ELIZABETHTOWN〜エリザベスタウン

 試写会で観て来たのですが、キャメロン・クロウ監督で今をときめくオーランド・ブルーム主演の現代劇ということで、観る前から興味深かった作品です。


 主人公のドリューは、新しいスポーツシューズの開発プロジェクトに長年に渡って情熱を注いできたが、発売と同時に大量の返品商品となり会社に10億ドルもの大損失を与えてしまう。当然のことながら会社を解雇され、責任もすべて一人で背負うことになってしまう。一気にどん底に突き落とされたドリューは、自分の失態が世間に知れる前に自分の人生を終わらせてしまおうと決意するが、実家の妹から「父親が亡くなった」という連絡を受け途方に暮れる。父親は彼の生まれ故郷であるエリザベスタウンで倒れ亡くなった為、よそ者である母親はその地に行くことを拒み、ドリューがエリザベスタウンに父の遺体を引き取りに行くことになった。そして、その旅先で出会ったフライト・アテンダントのクレアとの奇妙な出会いや、エリザベスタウンに住む人々との交流を通して、ドリューは失いかけていた「何か」を取り戻しつつあった…。

 という話で、当初は「ラブコメ」と聞いていたんだけど、主人公ドリューの心の成長物語という感じの内容でした。会社を解雇され、そのことを家族に言えず、それどころか父の故郷まで父の亡骸を引き取りに行かなければなり、「自分の本当の感情」を抑えるハメになってしまったドリューが、不思議な女性クレアと出会うことで、少しずつ本来の自分というか、状況を素直に受け入れて本当の感情も表に出せるようになっていく姿がなんとも切なく微笑ましかった。


 簡単に言ってしまえば、「都会の生活に挫折した青年が、親の故郷で心の洗濯して自分を取り戻した」という話だけど、ドリューが出会う人々がみんな魅力的というか一癖も二癖もある人達で、そんな彼らに良いように振り回されているドリューの姿が見ていて面白い。その中でもクレアは、周囲に振り回されてフラフラになっているドリューを強引に連れ回して、逆に癒してあげる不思議な存在で、一歩間違えば「この女性、ストーカーちっくじゃないか?」て感じになるのを、とてもチャーミングな女性に感じたりする。これはキャメロン・クロウ・マジックかな。クレアの行動てかなり強引なところもあるんだけど、ドリューのことを心から想ってこその行動なので、ドリューにしてみれば非常に癒される部分も多くて、どんどんと惹かれていくのは自然の成り行き。墓地を散歩したり、街中を歩いていたり、お父さんの骨壷を選んだり、何気ない二人のデートシーンが本当にお似合いでキュンッ♪とくる光景だった。
 また、2人の他にスーザン・サランドン演じるドリューの母親の存在も光っていた。突然の夫の死に、じっとしていられなくなって突拍子も無い行動に出たりする姿は、突然愛する人を亡くしてしまった人なら誰もが理解できるんじゃないかな。それに、エリザベスタウンの人々から見れば、自分は「彼をエリザベスタウンから奪い去った女」でしかないことを承知していて、最初は自分からエリザベスタウンに行って亡骸を引き取る気はないと言っていた姿も切なかったし、意を決してエリザベスタウンの地に出向き、夫の追悼式で自分の本音を彼らの前で全て出して拍手喝采を浴びる姿にはジーンときてしまった。

 挫折を味わったことのある人、大切な人を失ったことがある人、帰りにくい故郷がある人には、たまらない作品なんじゃないかな。人によって、この作品から得る感動が全然違うものになると思います。


 ただね、登場人物が多くてそれぞれ個性豊かなせいか、物語がとても間延びして感は否めなかった。上映時間は2時間程度の作品なんだけど、「長いな」って感じてしまったもん。あと、音楽大好きキャメロン・クロウ監督だけあって、ふんだんにBGMが使われていて、場合によってはうるさいくらいに感じるほどで…(苦笑)。まぁ、そういう演出だった分、BGMが使われていないシーンは妙に緊張感があったりして、他の映画とはちょっと違う印象も受けましたけどね。それに、エルトン・ジョンの『父の銃』は、作品内容というかドリューの心情とマッチしていて、この曲が流れてきただけでグッときそうになってしまったし、本当に音楽が好きな映画監督なんだな〜と改めて感じました。
 音楽で思い出したけど、日本版のトレイラーでドリューが父親の骨壷と共に車で旅をするシーンで、泣きながら「父さん、もっと早く帰って来れば良かったね」て言うシーンがあって、かなりジーンときたんだけど、本編ではこのシーンに音楽が被さっていて台詞はない状態になっておりました。かな〜り意外。ま、日本人の感動のツボと、アメリカ人の感動のツボの違いなんでしょうけうけどね。聞きたかった台詞だっただけに少し残念。

 正直言って好みの作品ではないけれど(オーランドが出ていなければ観なかった可能性高し)、観終わった後に「ああ、観て良かったな」と思える作品でした。様々な出会いを通して、本当の自分というか「純粋な気持ち」を取り戻したドリューをとても羨ましく感じたし、温かい家族というか一族をすごく羨ましく感じました。
 ジャンル分けすると「ラブコメ」になるのかもしれないけど、個人的には親子で観ることをお薦めしたくなる作品です。




 …で、こっからミーハー語り

 主人公のドリューを演じたオーランド・ブルームは、歴史モノというかコスプレ作品が続いていたので、現代劇…等身大の青年の役というのは非常に新鮮でした。携帯電話がしょっ中出てくるんだけど、最初はオーランドが携帯電話を持っていることに違和感を覚えたほど(笑)。でも、本当に「フツーのアメリカ青年」を好演していました。特にクレアと携帯電話でオールナイト長電話しているシーンは微笑ましくて好き。いかにも「今時の若者」って感じが出てた。そういえば、オールナイト長電話の前に、ホテルの部屋に一人ぼっちで居るのが間が持たなくて、テレビを点けたらバイオレンス作品ばかり放送していて更に凹みモードになっちゃうのがツボに入ったわ。
 携帯電話といえば、「着メロ」て日本だけで流行しているもんだと思っていたので、ドリューの着信音が着メロになっていたのには驚いた。アメリカ映画で携帯電話が出て来ても普通の電子音ばかりだったから、「アメリカでも着メロって流行ってんだ」と意外に感じました。まぁ、クロウ監督なだけに、着信音にも拘りたかっただけなのかも。

 あと、オーランドって実際に父親(実際には血の繋がった父親ではなかったけど)を幼い頃に亡くしているせいか、陰のある雰囲気がはまる気がする。機内で父親のことを聞かれて固まってしまう表情や、父親の遺体と対面して最初は恐る恐る触ろうしていたり、灰になってしまった父親の骨壷を受け取った時とか、その骨壷にシートベルトを着けて一緒に旅に出て話しかけたりする横顔とか、ちょっとした時の表情がすごく切なくてグッときてしまった。
 そのせいなのか偶然なのか判らないけど、オーランドて親に死なれる役が多いよね。『パイレーツ・オブ・カリビアン』も、『TROY』も『KINGDOM OF HEAVEN』も、親が亡くなっているか死んでしまう役柄だよ。やっぱどこかに陰があるんだろうな〜。そうじゃなきゃ、私も好きにはならないはずだし。<私は陰のある人がタイプ♪(誰も聞いちゃいねーって!)


 ヒロインのクレアを演じたキルスティン・ダンストは、『エターナル・サンシャイン』に続いて、切ない雰囲気の女性だな〜と感じました。ドリューに対して強引な誘い方をしたり、一見自分勝手な女性ように感じるけど、実はドリューのことを心配していたり、優しい面がすっごくありました。だから、ドリューが会社での失敗を初めてクレアに告白した時も、「それだけ?」て何てこともないように言い返した姿には同性ながらキュンときてしまったなぁ。それに、ドリューから電話で「また電話してもいい?」て聞かれて、「やったぁ♪」て感じでバスタブに浸かりながらガッツポーズしている仕草は可愛かったな〜。あと、一夜を同じベットで共にした翌朝、帰り支度をしているクレアに全く気付かず爆睡しているドリューに対して、わざと音を立てたりベットを揺らしたりする仕草も可愛らしかった。
 子役時代から活躍しているからか、実年齢に比べて大人びている上にしっかりし過ぎてキツイ印象があったキルスティンだったけど、本当にこの作品では「可愛いっ!」て感じましたね。


 それから、先にも書いたけど、ドリューの母親を演じたスーザン・サランドンの存在感はさすがでした。この作品の中で、彼女に一番感情移入してしまったかも。「夫を誰よりも愛してきたし、そういう人生を誇りに思っているわ」って気持ちを、習い始めたタップで表現して、まさに体全体で自分の感情を表現して、自分を疎ましく思っていた夫の一族から賞賛を勝ち取る姿には本当にジーンときました。
 感想ではなくなるけど、実はこの作品の試写会は他の会場の分も当選していて、あいにく都合が付かなかったから友達に譲ったんだよね。そうしたら、その友達はお母様を鑑賞したそうで、離婚経験のあるお母様で自分の半生と被るものがあったらしくボロボロ泣いていて、「久しぶりに良い映画を観られた」と喜んでいて、私にちゃんとお礼を伝えておいて欲しいと言ってきたということを友達から聞き、「ああ、『エリザベスタウン』てそういう作品でもあるんだな」って感じました。




 脇役の登場人物のエピソードが多くて内容にまとまりが無かったり、判り難い部分もあったり(クレアの不倫話は本当なのか嘘なのかもよく判らなかった)、キャメロン・クロウ監督の気持ちが入り過ぎていて、若干着いて行き難い感じもあったけど、全体的に作品を通して観ると「家族団らんがあった懐かしい頃」を思い出させてくれるような、心温まる作品だと感じました。

 現代劇ではあるけど、どこか「古き良きアメリカ」というか、懐かしい雰囲気が満載なんですよ。アメリカというと「NY」や「L.A.」のイメージが強いけど、こういう土地柄の場所もアメリカにもあるんだって実感できましたね。時間が現実よりも少し遅く進んでいるようなほのぼのとした感じが全編に溢れていて、忙しさのあまり自分を見失いがちになってしまっている人には、ハッとさせられるような、懐かしいような印象を与える作品じゃないかと思います。


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