ISO14000との関わり

ISO14000の理解のために

 ISO14000は、またもや英国規格BS7750を下地にして誕生したので、トップダウンのマネージメント・システムである。一連の規格を「環境管理・環境監査規格」の名のもとに昨年9月に国際標準として発行された。日本で正式に発効したのは昨年の10月だった。
 その後の日本での環境管理システムとしてのISO14000規格の普及だが、目をみはる早さで進んでいる。1997年9月末現在、日本でISO14000を取得した件数は425件と日経新聞(11月21日付け)が報じている。その業種別取得別状況は下図のとうりである。

同紙は次のように述べている。

欧州企業の一部は、取引先企業に取得状況を聞くケースもあり、輸出が多い電気機械業界がまず取得に動いた。最近では食品、日用品、住宅のほか金融、病院、サービスなどメーカー以外の業種の取得例も出てきた。企業イメージの向上、環境経営のアピールなどの手段としてISO14000は急速に浸透しつつある。

では、ISO規格の生みの親である欧州では、どうなっているのであろうか。ある雑誌の一文を紹介しよう。

 欧州では、9000と14000を合体させ、一つのシステムとして運用しようという動きが主流になっているという。
 二つの国際ルールは、これからの企業経営にとって重要なファクターになりそうである。

事実、大阪の認証機関は「品質と環境の同時審査」を広告している。もう、品質保証の規格ISO9000とか環境のISO14000との違いを云々するのは、時代遅れとしかいえない。せめて、中小企業の方々が余分な努力と経費を無駄使いすることのないことを祈っている。とはいえ、現状は区別して考えるのが主流らしいので、以下の解説をする。

 今や大企業のみならず多くの中小企業でもISO14000認証取得に向けた活動を開始していることは、その解説書の出版の勢いを見ればすぐに分かる。これからISO9000の認証取得を検討している中小企業の経営者にとって、ISO14000との関わりを十分理解していないと決断出来ないだけでなく、将来へ向けて敷設するマネージメント・システムの選択を誤るのではないかと不安になるほどISO14000の動きはわたしとって懸念材料の一つである。だが、これから説明するように、ISO9000とISO14000のいずれを選択するかは、企業のおかれている状況をすこし考えれば、それほど難しいこととは思えない。なぜなら、マネージメント・システムとして考えた場合には、これら二つのマネージメント・モデルは全く同じであるから、自分の企業がこれから2年ないし5年の間で達成しなくてはならないことが、品質なのか環境なのかを決めればすむことだからである。とは言うものの同業他社の動きも気になるのも否めない。決断にはやはり豊富な知識の基での両者の正確な理解が必要と考える。以下はその目的を果たすために役立てるものである。<戻る>

マネージメント・システムとしてのISO14000

 冒頭で説明したように、ISO14000のマネージメント・システムの骨格をISO9000のそれとを比べるとほとんど同じである。品質マネージメント・システムの説明に引用した同じ書籍で述べられている環境マネージメント・システムを品質システムの場合と同じ手法で以下に紹介する。だだし、システムの対象としては品質での「お客さま」ではなく、環境では利害関係を共有するのは地域社会となるので、以下を読む上で注意していただきたい。また、原文そのままを引用するのではなく理解しやすいように表現を変更していることは、品質の場合と同じである。

1。わたしどもは、企業活動を進めるに当たって地球環境をどれだけ汚染しているを
   十分に配慮しています。たとえば、環境に重大な影響をあたえているものがあ
  れば、それが何かを特定するだけでなく、客観的な数字で示します。この
  ような情報をいつでも明らかにできるシステムを構築しています。
2。わたしどもは、環境に関連するすべての法規を守ることはもちろん、地方自治体
  や近隣住民とも話し合いをして、両者で決まった約束事はかならず守っていま
  す。
3。もしも、環境に重大な影響を与えるものが特定されたら、それを低減する目標を
  たて現状をそのまま放置することなく、低減に向けて努力します。その低減目
  標を達成するために、どのような技術を採用するか、予算をどれだけ使う
  か、商売上の必要性があるかを検討します。また、実施に当たっては利害関
  係者の意見を取り入れます。
4。目標達成のためには、その実施のためのスケヂュールをたてます。スケヂュール
  には、だれが担当するか、どのような手法で、いつまでに低減させるかが具
  体的に決められています。新製品の開発プロジェクトなどに当たっては、
  満々環境に悪い影響があることを見逃さないために、開発スケヂュールは
  柔軟に対処できるように設定して、いつでも変更もできるようにいたしま
  す。
5。環境管理に関連する案件に対処するための社内体制を整えて、人物的資源を投
  入いたします。具体的には、経営者に直属する実施責任者を任命し、上記の低
  減目標を達成するために、機能面でも有効に働くようにこの責任者の意見を
  管理体制の中に取り入れて行きます。
6。汚染物質などの排出は厳重に管理いたします。そのために管理手順を文書化し
、 管理限界基準を定めます。わたしどものが購入する原材料も管理対象とし
  て、環境上重大な事態にならないないように厳重な管理をいたします。
7。汚染物質などの排出防止の管理は、正常な操業時だけでなく、緊急事態にも対応
  できるよう配慮いたします。とくに、緊急事態が実際に発生した場合は、その
  経験をもとに再発した場合を想定して対応手段を再構築いたします。
8。汚染物質などの排出量は、精度を高くして測定いたします。そのために測定機器
  は常に本来の精度を保つように管理いたします。測定結果は、管理限界基準と
  照らし合わせて定期的にチェックいたします。
9。汚染物質などの排出に関しては連絡が迅速に行われることがもっとも重要である
  と考えています。したがって、社内はもちろん、社外への、もしくは社外から
  の連絡が支障なく行われるように体制を整えます。
10。これまでの事項の実施にあたっては、後日になってもすべてが明確に分かるよ
   うに記録に残します。これらの記録によってわたしどもが行っている環境へ
   の真摯な姿勢を証明するつもりであります。とくに、従業員あるいはその
   他の要員に対して行った訓練記録と内部監査記録は厳重に保管いたします。
11。環境マネージメント・システムの文書化に当たっては、文書の所在、発す。
   行責任者を明確にするとともに、旧文書が不用意に使用されないように確実
   す。に廃棄するなど文書管理をいたします。
12。環境問題は一人ひとりの自覚が大切であると考えています。よって、教育・訓
   練を実施いたします。その際には、どの仕事にはどんな訓練が適切かを厳密
   に考慮して実施いたします。
13。万が一予期していた以上の排出が発生した場合は、再び繰り返さないように原
   因を追及して再発防止を図ります。再発防止に当たっては責任者を定めその
   権限を明確にいたします。
14。以上のすべてのプロセスが正常に運営されてか、従業員自らがお互いにチェッ
   クいたします。チェックのポイントは、このマネージメント・システムが計
   画どうり機能しているかであります。
15。このチェックの結果を定期的に経営トップに報告いたします。経営トップはこ
   れを受けて環境マネージメント・システムの不備を補います。
16。以上のマネージメント・システムを文書化いたします。
17。経営トップは、文書化された環境マネージメント・システムにしたがって、地
   球環境保全を目的とする方針を表明いたします。その目標は汚染物質などの
   削減であります。特に、法規制を遵守し、さらに継続的に改善することを
   コミットメントいたします。経営トップの環境方針は、必要な時には公表
   いたします。
18。経営トップは以上述べてきたようなマネージメント・システムを構築いたしま
   す。

ISO14000の要求項目は以上のとうりであるが、その概要をまとめると次のようになる。すなわち、経営者は、現状の環境への影響を把握して「環境方針」を公表しなければならない。さらに、この「環境方針」に基づいて、企業活動に関わる内外の状況に関する項目を詳細に検討し、環境目標と実行プログラムを作成する。このプログラムを確実に実行できるように、責任分担と権限、要員の訓練、情報伝達手段の整備、文書化と文書管理、日常管理などを明確にして環境管理活動を行う。環境管理活動の実施状況をチェックする項目、是正処置の項目、および環境監査の対象項目を明確にする。経営者は、継続的な改善を行うために、定期的に環境管理システムを見直す。

ここに出てきた用語でわかるように、いかにISO14000のマネージメント・システムがISO9000のそれと似通っているかを理解できたと思う。それを表しているのが、次の新聞報道だ。

「設計事務所最大手の日建設計は国際標準化機構(ISO)が定める品質管理と環境保全に関する認証を同時に取得した。設計事務所の認証取得は両規格とも初めて。同社は設計・工事監理の品質管理の仕組みに環境保全の要素を組み込み、環境に配慮した建築物の企画・提案を全社的に進める。産業界に環境に配慮した製品を購入する『グリーン調達』が広まってきたことに対応。認証取得の対象は東京本社の建築物の企画・設計・工事監理、完成後の付帯サービス。」

この事例で明らかなことは、ISO14000のシステムを別個に設けたのではなく、品質管理と環境保全を一つのシステムに仕上げている。ならば、両者はまったく同じと言えるのかというと、そうではない。以下にその相違点について述べる。<戻る>  

ISO9000との相違点

英語の「ステークホルダー」(株主、地域社会、顧客と社員のことを指すと単純に考えればよいと思う)および「アカンタビリティー」(新聞などでは、「説明をする責任」が一般的な表現となっている。正しいと思う。なぜなら、もとの会社では、「アカンタビリティー」を記入する欄がマネジャーの職務規定書にあった。何を定期的に上司に報告するかを明確にすること。)をキーワードとして二つのシステムを考察すれば、その相違点がくっきりと見えてくる。すまわち、ISO14000は、明らかに地域社会に対する「アカンタビリティー」に重点を置いたシステムであり、事業運営に関する透明性が求められている。一方、ISO9000は、地域社会を除く「ステークホルダー」に重点を置き、しかもこれらの「ステークホルダー」への「アカンタビリティー」に焦点が合わされている。この相違点を重大と見るかみないで意見は分かれると思うが、両者はお互いに補完しあう経営理念であると考える。とくに、日本の企業は、これらの概念を経営理念の中に早く取り入れて、新たな組織と構築し、事業運営を行わないと世界の中で孤児扱いにされるではないかとの懸念を持つのはわたし一人だろうか。

 上記のことを繰り返すところもあるが、別の表現で両者の違いを述べる。すなわち、ISO9000の主たる利害関係者は、製品やサービスの購入者、すなわちお客さまである。社内の従業員や下請負業者もそうであるが、この際は簡略したほうが理解しやすい。一方、ISO14000は地域社会が主たる利害関係者としている。さらに指摘するなら、ISO9000の目的は、製品やサービスの品質の維持・改善であるに対して、ISO14000は、環境に影響を与える負荷(汚染物質などの排出)の削減を目的とする事業運営である。したがって、負荷がゼロもしくは許容範囲になるまで継続的かつ段階的に続けなければならない。以上のような違いはあるが、両者の経営理念の本質そのものには大きな相違は無いことを結論としたい。

 話しは変わるが、あるISO14000に関する書籍に次のことが記載されていた。読んだときの驚きが大きかったので、あえてとりあげる。

「ISO9000を取り入れたら、作成しなければならない文書のボリュームは10倍になると思う。そんな大量のマニュアルをだれがよめるか?それこそ、忙しくてやってられないということになる。」

 では、著者にお尋ねしたい。ISO9000の取得のためには、そのように大量になることを実証する客観的な資料もしくは発言者の名前を提示または公表できますかと。このような意見を述べるには、よほどの確証があってのことと思う。さもなくは、つぎのようなことが生じたときには著者はどうするのかと思った。すなわち、だれかがこのコメントを信じてISO14000の取得活動に入って終い、後から間違いだったと分かった人がいた場合である。思うに、すべての事象を記録による実証をもって判断しなけれならないのがISOの世界である。よって、このような誤解を招きやすい言動をするような人が作成したシステムに認証を与えた監査機関の判定に強い疑問をもったことを述べてたい。

(ホームページ・オーナーの感想:著者は取得の功労者であるらしく、本の中でいかに長時間の残業をして、死ぬほどがんばってシステム作りをしたことを、くどくどと書いている。そんなことを他人に言えば、自分の無能さを明らかにしているとは思わなかったのだろうか。こんな本を買って損をしたと思った。少なくともお金を払う読者がいてこその本である認識すらこの著者は持ち合わせていないとしか思えない)

ながながとつまらないことを述べたが、わたしが伝えたかったメッセージはつぎのことである。 ISO14000もISO9000も文書化に関しては企業の組織、製品の多様性、および製造工程の複雑さが同じなら、システムの要求事項がほとんど同じであるから変わらないことである。少なくとも10倍にはならないことだけは確かである。

ISO14000のシステムには、法規制に対する遵守がある。これは苦労の種となる。なぜか?経営者の方が、自分の事業所に関わる法規制がどれだけあるかの質問に即答出来る人はまずいないと考えるからだ。私自信の話しをしてみましょう。定年が近くなったころではあるが、ISO16000(ISOの京都会議で規格化は延期された)をベースにして、研究所の安全・衛生管理に関するシステムを作成したときに分かったことは、小さな規模であるにもかかわらず遵守しなければならない法規制が想像以上に多かったことである。しかるに、ISO14000の場合、システムを作るためには、まず、取得対象の事業所に適応される法規制を整理し、すべてをクリアーしなければならない。ある監査員の話しでは、法規制の面で苦労される企業が多いのだそうだ。もし現時点でクリアーできていなければ、まづ、それを処理しなくてはならない。この点は、決断する材料に入れておくべきと考える。<戻る>


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