顧客の要求が変更された場合、すべて顧客からの文書で確認が必要か?

 日本ではこのような変更を余りにも気楽にしてくる企業が多い。特に、親企業が下請け企業に対して「あれをこう変えてくれ。」と直接下請け企業の製造現場にまで電話で要求してくることが当たり前になっている。納入日や時間などはほとんど毎日という企業も現役時代に経験した。大切なお客様の言うことだから、受ける方はほとんど無抵抗に受け入れざるを得ないのが実態だと思う。

 では、どのように対処するかであるが、簡単なメモを残すことでよい。メモには、顧客担当者名、変更内容のポイント、受けた人の氏名と日付時間を記入しておけば十分である。例えば、顧客から提供された図面の一部変更なら、その部分にこれらの項目を記入してサインでもしておけば完全である。これならば、小規模企業の業務実態に沿えるはずである。全く異なることではあるが、米国の研究所での体験を述べたい。新製品や新しい化学合成プロセスなどを開発を行う職場では、実際のテストは多くの実験担当者によって行われる。研究職員が実験室内で実験をすることは彼らの職務を奪うことになり、組合が絶対に許さない。そのかわり、彼らの実験結果にはかならず実験者名と日付時間が記入されている。このデータが特許などを取るときの証拠書類となるから非常に厳格に管理されている。このように証拠となる文書類は正確であると同時に作成者の責任を明確にしていなくてはならない。ISO9000の世界でも同じことが言えると理解して欲しかった。このような例を取り上げた背景である。

 高額な製品ならば、製品の納入時に顧客確認(たとえば、図面に承認印をもらう)をしておけば、後々の品質保証問題を回避できる。緊急注文で納期的に仕様書や図面を作成する時間もないことがあるが、その場合も、この手法で対処することを規定で定めるべきである。例外的扱いとし、承認者など手順を明確にしておけば、審査上ではなんら問題にならない。実際の体験だが、新製品を工場で作り始めることと最終仕様書づくりを同時並行で進めることはしばしばであった。顧客もISO9002認証取得工場であるのにもかかわらずこれである。このような慣行が大手をふっておこなわれているのが、日本での実態である。しかし、これも時代とともに変わるだろうとは期待しているが、顧客を含む営業部門の意識がISO9000の精神に基づくものに変わらないと無理だろうとやや悲観的な見方もしている。日本では、営業日報は書いても正式の顧客訪問報告書も作成されていないのが多いと聞く。報告書提出は営業業務の重要な責務だという時代に一日も早くならないと、ISO9000などの品質システムの効果的利用などは日本では絶望的であると思うこともある。この点は、経営の品質のページで理解を深めていただきたい。 <戻刻>

 

文書と記録の違いがよく分からない

   文書とは、業務をどのように行うかを書き下ろし、それを業務管理に使用するものであり、図面、手順書、指示書などの内部文書や法的規制、規格、仕様書などの外部文書が含まれる。一方、記録は、なんらかの活動の結果として生成されたものであり、その時点で存在した事実を述べたもので、改訂することはできない。また、文書は、どんなものでも発行される前に内容が使用目的に適しているかどうか、だれか適切な人によって確認され、承認されなけれねばならない。小規模企業ならば社長でもよいが、それより権限が委譲された適当な管理者でもなんら問題はない。

 文書管理には、廃止された文書は破棄することを要求しているが、法律上の理由や参考資料として保存しなくてはならないものは、当然のことだが、ISO9000の管理文書とは別に保存することはできるのは当然である。

 規格では、データについても言及しているが、ここでのデータとは、常識で理解できる製品名や顧客リスト以外に在庫情報も含まれるので注意したい。管理可能なデータとは、次のようなものである。

 ヲ 下請け企業のリストー名前、住所、電話などと共に購入する製品名
 ヲ 顧客リストー名前、住所、電話などと共に製品名
 ヲ 在庫情報ー在庫品名など

 これら管理可能なデータは、更新、改訂、再発行できる。一方、管理不可能なデータ、すなわち、記録としての性格を持つデータは改訂出来ない。たとえば、ある日の出荷数量は管理不可能なデータであり、変更できない。ただし、誤って記入した数量は訂正できるのは当然であるが、訂正者の名前と日付を訂正箇所に記入することが求められる。このような訂正方法は、検査結果にも当てはまる。このように、ISO9000品質システムでは、記録データは厳重な管理が求められる。特に、最近話題になっている企業の透明性の確保の観点からも記録としてのデータは正確であることはもちろん、不正があってはならない。<戻刻>

 

ISO 9000でいう顧客満足の測定にはどのような仕組みすればよいのか?

   ISO 9000の2000年の改正案では、顧客満足を測定する仕組みを要求している。すなわち、製品やサービスの購入者である顧客を対象とした顧客満足度調査を定期的に実施し、企業の業績との関連を明らかにする。この調査では、自社の製品品質はもちろん、納期、コスト、技術サービス、販売員や受注業務を行う従業員の顧客に対する応答・接客態度など多くの調査項目に配点してもらうのが一般的に行われる。この結果に基づいて競合他社と比較して自社の製品品質や業務の質がどの程度であるかを自己判定することができる。また、今は購入していただいてない将来顧客に対しても調査する必要がある。

 顧客満足度調査は、顧客要求の真意を認知するために単年度だけの結果では不十分で最低3年連続して調査する必要がある。初年度に判明した改善すべき事項に対して、自社が過去一年間実施した改善活動の結果を数値化できることが特徴で、ISO 9000でいう継続的改善を進め、その効果を測定できることになる。

 顧客から見た自社の業務活動がどの程度なのかを判断するレベルを以下のように分類することを提案したい。現状認識を明確にし、レベルを向上させるために、経営者は自社の有限な資源を適切に配分することが肝要となる。

    1.最低レベル     顧客仕様のみを満足させている製品を供給する。
  2.中位レベル     顧客仕様以外に、暗黙の期待(例、臭い、技術サービス、納期を
  きちんと守るなど)を満たしている。
  3.高位レベル     製品の改善点や新規用途などを顧客に対して積極的に提案し、顧客から
  高い信頼を得ている。

  4.最高位レベル
    顧客が「生涯顧客」となる。顧客は、パートナーとして供給者を
  取り扱うようになる。
 

 現行のISO 9000規格では、中位レベルぐらいを要求していると考えてよい。ただし、2000年版になると、さらに高くなり、高位レベルぐらいが目標となる。なお、参考のために海外の顧客満足の測定に使われている事例を添付した。英文だが、いかに簡素で要点だけを調べているかが理解できよう。

cs.doc(wordファイル)

cs2.doc(wordファイル)

cs3.doc(wordファイル)

cs5.doc(wordファイル)

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ISO 9000認証を取得すれば、営業面で有利になるか?

   ISO 9000品質システムの導入するに当って経営者として最も重視しなくてはならないのは、営業面での有利さであろう。親会社からの意向など他動的な要因によるISO 9000の認証取得の動きが見られるが、中小企業では営業業務の「質」を改善する必要性が高い。親会社を「お守り」することが主要な仕事と経営者も考え、情報収集の非効率やコスト意識の低さが目だつ。もしISO 9000品質システムをこの面を改善するための梃子(てこ)として用いるならば、企業業績に大きな貢献を果たすと信じている。その中身を明らかにするために、営業におけるISO 9000の導入前後の違いを以下に示す。

導入前 導入後
人そのものが要素になるので、生産現場のように不良率の低減活動のようなことはできない。 失注など営業活動上の不具合を不適合の発生ととらえ、事実に基づく分析が行われる。
結果のみのデータや情報が報告されるだけで、良い結果も悪い結果もそこに至るまでのプロセスが不明。 結果を生むプロセスのデータが残され、日常の仕事の仕組みの中で活用される。
売りさえすればよい。良いものをつくるのは工場。売れないのは品物が悪い。 営業の品質保証活動の積極的な分担を通じて、顧客の期待に答える品質づくりに貢献する。
営業成績の結果だけが問われ、良い結果になった「仕事のやり方」は闇の中。 良い結果は、「仕事のやり方」が必ずよいので、その事実を「標準化」でき、他の人も活用できる。
売れない理由を限り無く取り上げ、他責にすることが当たり前になっている。 品質や出荷関連を含むマーケティングをどうすればよいかを考え、積極的に提案する。
目標にしゃにむに取り組んで、忙しくて品質活動にはほとんど参加しない。 問題点を表面に出して営業の「質」を改善する意識が高い。
結果の悪さは、すべて御破算にして新規の計画にやにむに進む。 結果の悪さからやり方の悪さの解析が行われ、新規の計画に反映する。
販売量と売上げを重視し、利益を軽視、ないしは無視する。 量の確保に加えて顧客満足も仕事の結果ととらえる営業と利益を重視する。

 2000年版ISO 9000では、自社の業績も品質活動の結果ととらえる仕組みづくりが要求される。当然、上表のような営業活動の変革が行われなくてはならなくなる。


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