世界での取得状況と日本での現況はどうなっているか?

ISO事務局の最新情報(1998年11月)によってしても、下図に示したように世界での認証件数は1996年末時点しか分からない。モービル・オイル社が認証取得調査を始めたのは1993年で、その調査は1997年末にISO事務局に引き継がれた。その調査結果によると、全世界での認証取得件数は約16万3千件であり、日本では約7千3百件である。一方、英国を除くヨーロッパ諸国の件数は、約5万7千件であり、米国では約1万3千件で、日本の経済規模から比較すると日本の現状は著しく遅れている。  日本の約7千3百件は、オーストラリアのそれとと同等でいかに日本の政府当局が発足当時に認証の意義を軽んじていたか伺える。まことに興味があるのは、中国である。すでに3千4百件も取得済みで日本以上に努力していることがわかる。中国の製品の多くがヨーロッパに輸出されているので、認証取得は当然の成りゆきとも言える。しかし、日本企業の中には「ISO 9000品質システムが、体質に合わない」、「マニュアル化は柔軟性に欠ける」、「経済性が悪い」とか逡巡している間にアジア地区で急速な発展を示しているのも事実である。たとえば、シンガポールと台湾はともに約1千8百件で、香港でさえ約1千3百件になっている。

 上記調査報告では、興味のある数字を公表している。その一つは無効となった認証件数で、理由は不明であるが日本では33件の認証が無効となっている。また米国と中国では、それぞれ年間3千8百件、および2千9百件で年間取得数が日本と同様に急激に増加したことである。

規格の理解は難しいと聞いているが、本当か?

そもそもこの規格は英国生まれで、日本文化とは大きく異なる契約社会を背景に成立されたものだから、お互いの信頼を基本にした社会(悪くいえばなぁなぁの社会)で生きている日本人には理解しにくいかもしれない。契約は相手を信頼しないのではなく、文書でお互いの理解・結論を確認することなので誤解しないでほしい。さらに悪いことに、JIS化された規格は英文の原本から日本語に直訳されたもので、文化的背景を無視しているので一層理解しにくくなっているのは事実だ。監査員によって解釈が違うなどの批判が出たのもうなずける。しかし、最近は多くの出版図書があるので、規格を理解するには不便はないと思う。規格の中に記述されているKey Wordをおさえてシステムが構築・実施されていれば、認証取得には問題はない。しかし、取得だけの目的で社員をこの活動に加えるのはどうかと思う。やはり日本文化以外の社会でも通用する企業にしたいぐらいの目的意識があって取り組むべきとかんがえる。いずれにしろ、このホ-ムペ-ジの中小企業のISO9000が規格を理解するのに役立つ。ぜひ参考にしてほしい。<戻る>

日本に於ける中小企業の認証取得に関わる現状はどうなのか?

日経「情報ストラテジー」5月号に掲載された日本適合性認証協会のISO9000認証取得件数は、4000件以上である。ただし、注釈に記載されているように、実数件数は5200件を超えると推察されている。以下のグラフを参照されたい。一方、工業技術院の調査では、約6000件を突破しているとのこと。数字はともかく、製造業に限らず情報サービス産業、第一勧業銀行などの金融業界にまで取得範囲が広がっていることには注目すべきだろう。
以下に使用する資料は孫引きではある。モービル調査(英国、モービル石油社が定期的に行っている全世界での取得企業に関する調査で、唯一の信頼できる資料)によると日本での取得企業の伸びは下図のようになる。これから推測すると、日本での認証取得企業数は現在(1997年9月)では4千件を超えているのではないかと思われる。しかし、全世界各国に於ける取得企業数、十二万七千件であるのに対し、わずか3%に過ぎない。日本の製造業が占める世界での地位を考えると、日本でのISO9000の普及は遅れていることが理解できる。
さらに、中小企業庁の「製造業経営高度化調査」結果(下図)によると、中小企業のISO9000に対する取組みは必ずしも積極的であるとは言えない。ここで示されている数字を使って、中小企業の取得現状を計算してみる。上述したように、日本での取得企業数は4千件である。中小企業が取得している割合を20%とすると、800件となる。下図によると、「既に取得した」、「申請中」および「検討中」を現時点では取得を終わっているとすると、取得済み中小企業は全体の8%に過ぎないと言える。これは、全国では、約1500件の中小企業がすでに取得しているとなる。ただし、中小企業庁が調査対象にした中小企業の規模は不明だが、多分300名以下の企業となっているでは無いだろうか。「日本経営品質賞」での中小企業部門が300名だから、大体正しいと思う。とすると、100名以下の本当の小規模企業となると、ほんの小数の企業しか取得をしていないことになる。
さらに、下に示した二つの図を比べてみると、中小企業のISO9000取得への関心度は、親企業のそれと乖離している。すなわち、今後ISO9000取得を下請負業者の選別基準とする親企業は80%を占めるにもかかわらず、それを認識している中小企業は44%にしか過ぎない。ISO9000取得に対する危機感をいだいている中小企業の数が急上昇している現状を表わしているのではないだろうか。

最後に、そのような現状を如実に表わしていると思われる中小企業に対する通産省の支援事業がある。その事業計画の内容を以下に記載しておく。なお、通産省は、これ以外に中小企業を支援する種々の事業を計画しているので、内容を把握するのが得策かと思われる。詳細は、彼等のホームページに記載されているので、このホームページにあるリンク集を利用されるとよい。

ISO9000シリーズ認証取得支援指導事業

 経済の国際化の進展に伴い、国際的に確立した品質基準の充足が国際競争上重要と なり、取引相手から取引の継続や入札の条件として品質管理及び品質保証のための国 際規格(ISO9000シリーズ)の認証取得を求められるケースが増加している。 我が国でも大企業は積極的にISO9000シリーズの認証取得を行っているが、取 得のための作業が膨大かつ煩雑であること等のため、中小企業の認証取得が遅れてい る。中小企業が既存の取引相手との取引を継続し、あるいは、積極的に内外の新規取 引先を開拓していく上で、取引先選択の基準として多用されつつあるISO9000 シリーズの認証を取得することは重要であるが、必要以上に文書化を進める等の過剰 反応をしている例もある。このため、中小企業のISO9000シリーズ認証取得が 適切かつ合理的に行われるよう、専門家を派遣して実務面での対応を支援する事業を 実施する都道府県等に対して、必要な費用の一部について、国からの補助を行う。  なお、本事業が効果的・効率的に実施されるよう都道府県及び政令指定市が適当と 認める機関に事業を委託することも可能とする。<戻る>

品質システムI規格は改訂されると聞いているが、どうなるのか?

1999ー2000年に現在のISO9000が改訂される予定です。本来、ISO9000は5年毎に改訂すること決まっていた。現時点では、どうなるのかは明確にはわからないが、アメリカは、「マルコム・ボールドリッチ賞」のような、いまより厳しいが、すばらしい企業経営に役立つものを主張しています。日本も、日本型のISO規格を主張するようです。しかし、下記したことも、事実です。

「ISO9000ファミリーは精緻に作り上げられているが、標準が標準を生む形で、すでに標準が増殖をし始めており、使用者にとって理解しにくくなっている。そこで品質管理の命題に立ち戻って、品質管理の確立のために有効なものに絞り込む形で議論が 重ねられ、21世紀に向けた構想ができあがっている。それは整理された、すっきりした形である。」と。

いずれにしても、改訂されることとシステムの統合が容易になること以外は明確ではない。だから、中小企業に限って言うならば、ISO規格の体制作りを急ぎ、早く基本的な仕組みを体験して将来の変化に対応できる体質を作り上げることが肝要と指摘したい。<戻る>

本審査で認証取得が保留されたことがあるのか?

まだそのような事態になったケースがあると聞いたことはない。これは、当然のことである。理由を述べる。本審査が途中で中止されるのは、重大な(メジャー)な不適合が発見された場合だけである。この重大な不適合とは、次の三つだけである。すなわち、品質マニュアルが規格を満たしていない、実際には行われていない作業を品質マニュアルに無理矢理入れていた、そして校正が一度も行われていなかった。

まず、品質マニュアルは、本審査の約1ヶ月前にかならず審査機関に提出し、ISO9000の要求項目を満たしているかどうかが書類審査される。したがって、品質マニュアルが規格を満たしていない不適合は実際には起こり得ない。次に、最終検査を実際は行っていないのに、マニュアルに記載していたなどは真剣に取得活動をしている企業にはあり得ないことである。最後のケースも同じでISO9000を企業運営の仕組みとして取り入れると考えた経営者が一度も校正をしないで、本審査を受けるほど不誠実な人はいない。それに、校正をしていないならば、本審査のまえに行われる予備審査で、かならず指摘されるからこれもあり得ないことである。よって、本審査で認証発行を保留されるなどは考えられない。通常の手順で認証取得活動をしていたならば、認証はかならず取れると考えるのが正しい。1992年ごろに、ISO9000認証取得を果たした企業の中で、英国の認証機関によって審査を受けたケースがあるが、この時でも保留などは起こらなかった。小規模企業では、このような情報が入り難いと考えたので、ここで取り上げた。

話はすこし逸れるが、日経新聞の報道で感じたことを述べたい。東芝のすべての国内工場は、昨年の9月30日にISO14000認証を取得したのにもかかわらず、トリクロロエチレンが規定の100倍以上も検出された工場があり、認証を与えた審査機関が臨時の監査を考慮しているようである。この件でも、すぐ分かるが審査機関による審査は、よほどのことがないかぎり企業の実体を見つけることはできない。だから、いい加減でよいといっているのではなく、認証がとれない、あるいは無理と考える必要などないと強調したいだけである。どうも、日本の企業にとって監査だとか審査は、苦手をとうり超し、拒否反応を示す傾向が高い。どうか、安心してほしい。

安心材料をもう一つ示しておきましょう。ISOMS(ISO規格関連の月刊誌)の9月25日付け号に、審査員による監査内容の向上が求められていることが記載されている。その中での一文は、つぎのようなものである。

「該当商品の知識、技術、工程を知らないで有効な監査ができるだろうか。製品の品質から遊離した、ピント外れの重箱スミ・コメントはいただけない。よく「文書管理」と「計測器管理」が最も指摘の多い分野と言われている。供給者がこれらの管理を不得意としている事実もあろうが、ひょっとしたら、これは、監査員がその企業のシステムの中核である設計、技術、工程、試験検査を評価するだけの専門性を持ち合わせていないのかもしれない。こんなことで、審査がシステムの一般的な管理要素に偏るのは感心しない。筆者も、自分がウメボシ監査をできない分野を承知している。(途中省略) ウメボシ監査は、被監査側にとって建設的というより「破壊的」であるという声もあるが、被監査側の痛み(良性の痛み)を感じるほどの、ためになる監査を行ってみたい。」

(註:ウメボシ監査とは、重箱のスミをほじくるような監査ではなく、日の丸弁当の ウメボシのように監査を受ける側も重大な問題と気付かせる監査のこと。)

このお方は、たいへん良心的で、このような監査員に監査をしていただきたいと思うのは、わたしだけだろうか?<戻る>

品質システムと環境システムは別個に構築するのか?

 回答を先に述べておく。統合したシステムにできるように、ISO14000の規格はISO9000を下地にして策定されている。したがって、別々のシステムを作る必要などない。事実、ISO環境マネージメントシステムISO14001および環境監査ISO14010の国際会議日本代表として規格策定に携わった西島洋一氏は、次のように述べている。

「ISO9001とISO14001は経営システムとして統合的に活用されるべきであるという共通の認識が、ISO関係者の間では確認されている。そのためにISOの品質システムと環境システムの双方の委員会が協調し、統合化に向けて企業が運営しやすい標準上の配慮を行い、今後の改訂を進める準備が整いつつある。たとえば、1996年に発行されたISOの環境マネージメントシステムと環境監査の経営システムは、既存の品質システムISO9000とともに統合経営システムに効率的に組み込まれて、定着されることを目指している。」

これら二つのシステムが仕組みとしてはほとんど同じであることは、このホームページの中でも解説しているので、参照してほしい。さらに、考慮しておかなくてはならないことは、この二つのみでなく安全・衛生そして危機管理の体制を対象にしたISO規格の策定が進められていることである。中小企業にとって、これらをすべて別々のシステムとして運営するなどは不可能と言える。だから、別の項で述べているように、どちらでもよいので、一つのシステムをまず構築することが肝要と指摘しておきたい。
なお、このISO9000とISO14000を統合化したシステム作成の要領をページで公開したいと思っている。このページの一周年を記念にして開始したい。<戻る>

ISO9000の認証を取得するメリットは何か?

実務で 経験したことは次のようなことだった。”すべての仕事はプロセスによって達成される”との概念がISO9000にあるので、各部門の責任、即ち、やらねばならないことが明文化されなければならない。責任の文書化により、日本の会社で有りがちな部門間の曖昧さがなくなる。結果として、部門間の関係が良くなった。よくあることだが、仕事をしていると良くないと判っていることがある。これが、システムを構築している過程で、是正されるので精神面で楽になる。やはり一番の効果は顧客との関係が改善されることだ。顧客の要求事項を明確にすることから、品質システム構築が始まるので、当然のことかもしれない。顧客により不具合を指摘されたことはもちろん、社内で発生した不適合も報告され、管理する品質システムがかならず要求される。このシステムがはたらくと是正処置が実施されるので、仕事のやり方が日々改善される。ある本にISO9000規格は改善の手法ではないので、製品の品質レベルが向上するのでもなければ、企業の体質が改善されるわけでもないと書かれているが、規格どうりでなく、うまくつかえば改善に役立つと考える。

この章を終わる前に付け加えたいのは、ある雑誌の一文である。日本の品質管理の国際化が求められている。

 日本企業の技術力は極めて高い。優れた製品を作り出す力を持っている。ただ、それが明確になっていないのが弱点だ。優れた製品を作りだす規範なり基準が職人的な感覚で維持されているため、なかなか外部のものにはわかりにくい。それでも、国内で取り引きする場合はこと細かく品質管理体制を説明しなくても済むことが少なくない。これまでの実績を示し、あふれる情熱を理解してもらえれば受注につながるという美風がある。

しかし、国際社会では通用しない。ISO9000シリーズの認証を取得するということは、自社の品質保証体制を明確にするということであり、新規の取引先に対してスムーズに説明できる。それが信頼の獲得につながる。 (以下省略) <戻る>

デメリットはないのか?

ある。まず、取得・維持にコストがかかる。企業の規模によりコストは上下する が、30-50人の組織で取得時には最低150万円、6か月毎の定期監査に最低50万円かかる。これ以外に、マニュアル作成や維持、機器の外部校正、内部監査のための従業員の残業費用などの経費や人件費がかかるので財政的負担が大きい。そして、取得・維持のために品質管理責任者や文書管理担当者を新たに選任する必要がある場合が多い。たとえ現要員から選んだとしても仕事が増えることはまちがいない。したがって、品質管理や苦情処理にかかっていたコストをISO9000の取得により軽減できなければコスト増となることは確かだ。中小企業にとって大きな負担になるのに、親企業が取得を押し付けるようなことがあるようだが、親企業の適切な配慮が望まれる。

ISO9000の啓蒙をし始めてから、いろいろと分かってきたことは、ISO9000の理解が十分でないためによる非難があるようなので、ここで掲示しておきたい。すなわち、 ISO9000の取得にともなって書類の大量生産が起こってしまった。また、取得しても 製品品質がよくなった例がないと言うものもある。これらの批判についての反論を述べたい。

まず、書類の大量生産であるが、日本では、中堅企業以上の企業でのISO9000認証取得がまず始まった事実がある。これらの企業が文書化の段階で間違って不必要な文書まで手順書にしてしまったために発生した現象である。その根拠は、平成6年(1994年)に発刊された日刊工業新聞社の「ISO9000品質マニュアル作成ノウハウ集」を読めばすぐに理解できる。この本では、数社の文書体系と事例が掲載されているが、その中には文書体系が、最上位の品質マニュアルから最下位の品質記録までの段階が8層になっている。こんなに多層階を作成しなければ、ISO9000の認証が取得できないのだろうか。規格もしくは指針に戻って意見を述べる。ISO9004-1(品質管理および品質システムの要素:指針)の「5.3.1 品質方針および手順」では、つぎのような注意書きがされている。

「組織が品質システムのために採用したすべての要素、要求事項および規定は、方針書および手順書の形で、系統的に、秩序立てて、分かりやすく文書化する。しかしながら、文書化は適用に必要な範囲内に限定するよう留意する。」

上記の企業の文書体系は、明らかにこの指針から逸脱している。むしろ、ISO9000認証取得の機会に、従来からのばらばらの書類を体系化し、単純な文書体系を構築することがこのような中堅企業のとってのもう一つの目的にするべきであった。逆の例として、もといた会社の品質システムのことを許される範囲で述べる。ある化学製品の開発、製造および販売の事業を全世界的規模で行っている組織の品質システムは、わずか10センチの厚さの書類だけであった。日本でのISO9000先駆者達がこのような過度の文書化をやってしまった結果がこのような誤解を生んだものと考える。ISO9000事務局も中小企業では、極力文書類を減らし、 図解やフローチャートを使うように示唆している今日、上記したような批判は解消出来ると確信する。

つぎに、ISO9000は製品品質の改善にならないとの指摘に対する反論である。これもまたもや、ISO9000の理解が足りず、認証取得のみを目的にした企業の典型的な結果としか言いようがない。ISO9004-1(品質管理および品質システムの要素:指針)の「5.6 品質改善」を知らない経営者あるいは品質管理責任者の誤解による。品質改善に関してISO9000の要求はどうなっているのかを下記する。

「品質システムの実施にあたって、組織の経営管理者は、そのシステムによって継続的な品質改善が容易になり、また、促進されるようにする。」さらに、「品質改善とは、組織およびその顧客の双方にとっての利益が付加されるように、組織全体を通じて活動およびプロセスの有効性および効率を増すための活動をいう。」そして、この指針は、品質改善のための環境を作り出すために、経営者が努力しなくてはならない事項を指摘している。

 経営者の努力なしに、品質改善ができると思うほうが、よほどのお人好しである。ISO事務局の中小企業のための指針の冒頭でものべられているが、「ISO9000を取得すれば自動的に品質改善はできない」となっている。


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