ETERNAL SUNSHINE OF THE SPOTLEES MIND〜エターナル・サンシャイン

 『マルコビッチの穴』で一躍注目の人となったチャーリー・カウフマンの脚本で、既に今年度のアカデミー賞で見事に脚本賞を受賞した作品です。個人的にアカデミー賞で脚本賞を獲った作品とは相性が良いので期待していましたし、大好きなジム・キャリー主演ということで、「絶対に劇場で観たい!」という作品の一つでした。

 話はさすがチャーリー・カウフマンだけあって単純なようで複雑。ジム・キャリー演じる主人公のジョエルはケンカ別れしてしまった恋人クレメンタイン(ケイト・ウィンスレット)と寄りを戻そうと、バレンタインの日にプレゼントを私に行くが、彼女が自分の記憶を消したと知りショックを受ける。しかも彼女には既に新しい恋人の存在もあり、「自分もクレメンタインとの記憶は全て消す!」と決意し彼女と同じ記憶除去手術を受けるが、現在から過去へと順に彼女との思い出が消されていく中で、素晴らしい思い出もあると再認識したジョエルは「やっぱり消さないで!」と取り止めを願うが止めることが出来ず…
 という感じです。要するに、ケンカ別れした直前とかの記憶はお互い嫌なものばかりなんだけど、出会った頃の思い出に遡るに従って当然のことながら良い思い出ばかりが出てきて、それが一つ一つ消されていくのを目の当たりにして、彼女との思い出を通して彼女の魅力を再認識していくんですよね。だから、「これ以上、彼女との記憶を消されてたまるか!」と自覚を持ったジョエルが、自分の記憶の過去と現在を行ったり来たりするので話が複雑になっていきます。ちょっと置いて行かれそうな感じになるけど、クレメンタインは髪の色をコロコロ変えてしまう性格なので、彼女の髪色で「時間」を確認できるというか、変な混乱は起きませんでした。それよりも、思っていた以上に淡々と物語が展開します。冒頭のジョエルとクレメンタインが出会うシーンなんて、インディーズ作品のような単調さがあり、一瞬「もしかして思っていたのと違うというか、つまらない作品かも?」なんて思ってしまったほど。だけど、裏を返せば演じているジムやケイトが本当に素朴な普通の人間を演じていたってことなんですよね。クレメンタインて美人だけど髪を奇抜ば色に変えたり癇癪持ちだったりと、かなり個性的なんだけど根は純粋だし孤独な女性で「実際にいるだろうな」と思わせるような女性でした。でも、ジムが記憶を消す手術を受けるシーンから、物語が一気に動き出して見応えがりました。思っていた程の派手な展開やオチはありませんでしたが、ほのぼのとした日常の中に超非常識な事が点在していて、そのバランス感覚が最高でした。

 実は冒頭の出会いのシーンは、お互い記憶を消した後の2度目の出会いだったんですけど、そのオチを知った時に何故が涙がジワリときてしまいました。その後に、2人はお互いがお互いの記憶を消していたことも知るんだけど、それも含めてお互いが好き!ってとこになるのは何ともいえないハッピーエンドでしたね。恋人の大っ嫌いなところも全部乗り越えちゃって、やっぱり好きなもんは好きなんだ!て結果に辿り着いたところが嬉しかったな。
 本当にお互いのことを愛していたら、例え記憶を消していたとしても再び出会って付き合ってしまうんだ…ていうのは、ちょっと少女マンガぽいけど、とても嬉しいラストでした。



 …で、ここからミーハー感想ですが、「どうしてジム・キャリーをアカデミー賞は無視し続けるのさ?」て思うくらい、普通の冴えない男を演じていたジムが最高でした。何か取り柄があるとかでもなく、どこにでもいそうな冴えない普通の男でした。だけど、クレメンタインとラブラブな時の彼は魅力的で、特に「彼女との記憶を消したくない!」と奮起している姿はすごくチャーミングでした。今まで出演してきたコメディ作品と違って、大袈裟な仕草で笑いを取るということは一切なく、自然な姿を演じていて「もっとジムを評価しろよ!」て強く思いましたね。

 クレメンタインを演じたケイトもとってもキュートで、青やらオレンジやら緑やら奇抜なヘアーカラーが何故か似合っていいたし、どちらかというと「お嬢様」的な役の印象が強い彼女の「ちょっと奇抜な女」の雰囲気がとても新鮮で、感情表現とかたまにズレているところすら「可愛いなぁ」て思えてしまいました。こういう役がこんなにも似合うというか板にはまるだなんて思ってもいなかったし、改めて彼女の魅力を再認識しました。ファッションも個性的で可愛かったもんっ。

 そして印象的な脇役を演じたのがイライジャ・ウッド。記憶を消す病院に助手として勤めている人間なんですが、なんとクレメンタインに一目惚れしちゃって下着を盗むわ、ジョエルの資料を利用して彼女に近づき恋人になろうとするわ、かなりのストーカーを演じています。むちゃくちゃ変態ぽいんですけど、「ゲッ!」とまで思わないのは、報われそうで報われない惨めな奴だからなんですよね。卑怯な手を使っていると、ある程度まではいいところまで行くけど成就しないってところが、逆に「ま、そんなもんさ」て思わせてくれるので、彼の存在を毛嫌いまではしなかったりします。むしろ、印象に残っちゃったりします。でも、こんな変態ちっくな役を演じたリジィて凄いよ!『LotR』とは全くの別人でした。もしかしたら、同一人物を気付かない人もいたかも。

 もう一人、印象に残る脇役は病院の受付嬢役だったキルスティン・ダンスト。普通の軽い女ぽい雰囲気を持ちながらも(ジョエルの家で勝手に飲み食いする非常識ぶりもあるけど)、実は医師に不倫の感情を持っちゃっていた…という女性で、彼女には「過去に医師との不倫関係に悩んで、その記憶を消した」という驚くべき過去が後半に発覚して本人と共に私もビックリ。意外に彼女がこの物語のキーマンだったのかもしれない。その割には地味だなと感じてしまったのは、クレメンタインの存在が大きかったからかな。でも、人生に満たされているようで実は幸薄い女性って感じで、ジョエルやクレメンタインよりも不幸に見えました。

 しかし、こう書いていくと配役が豪華な作品だよね〜。なんか得した気分♪



 ケンカ別れしてしまった恋人との思い出は辛いだけのようでも、実はその中に素敵な思い出もいっぱい詰まっている…ていうのは切ないですよね。だからこそ、完全にお互いの記憶を消しちゃうと、また自然と再会して付き合っちゃったりして、またケンカして…の繰り返しなのかもしれない。変な言い方だけど、ケンカ別れした恋人ほど素敵な思い出があったりするんだよね〜。でも、思い出したくもない!忘れたい!て思うのは、素晴らしい思い出と嫌な思い出とのギャップが激し過ぎるし、その両方の思い出を取っておけるほど心に余裕はない。でも、映画の世界はお互いの記憶を消しちゃうことで、心に余裕を持たせて再び出会っちゃうってパターンになっているんだよね。
 自分はケンカ別れの経験がないけど、ジョエルとクレメンタインがやり直せて羨ましいような、記憶を消してゼロからやり直すというのも辛いような、なんか複雑な気持ちを抱いてしまいました。ただハッピーエンドだと思えたのは、2人がお互いに素敵な笑顔を取り戻したからかな。


 


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