約20年ほど前のことだが、シンガポールで管理者の会議があった。その時に経営トップがわれわれに強調したことは、これからの事業経営は目先の利益を追及することだけではだめで、「持続可能な成長(sustainable growth)」を目指す経営(managing)が必要になることだった。それ以降、販売量や販売シェアーの拡大だけが重要な目標ではなくなった。そして顧客の満足度向上、社員の満足感の向上、地域社会への貢献、環境への配慮、安全の強化など多くの課題をこなすことになった。この2008年版ISO9004は、まさに「持続可能な成長」を目指す事業経営とは何かを明示している。日本企業は、今後大変困難な局面に立たされるだろう。最悪はアルゼンチンのように沈没だ。だから、この程度の経営はやって当たり前と考えほしい。ところで、この規格の日本語の表題が「持続可能性を目指した運用管理」となっている。どうして「managing」が「運用管理」となるのか理解に苦しむ。さて、規格には、成熟度評価手法が付属書として提示されている。この評価手法は、本HPにある「マネジメントクオリティの評価」とほとんどアイデアだ。これを掲載したのはとっくの昔のことだが、ぜひ参照されたい。また掘著「実用ISO9000-さらにステップアップするために」の内容とよく似ている。自社の経営成熟度を評価することによって、何を改善しなければならないかを浮き彫りにできる。監査機関による監査に頼るのではなく、自ら自社の実力を測ることに利用すればその努力はかならず報われると考える。事実、「この国際規格は、求められることが多くて厳しく、絶えず変化し、不確かな経営環境の中で組織がいかにして持続可能性を確立することができるかの指針である。」と、規格で述べられている。
最後になるが、海外の情報によると、ISO9004の国際規格化は遅れるようだ。2009年5月の国際規格化を目指していまのスケジュールから推定されるDISの発刊は、2008年5月になるようだ。この解説もゆっくりと進めてゆく。
本文へ入る前に、ぜひ見ていただきたいプレゼンテーションがある。2009年版ISO9004とISO9001の内容についての理解に役立つと思う。ただし、英語でのスピーチである。ここで重要な言葉は、「ISO9004は、エクセレントモデルではない」ということである。すなわち、GE、モトローラ、シーメンスのような最先端のビジネスモデルではなく中小企業でも採用できる経営モデルなのだ。とはいえ、日本の中小企業には高い壁に見えることになるかもしれない。しかし、その壁を越えなければこのグローバル化された市場では未来はないと思うがいかがだろうか。中国では、多くの企業がこの新しい規格に高い関心を示していることも指摘しておきたい。
持続可能性に向けての事業経営ー品質マネジメント・アプローチ
序文
「情報とコミュニケーション技術の発達によって世界は仮想空間的に狭くなりつつある。」という一文から規格の記述が始まる。このことから認証取得のための規格ではないことが分かろう。「組織が株主や社員などの利害関係者のために単に利益を追及したり、法律に従うだけではもはや十分ではなくなってきている。」と続く。「組織は、もっと環境や社会的責任を意識する利害関係者、一般的な市民社会、社員、顧客、そして種々のその他の利害関係者に対しての組織の説明責任が増加している。組織の創設や持続的な発展がいまやわれわれの経済的および社会的な生存の中心となっている。」と決めつけている。これで理解できるように、ISO9004は経営の指南書なのだ。
ここで規格から離れたい。なぜならば、この記事を書いている今日2008年1月22日は、経済現象として歴史的に記念される日になると思うからだ。東京だけでなく世界の株価が下落した。東京では全面安で、750円も下がった。新年から下落した株価は、2000円を超えるだろう。同じような経験をしたことがある。1987年の「ブラックマンディ」だ。あの日は、ニューヨークで仕事して夜はナイトクラブで酒を飲んでいた。その時に、ウォール街では株価が大幅に下がり大きな問題となっていることをベトナム女性の話から知った。翌朝研究所に出勤すると、多くの社員がほとんど仕事をせず、自分の資産がどれほど傷んだかを話をしていた。何人かは顔色が悪く病人のようだった。元大学教授の一人は、「全財産が3分の1になった。老後をどうすればよいのかわからない」と嘆いていた。こんな事態に対しいったいアメリカ政府はどのような対策を打つのか興味深く見守っていた。即座に政府が打った対処は、株の減価による損失を減税対象とすると発表した。その時の大統領は、レーガンだった。彼はその後、アメリカの実業界に対してはっぱをかけた。それは、アメリカの製品とサービスの競争力を高めなければならないということだった。その手段は、「供給者側の論理」で製品やサービスを提供するのではなく、顧客満足を得るべく「顧客志向」に徹する必要があるということであった。この政策を推し進めるために、「マルコム・ボールドリッチ賞」の仕組みを打ち出した。その後、日本の経営手段を学習し、「改善」は英語として定着するまでになり、アメリカ経済も復活した。一方、日本では、バブルがはじけ「失われた10年」を経験することになった。さて、このような歴史を踏まえ、これから日本企業はどうのような経営を行っていけばよいのだろうか。グローバル化、人口減、高齢化、エネルギーや食糧など資源不足、リーダーの人材不足、アジア人への偏見、日本語の非国際性など数えれば不利なことばかりだ。できれば、このISO9004:2008が何かヒントになればと願う。
話を前に進めよう。「sustainable」とは「that can be kept going or maintained」なのだから、前進し続けることができることとなる。その名詞である「sustainabilty」には、経済や経営に関する書籍で一般的に日本語「持続可能性」があてられている。「持続可能性とは、組織の利害関係者を満たし続けることによってもたらたされる結果である。ここでの利害関係者とは、企業を機能させたり価値を創造することに貢献する実際に存在するもの、すなわち、企業、個人、団体であり、それらがなくては企業の目的を達成できないこととなる関係者が利害関係者だ。」と規格は記述している。世の中には、登記はされているが実態のない企業や団体が多くある。また、「金儲けをしてなぜ悪いのか?」とマスコミを通じて発言したような個人、すなわち金だけを動かすだけで実体ない村上ファウンドのようなものもいる。ひろくつかわれる「虚業」に相当する関係者は、利害関係者とは言わない。世界のどこかで何らかの価値を創造する事業を営む「実業」を利害関係者というのであって、自宅のパソコンを使って株取引を行って一日で何億円を稼いだというような個人は、利害関係者とは言えない。しかし、マスコミがこのような人間を公的なメディアを使って報道する。社会的に貢献している利害関係者とは誰かを無視した行為であると言いたい。
次に、前にも述べたように、「この国際規格は、組織がいかにして持続可能性を確立することができるかの指針である。」としている。
この国際規格は、ISO9001:2000の基盤となっている八つの品質マネジメントの原則を活用し、組織に対し長期的で、持続可能な成功を達成せしめる目的をもってこの品質マネジメントの原則を利用するための指針を提供している。さらに、単に規格の構成要素であるのではなく、ある組織全体を持続可能性に向けて動かすことの難題をなし遂げるための指針でもある。八つの品質マネジメントの原則とは、以下である。
この国際規格は、ISO9001およびその他のマネジメント・システムを利用する際に補足的な役割を果たすことができる指針であるが、それらの適用に関するガイダンスでない。すなわち、このISO9004は、ISO9001の認証を取得するための指導書(ガイド)ではない。とはいうものの、ISO9001に基づくシステムの具体的な運用方法を学ぶことができる。特に、認証を取得した企業の経営者は必ず読むことを強く勧める。もし、この中の具体策を採用することによって経営を改善することができるものがあれば、それから始めればよい。
この国際規格の五章から十章では、組織の本質的な特性を明らかにしている。それぞれの章では、個々の本質的な特性の種々の側面に関連する事柄についての指針が提供されている。本質的な特性の相互依存性、組織に存在するリスクと機会、これらの特性を運営する事柄に関連する典型的なプロセス、必要となる資源、可能な測定と分析の手法に対して考慮すべき事柄は何かが記述されている。この文言で分かるように、現行の2000年版ISO9004と比べ根本的に大きく異なり、異質の内容となっている。ただ企業経営そのものに言及していることには変わりわない。しかし、そのメッセージは大きく違う。
余談だが、この記事を書いているときにテレビで国会答弁を見ていたら、規格のいう「features」は「特性」という日本語が一番適切だと思った。ところで、もしこの規格の文言がよく理解できない方ならば悩むことなく次ページ以降に進めてほしい。読み進めれば、いずれ理解できるようになる。
付属書AおよびBは、組織の戦略とその機会を評価する目的の道具が提供されている。この国際規格での指針は、個々の本質的な特性についてのアセスメントの結果に関連付けている。
持続可能性に向けての事業経営ー品質マネジメント・アプローチ省略
2 参照文献省略
3 用語および定義省略