朝、目覚めたら、相変わらずなっちゃんは同じ格好のままで棺の中で寝ていました。顔色もたいして変わらず、薄目を開けて様子を窺って、本当にまだ生きているような気がします。なっちゃん、たくましいその身体、柔らかい肌とも今日で本当にお別れなんだね。寂しいね。
棺は昨日と同じように祭壇に置かれました。今日のお坊さんはお寺の住職でした。昨日来ていただいたのは息子さんで、双子の弟さんなんだそうです。上にすでに嫁いでいるお姉さんがいて、そのお姉さんも双子を産んだとか。双子を産みやすい家系ってあるんですね。住職からは戒名のこと、これからの法要のこと、お墓のこと、お寺のこと、色々と説明を受けました。あまり堅苦しくないおおらかな感じの方です。一度、お寺にも寄ってみようかな。
告別式も昨日と同じような形式で行われました。弔問客はお通夜の方が多かったのですが、それでも予想以上の方においでいただきました。読経が終わり、弔電の紹介があった後、親族代表で喪主からの挨拶があります。僕です。葬儀屋さんからいわゆる型通りの台本はいただいていました。あいにく、それをそのまま読み上げるなんて素直な心は持ちあわせておりません。多少礼を失するかもしれませんが、参列のみなさんに、自分の思うところを述べさせていただきました。
最後のお別れでは棺にお花やゆかりの品を収めます。なっちゃんは花の中に顔だけが見える状態。きれいだね。でもどこになっちゃんがいるか、分からなくなっちゃったね。フタを閉める前に、最後になっちゃんにチュー。今までたくさんしてきたけど、まだまだしたりないんだよ。そして、涙ナミダの中で、くやしいけれど棺のフタが閉じられました。ところが、最近はフタを釘で打たないんですね。そのままフタを上に乗せただけで出棺と相成りました。
葬儀場の入り口に霊柩車が待機しています。そこに棺を乗せて、ハイヤーとバスに分乗して火葬場へ出発です。僕は位牌をもって霊柩車に乗りました。棺を乗せる特別仕様の車で、座席もゆったりしています。火葬場までは約30分。気詰まりだから早く着いて欲しいような、でも着かないで欲しいような、複雑な気分です。
火葬場に着くと、既に釜の準備は整っていました。最後のお焼香の前に住職から粋な計らい。係の人に言って、最後のお別れをもう一度させてもらいました。実はずっと後悔していたのです。葬儀場でのお別れの時に、チューをなっちゃんの鼻にしてしまっことを。鼻はまだ柔らかかったし唇は口紅を付けていたから。でももうちゅーもできなくなるんだから、唇にしておけばよかったなあって。これ幸いとさっさと近づいて、なっちゃんの唇に思いっきりチュー。なっちゃん、この感触は忘れないでね。パパも忘れないから。
棺が釜の中に入れられ、扉が閉じる瞬間が一番つらい。なっちゃん暗いね。熱いね。寂しいね。でも我慢してね。これで生まれ変われるんだからさ。なっちゃんにしてあげられることは全てやっただろうか。そんな後ろ髪を引かれる様な思いが頭をよぎりました。
小1時間。お骨になるまで待つ控室はひっそりしたもの。住職の前に僕とかみさんが座り、お寺のことやなっちゃんの事を話しました。住職とは今日が初対面ですから、お互いのこともよく知らない。そんなところが話のきっかけだったでしょうか。僕らは今のところ、お寺さんとのつき合いはありません。これからなっちゃんの供養をどこかにお願いしなくてはならない。そういう意味もあって、住職からお寺のことを色々教えてもらいました。逆に住職も、なっちゃんのことはよく知らないで来たわけですから、僕らの話を聞いて、なっちゃんの頑張りを分かって貰えました。
そうこうしているうちに時間が来て、釜の前にまた呼ばれました。中から出てきたのはホンの少しの骨。正直、えっこれだけなの、と思いました。これから親族で骨を拾うのに、全員分足りるのだろうかと心配になります。思わず係の人に聞いてみたら、1歳の子ならこんなものですよと。そうなのかあ、でもあんなにでっかいと思っていたなっちゃんの骨がこんなに少ないなんて。あんなに太いと思っていたモモなのに、大腿骨はか細いんですよ。まあそれでも薬漬けで骨の色が変わっていることもなく、頭がい骨も残っていたのでちょっと安心。
その骨を納骨室に運んで、親族で拾って骨壺へ。一応子供用の壺らしいのですが、骨の量に比べてなんと大きいこと。もっとコンパクトなら持ち歩くのも可能なのにと、本気で考えてしまいました。帰りは住職と一緒に僕もハイヤーに乗りました。助手席に座った住職も、遺影を持つかみさんも位牌を持つ親父もみんな黙っています。
葬儀場に戻ってから繰り上げの初七日の法要をしました。ちょっとシンプルになった祭壇に骨壷を置いて、簡単なお経を上げてもらいました。これでお寺さんのお仕事はお終い。今後も縁があれば、引き続きよろしくお願いします。
親族は引き続き精進落としの会食。なっちゃんの写真と骨壷の前にみんなで座りました。そこでまた喪主からの挨拶。この先の未来につながる明るい決意を述べるのがいいのかなと思ったのですが、今日は建前はなし。正直に今はつらい気持ちでいっぱいだと申し上げました。その後を受けて献杯の挨拶をした親父も大変だったでしょうね。これで葬儀場でのイベントも終わりです。控室の荷物を引き上げて、持ち帰る物の確認をしてさようなら。2日間大変お世話になりました。
家に戻って、さっそくなっちゃんの席をセッティング。大きな写真と骨壷の前に線香台をおいて早速お祈りです。周りにお花がいっぱいあって賑やかだね。
落ち着いたところで、親戚の人たちも三々五々帰っていきました。最後に残ったのは僕らと僕の両親。両親も帰ってしまうとさすがに寂しいと思ったので、夕食くらいまで付きあってくれとお願いしました。まあ、でもこちらも両親も疲れているのは事実。あまり遅くならないうちに帰って貰いました。
家に残ったのは僕とかみさん。でも不思議と、想像していたより寂しくないのです。何故か。そばになっちゃんがいるから。変わり果てた姿になってしまったけど、病院にいるときよりずっと近くに感じられるのです。これからずっと家にいられるのだからと思うと、ある意味今までより安心なのです。なっちゃんもそうでしょ。ようやく家族3人、一緒に暮らすことができるね。