉強に・・・ならないか?(笑)
かなり客観的に自分を自制しつつ書いてるが、身内(両親に対して)は甘いかな?
不動産はコワイね。そしてもっとコワイのは遠くの身内。お金に目がくらんだ人間って、ほんっと汚くなれるんだね。



倉知淳「占い師はお昼寝中」【2001/03/19】オモシロイ!

美衣子のお母さんの弟・辰寅叔父さんは、渋谷のおんぼろビルで「霊感占い所」を開いていた。
駄猫のようにめんどくさがりの叔父さんをせきたてて仕事を手伝ううちに、美衣子は様々な怪現象の裏の真実を解き明かす叔父さんの能力に気づく。
一見怪現象に見えても実は・・・といったヤツですが、お客さんにはうまいこと言って(この即興デタラメもすごい!)美衣子にコッソリ明かされる、怪現象の実体──事件を形作るいろいろな人々の思い──がそれぞれ余韻を残す。


三雲岳斗「レベリオン」【2001/03/17】

銃撃を受け重傷を負った恭介、しかし目覚めると傷は消えていた。不思議に思いながらも登校すると、同じクラスに超美少女の転校生がやってくる。その転校生・香澄こそ恭介が銃撃から守ろうとした少女だった。
電撃文庫というが影響したのか、ちょっとカユイ内容。
ロック少年に美少女の組み合わせも典型的だし。
最高にクラリときたのは、敵と戦う時に香澄が「スクリーミング・フィストつ!!」と自分の技(?)の名前を叫んだ時。ロボットアニメじゃないんだからさ・・・。
ネタもいろんなSFマンガをつぎはぎした感じで新鮮味に欠ける、がしかし!逆にこういうの懐かしくもあり、どうも次回作も読むような気がします。


殊能将之「黒い仏」【2001/03/15】

あるお寺の秘宝探しの依頼を受けた名探偵・石動は助手のアントニオとともに福岡へ向かう。一方殺人事件の被害者の身元を探る中村刑事も情報を追っていくウチに福岡へ向かうことになる。
と、歴史も絡んだミステリ?な流れで進んでいたのが、次第にああっ!というような展開を見せる。
感想は・・・「もったいない!」でした。石動を使ってあと数作シリーズを書いてから、この技を持ってきて欲しかった。その方がインパクトあるかと。
しかしかんじんの殺人事件が地味。石動が最後に急に事件に首つっこんで解決するのも唐突。
だってそれまでは宝探しにウンウン言ってたのに。アリバイ陳腐だし・・・。
しかし、個人的にはこういうの好き。こういう展開は予想つかないでしょ。スゴイ技だ。


西澤保彦「なつこ、孤島に囚われ。」【2001/03/13】

百合族作家・森奈津子が孤島に軟禁された。
やがて解放されるが、隣の島では殺人事件!?が起こっていたという。
自分のいる孤島を<ユリ島>、窓から見える隣の島を<アニキ島>と呼び誘拐を満喫する奈津子、おそるべし強烈キャラ登場!(シリーズができるらしい)
事件より、奈津子の妄想に多くページをさいているのでは?というくらい奈津子(の妄想)が描きこまれています。でも、これはこれで良いのでしょう。おもしろかったし。


雨宮早希「遺体処置 EM」【2001/03/13】オモシロイ!

ヘリコプター事故の遺体処置依頼を受けたエンバーマー村上美弥子、女児殺害事件を追う平岡刑事、自分の仕事内容に悩む美弥子の恋人成瀬啓、それぞれの思いはやがて事件を通して交差していくことになる。
別々に見えた事件が連鎖していく、みたいなこういう設定好きです。
ひところの小池真理子みたい?
他に、村上美弥子のキャラが好み。淡々とプロ意識を持って仕事をこなす姿勢に好感が持てる。(自分にないだけに)これがキャラ萌えってやつでしょうか?
全体的に、好み。オモシロイ!マークはこれからの期待も込めてちょっとオマケ。


宮部みゆき「あやし〜怪〜【2001/03/12】オモシロイ!

江戸時代の不思議なハナシを集めた短編集といったオモモチ。あやしというだけあって、それぞれ現象がらみだが、怖いだけではなく、あたたかいや、寂しいがある。
特に「安達家の鬼」が好きでした。
姑さんとお嫁さんの交流が、淡々としているのに暖かで、そして「鬼」の持つ余韻の寂しさがしっとりマッチして・・・ええ話しだった!
あと、子供がらみのストーリィ「女の首」も秀逸。やっぱり子供モノはうまいね。


鷺沢萠「サギサワ@オフィスめめ」【2001/03/10】オモシロイ!

お、おもしれー!今回のオモシロイ!マークはまじです、爆笑のイミで。やっぱ日記はここまで自分をさらけださないとイカンのですね。影響うけまくり。いいなー、サギサワ。
内容ですが、サギサワさんの公式あたりサイトの日記と、サイト管理者わたべ(ヘビ呼ばわりされている)嬢の裏サイトの内容を収録したもの。この二人のやりとりのあるも最高。笑わせていただきました。途中藤原伊織オジサマも参加、 HNはいおりん・・・直木賞作家なのに・・・。おおもとのサイトはコチラです。
追加:サギサワさんは接続ケーブルのこと「ヒモ」って言います。


清涼院流水「トップラン・最終話」【2001/03/08】

副題は「大航海をラン」です。(内容はネタバレしちゃいそうなので、触れません)
例の時事情報羅列に一時はキレそうになったけど、「読んでも3秒で忘れるなら斜め読みすればいいんじゃん」と気づいたので、乗り切れました。あいかわらず言葉遊びがお好きなようで・・・。しかし読んでいるこっちはシンドイ。他にも原稿用紙のトータル枚数にもヒミツがあったようで、そういうストーリィ以外での遊びについていけなくて難儀でした。
遊びを省いて内容を濃くして、登場人物を書き込んだら、もっと読んでいて楽しいモノに仕上がりそうなのに、残念。
でもこの人はこれでいいのか。きっとそういうこと省いたら清涼院流水じゃなくなるんだね。


山本文緒「そして、私は一人になった」【2001/03/06】

1996年あたりの日記。一人暮らしは気楽だけど、ちょいと辛い、まして作家なんてやってると時々ナーバスな気分におそわれてそりゃ大変、みたいな・・・、まとめちゃうとこんな感じ?なんだけど、実際はもっと日々いろいろで、日記ってその人の持ってる自然な文体みたいのが出るので、おもしろい&興味深い。
この本を買った本当の理由は表紙が猫だったからですが、飼い猫の話が出るのかな?と期待してたんだけど、出てきませんでした。ちょっと(勝手に)ガッカリ。


山本文緒「ココナッツ」【2001/03/05】

「チェリーブラッサム」の続編。父親の便利屋を手伝う実乃が今度はロックボーカーリストを警護して欲しいと依頼を受けたことから、事件に巻き込まれるといったもの。
実は今回の事件はチャチです。が、この小説は実乃の成長物語なのでそういうこと良いのでしょう。ちょっと抜けたパパ、要領と器量の良い姉、会うと喧嘩になってしまう男の子、唯一実乃の味方になってくれるお寺の永春さん、と登場人物のパターンも画一的なんだけど、感情表現がうまいので読ませられてしまう。ラストも印象的。
読了後謎に思ったのは「ココナッツ」というタイトルがどこからきたか?です。


三雲岳斗「M.G.H 楽園の鏡像」【2001/03/04】

従妹舞衣の策略により偽装新婚旅行で宇宙ステーション「白鳳」へ行くことになった凌、しかしその無重力宇宙ステーションで墜落死したような死体が発見される。
・・・謎自体も魅力的だが、主役の凌と舞衣のキャラクターが良かった。実はS&Mシリーズを彷彿とさせる部分が多い。学者肌の登場人物とか、天才的な博士とか・・・しかし、似てるのはそこまでで内容はもちろんしっかりオリジナル、ときどきハッとするような心惹かれるフレーズなどもあって、最初から終わりまでうまくバランスのとれた、佳作。


霧舎巧「ラグナロク洞」【2001/03/01】

テーマはダイイングメッセージ。(だそうです)
洞窟に閉じこめられたカケルと鳴海が殺人事件に巻き込まれ(←この辺は嵐の山荘風)、被害者のそばにはダイイングメッセージが残されている、といったもの。
このシリーズ、探偵が2人いるというよりは、鳴海の方は探偵のフリをしたワトソン、ということなのか?結局最後に謎解きするのはゴドウさんだし。
人が死んでいっても現実感がなく、ミステリ講義や推理合戦はじめちゃうあたりはあいかわらず。推理合戦させるために事件を作っているようです・・・ミステリのテキストみたい。せっかくのキャラをもっと活かした小説を書いて欲しい。


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