オモシロイ!マークはあくまで私の趣味です。
■2000年.中期
10月
レンコの家族と友達の前で、貴船天使が「トップランクイズ」の真相を明かすのか?と思いきや少年狼と合流し「一巻の終わりクイズ」なるものが始まってしまう。なんという展開!しかし、期待の仕方を変えれば、けっこう楽しめたりして、少なくとも今回は時事ネタの列挙はなかったし、前回までのあらすじも少な目でサクサク読めた。「一巻の終わりクイズ」の出題も楽しめたし。ヨシとしましょう。
それにしても、少年狼のラップトークはスゴかった。清涼「韻」利用しい=セイリョウ イン リヨウシイ・・・清涼院流水・・・ですか・・・。ヘリから投げ出された2人はジャングルの中をさまようのですが・・・リュックの中のものを使ってサバイバルに挑戦、なかなかうまく困難をくぐり抜ける。針で磁石を作るなんて、「やるなぁ」って感じ。そしてまた、思わせぶりに「つづく」。3巻のサブタイトルは「神々と死者の迷宮」引きつけられるタイトルだ!やってくれそうな予感。
7編からなる短編集。怪奇譚かと思って読んでいくと、それは「御行の又市」「山猫廻しのおぎん」「考物の百介」「事触れの治平」が仕組んだ巧妙なカラクリで、実はもう一つの事件が・・・。
「この世に不思議などないのだよ」という言葉を別の角度から表したのでしょうか?
短編なのでうんちくは少なく、しかしミステリとしての読み応えは充分。張り巡らされた伏線が最後にキチンと説明されて行く様は相変わらずお見事です!京極版必殺仕置き人。決め科白は「御行 奉為(おんぎょう したてまつる)!」
wowwowで映像化した時のビデオがあるので、見比べてみたいと思います。井上夢人「オルファクトグラム」【2000/10/21】オモシロイ!
姉の事件に巻き込まれた片桐稔は犯人に殴られ、1か月意識不明になった。そして意識が戻った時、稔は自分が異常な嗅覚を得たことを知る。とまどいつつもその力を利用し、失踪中の友人を捜す中、姉の事件にも大きく関わっていくことになるのだった。
とにかく嗅界の表現が美しかった、「色を見る」という発想がスゴイ。
事件もそれにうまく絡んでいき、とにかく飽きさせない。難を言えば、犯人が殺害にいたるまでの動機や、なぜあのような殺害方法になったのか、などの説明が欲しいところ。8年分のエッセイだそうです。それはそれはスルドイ読書感想もあり。
つむぎ出す言葉は詩のように響き、それでいてなんと的確にものごとを表現するのだろうこの人は、と思う。多少エキセントリックなところがあって、もし身近にいたら、好きだけどずっと一緒にはいたくない・・・そんな感じの人かなぁ?
スコシ抜粋「まったく結婚というのは残酷なことだと思う。結婚するのがどういうことかというと、いちばんなりたくない女に、いちばん好きな人の前でなってしまうということなのだ。いやになる。」おもに人について書かれているコラム集。
岡崎京子のコラムを読んで、しんとしてしまった。危篤だった時、小沢健二と「鼻血が出るくらいお祈りした」と書いてあったけど、その気持ちがわかって。是非復帰して欲しい。わたしも心から祈ります。
それから、最後の方に「まず焼き卵」というコラムがあって、ばななさんのお父さんの作る卵焼きの話なんだけど、コレが「体は全部知っている」収録の「おやじの味」とリンクしていて、なるほどこうやってフィクションに加工するのだな、と思い興味深かった。吉本ばなな「体は全部知っている」【2000/10/17】オモシロイ!
短編が13本。後になって振り返ってみれば、あれがターニングポイントだったんだな、というような一瞬がそれぞれに凝縮されています。いつもこの人の本を読んでいると感じる「辛いことなんてずーっと続くわけないし、ちゃんと楽になる時が来るんだから、そう悲観したものでもないよ」みたいな感じもしっかりと流れています。短いわりにハードな内容が多い中、個人的に「田所さん」が好きでした。気持ちがあたたかくなる良い話だった!
江國香織「薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木」【2000/10/11】
あらすじだけを紹介すると陳腐になりそうなので書きません。(笑)
とにかくいろんなタイプの女の人が細やかに描かれています。その時々で同調したり反発したり・・・思ったのは、結局物事を良く思うのも悪く思うのも自分次第ってこと。
他人の芝生ばかり見ていて、自分の手元がお留守じゃ、欲しい物は手に入らないってこと。淡々としているけれど、後を引く感じで一気読みしてしまった。独特の表現力が詩的で冴えてます。そう、胸がスースーするくらい。「罪深き緑の夏」「時のアラベスク」などの傑作(ナカノ的に)を書いた人です。あれからずいぶん経ち、その間出た本がピンとこなかったので、しばらく読み控えていましたが、今回、北村薫&若竹七海らが巻末インタビューに参加、ときいて読むキッカケとなりました。
4つの短編(「怪奇クラブの殺人」「葡萄酒の色」「時のかたち」「桜」)にエッセイとインタビュー記事付き。エッセイではドラクエ3にハマっていたことなどがつらつらと書かれ、親近感をおぼえたりして・・・。
短編は彼女特有のゴシック・ロマン漂う不思議な余韻を残す作品。雰囲気良く綺麗にまとまってるが、やはり長編のほうが活きる文章だと思う。若竹七海「古書店アゼリアの死体」【2000/10/07】オモシロイ!
全作「ヴィラ・マグのリアの殺人」に続くコージーミステリ第2弾。葉崎を舞台に今回は遺産相続がらみの殺人が起き、おなじみの駒持刑事が出動。(残念ながら全作の登場人物は出てきません)ロマンス小説専門の古本屋店主の紅子さんが良い味出してます。やってきたお客とロマンス小説カルトクイズを始めちゃったり!(笑)
巻末には「前田紅子のロマンス小説注釈」というのがついていてコレがまたおもしろい!本編には出ては来ないが、前作登場人物の消息がつかめて、ニヤリとする部分も。
ラストもちょっとしたひねりが効いてるし、全体に A・クリスティを現代風にアレンジしたイメージで、わたしの好み。セントメアリミード=葉崎?タイトル通りの内容です。イカさんとサクぼうと3人で旅した日記。写真も豊富であっという間に読めてしまう。旅行って人生の中では「ハレの日」だと思うんだけど、この人にとっては日常の続きなのかもしれないなと感じた。特になにかを受け取ろうとしなくても、飛び込んでくるものは飛び込んでくる、旅行に行っても行かなくても・・・。それをシンプルに表現するだけ、そんな感じ?
手毬という女性の変遷が、10年ごとにオムニバス式に綴られている。幼なじみのマーティンの視点・手毬の視点・母の視点・手毬の視点・義弟の視点・手毬の視点・娘の視点、という風に交互に語り手がかわってゆく。語り手がかわることによって手毬のイメージも変わっていくのがおもしろい。時々生々しすぎてつらくなるくらい、それぞれの人がリアル。ちょっとしんどい、そんな1冊。
婚約者の父親(作家)が不可解な自殺を遂げた。遺書には「メドゥサを見た」と謎の言葉が・・・。もう一つ遺されたノートを手がかりに、真相を探る主人公、しかしその身にも次々と不思議な現象が現れはじめる。
読んでいくと迷路に入り込んでゆくような感覚をおぼえる。ゆがんでいく記憶や石海という孤立した村の中の陰湿な事件。何が本当に起こったことなのか?メドゥサは何を起こしたのか?
不思議な話。さいごにポンッと外にはじき出されたような感じがした。9月
前回「すっぴん魂 カッパ巻」よりパワーアップした感じがして、フト考えてみたら怒りネタが多いような・・・。銀行の応対の話なんて、読んでいてついシンクロ率上がってしまった!笑い話や困惑ネタも良いけど、やっぱ人って怒った時がいちばんパワーアップして盛り上がるのだなぁと思った。それにしても室井さん、変な人に遭遇しすぎです!
この人の本を読むのは実は初めて。適度に力が抜けていてサクサクと気持ちよく読めた。
エッセイはミステリの次に好きなジャンルなんだけど、とくにこの年代の女の人のエッセイは好き。
街で自分と同じクマのトレーナーを着たオバチャンに「イチ・キュッ・パッ(1980円)」って言われた話とか、おもしろかったー。恩田陸「光の帝国 常野物語」【2000/09/26】オモシロイ!
不思議な力を持つ常野(とこの)一族の物語。まさに珠玉短編集。
それぞれ違う人物の目を通して描かれているが、登場人物はあちこちでリンク。(とくに「ツル先生」が良い味出してる)作者自身「手持ちのカードを使いまくる総力戦」と語るほど、濃く、広がりを感じさせる内容。中には物語の序章のようなストーリィ(「オセロ・ゲーム」)もあり、その後に続く壮大な世界をかいま見させてくれる(残念ながら続編はまだ出ていない模様)。特に良かったのはタイトルにもなっている「光の帝国」。そして最期の「国道を降りて・・・」。
常野の人々の能力もそれぞれで、その力の呼び名も「しまう」「響く」「裏返す」「つむじ足」「草取り」などどこかノスタルジックな世界観を感じさせる。続編を是非とも期待したい1冊。
カバーやトビラの谷口周朗氏のイラストも、ぴたりとハマってます。航空ショーの最中にパイロットが後から撃たれて殺された。Vシリーズ5作目。
よくまとまっているが、なんか物足りない。祖父江七夏に肩入れできないからか(今回は彼女の出番が多かった)人は動いてるのに、心の動きがないので、気持ちも動かない、そんな感じ。しかしラストの紅子の推理は見事、気持ちよくオチてました。
今回は紅子(&練無&紫子)の出番が少ないのが残念。七夏はキライだし、保呂草はハードボイルドを気取りたがるし、おもしろいけど、カッコつけばっかだと読んでいて疲れる。人里離れた男子校の寮が舞台。冬休みに帰省せず寮に残る4人の少年、閉じられた空間の中で連帯意識(共犯関係?)が芽生え、ついに各自の過去に関する告白大会になってしまう。そうしてトラウマを抱えていた少年たちは、それぞれに友達のアドバイス(?)を受け、自己をみつめ成長していく・・・。
学園ものと言うのでしょうか?女の人が見た少年という感じでリアルさには欠けるかもしれませんが、なんとはなしに切なくなるような小説です。ここのところ恩田陸ばかり読んでいますが、彼女のバリエーションの豊富さには驚き。入り組んだ水路が縦横に走る箭納倉(やなくら)市内で、行方不明になった老人がし唐突に戻り、失踪中の記憶を失っている、という事件が多発する、恩師の三隅協一郎を訊ねた多聞、そして新聞記者の高安と協一郎の娘・藍子の4人は事件を調べ始めるが、やがて驚愕の真相に至る。ホラーだけど、どこか郷愁を誘う物悲しいストーリィ。恩田陸版「人類補完計画」。「盗まれて」別なニセモノになる、という感覚が恐ろしくも甘美。
幻冬舎文庫の得意技グリーンマイル方式です。両親の離婚で離れて暮らす家族が年に一回集う。今回の集合場所は中央アメリカ、町中にはなにやら危険なムードが立ちこめている・・・。
1冊目ということで家族の説明が主。これから冒険小説になっていくのだろうか?すっごいイイトコで「つづく」になってしまった!うまい引っ張りだ。それに楢崎練と千華子の微妙な関係も気になるところ。いつも不思議空間を作り出すのがうまい恩田さんですが、今回はちょっと毛色が違って、なんだか派手にやってくれそうな?森博嗣氏は「大島弓子の絵で見ている」と言ってました。ナルホド。岡本真吾「お医者さんが考えた『朝だけ』ダイエット」【2000/09/12】
タイトル通りの本です。シンガポールへ行く飛行機の中で読みました。
内容を要約すると、痩せるためには........
1、朝食を抜く(すでに抜いてる人は400キロカロリーカットする)
2、乳製品を控える
3、スポーツドリンクを飲まない(水を飲む)
4、クロムを摂取する。(アサリ、ハマグリ等に含まれる)
5、寝る3時間前はものを食べない
............だそうです。それほど新鮮じゃないけど、堅実そうですね。
詳しいことが気になる人は、http://www.mednet.co.jp へ
若竹七海「ヴィラ・マグノリアの殺人」【2000/09/8】オモシロイ!「ヴィラ・葉崎マグノリア」の一室で顔と指が潰された死体が発見される。刑事は聞き込みを開始するが、ここの住人は怪しい者ばかり。
小さな町を舞台とした暴力行為の比較的少ない、限られた容疑者のなかでのフーダニット。コージーミステリというそうです。まるでクリスティの小説よう。登場人物もそれぞれクセがあり個性的、トラブルメーカーな脇役の描写がウマイ。「いるいる!こういうヤツ」って感じ。全体にコミカルでシニカルでイイカンジ、こういう小説、好みです。
「時間」「タッチアウト」「優しい水」「手紙嫌い」「黒い水滴」「てるてる坊主」「かさねのことは」「船上にて」の8編からなる短編集。92年から96年までの作品ということで、実験的なものや、現在の作品に通じるものなど、バラエティにとんでいる。ラストのちょっとダークなヒネリも健在で若竹七海らしい短編集。「かさねのことは」「船上にて」あたりが好みです。「黒い水滴」には「製造迷夢」の一条刑事が再登場。結婚してるそうで・・・よかったです。
あの「邪馬台国はどこですか」の人。今回は宮沢賢治の童話に隠された暗号を解いて宝探し。しかもその謎が封印されてるとして主人公の奥さんまで誘拐されてしまう。宮沢賢治の童話解釈や人物解釈、また『銀河鉄道の夜』に秘められた暗号解読というモチーフは魅力的でいいんだけど、誘拐事件がおそまつ。くどい暴力描写とか強引な結末は荒唐無稽な印象も、・・・おもしろいんだけど、読み終わった後憮然。
8月
「探偵ガリレオ」に続く第2弾!「夢想る―ゆめみる」「霊視る―みえる」「騒霊ぐ―さわぐ」「絞殺る―しめる」「予知る―しる」と章タイトルも決まってます。予知・幻・霊・火の玉・夢といった、事件に関係した不思議な現象をガリレオ先生こと湯川助教授がきっちりと解決。不思議解明によって事件の質が180度変化したりと、ミステリとしての読みごたえも充分。著者によると最初のタイトルは「ガリレオ怪奇事件」だったそうです。これも味がありますね。
ジル・チャーチル「豚たちの沈黙」【2000/08/30】オモシロイ!
主婦探偵ジェーンシリーズの7作目。タイトルはもちろん「羊たちの沈黙」からのもじり。久しぶりに読んだが、こんなにおもしろかった?と思うほど楽しんでしまった。特にジェーンとシェリィのシニカルな会話は最高!。冒頭に出てくる高校の表彰式での会話を引用します。「もう一度おしえてよ。あたしたちなんでこんなことしてるのか」「頭が悪すぎて、避妊薬の包みの説明書を読まなかったからじゃない?」と、こう。
他にもジェーンの長男マイクの高校卒業がらみで、ホロリとさせられる場面あり、ヴァンダイン刑事とのロマンスあり!と、ミステリ以外でのお楽しみもてんこもり。登場人物すべてが生き生きと描かれているので、すぐにストーリィに引き込まれ、あっと言う間に読み終えてしまう、そんな作品。次回作も楽しみ。村上春樹「またたび浴びたタマ」【2000/08/29】オモシロイ!
回文かるた集。50音(44個)全部あります。回文とショートショート(エッセイ?)とイラストで1セット。サイズも作りもちょっと特殊な本で、内容・装丁共に良い味出てます。イラスト担当は友沢ミミヨ、作者の推薦ということで、回文にマッチした絶妙のイラスト。「こ」「ふ」「ま」が味があって良かったです。回文も「A型がええ」「メモで『陰部』、文章で揉め」など、ダジャレからストーリィ性のあるもの(?)まで多彩。村上春樹の新しい局面開眼か?
第3話では、姉の恋人として出現した貴船天使を罠にはめようと恋子の反撃が始まる。例のくどい記述は相変わらずでイライラさせられるが、ストーリィは盛り上がってきた感じ。第4話は期待できるのか!?
ところで、恋子って良い子すぎ。家族をあんなにベタ褒め&尊敬できるなんて・・・ちょっと変!現実味がないな。テストを渡し終え(恋子の値段は3億7430万円!)。ホッとしたのもつかの間、第2の課題が与えられる、という第2話ですが・・・、記述がくどい!前回までのあらすじも長すぎだし、例の時事ネタも相変わらずのしつこさ。読んでいてうんざり。ストーリィはおもしろく進んでいるので、もっとスピーディに進めて欲しい。ちなみに私の値段は・・・1億8090万円。安いなぁ・・・。
音羽恋子が出逢ったうさんくさい男貴船天使は、よろず鑑定士を名乗り「トップランテスト」なる心理テストを恋子に渡す。答えるだけで100万円、高得点を得れば鑑定評価額(数千万円以上)がもらえるという・・・というわけで、後半は主に心理テストを解き、問題のウラを読もうとする場面が続きやや退屈。グリーンマイル形式のライブ感を出すためか、時事ネタが豊富で今読むと微妙に懐かしい、テストは次回採点するらしいので自分でもやってみた。今後どう展開するのかが見物。カバーのイラストが好み。
井上夢人「風が吹いたら桶屋がもうかる」【2000/08/22】オモシロイ!
倉庫を改造した部屋で暮らす3人の男。牛丼屋で働くリアリストのシュンペイ、パチプロで生計を立てているミステリマニアのイッカク、そしてへなちょこ超能力者ヨースケ、この3人のもとに依頼者(大抵カワイイ綺麗な女の子)が訪れて問題提起する形の、連作短編(ユニーク)ミステリ。とにかく登場人物が個性的で面白い。一見論理的に感じられるが超飛躍した推理を展開するイッカクもケッサクだけど、ヨースケのへなちょこぶりが最高。ラーメンを食べるのに割り箸を30分かけて割る(当然ラーメンのびてる)、確かにすごいけど、超能力っていったい・・・と思わせる低能力ぶりが笑わせる。それでも依頼者が納得あるいは感動して帰っていくのがもっとスゴイかも?
加賀刑事主役の短編集。「嘘をもうひとつだけ」「冷たい灼熱」「第二の希望」「狂った計算」「友の助言」の計5作。加賀刑事モノは主観人物が「犯人」であるというお約束があるので、にもかかわらず、読者を惹きつけなければいけないというのは、なかなか難しかったと思う。また聞きによると、東野自身のプライベートにもいろいろあった時期だとか・・・。そういえば崩壊する夫婦というテーマがうかがえる気も?そういえば、あのシツコイ食らいつき方でコロンボ警部を思い出しました。
この人の作品に統一しているテーマは喪失と再生だと思う。今回の作品も祖父を亡くした少年を少女がおだやかに見守りつつ再生へとみちびく。雑なようでいて繊細な表現が冴えている。ちょっと引用してみます。「本気でいろいろなものを見ていると、どんな小さなものの中にも、ニュースをみているよりももっとすごい真実味があるのよ。」(省略)外側に求める必要がないくらいに心は忙しく働くのよ。・・・どうでしょう、深いと思いませんか?
文庫の表紙も綺麗でグレー地に浮き上がる青い犬のシルエットが印象的で好き。下巻は屍鬼側の心情が描かれる。人を襲わなければ生きていけない体にされてしまい、憤り悲しみながらも、やむなく人を狩る屍鬼、殺戮してもいいんだ!と開きなおる屍鬼、どうしても人を襲いたくないと飢えに苦しむ屍鬼。あるいは屍鬼となった家族と対面してしまう人、殺らなければ殺られる、しかし相手は生前と同じ感情を持つ自分の家族なのだ。様々な葛藤の中狩りがはじまる。残虐な狩りの様子には、本当に恐ろしいのは屍鬼なのか、人なのか?という疑問を投げかける。本の厚みに比例する内容の濃いストーリィ。
遠く隔離された山村で次々と人々が消えていく、謎の急死・夜中の引っ越し、人々が伝染病を疑いだした頃、医師敏夫は驚愕の真相に気づく。
と、上巻は村の描写や謎の病死にスポットがあてられる。小さな村社会の様々なしがらみやよそ者に対する排他的な考え方。若御院 静信の抱える闇。老人は老人なりに子供は子供なりに、じわじわと不安が広がっていく村の様子がリアル。また敏夫と静信の親友なのにどうしても相いれない部分など、事件によって起こる人々の心の動きも読ませる。┃Index┃