ISO9000のマネージメント・システム

マネージメント・システムの仕組み

冒頭での説明で、ISO9000は新しい経営理念であると述べている。なにが新しいのかを明らかにしたい。そこで、日本規格協会の「ISO安全・品質・環境早わかり」の中で使っているISO9000のマネージメント・システムの説明の仕方を真似ることにしたい。ISO9000の要求項目をならべ変えているだけだが、理解するうえでは役立つ。 取り上げられている事例は製造業であり、分かりやすくするためにさらに変更を加えた箇所もある。

1。わたしどもは、お客さまから仕事を受けるときには、仕事の内容の詳細を文書に
   して双方が誤解のないようにいたします。
2。設計部門に対し、お客さまの仕事の内容を忠実に作り出すように指示いたしま
   す。
3。設計したものを作るのには良い材料を購入します。
4。お客さまから支給された部品や材料についても、わたしどもが購入したものや製
   品の取扱いと同じ方法で管理いたします。
5。調達した資材や半製品、完成した製品などが不用意に混ざって出荷されないよう
   に、置き場所を別にいたします。
6。製品の制作に当たってはその工程を間違いのないように管理いたします。
7。その制作に当たっては、要所要所で確実に検査いたします。とくに出荷品につい
   ては責任をもって検査いたします。
8。検査方法としては抜き取り検査を行いますが、お客さまにご迷惑をかけないよう
   に、必要とあらば統計的品質管理の手法を用います。
9。その際、検査に使用する計測機器は誤動作のないように、基準器を用いて厳重に
   管理いたします。
10。検査に際しては、検査済み品が未検査品と混ざらないようにはっきり区別して
   管理いたします。
11。制作途中で不良品がでたならば、すぐだれにでも分かる方法で良品と区別いた
   します。
12。製品は保管や輸送時に品質を損なわれないように、お客様の指定した場所にお
   届けいたします。
13。製品のアフターサービスが必要なときには、仕事を受注したときにその旨を双
   方が確認し、サービス内容も具体的に決めます。
14。品質になんらかの問題が生じた時に対処できるように、品質にかかわる実施内
   容を記録として一定期間保存します。
15。以上の手順を文書にし、旧手順書が不用意に使用することのないように手元に
   たえず最新版を置くようにいたします。
16。作業の詳細を全部手順書にすることは現実的ではないので、書けない部分は代
   わりに作業者の能力を検定するなどでカバーいたします。
17。不良品がでたときには、再び出ないように原因を追求して再発防止策を決定
   し、直ちに実施いたします。

著者は、ここで次のことを述べている。すなわち、「ここまでは当り前のことではないか、そう思うひとが大半ではないでしょうか。確かに、ここまでは当り前のことを当り前にやってくれと言っているにすぎません。しかし、ここからが以下のようにちょっと違います。」と。ならば、なにが違うのかを明らかにする。

18。わたしどもは内部監査システムを取り入れて、実務担当者や現場担当者のとこ
   ろですべての記録を観察して、仕事を当り前のことを当り前にやっているか
   を調べます。内部監査と言えども、訓練を受けた社員が規則どうりに監査
   をおこなっています。
19。さらに、わたくしどもはこの監査結果を経営トップに報告し、品質保証システ
   ム自体に欠陥があると判断した場合には、その欠陥を排除するようにもっと
   もふさわしい管理職もしくは社員に対してトップ自らが実施命令を出しま
   す。
20。以上のシステムは文書化されています。
21。経営トップは、このシステムが期待どうりの結果を生みだすように、品質方針
   を打ち出し、具体的に実現できる品質目標を示し、その達成に対してコミッ
   トメントしています。そのために、システム内部の組織を明確にし、人的
   物的資源を投入し、トップの意を受けた責任者を任命して確実な実施を試
   みていています。

ISO9000の品質保証システムはトップダウンの経営理念であり、従来の日本の総合的品質管理とは異なることを理解できたと思う。では、このシステムが経営者にとってどのようなメリットがあるのだろうか?次にそれを述べる。<戻る>

情報技術の活用が容易になる

 この一年間、少数ではあるが中小企業の業務内容を知る機会が多かった。そこで気づかされたことは、情報技術とまで言わなくてもせめてパソコンの利用によって、業務の合理化を行っていないことだった。この点が納得できず話を進めていくと、なるほど出来ない理由が明確になってきた。それは、業務のプロセス分解が十分でなく、しかも業務と業務の接点が曖昧にしているからである。これらが明確でないと、ISO9000の仕組みを取り入れることには困難を伴うとともに、取り入れても形だけで実際の業務改善には結び付かない事になってしまいかねない。ISO9000の考え方は、人間である業務担当者が間違いを犯すことを前提に組み立てられている。だから、業務プロセスを明確にし、責任と権限を明確にしなさいと言っている。また、次の段階に業務を進めるに当たって、検証・承認が必要となるのもうなずけるあろう。このような仕組み作りは、コンピューター技術と馴染みやすい。なぜなら、計算しかできないコンピューターは、「曖昧さ」をまったく受け付けない。もっとも典型的なのが、論理関数である。それは真か偽しか判断しない。すなわち、曖昧な判断はできないのである。このように考えると、ISO9000の仕組み作りが出来上がると、コンピューターの利用が容易となるが理解できる。

さて、日経「情報ステラテジー」の今月号に、「ISO9000・ISO14000を情報技術で取得せよ」と威勢の良い題目が付いていたので、速読した。その感想を述べたい。ISO9000の文書を徹底的に電子化して業務改革をしなさいと言うのだが、品質システムのマニュアル類をディジタル化して、改正時の配布に伴う事務部門の負荷を減らそうというだけなのだから、笑ってしまった。それだけならよいが、「安田火災では、NECのひな形を基に短期間で規定類を作成した」ことを、情報技術利用の好例として取り上げているのには、いささか憤慨してしまった。それでは、認証取得のためのマニュアル作りが全てととらえてしまう誤解を読者に与えてしまうからだ。そもそもマニュアルや規定類は、業務に使う生きた文書でなければならないのに、ひな形にある文章を組み立てて作るなどはもってのほかである。そんな規定類を使って本当に業務が出来るのだろうか。出来たとしても、社員に快く受け入れられた規定であると思っているのだろうか。もっと大切なことは、今後実務担当者によって、マニュアルや規定類の改訂・改善を取り入れ、継続的改善をすることが求められているにもかかわらず、それを考慮していないかに受け取ったことである。正直言って、このようなことを知るにつけISO9000とかISO14000が最近一人歩きし始めていると感じる。まことに、おぞましいことではある。

 とは言え、「 情報ステラテジー」には有益な情報も含まれている。たとえば、キリンビールの事例である。ISO9000認証を取得する前と取得後の社員の一人ひとりの品質保証に対する意識が変わったことが報告されている。取得前の社員意識は、「品質保証の仕組みは、それなりに実施している」と言う漠然とした自信、もしくは自己満足を持っていた。しかし、品質保証のルールや手順に強制力が働きにくく、チェック体制に甘かったこと」も自己認識している。その結果、1995年、ビールに雑菌が入るという事故が発覚し、450万本近くを回収する事態が発生した。
 「社会的な信用を回復するには、きちんとした品質保証の仕組みを築き、その証しを世間に示さなければならなかった。これがISO9000の認証取得の方向に向かわせたとのことである。では、取得後の社員意識はどう変わったのだろうか。「世界基準に準拠した品質保証の仕組みを実施している」という根拠のある自信を持つことができ、厳格かつ一定の品質保証のしくみを維持出来たと同時に、ノウハウを属人的なものから組織のものに移った。しかも、一人ひとりの『やる気』や『誇り』につながった。」としている。

 品質管理は理解できても、品質保証との違いが十分に認識されていない方に時々遭遇することがある。このキリンビールのケースは、ISO9000の求めている品質保証の意味を理解する上で、たいへん役立つものである。また、理想的とも言えるISO9000のしくみによる社員意識改革の実例である。「ものづくり」は、人間の根元から生み出される無意識の行動であるといつも思っている。すなわち、人間誰でも「ものづくり」をしたい気持ちはもっているのだ。欠陥のあるものをつくって愉快な気持ちなる人がいるだろうか。みんな「いいもの」を創りたいと思っている。ならば、その無意識の状態を呼び覚まし、意識した「ものづくり」の行動に移すことが出来れば、かならず「よい」ものが出来上がると考えればどうだろうか。定年になってはじめて、こんなことに気づかされた。

 ISO9000の品質システムには、そのような作用が働く何かがあるように思う。何か品質問題が起こると、「犯人探し」が始まることはないだろうか。わたしは、何度も経験した。自社の営業マンが、お客様より厳しく個人追求をすることには参ったことがある。お客様の前で「この人が迂闊だったので、こんなことになってしまいました。まことに申しわけありません」と自社の営業マンが言う場面にあったことはありませんか。ISO9000では、品質問題が生じた場合には、かならず「不適合報告書」を作成し、組織の問題として取り扱い、問題解決のために経営者も絡めて「是正処置および予防処置」を実施しなければならない。そのとき、「ある社員のミス」として片づけるのは許されない。なぜ「ミス」が起こったかを探求し、その原因要因を取り除くことが求められている。簡単に個人の問題にすり替えることはできない。やはり、ISO9000の仕組みを導入すればなにかが変わるのではないだろうかと思う。キリンビールの件は、それを物語っている。 <戻る>

  経営者の受けるメリット

同じ本の著者はこう言っている。すなわち、「品質保証マネージメント・システムという自動車に乗って、品質方針というキーを回す。するとシステムのエンジンが始動する。マネージメント・レビュウというハンドルを切って品質保証という目的地に着く。まことに快適なドライブではありませんか。こんな便利なシステムを経営者が利用しない手はありません。」と。

わたしはこの著者ほど品質保証マネージメント・システムを楽観的に見てはいません。なぜなら、自動車には同乗者を乗せて運転する場合が多い。その同乗車がいろいろな話しをして運転者に暗示を与えるのです。たとえば、この道よりこちらの方が混雑が少ないなどがよい例である。まして、その同乗者がお客さまであった場合には、その指示に従わなければたいへんな目に会うことになる。だから、自動車は運転者の思いどう りには運転できないことがあることを言いたかったのだ。結果として目的地につくことが出来ないこともあると考えた方がよい。事実、ISO9000を導入したものの期待したほどの効果が上がらず形骸化している企業もあると承知している。では、わたしがどのように経営者の受けるメリットを考えているかというと、中小企業で一番顕著なのは、社会での信用が高まるのことである。ISO9000の取得は親会社のみならず社会一般に対する宣伝効果が高いと言える。たとえば、銀行の融資利子が他の中小企業のそれより安くなったなどである。この効果は、社内の従業員にも波及し、社員のモラールが高まったなどの現象が起こる。よく考えてみれば、当り前のことなのではないだろうか。従業員は経営者の考えていることには敏感で、どんな些細なことでも反応するものである。これは大企業とて同じで、まして中小企業では経営者が直接従業員と接触する機会の多いのであるから、このような面での多大な影響があることをすでに気付いていられる方が多いと思う。

経営者が受けるメリットはまだあるので、続けたい。<戻る>

顧客指向の社風を育てることが出来る

中小企業では、製品を自社で開発して独自の販売ルートを通して売るような企業は少なく、受注生産で事業を拡大してきた会社がほとんどだと思う。このような会社の製品は標準化がなされず、いつのまにか多品種少量生産となっているのではないだろうか。したがって、仕事は忙しいが、その割に製品原価は下がらず利益をだすのが難しくなっている。しかも、少量生産の運命として品質クレームが多くなる。経営者はこの現状を変革するなどはできないと諦めてしまうことも往々として有り得る。このような悪循環が起こると、真剣に品質改善に対して取り組もうする意欲が経営者に湧かなくなってきてしまう。こんな事態が中小企業だけに起こるのではなく、筆者が勤めていた会社でもこの状態に陥ったことがある。そうなると、顧客からの信用が無くなり、品質苦情の内容まで顧客は知らせなくなってしまう。これでは再発防止策はもちろん品質苦情に対する緊急避難策も出来ず、その商売を競合他社にみすみす移ってしまうのを悔しがったことも経験させられた。

「顧客満足」という言葉は多くの人によく知られているが、この経営理念とISO9000 のマネージメント・システムはよく似通ったところがある。規格の「不適合品の管理」や「マネージメント・レビュウ」にその同一性がよく表れている。「顧客満足」では、苦情処理システムに重きを置いている。すなわち、アメリカでの大規模な調査によると、苦情処理を適切に、しかも迅速に行った商品に対する消費者の再購入決定率が一番高いことを分析結果として報告しいる。

ここで,ISO9004で述べられている経営理念とISO9001の関係を明らかにしておきたい。すなわち、下図で理解できるように、品質保証システムが構築されていなければ認証取得は出来ない。一方、ISO9004に於ける品質に関する経営理念は、指針として示されているに過ぎない。とは言え、1999ー2000年に予定されている次期改訂は、このISO9004に基づく品質の経営理念が強く出されるとされている。しかも、顧客指向のシステムである。よって、ここで示されている経営理念をしっかり認識した上でのシステム構築が望まれる。

ISO9000の経営理念は、製品とサービスの質を測る尺度はお客さまがどの程度満足したかを判断基準としている。また、上述した「顧客満足」の基本理念もまったく同じで、「クオリティ」とは、「お客の満足を満たすこと、満たしたもの」と定義している。ここでは、「もの」とサービスの満足度はお客さまが決めるものであって、「もの」とサービスの提供者側で決めるものではないとしている。これら、二つの理念は「顧客指向のマネージメント・システム」の観点からはまったく同様である。そこで確認のために、前述した品質保証マネージメント・システムをもう一度読み直していただきたい。いかにISO9000は顧客指向のシステムになっているかが再確認できると思う。さらに、品質保証マネージメント・システムと「顧客満足」でのお客様の定義は、外部のお客さまだけでなく、会社の内部にいる人達、すなわち、社員もお客さまとしていることも同じである。総合的品質管理でよく使われる「次工程はお客さま」の考えとまったく同じである。すなわち、従業員が仕事をする際に、次の人に迷惑をかけないようにまず自分の仕事を完全な「もの」にしてから次の担当者に渡す。これが順番につぎつぎと連続的に行われると、仕事の質をチェックしなくても完全な品質の「もの」とサービスが最終品となって生まれてくるとの考え方である。

この節を終わるまえに、もう一つ書き加えたい。それは経営の「品質」に関してである。この「経営品質」というシステムが日本でも取り上げられてきている。このシステムはアメリカでの「マルコム・ボルトリッジ賞」の経営理念そのものである。ある人いわく、アメリカは、多くの企業がこの理念をとりえれることによって産業の立て直しが出来たのだと。「マルコム・ボルトリッジ賞」に関しては、私個人として関心を持たざるをえない。なぜならば、在職中に管理職を対象にして導入指導をはかったことがあることが一つ。この「マルコム・ボルトリッジ賞」を詳しく研究している友人の一人であるアメリカ人が品質に関する専門誌に掲載した記事を日本語にしてホームページに掲載することを承諾してくれているからだ。日本においても「日本経営品質賞」として昨年導入されて、真剣にこの理念を実施する企業が出てきている。そこで、このメネージメント・システムに関しては別途ホームページに掲載するつもりでいる。この理念は顧客指向そのもののであり、ISO9000の導入が終わり、さらに品質活動による企業体質の向上をはかるために非常に役立つものである。しかし、内容が非常に深いので、この節では、ある書籍に記載されているISO9000と「日本経営品質賞」の関係をのべている一文を下に引用するにとどめたい。

「この数年、ISO9000に対する認証取得が日本国内においても急増している。上に述べた課題を克服する手段の一つとして有効なものであろうとされているISO9000、即ち、品質保証の国際規格は、いわば顧客の要求を規格という形で表わしたものであり、顧客からトップ・ダウンで求められた品質保証のやり方ということができる。したがって、この規格を満たし、認証を得るということは、顧客の要求するものをみたすことになり、且つ、規格として具体的に明示されたものであるから当然そこには透明性が確保されることになる。また更に、共通の基準(規格)に基づいていることから品質保証に対する万国共通の考え方ができ上がることで非常に分かりやすい世界になると言える。いずれにせよISO9000に基づく品質保証体制の確保、そして、このもとでの標準化の推進も考慮される必要は大であり日本経営品質賞の求めるところである。」 <戻る>

甘い体質の改善

 日本のバブル経済が華やかなりし時には、海外で生活していた。アメリカでの2年半の間に多くの日本人訪問者のお世話をさせていただいたが、その人達の話しの中でどうしても納得できなかったことがあった。それは日本は経済的にも技術的にももうアメリカから教わることはなく、今後は日本が世界の経済と技術を制するのだと言っていたことだ。あまりにもアメリカの本当の力と企業の底力を理解していないとしか思えなかった。あれから数年を隔てた今日でも、日本人はそう思っているのだろうか。そうとは思えない。むしろ日本はいま自信を失っているとしか思えない。この件はさておき、バブル経済時代の体質がいまだに日本の企業に残っていることは、最近の銀行や証券会社の不祥事を聞けば否定できないと思う。そして、いまやっと人々の意識の中に芽生えてきているのは、中小企業を含む日本企業の体質がいかに甘いものであったかではないだろうか。

 甘い体質に気付いた経営者は、何らかの方法で軌道修正をしなくてはならないとの意識をもってその実行を始めている。それが今日、年俸制賃金ヤリストラとして表に出てきている。さらにひょっとすると、ISO9000やISO14000の取得ブームとなっている背景でもなかろうかとも下衆の勘繰りをしている。いずれにしろ、軌道修正の方法は各社ともいろいろと違うとしても、日本の経営者の中には、ISO9000があると知って認証取得を決断した人がいないとは思えない。しかも、トップダウンによるシステムだから余計に都合がよいと気付いた人もいるだろう。まったくそのとうりで、甘い体質の企業にはまことに便利な経営手段と成りうるシステムである。経営者がマネージメント・レビュウでは、主たる管理職や品質管理責任者から管理目標の達成度の報告を受け、その上で自分の企業とっての問題点を自ら明確に指摘しなければならない。しかも、その問題点の改善を管理職や品質管理責任者に期日を決めて実施の命令を出さねばならないのだからだ。こんな便利な武器が経営者に与えられたのがISO9000だと考えても決して間違いではない。ならばもう、取得するしかないとなっているのが今日このころではないかと思っている。 <戻る>

標準化が苦手の日本

 「世界標準」と言う言葉が新聞広告や書籍など至るところで最近盛んに使われている。そのことが気にはなっていていたが、はやり言葉として何となく使われているのではないようだ。TQCが普及したにもかかわらず日本企業は「標準化」が苦手なのだと知ったのは、「世界標準で企業がよみがえる」(西島 洋一著)を読んだ時だ。また、これから紹介する文章は、常々私がいろいろな方に話をしている内容にほとんど同じだ分かった。そして、「世の中には同じ考え方をもっている方もいるのだなー。」と感嘆した。

「ISO経営システムを社内に取り入れるに当たって考えておかねばならないのは、「標準化」がまだ日本に十分根付いていないということであろう。ISO経営システムは、その発想が西欧的な経営手法であり、従来の日本の流儀とは異なる。明治維新以来日本は欧米から一斉に技術や制度を導入したが、筆者の理解では、欧米的な思考方法や論理的組み立て方は学ばなかった。日本的思考方法の典型である腹芸は、国際的に通用しない。」  「日本では論理性のある言動が必ずしも歓迎されない気風がある。ディベートをやれば感情的になり喧嘩になってしまう。論理的で実務的に処置されるべき内容に対しても、情緒的であり、はっきりさせない風習がある。『堅いことを言うな』とか『まあまあ』で議論を打ち切り、曖昧なまま放置し、あとあとまで問題を残すことが多い。その辺りを指して、日本は不可解だと言われるのである。」

 「標準化は、趣旨、目的、対象範囲、用語の定義、構成をどうするかに始まる。日本になかなかなじみにくい監査の概念も含まれている。国際標準ではこれらの問題が全面に出てくるから、書かれている内容を理解し、実施するには、相当の努力を要する。21世紀のボーダレス化の社会においては、この国際標準化に対する消化能力と創造能力いかんに、国、産業および企業の競争力がかかっていると言えよう。ISO経営システムをどれぐらい受け入れたかが、国際化が進んでいるかどうかの尺度と考えることができるだろう。21世紀の新しい時代に合致した形に、従来の日本の流儀を衣替えする必要があるのである。」  「ところで、ISOはみんながやるからやる、認証だけを取っておけば事足れりとする、お茶を濁すかたちに終わっている場合が多いように聞く。しかし、それでは中途半端であり経営システム革新には至らず、むしろ経営資源の浪費になってしまうおそれがある。いずれも最初は難問奇問の類として映るかもしれない。しかし、品質・環境・安全の各経営システム整備は、経営システム全体の見直しに連携し、これをうまく成し遂げるか否かは企業経営の存続に係わる問題なのである。」

 西島氏の論点からは、ISO経営システムを取り入れれば企業の安泰に繋がるような意味合いにもとれるが、私は、そうではないと考える。ISO経営システムは、欧米風合理性を日本企業が取り入れるための単なる第一歩にしかないとするが私の主張である。欧米流儀の経営手法は、「日本経営品質賞」のフレームワークを実践するしかない。とは言え、従来の日本式経営から180度回転させるには、困難が伴う。そのことを一番認識しているのは、政府の関係者と世界に市場を求める大企業である。事実、通産省や建設省など日本政府機関の施策をみれば、日本企業の体質を世界標準に対応させるために、「欧米風経営システムを取り入れるには、ISO規格から入りなさい」と言っている風に見える。先週訪れた会社社長は、「黒船が来たようなものだ。」と語っていた。<戻る>

標準化とアウトソーシング

 最近日本では業務を外部に委託するアウトソーシングが大はやりで、遅れてはならじと、アウトソーシングできる業務はないかと真剣に考える経営者が多いと聞く。ところが、自社の業務を社員に任せきっりだから、どの業務がどのように進められているを知らない経営者は、何をアウトソーシングできるかの判断に苦しむことになる。そんな背景があるからかアウトソーシングを目論んでISO 9000品質システムの導入を考える経営者もいる。品質システムは、業務の文書化、すなわち「マニュアル化」ができるからと言うのが彼らのロジックである。確かに、業務の文書化によって仕事のバラツキを低減できることはあるだろうが、ISO 9000規格が求めている本来の意図では決してない。端的に言えば、「文書化」は「標準化」と同位であるとの誤解である。ISO 9000では、業務を標準化しなさいという要求は一切されていない。ではなく、企業業務全体を一つのシステムとしてとらえ、システム全体を過不足なく運営する経営者の責任を問うだけである。

 とはいえアウトソーシングの利用を決して否定するのではなく、むしろ積極的に行うことを推奨したい。しかし、その目的は、標準化とアウトソーシングの関係とは全く異なる。すなわち、外部資源(アウトソーシング)を活用し、組織の変革と同時に、従業員の従来型意識を変える力を得ることを目標とすることである。ここ数年で明確になってきたことは、過去の経験だけでは判断できない事象が起こっている。それは情報伝達である。企業情報を大きな資産として社内にかかえれば利益につながった時代は終焉しつつある。今日までえんえんと築いてきた企業内情報やノウハウは、あっと言う間に陳腐化してしまうのが今日である。といって、また新しく自社内要員によってのみで情報・ノウハウを蓄えたり、収集するには時間がかかりすぎる。だから、外部資源の利用が重要となる。特に、企業のしくみそのものを変革・評価することは、社内要員では不十分だ。ISO規格に定められた第三者監査は、企業全体の経営システムを診断する有効な手段である。これもアウトソーシングと言える。自己判断だけで「うちではこうだ。」という時代は終わったと言いたい。<戻る>

宣伝広告のためになる

同業他社に差をつけて、自社の製品をお客さまに買ってもらうためには、中小企業と言えども製品品質をよくするだけでなく、知名度やイメージを高めようとなんらかの方法を講じている。ISO9000認証の取得は顧客からの信用度を高くすることは誰にでも理解出来ると思う。それだけではなく、ISO9000の認証を取得すると銀行からの融資が受けやすくなったとか、低い金利で融資してくれたなどはよく聞くことである。しかも、取得会社ともなれば、外部から見学したいとの依頼も出てくる。地域によっては、市役所や県庁からの訪問者もありうる。こうなると、一気に社会的な知名度を高めることに成功したことなり、従業員のモラールも向上させることもできる。ただこれだけのために取得することは、あとで後悔することになる。なぜなら、取得後大体6ヵ月ごとに監査機関による定期監査があり、あまりにも実施状況がわるければ、認証はキャンセルされる仕組みがあるからだ。<戻る>

全員参加の意識向上に役立つ

中小企業の経営者には、多くの苦労を経て今日の会社にしたという意識を強く出し、全員を掌握しようする人がいる。昔の苦労をしっている従業員は理解し、指示に従うかもしれないが、そんなことを知らない従業員はそっぽを向かないともかぎらない。このような従業員に愛社精神を植え付けるのに便利な仕組みがISO9000にある。それは冒頭に述べた教育の重要性を打ち出していることである。このシステムは、手順書でなにもかも縛るのではなく、教育によって仕事の仕方を従業員に教え、十分な能力や技能を身につけた人に資格認定をあたえることができるとしている。この資格認定は特殊工程に従事する人に与えるのが通常だが、この手段を上手に使うのが得策である。何故なら、規格では、特殊工程に従事する人以外に与えてはならないとは決して言っていないからだ。しかも、この制度を上手に作ると、作業工程の手順書も作らなくてもよいケースも考えられる。最低でも、簡単な手順書を作成して、資格認定をしておけば、普通の常識をもっている監査員は適合であると判断してくれる。

このことでいつも感じることを述べたい。それは、日本の経営者はもっと従業員を上手にほめる方法を学ぶべきだと思う。ほんのつまらないことでも立派な表彰状やトロフィーを従業員に贈与して、その功を労うことをしているのを経験したのは、アメリカの研究所とシンガポール工場に勤務していたときである。特に、現場での作業員は、このように表彰してもらうと仕事への愛着心を強める効果は大きいと知った。だから、わずかな費用で効果的な表彰制度をぜひ採用されることを推奨する。たとえば、ISO9000認証取得を記念にして、仕事の品質改善に大きな貢献をした従業員に「ISO9000賞」で褒章するでもいいではないか。いくらでも考えられることである。これはぜひ実践していただきたい。<戻る>

スムースな世代交替に役立つ

後継者へのバトンタッチが中小企業での一つの問題であることは前述した。これまでに幾度もISO9000はトップダウンで進めて行くシステムだと説明してきた。この特徴を上手に運用すれば、スムースな世代交替に役立つとするのがこの一文であるが、やや強引な理屈とも自分自身で思えるところがあるので、もし反論があればおしらせ願いたい。

経営者が交替するときには、どうしても社員の間で今までの仕事がどう変化するのかが最大の関心事となる。この懸念は、私自身が上司が交替する度に実際に体験してきたことなので、まず間違いないと思う。とすると、従業員の不安をすこしでも少なくする手段を考えなくてはならないことになる。そこでISO9000のシステムが導入されていれば、すべての業務が文書化されているので、仕事の仕方は少なくとも大きな変化は無いと暗黙のシグナルを従業員に伝えられる。しかも、ISO9000の導入により経営者のリーダーシップを社員の前で明確に発揮しなければならない場面が多くなり、そのような機会に品質保証システムは変わらないと説明することにより従業員の不安を少しでも和らげることができるのではないかと思っている。本当にそうなのかは実際に体験したことがないので、自信はない。このような利用はあまり推薦できないこと述べておく。<戻る>


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