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オモシロイ!マークはあくまで私の趣味です。


■2000年.下期

12月

加納朋子「螺旋階段のアリス」【2000/12/28】オモシロイ!

探偵事務所を起こしたばかりの仁木順平と、その助手におさまることになった不思議な少女・市村安梨沙の事件簿。
事件のモチーフとして「不思議の国のアリス」「鏡の国のアリス」の登場人物や出来事がからめられているのも特徴のひとつ。ミステリがこんなにかわいくなって良いのでしょうか?という作品。
いわゆる日常の謎系。ちょっと現実ばなれしたところもあるけど、一話一話が綺麗な石のように透明感があり、それでいてなにか心に訴えてくるものもある印象深いストーリィ。特に「最上階のアリス」は、かなりホロリときちゃいました。
最後に出てくる奥さんもステキ。続編、是非とも期待します。

若竹七海「八月の降霊会」【2000/12/27】

山奥の別荘に招待された人々。ゴシックロマン作家とその秘書、誘拐犯の娘、霊能力者とその娘、詐欺師の夫婦、そして別荘番とその息子(執事)、そして殺人事件が起き、お約束のように別荘は外界から隔離された状態になる。そして浮かび上がってくる20年前の事件。
こう書くと典型的な本格ミステリのようですが、複雑な要素がそんな期待を裏切ってくれます。そしてそれがこの小説の核の部分かもしれません。若竹七海ならではのトリッキーな作品。
A・クリステイの短編集に似たようなストーリィありましたね。「死の猟犬」の中の「最後の降霊会」です。

原田宗典「道草食う記」【2000/12/25】

1993年10月から-1995年2月までの日記とオマケの日記。久しぶりにハラダのムネちゃんの軽快で笑える文章に会いたくなって読み進めてみると、なんと躁鬱病になってました。オドロキ!
躁鬱病の作家といえば北杜夫を連想してしまうどくとるマンボウ好きのナカノですが、そういえばあのエッセイ時のバカテンションと、小説の超シリアステンションとの落差は確かに北杜夫を彷彿とさせるかも。
月に多くの連載を持ち芝居の脚本を書き、そんな慌ただしい日々の中で小説のアイデアを思いついてもなかなか執筆にとりかかれないジレンマなんかは超リアルで、思わず「がんばれ〜」と小声で応援したくなりました。つーか、ほんとマジで復活お祈りしてます。
「スメル男」みたいな小説また読みたいなぁ・・・。

浦賀和宏「頭蓋骨の中の楽園」【2000/12/23】

あの安藤直樹の大学生編。「笑わない男」とか「リビドー全開の男」とか呼ばれています。大学で起きる連続首無し殺人事件に関わっていく、というシリーズ中もっともミステリっぽい内容。
が、最後に萩原登場でやってくれました!またしても次回作が気になる展開。なんとなく「頼子のために」と「ループ」を連想。
どうもわたしはこの一人称の文章に弱いらしい・・・すごいトリックよりも、その事件に関わる人の感情が伝わってくる方が惹きつけられる。後半の謎解きは一気読みしてしまった。

犬丸りん「おかたづけ天女」【2000/12/19】

潔癖症、万引き中毒、お化けフェチ、レズビアンなど、ちょっと変わった趣味をもつ普通の人々の業や運命を描いた短編集。ちょっと童話っぽい語り口がイメージに合っている。
時々すみっこに現れる、小さいカットもかわいい。中では「ちょこんばあちゃん」が好きでした。

小林聡美「東京100発ガール」【2000/12/18】

女優さんのエッセイって好き。読んでいて顔が浮かぶので、イメージしやすいし。
この文庫はカバーがかわいくて購入に至ったのですが、内容もサラリ明るくて、文章の他に写真も掲載されて楽しく読めました。
おちゃらけた人というイメージだったけど、文章を読んで、きれい好きでしっかりした人という印象を受けました。

京極夏彦「どすこい(仮)」【2000/12/18】

有名小説のパロディで、タイトルも「四十七人の力士」「パラサイト・デブ」「すべてがデブになる」「土俵(リング)・でぶせん」「脂鬼」「理油」「ウロボロスの基礎代謝」とパクリまくりな上に1作ごとにペンネームも変えるという徹底っぷり。一冊の本の中にバカてんこもり!アッパレでごあす!ごっつぁんです。
内容も元小説(と言っていいのか・・・)のエッセンスをちりばめつつ、ギャグ(漫才?)を炸裂させる高度な技術、そして意味無し脱力オチ。これをアノ京極夏彦が?思わせるところがミソなんでしょうか?しかし、これは・・・読者を選ぶかな〜と思ったり。元ネタの本を読んでいないとか、そういう点ではなくて、おおらかな心を持っていないと、ってカンジ。
そして装丁!良い仕事してますね。カバーデザインもさることながら、見返しの汗模様の暑苦しさや目次のモト本のデザインを踏襲したレイアウトや、それに「すべてデブ」に挿入された、しりあがり寿先生のマンガなど、「装丁する」とはこういうことだ!と訴えてくるような完成度。

黒田研二「ペルソナ探偵」【2000/12/15】

個人情報を伏せ、チャットで話すだけの作家志望の6人。巻き込まれた事件を報告(?)して、チャットでヒントを出し合ったり、解決したりしてしまうのが、ありそうでなかった設定でおもしろい。
最初の2編は「フツーだな」とサラサラと読んでいたが、最後の1編で前の2編も生き返った。でも、黒田研二という作家の特性が、まだ薄いような・・・。
「これが黒田研二の文章だ」と思えるようなクセが出てきたら、もっと惹き込まれるかも。あるいはシリーズ探偵を作る?今回のカペラさんなんて適任ではないでしょうか?

清涼院流水「トップラン・第5話」【2000/12/11】

「最終話に専念(2000年)」だそうです。相変わらず、です。
言葉遊びもダジャレの域に達しましたね。
やっと「一巻の終わりクイズ」も終わり(これはこれで、おもしろかったけどね)今度はパパさん庄造が行方不明に!・・・と、新たな展開にレンコはどう動くのか?後半はまたニュースの羅列でウンザリ、最初のほうだって「前回までのあらすじ」にかなりページをさいてるし、これがなきゃ、もっと楽しめるんだけどね。

浦賀和宏「時の鳥籠」【2000/12/09】オモシロイ!

前作と深くつながった作品。「記憶の果て」は安藤直樹側の視点だったが、こちらはある女性の側の視点、その分入り込み(感情移入)やすかった。相変わらずミステリというよりはSFチックで、読んでいる最中どうオチをつけるつもりなのかハラハラしてしまった。
こういう「先がどうなるかわからない」って本を読む醍醐味だと思う。登場人物がメソメソしていてウンザリなところもあるが、引き込まれることは確か。こういうストーリィ好みなんです。
今後さらにどうオチをつけるのか期待。

浦賀和宏「記憶の果て」【2000/12/05】

父親の自殺をきっかけに安藤直樹のまわりで起きるいろいろな出来事、会話する(意識を感じさせる)コンピュータや、出生の秘密。
メフィスト賞受賞作というからバリバリの本格?と思っていたら、チガウチガウ!
SFっぽくもあり青春小説風でもあり、という微妙なスタンスの作品。悩める作風というか、模索中といった感がありあり、しかも法月綸太郎ばりに悩める主人公が一人称で書かれているので、共感できない時は、ちょっと辛かった。が、先が楽しみであることは確か。

戸梶圭太「溺れる魚」【2000/12/01】オモシロイ!

不良警部補2人が罪のもみ消しと引き替えに、公安警部の内定をはじめるが、それが大企業脅迫とつながっていき、さらに事態は複雑に・・・出だし地味?と思ったが、トンデモナイ!
企業重役にプーさん靴下を履かせ「男気」「嫁さん募集中!」と書いたTシャツを着させ銀座を歩かせるんだから、なんつー脅迫内容!最高。初・中盤で登場人物や背景をみっちり描き、様々な伏線を混入し、そして後半のスピーディな息をつかせぬ展開。まさにエンターテイメントの極み。楽しませてもらいました。難を言えば、登場人物が吐きすぎ!

11月

倉知淳「日曜の夜は出たくない」【2000/11/28】

「競作・五十円玉二十枚の謎」で若竹賞に輝いた佐々木淳さんの作品。
あの本を読んだ人なら「猫丸先輩の」って言えばワカルかも?
この本も猫丸を探偵役にして綴られた短編集。バラエティに富んだおもしろい短編集に仕上がってる。毎回語り手も変り、文章やタッチも変わっていく、それに最後の最後にひとひねりアリという、さすが若竹賞作家の短編集って感じ。

黒田研二「ウエディング・ドレス」【2000/11/25】

カバー裏に「全編に謎と伏線をちりばめた」と語られているだけあって、パラレルワールド風のトリッキーな作品。時系列や叙述に関するトリックだろうとすぐに見当はつくものの、語り手が交互に変わることもあり、先が気になって、グイグイと読まされてしまった。ラストもイイ感じで着地。著者自身のサイトで日記を読んだせいか、魔夜峰央のマンガのイメージで読んでました。

若竹七海出題「競作・五十円玉二十枚の謎」【2000/11/22】オモシロイ!

タイトル通り、若竹七海出題の五十円玉二十枚に絡んだミステリの解答編を各作家(法月綸太郎・依井貴裕・有栖川有栖・笠井卓・阿部陽一・黒崎緑、他)が競作するという内容。以前、法月綸太郎の解決編のみ短編集で読んだことがあり、他の解答も読みたくて、ずっと探していました。一般公募した作品も収録されていて、バラエティに富んだ解答が楽しめます。やや楽屋オチっぽい感じは否めないが、北村薫・若竹七海・法月綸太郎に慣れ親しんでいれば逆にソコも楽しめたりして。こういう競作本ならもっと読みたいかも。

若竹七海「名探偵は密航中」【2000/11/19】

豪華客船「箱根丸」の航海中に起きた事件がオムニバス方式で書かれている。「ネプチューンの晩餐」にも似た設定だが、こちらは7編からなる短編集。それぞれクセのある乗客が視点を変えて描かれ、目先が変わり新鮮。しかし読み進んでいくと個々の事件が微妙にからみあい、最後の章で収束していくあたり、著者特有のトリッキー技(?)が出ていて楽しめる。タイトルにもなった「名探偵は密航中」と「猫は航海中」が特に好み。

宮部みゆき「ぼんくら」【2000/11/15】オモシロイ!

鉄瓶長屋に次々事件が起こり、一人また一人と長屋を去ってゆく、・・・。本所深川の同心井筒平四郎は捜査に乗りだしていくうち、あるカラクリに気づく。
分厚い本でページ数も多いのに一気に読んでしまえるおもしろさ。事件の真相が近いようで遠く、じらされているうちにどんどん引き込まれる。登場人物が活き活きしているのも見事。主人公の平四郎もほのぼのして良いが、途中から出てきた弓之介それにおでこといった子役もまた最高。「ファザーステップ・ファザー」「夢にも思わない」「東京下町殺人慕情」など、この著者の少年が出てくるストーリィモノは気に入ったものが多いです。

犬丸りん「んまんま」【2000/11/14】

たべものに関するエッセイ。1編に1Pのマンガ挿し絵もついていてお得。
「おじゃる丸」の原作者らしく、和の食べ物の話が多いような・・・。
さくらももこ程シニカルではなく、あえて言えば群ようこに近いけど、もうちょっとまったりしてる、そんな感じ。なかに描かれてる人々はけっこう過激だったりするんですけど。

有栖川有栖「幻想運河」【2000/11/14】

カバー裏のコピーに「有栖川ミステリ裏ベストワン」と書かれているんだけど・・・ちょっと賛成しかねます。
アムステルダムに居ついたシナリオライター希望の恭司が、バラバラ事件に巻き込まれるというミステリなんだけど、事件そのものより、恭司のドラッグ体験記みたいな感じが強い。そりゃアムスだもんドラッグは切っても切れないだろう。でもドラッグでトリップした自分を冷静にふりかえる自分みたいな自意識過剰ぎみの文章が多く、なんだか気持ち悪い。作中作があったり本文2色(黒と赤)刷りだったりと凝った作りの本なのに、その主人公の気持ち悪いトリップ記のおかげで魅力半減。

吉本ばなな「ひな菊の人生」【2000/11/9】

まず、特筆すべきことにその装丁の美しさがあげられる。南国の海のようなエメラルドグリーン、薔薇のような真紅、ひまわり黄色のサンフラワー、その構成も素材使いも、イイ仕事しています。
本編は、今までよりいっそう死というものをまっすぐに受け止めているようで、時々スゴイ表現があって、ドキッとする。「みんなそのときが来れば、汁を出したり、管を入れたり、変な音を出したりして体を終わらせる」とか・・・。幼い頃に事故にあってお母さんを亡くした、なんて普通トラウマとか使って表現されてしまうであろうことを、この主人公はそのままに淡々と受けとめている、それが逆にリアル。

他に好きなフレーズは「思い出はいつも独特の暖かい光に包まれている。私があの世まで持っていけるのは、この肉体でもまして貯金でもなくてそういう暖かい固まりだけだと思う」うんうん、そうだねってうなずきたくなっちゃう一文です。

有栖川有栖「月光ゲーム」【2000/11/8】

クローズド・サークルの連続殺人、ダイイングメッセージ、読者への挑戦状、と本格づくしの有栖川デビュー作。ついにアリスに手を出してしまった!以前読んだ「ダリの繭」が退屈だったので読む気無くしてたんだけど、これは青臭くて、ときどきカユくなるような記述もあるものの楽しく読めた。「本格したいんだ!いろいろ詰め込むんだーっ!」ていう意気込みがヨイ!なんだかんだ言ってこういうミステリは好き。

赤川次郎「うぐいす色の旅行鞄」【2000/11/5】

年に1歳年をとる爽香シリーズ。なんと今年で13年目というからスゴイ。今回は爽香27歳の秋、明男とのハネムーン編。このシリーズ、1作目からずっと読んでいるが、とにかく辛い出来事が多い!今回もフトしたことから事件に巻き込まれる普通の人の心の闇みたいなのが、痛々しい。カラリと描かれているし、もちろん救いはあるが、赤川次郎って昔の作品は「悪人も案外抜けていて話がわかる」みたいなのが多かったと思うけど、今は「普通の人もちょっとした弾みで道を踏み外す」みたいなコワイことになっている。このシリーズは成長することが根底にあるので苦難を与えるために、よけいそういう色が濃いのかもしれないけど、爽香にはもっと明るく幸せでいて欲しいもんです。ずっと読んでるからつい肩入れしちゃって・・・。

恩田陸「PAZZLE」【2000/11/2】

廃墟と化した無人島で3人の変死体が発見される。そしてその謎に挑むために2人の検事(関根春・黒田志土)が島を訪れる。
タイトルのパズルをあらわす、1.piece 2.play 3.picture という構成で、1で謎を提示する記事が、2では検事二人の推理とかけひきが、そして3でついに真相が明らかにされる。その切り替えが見事。無人島の空気も印象深く描かれていて、舞ったホコリのイメージなど本当に見えるようだった。

若竹七海「クール・キャンデー」【2000/11/01】

葉崎が舞台という共通項で「ヴィラ・マグノリアの殺人」の姉妹編みたいなカンジ。
主人公が若い分青春ミステリー風味も強く読みやすい一冊。テンポよい一人称文章でストーリィがどんどん進む。葉崎シリーズに共通の最後のヒネリもきいている。真剣に読むミステリじゃないけど、力が抜けていてラク。


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