新規格ISO9001の解釈と対応
4.2.2 品質マニュアル
品質マニュアルは、企業の経営システムの一部と位置づけることがまず重要である。ISO9000の認証取得のために作らなくてはならないからだという理由付けで作成したなら失敗するだろう。経営システムは、財務、人事、クオリティ、安全・衛生、環境、広報などいくつもの要素が複雑に組み合わされている。これらに一つ一つ別個のシステムを構築することも選択肢の一つだが、統合システムを作り上げるという将来を見通すことが肝要である。なぜなら、個別のシステムには必ず「なぜ」、「何を」、「いつ」、「誰が」、「どこで」、「いかに」を明らかにすることが必要であり、この点ですべてのシステムに共通している。規格の「序文 0.4 他のマネージメント・システムとの相応性」に述べられている文言は、この考えが反映されている。一つの統合された経営システムを意識しているし、すでにワールドクラスの企業ではそれに基づいて経営されている。
品質マニュアルには、規格の要求事項を満たしている品質マネージメント・システムを記述した内容がまず必要となる。しかし、規格の章だけなどを無視して自社の業務にふさわしい構成でよいことはすでに述べた。どの程度の詳細さで文章を作るかは規格はいっさいふれていない。自由に判断すればよいのだが、基本的な事柄のみを文章にするのだから規格の文章の3倍を越えることにないように心がけるべきである。「これだけは守ってほしい」という企業の意志が表現され、その手続きが明確にされていればよい。
さて、規格は以下の三つの要素を含めた品質マニュアルを作成することをもとめている。すなわち、
文書化された手順書以外はすでに述べた。新規格では、以下の六つの手順書を作成するよう要求している。
ここでいう「手順書」とは、いわゆる「手続き」であり「誰が」、「いつ」「何を」、「いかに」を取り決めている。これは専門的には「システムレベル」のprocedureであり品質マニュアルのレベルに相当する。したがって、品質マニュアルの中に記述することを推奨する。
品質マニュアルは、社内LANのサーバーに設置し誰でもいつでも見ることができるようにすれば最新版管理などは必要なくなる。特に、2000年版ISO9000では継続的改善を実施し品質マネージメント・システムの修正が1994年版より多くなるから一層その必要性が高い。ここで注意しなくてならないことは、現場などでは、品質マニュアルの写しを使うことが多くなり、最新版を使わない事故が発生しやすいことだ。そこで、コピーした日付を必ず記入させ、たとえば、「十日間を経過した場合には、有効ではない」というゴム印を押させることが事故防止策となる。当然ながら、有効な品質マニュアルはサーバーにあるものだけであるという決まりを品質マニュアルに記載することが必要になる。このような品質マニュアルの事例は、ここをクリックすれば見ることができる。自動リンク集にもある電気会社の事例がある。
5 経営者の責任
規格原文では組織の「Top management」という表現がなされているが、「組織における最高の地位にあって組織を指揮し、管理する一人の人もしくはグループ」であると定義されている。このトップマネージメントに対する要求事項が1994版に比べ一段と拡大された。まず品質マネージメント・システムの構築と実行に対してのコミットメントが求められ、リーダーシップの発揮と積極的な参画にもコミットすることが必要である。
さらに、トップマネージメントは、製品またはサービスに適用される法令並びに規制を理解しそれを満たすことの要求事項が明示されている。企業は顧客のニーズと期待を明らかにする必要もあるが、これは企業の直接的な顧客だけでなく企業を取り巻く利害関係者も含まれる。解説を続ける前に、いったいトップマネージメントが何を行わねばならないかをこの品質マニュアルの事例でまず確かめてほしい。
5.1 経営者のコミットメント
トップマネージメントは法令遵守、顧客要求の充足、品質方針の策定、品質目標の設定、マネージメントレビューの実施、必要な経営資源の提供に関してコミットメントを行う。コミットメントは「堅い決意表明」を意味し、何らかの方法でそれを行っていることが分かればよい。事例は、これらの要求を充たすべく品質マニュアルで表明している。あるいは、以下のような宣言文でもよい。
当社のプロセスを運営するに当たって顧客満足を最重要視し、以下のごとく経営者として強い意志表明を行う。
1) 法令・規制上の要求はもちろん顧客要求を満たすことがいかに重要であるかの社内認識を高める。
2) 神戸化学の品質方針を掲げ、全社的品質目標を作成し、継続的改善活動、社員意識調査の実施と社員育成計画を含む
目標達成のための品質計画を策定する。
3) 品質マネージメント・システムを構築し、その継続的改善に努める。
4) 経営者のレビュー会議を開催し、顧客満足の向上にために品質マネージメント・システムの強化・改善を行う。
5) 事業業績を向上させるための継続的なプロセス改善、および作業環境を含む経営資源の最適配分に努める。
6) 神戸化学の利益関係者である株主、社員、供給者および地域住民のニーズや期待に沿うよう行動する。