TROY〜トロイ

 先行ロードショーで観ましたが、あのホメロスの叙事詩『イリアス』を原作に壮大なスケールで再現された『トロイ』、時代背景とかしっかり把握しておくべきだと思い、それなりに『イリアス』の知識を入れてから観に行ったんですが、実際はその必要はありませんでした。むしろ、『イリアス』や『オデュッセイア』などの話を知らないで観た方が素直に観られたかもしれません。

 設定は、長年の戦いに疲れたギリシャのスパルタとトロイはお互い和平を結ぶことにしますが、その和平を結ぶ為にトロイのヘクトル王子とパリス王子がスパルタの元を赴いたものの、そこでスパルタの王妃へレンに一目惚れしてしまったパリス王子は、自分の立場も顧みずヘレンをトロイに連れ去ってしまいます。それを知って激怒したスパルタの王メネラオスは、兄でありギリシャ最大のミュケナイ王であるアガムメノンに協力を要請、兼ねてからトロイの利権が欲しかったアガメムノンはトロイ攻める絶好の口実が出来たと快諾、無敵の戦士アキレスをも呼び出し5万の軍隊をトロイに向けます。
 …というもので、この流れは『イリアス』のままなんですが、神話そのものだった『イリアス』と違って、『トロイ』に神々が実際に登場することなく、飽くまで信仰の対象に止まっています。その分、現実的な設定になっていたり、話の展開が『イリアス』と全然違ったり、下手に『イリアス』の知識がある人には戸惑う箇所も見えるかもしれません。個人的には、あの膨大な話を2時間43分によくまとめなと感動しました。話の展開も判り易いですからね。ただ、神々の存在を排除した分、「ここはもうちょっと現実的な説明が必要じゃ?」という箇所も所々ありましたが。

 この作品はブラット・ピット演じるアキレスが主役で、物語もアキレス中心に話が進んで行くんですが、トロイの王子ヘクトルの心理描写が非常に丁寧に描かれているので、トロイ側というかヘクトルに感情移入しやすい内容になっていると感じました…というより、私は思いっきりヘクトルに感情移入しました。無敵の戦士アキレスは、ブラピが6ヶ月かけて鍛え上げた身体だけあって、本当に惚れ惚れするほどの肉体美で、それを強調するかのように脱ぎまくっているんですが(この作品、明らかに女優陣より俳優陣の方が脱ぎまくっている)、性格描写が主役の割には、ちょっと粗いんじゃないかな…と感じてしまいましたね。アキレスの愛すべき従兄弟のパトロクロスとのやりとりとか、もう少し丁寧に描いて欲しかったような。あと、初めてアキレスが安らぎを覚えるプリセウスとのやり取りも、なんか唐突過ぎる気がした。むしろ、ショーン・ビーン演じるオデッセウスとアキレスのやり取りは非常に良くて、どれも印象に残るシーンでした。
 あと、この作品はオーランド演じるパリスとディアーヌ演じるヘレンの禁断の愛が戦争を引き起こすと、2人の愛をメインに謳っていますが、その割には2人の感情表現がちょっと薄い気がしてしまった。国を揺るがすほどの激情なのに、パリスは若気の至りで、ヘレンは篭の鳥状態だったスパルタから逃げたくてトロイに来てしまったような、そんな印象を受けてしまいました。2人がもっとお互いの愛情をぶつけていれば、2人の恋愛に感情移入できたのになぁ。むしろ、エリック・バナ演じるヘクトルとパリスの兄弟愛の描写が丁寧に描かれていて、パリスを想う余り正しい判断が下すことが出来ずに我が身を戦場に投じるヘクトルの姿や、自分の軽率な行動で兄をも失うことになって我が身の立場を痛感することになるパリスの成長ぶりの方が印象に残りました。
 そして、何といってもトロイ王のプリアモスの存在は大きい。さすが名優ピーター・オトールです。彼がアキレスの元へ、ヘクトルの亡骸を引き取り来たシーンは涙なしには見られなかった。アキレスとヘクトルの一騎打ちの激しいシーンと、アキレスとプリアモスの静かな語らいのシーンが、この作品の名場面だと思います。



 …で、ブラピよりもエリックに感情移入してしまった『トロイ』、アキレス寄りというよりヘクトル寄りでミーハー的な偏見感想行きます!(笑)

 まず冒頭からアキレスのオールヌードが登場しますが、そういうシーンを出したくなる監督の気持ちも理解できるくらいの肉体美。もともとギリシャ彫刻は男性の肉体美を表現したものだし、監督曰く「もっと男性の肉体美が評価されてもいいはずだ」とのことなので、この作品は男性の肉体美をかなり全面に出して来ている作品だと感じました。戦闘服だって、言ってみればミニスカートだしね。あの格好で笑いが起きずに、肉体の美しさに目を奪われるというのが凄い。
 初っ端から一騎打ちに圧勝して無敵の戦士ぶりを見せつけるアキレスですが、誰かに従うということは好きではなく、飽くまで自分の名誉の為に戦う殺人鬼。戦って歴史に名を残すということしか考えていません。その為、貪欲な支配者のアガメムノン王とは犬猿の仲で、その犬猿さを強調する為か、アガメムノン王の性格がステレオタイプの悪役になっていたのが少し残念。

 スパルタのメネラオス王は長年のトロイとの戦争を終わらせるべく、ヘクトルとパリスを和平の宴に招き入れます。最初、このキャストを知った時にエリックとオーリの兄弟というのはどうだろう?と思ったんですが、並んで映った2人の姿に、「おおっ、凄い兄弟ぽい!」と思ってしまいました。
 この時点でヘレンとパリスは惹かれ合っていて、隙あらば目配せしている2人。あまりにヘレンばかり見ていて、乾杯をすることに気付かずヘクトルにド突かれて慌てて立ち上がるパリスというやり取りがツボでした。ちょっとビックリしたのが、ヘレンとパリスが関係を持って既に1週間近く経っているという設定だったこと。どうせだったら、一目惚れした出会いシーンから見たかった。既に出来上がってしまっている設定のせいか、この2人の関係に感情移入し難かったな〜。けど、自分は篭の鳥状態で王にとってもお飾り同然だという自分の人生に悲嘆するヘレンに、このまま別れたら二度と会えないから君も一緒にトロイに行こう!と誘うパリスのシーンを見て、ただ美しいヘレンを連れて帰りたいってだけじゃなくて、こんな境地から救ってあげたいというパリスも思いも垣間見えました。まぁ、どっちにせよ若気の至りなんですが。

 パリスは帰りの船の中でヘクトルにヘレンを連れて来てしまったことを告白しますが、そのことを言う前に、「兄上は僕を愛していますか?僕のことを守ってくれますか?」て聞くんだよね。この台詞を聞いた時に、いかにパリスが甘やかされて育てられたかを痛感しましたよ。普通、成人男子がいくら兄弟だとはいえ、「僕を守ってくれる?」と聞かないでしょう。普通なら「僕と一緒に戦ってくれる?」と聞くもんだと思う。しかも、ここでヘクトルが「お前はそんなことを言うのは、10歳の時に父上の馬を盗んで以来だ…」ということを言ったので、『イリアス』とはだいぶ設定が違うんだと感じました。『イリアス』ではパリスて生まれた時に母親が国が滅びる夢を見たとかで(預言者に忠告されたんだっけ?)、不吉な子だからと森に捨てられてしまい、そのまま羊飼いに拾われて羊飼いとして育てられ、成長後に競技大会で優秀な腕を披露して息子として認知されるんだよね。それを考えると、10歳の時から兄弟のエピソードがあるってことは、『トロイ』のパリスは生まれてから捨てられることなく、生まれた時から大切過ぎるくらいに甘やかされて育ったんだな〜というのが判る。
 で、ヘレンを連れて来てしまったことを知ったヘクトルは激怒(当然)。「ヘレンを今すぐスパルタに送り返す」と言うヘクトルに、「それならば自分もスパルタへ行く」と言う始末。戦争を回避する為なら、パリスがスパルタに行って殺されようが2人をスパルタに送り返すというのが正しい決断だと思うんだけど、弟想いのヘクトルはそういう決断をすることが出来ず、ヘレンをトロイに連れて行くことを認めることに。なんせ、「(スパルタに行って自分が殺されることになるなら)自分もヘレンの為に戦う!」と強がるパリスに、「お前は人を殺したこともなければ、殺された所も見たことがないだろう!」と諭すヘクトルですからね。甘やかし過ぎだ。
 しかも、ヘレンを連れて帰って来てしまったパリスを父であるプリアモス王は、ヘクトル以上にアッサリ2人の仲を認めてしまいますからね。ヘクトルは、自分が弟の監視をしっかり出来なかったを父に謝り、ヘレンはスパルタに送り返すと言うんだけど、プリアモスは「そんなことをしたらパリスも着いて行ってしまうだろう」と言うんだから、兄以上に父親が溺愛しちゃっていたのかも。元々、パリスはギリシャとトロイの戦争の元凶とされていますが、その元凶を育ててしまったのはプリアモスとヘクトルだろう。寛大過ぎるな愛情が悲劇を呼んだということかな。

 でもって、パリスのヘレン略奪によってギリシャではトロイ攻撃への準備に入ります。最強の戦士アキレスの存在は不可欠だということになりまが、アガムメノン王とアキレスは犬猿の仲であるので、アキレスと仲が良いオデュッセウスが説得役に借り出されます。その2人のやり取りが非常にいいんだな〜。お互いがお互いを認めているだけに軽口を叩き合うんだけど、その会話の中にそれぞれ駆け引きがある。策士であるオデュッセウスはさり気なく従兄弟のパトロクロスをダシに使ったりして、アキレスを自分の意志で参加するように仕向けちゃうんだから。戦場では殺人鬼しか見えないアキレスも、パトロクロスやオデュッセウスの前では、一人の人間でいるので素直に感情移入できるのかも。オデュッセウスはアキレスとアガムメノンとの間に何か起きる度に、板ばさみ状態になって苦労の絶えない人なんだけど、唯一アキレスが本音を話す王でもあるので、彼がスクリーンに登場するとホッとしてしまう。もともと英雄なので、かなり魅力的なキャラクターになっているな〜と感じました。
 アキレスは母親に、この戦争に行くことでお前は死ぬことになるだろうけど行くべきだと予言され、意を決してトロイに向います。理由は、そこに最大の名誉があるから。この時代の戦士(男)は、歴史に自分の名誉を残すことに価値を見出していたので、死なんて恐れちゃいません。反対に女性は、愛する男には共に生きて欲しいと願います。そこが悲恋なんだよな〜…。ヘレンも、名誉の戦いにばかり赴くメネラオスよりも、自分と共に生きたいと願ったパリスの方が愛しいとパリスに告白する場面があったくらいだもんな。

 一千隻ものギリシャ軍がトロイの海岸に現れたのを前にして、ようやくパリスは自分がとんでもない事をしでかしたと自覚しはじめる(…遅っ)。アキレス率いるギリシャ軍に海岸を占拠され、「ギリシャ軍相手にどう戦うか?」と皆で会議をしている中、「戦争なんてする必要ない!僕がヘレンを賭けてメネラオスを一騎打ちをする」と宣言してしまう。しかし、一度も戦ったのないぼんぼんのパリスが、百戦錬磨のメネラオスと対等な戦いができるわけもなく、一騎打ち前からすっかり弱気。一方的に攻められ、遂には剣を喉元に突き立てられて半ば死を覚悟するパリスですが、戦士として育ってないので「名誉の死」を選ぶことが出来ず、恐怖の余り寸でのところで逃げ出してヘクトルの足に縋りついて怯えてしまう。パリスにとっては公衆に恥を晒し究極に情けないシーンですが、彼の性格を顕著に表す印象的なシーンでもありました。本当に口だけの女々しい王子なんですが、戦争を知らない人間の素直な行動だと感じたので、「情けない」とは呆れつつも嫌悪感までは抱けなかった。戦争を目の当たりにしたことがなければ、やっぱ死ぬ(殺される)のは怖いでしょう。しかも、そんな不甲斐無い弟をヘクトルは苦悩しつつも助けてしまいますからね。私がヘクトルなら、国を守る為にパリスを殺すという冷酷な決断をしますが、このヘクトルは国と同じくらい弟が大事なので、一騎打ちを放棄したパリスを殺そうとするメネラオスを逆に刺し殺してしまいます。メネラオスが殺されるということにも驚きましたが、あのヘクトルが一騎打ちのルールを無視してメネラオスを殺し、ギリシャにトロイを攻め込ませる理由を更に作ってしまったことになるんですからね。
 パリスとメネラオスの一騎打ちのシーンて、アキレスとヘクトルの一騎打ちとは全然違うものの見応えのある名場面の一つかも。それぞれの性格が顕著に表現されているしね。ここでちょっとツボなのが、馬から降りるヘクトルとパリスの動作が見事にシンクロしてるところ。ホントに兄弟な〜と。あと、ヘクトルに縋り付いて無様な姿を晒したパリスが、ヘクトルに助けられた後に危険を顧みず(ギリシャ軍が攻め込んで来ているというのに)父から授かったトロイの剣を取りに戻るシーン。自分に誇りや名誉なんて無いけれど、トロイの名誉や誇りは捨ててはいけない…て気持ちがパリスにもあるんだと、ちょっと垣間見られたシーンでした。根は素直で父や兄を心から敬愛しているからこそ、どんな無謀なことをしでかしてもプリアモスやヘクトルは許してしまうのかな…と、ちょっとだけ同情できました。
 しかし、この時のヘクトル、ムチャクチャカッコいい。威嚇してくるアガメムノンに臆することなく、堂々しているところもさすが王を継ぐ風格があったし、一騎打ち前に弱気になっているパリスを叱咤したり、トロイの指揮官としての強さとパリスの兄としての優しさの両方が見られた。とにかく怪我を負ったパリスを城内に戻し、兜を被り「For〜、TROY〜〜!」と叫んでトロイ軍を指揮する姿に惚れ惚れ。両軍が激しくぶつかり合う戦闘シーンは凄まじくて、正に手に汗握る攻防でした。ただ、みんな鎧姿なので、どっちかどっちか区別付きにくいというのが難点だよなぁ。

 ちなみに、アキレスは戦利品として得たトロイの姫であるプリセウスの勝気な所に惹かれ、大切にしようかと思った矢先にアガメムノンに横取りされたもんだから、怒って戦いに参加しなくなってしまっています。非常に大人気ない気もしないでもないですが、それだけ2人が仲が悪いってことですな。
 アガメムノンからプリセウスを連れ戻したアキレスが、彼女と心を通わせていくシーンは好きですね。アキレスが彼女の眠る姿を優しく見守るシーンがあるんですが、数少ないアキレスの優しさが出ている場面で印象に残りました。部下が呼びに来た時に、「静かに(起さないように)」てジェスチャーをするんですが、あんまりアキレスに感情移入できなかったけど、このシーンだけは特別だったな。

 しかし、この安らぎも束の間で。戦争を放棄したアキレスの代わりに、従兄弟のパトロクロスが彼の鎧を着て戦地に赴いてしまう。パトロクロスをアキレスだと思い込んだヘクトルは殺してしまい、それを知ったアキレスは激昂して再び狂気の殺人鬼に身を投じることに。
 そうして2人の一騎打ちに展開していくんですが、誤ってパトロクロスを殺してしまったことで、ヘクトルは自分とアキレスの一騎打ちは避けられないと予感し、妻にトロイが攻め込まれた時の逃げ道を教えておくというのは悲しい。ヘクトルには愛すべき妻子もして、民からも慕われているというのに、パリスの軽率な行動によって悲劇を辿ることになる。いくらでもその悲劇から回避できるチャンスはあったと思うのに、敢えてその道を選ばなかったのは弟への愛情故なんだろうな。だから、アキレスが一騎打ちを挑みに来た時も、パリスに「お前がトロイの王子だ」と彼の行く末をしっかり示してから行くんだよね。
 もう、アキレスとヘクトルの一騎打ちのシーンは、とにかく息詰まる攻防としか言いようのない迫力。トロイの人々が心配げに見守る中、戦いか繰り広げられていくんだけど、ヘクトルの死を覚悟した妻のアンドロマケの姿が痛々しくてな。そして、目の前でヘクトルを殺され、その亡骸を引き摺りながらアキレスに連れ去られて行く姿を呆然と見つめるパリスにプリアモス。マジにアキレスが憎いと思ってしまった…。一番いろんなものを一人で背負い込んでしまったヘクトルが、その背負ったものによって殺されてしまったという感じで、とにかく遣る瀬無い悲しさでいっぱいになった。

 そして、ヘクトルを殺した夜に、変装したプリアモス王がアキレスの元に訪れ、ヘクトルの亡骸を返してくれと懇願するシーンは涙なしには見られない。「(ヘクトルが)目を開けた時から、お前が閉じさせる瞬間まで愛していた」という台詞に涙ボロボロ。息子を想う父の愛情の強さに心打たれたのは観客だけではなく、アキレスもそのプリアモスの言葉に心を動かされ、誰もいない場所で傷つけたヘクトルの亡骸に涙を流します。「あの世で会おうぜ、兄弟」と言ってヘクトルの亡骸に別れを告げるアキレスも、自分の行く末を覚悟しているのを感じました。

 しかし、この作品の中で一番丁寧に心理描写がされていてヘクトルが居なくなってしまった後、物語の展開が一気に単調なものになっていったという感は否めません。パリスはヘクトル亡き後、彼の仇をとるべく弓矢の特訓をするようになるけど、そのシーンは一瞬だし。ギリシャ軍がオデュッセウスの案で「トロイの木馬」を作るという展開も、妙に単調というか強引な展開という気がしないでもない。
 ただ、ギリシャ軍が残した巨大な木馬をプリアモスは「神の贈物」と言って国迎い入れるんだけど、パリスだけは「燃やすべきだ」と反対するシーンと、木馬を前にお祭騒ぎする民を前して、「もう王子が死んだことを忘れている」て悔しげ言うシーンは、パリスがギリシャに対して強い憎悪を抱いていると感じる印象的なシーンだった。

 物語の終盤は、木馬からギリシャ兵がウヨウヨ出て来て一気にトロイ城内を攻め込むシーンに突入していくわけですが(これが、コンピュータウィルスの原点かとも思ってしまったり/笑)、兵士や民関係なく殺されて燃やされて行く姿は、今の戦争の残酷さそのままだと悲しくなってしまった。戦士同士の戦いは、それなりに誇りや義理があったのに、一旦国の中に攻め込んでしまうと、そういう秩序も無くなってしまう残酷さがあるんだね。
 で、アキレスも木馬の中にいて、トロイ城内にやって来た理由がプリゼウスを助ける為だったというのだから、ちょっと話的に強引じゃないか?と一気に感情移入できなくなってしまった。パリスはヘクトルの妻子とヘレンと最後の別れをすると、逃げてきた青年に父から授かったトロイの剣を授け、弓矢を持ってトロイで最後まで戦うことを決意。この時、ヘレンに「あの世かこの世か、必ず何処かでまた会える」と言って別れるパリスがちょっとだけ男らしく見えた。あと剣を青年に託す時も、プリアモスから授かった時の言葉をそもまま用いていて、やはりこの家族の絆の強さを痛感せずにはいられませんでした。
 そのままパリスはまだ逃げていないプリゼウスを探しながら戦んですが、そのプリゼウスはギリシャの兵から殺されそうになった所をアキレスに助けられていた所で、それを見たパリスはアキレスにプリゼウスが殺されると思って彼の踵に弓矢を射る。構え方がまんまレゴラスだな〜と思ってしまったのはしょうがないとして、プリゼウスが止めるのも聞かずにアキレスが倒れるまで矢を撃ち続けるパリスは、やはりアキレスが憎い兄の仇だからというのもあったんだろうな。それがアキレスにも判っていて、泣き縋るプリゼウスに「これでいいんだ」と言い残し、パリスと一緒に逃げるように諭し、彼女が逃げたのを見届けると息絶える…という死に方でした。

 ラストは非常に呆気ない終わり方だった。プリアモス王はアガメムノン王に呆気ないくらい殺されちゃうし、アガメムノン王もプリゼウスに正に悪役らしい殺され方をするし、両国の王の扱いがあんまりな気がしてしまった。それに、パリスの行く末が曖昧だったのも消化不良。プリゼウスと一緒に逃げたのか、プリゼウスを逃がした後に一人トロイに残って討たれたのか、サッパリ判らない。まぁ、トロイの剣を青年に託していたので、後者の可能性が高いと思うんだけど、それにしても、ヘクトルの葬儀以後の展開があまりにもアッサリ過ぎてしまったという感じが強いです。これは、自分があまりギリシャ軍(アキレス側)に感情移入出来なかったからかな?飽くまで物語はアキレスが主役なので、アキレスが死んだことで終わっていくのは当然なのかもしれないけど、う〜ん…。
 作品としては良いと思うんだけど、扱った内容の割には奥行きのない話というか展開だったなとラストで感じてしまった。ちょっと、勿体無い。微妙に2時間43分て長いんだな…て、終盤で感じてしまったからなぁ。ま、主要人物のほとんどが死んでしまい、まさにギリシャ悲劇なんですが、そんなに悲壮感が残らないのは、主役のアキレスが「望んだ死」を得ることが出来たからなのかもしれません。

 色々不満も書いてしまいましたが、ブラピ主演の作品の中では、かなり好きな作品です。これは建て前とかじゃなくてホント。だからこそ、ラストの展開がちょっと残念なのだ。



 これは、「愛によって戦争が引き起こされた悲劇」ですが、その愛はパリスとヘレンの禁断の愛だけではなく、ヘクトルとパリスの兄弟愛や、プリアモスが息子達を想う家族愛、アキレスがパトロクロスを想う家族愛、アキレスがプリゼウスを思う愛など、様々な愛が交錯した悲劇だと思います。その中でも、トロイの家族愛が非常に丁寧に描かれていたから、トロイに感情移入してしまったし、その家族愛が崩壊したと共に作品に魅力を感じなくなってしまったのかも。なんか、アキレスの人生を見るにしても、パリスとヘレンの愛を見るにしても、中途半端感が否めないんだよな〜。特にアキレスは主役であるんだから、もっと掘り下げて欲しかった。うう〜、残念でならない。

 あと、もう一つ、BGMが合ってない箇所が多いと感じてしまった。いつも、映画とか見ると「このBGMいいな♪」とか思って、すぐにサントラ盤に手を出すタイプなんだけど、今回は「この音、ちょっと煩わしいよ!」と思うシーンがあって、内容よりも音が変に気になってしまったのも残念なところ。ジェームス・ホーナぽくないサウンドだったよなぁ。

 先にも書いたけど、作品の中ではエリック演じるヘクトルが一番魅力的でした。次にショーン・ビーン演じるオデュッセウスかな。それぞれの会話や動作一つ一つに惹き込まれました。観る前に、恐らく一番嫌いなタイプになると思ったパリスも、ホントに情けない男だったけど、一途な想いはしっかりあったわけで嫌いにはなれなかった。むしろ、あんなダメダメな人間をオーリはよく演じたよね。
 男優陣に比べて出番の少ない女優陣も、ディアーヌ演じるヘレンは幸薄い美女を好演していたし、気の強いプリゼウスも非常にキュートでした。ただ、誰一人幸せになれなかったのが悲しい。愛するが故に悲劇を招くというのは、戦争とは愛で勝つことはできず破滅を呼ぶ冷酷なものだと突きつけられているような気がしないでもない。

 


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