POSEIDON〜ポセイドン

ポセイドン 1972年に公開された水難パニックムービーの金字塔『ポセイドン・アドベンチャー』のリメイク作品である『ポセイドン』。監督は『エアー・フォース・ワン』、『パーフェクト・ストーム』や『トロイ』のウォルフガング・ペーターゼン監督。
 劇場でこの作品のトレイラーを初めて観たとき、在り得ない規模の大津波が豪華客船を飲み込む光景に圧倒されまして、「これは劇場で観た方がいい作品だよなぁ」と思って観に行きました。

 内容や展開は『ポセイドン・アドベンチャー』とほぼ同じですが、登場人物のキャラクターが変わっています。
 話は、大晦日の晩、豪華客船ポセイドン号ではカウントダウンパーティーに盛り上がっていたが、突如現われた巨大な津波に襲われ船はアッという間に転覆してしまう。その時点で多くの犠牲者が出るが、生き残った者の多くは「救助隊が来るまでここに居よう」とダンスホールに止まるが、プロのギャンブラーであるディランは「ここに止まっても船が沈むのを待つだけ」と、独断で船の外へ出ようと行動に出る。元NY市長であるロバートも、見失った娘を探す為に彼に同行する。そして、ディランの意見に賛同する数人の者が船外への脱出を試みるのであった。しかし、転覆した船はあちこちで二次災害が発生し、いつ沈没してもおかしくない状況下であり、彼らは早急に出口を探さなければならないところまで追い詰められていた。

 という感じで、パニックムービーの王道を行ってます。しかも、上映時間はなんと98分!もう巨大津波に襲われてからの展開は正に「怒涛」です。急いで出ないと沈没してしまうという設定をリアルに演出していて、人気ドラマ『24』と同じで、たぶん彼らが逃げている時間=鑑賞時間だと思います。


 とにかくスケールが大きいです。冒頭の豪華客船の大きさを表現するアングルなんて「おおっ!」と感じるほどの迫力だし、在り得ないくらい大きい津波に豪華客船が飲み込まれるシーンなんて、「うわっ!」と身を引きたくなってしまうほど。そして、その直後に起きる人間達のパニックぶりは凄まじくて、無情なくらいあっけなく犠牲になって行きます。さっきまで華やかだった船内が、一瞬にして地獄絵図に変わってしまう。
 かろうじて生き残った数人も出口を探しますが、次から次へと危機が襲い掛かってきて息つく暇もないくらい。確かに、あんな状況になったら悠長に語らいなんかやっている場合じゃないだろうな。この辺は妙なリアリティがあります。パニックムービーによくあるパターンで、すっごい危機に直面しているのに妙に語り合うシーンが長かったり、過去を振り返ったりして、現状のリアル感が思いっきり薄れてしまうことがありますが、この作品は語らうシーンどころか人物描写を最低限の段階しかしていません。だから、「えーと、あの人は何て名前で、この人とはどういう関係だっけ?」て考える必要もない。お互いの関係性よりも、まず逃げることが最優先。そういう意味では、「洋画は名前が難しくて誰が誰だかよく判らない」て人も、抵抗なく観れるのではないでしょうか。

 しかし、人物描写が最低限しかされてないだけあって、人間ドラマはほとんどありません。いや、一応はあるんだけど薄いんだ、これが。『ポセイドン・アドベンチャー』はジー・ハックマン演じる神父の存在が圧倒的で、彼が話す言葉に衝撃を受けた記憶があるほど人間ドラマは厚かったですが、そういう部分がこの『ポセイドン』には一切ありません。その代わり、怒涛のアクションを展開させ、観客も同じ客船内に居るような錯覚に陥らせています。どちらかというと、この『ポセイドン』はテーマパークのアトラクションに乗っているような感じです。登場人物に感情移入することはないし、ドラマ性もほとんど感じないけど、妙に疲労困憊になって楽しめる。

 これだけのド迫力映像に人間ドラマまでプラスした2時間を軽く越えるのは目に見えています。しかし、この作品は人間ドラマを削ぎ取り、98分という短時間で船内パニックを見せることによって、観客に災害のリアルさを体験させようとしています。こういう潔さは好きですね。
 それに人間ドラマが薄い云々とは言っても、実際の災害の現場は「非情と無情の世界」だと思います。人々が逃げ惑う中、現状を把握しきれない中で命を落としていく。そのことに悲しんだり嘆いたりしている時間が生存者にはない。そういう面を強調していたんだと思います。

 『ポセイドン・アドベンチャー』のような人間ドラマを求めている人にはかなり物足りない作品だと思いますが、アトラクション感覚で観たい人には非常に面白い作品なのではないでしょうか。個人的にはツッコミどころ満載で矛盾点もいっぱいだけど、変に時間展開を無視した人間ドラマがあるパニック作品よりは好きですね。あと個人的に泳げないので、溺れそうになるような苦しい感覚も体験できましたよ(笑)。




 …で、本来だと、こっからミーハー語りをするんだけど、この作品に関してはツッコミ語りをしたいな(笑)と。

 まず誰もがツッコミたいと思うことであろう、「あの大津波は何故起きた?」という謎。『ポセイドン・アドベンチャー』は海底地震の影響で大津波が起きたという設定がありますが、『ポセイドン』では、船員が「なにか変だと感じないか?」て言って、双眼鏡で大津波を確認して愕然!…てな感じです。まぁ、船に乗っている人間にとっては「突然来た!」というのがリアルな設定なんだろうけど、観ている者としては地殻変動か何かで津波が出来て、大津波となって少しずつ豪華客船に近付いていく…ていう設定の方が恐怖感が増したなぁ。しかも、あれほどの大津波をあんな近付いてくるまで豪華客船が感知しないっているのも。
 まぁ、何事も大袈裟に表現するウォルフガング・ペーターゼン監督らしいと言えばそれまでなんですけど(笑)、生存者の迫り来る危機をリアリティに描くのであれば、大津波の存在にもリアリティ出して欲しかったな…と。ただCGで再現するだけじゃなくってさ。
 実はさ、このトレイラーでの凄い大津波を劇場で観た時、「この在り得ない大津波はどういう設定で起きたものなんだろう?」て思ったのが、この作品に興味を持ったキッカケだったのよね。ふっ、見事なまでに答えは無かったわ(笑)。ここまで潔いと笑うしかなくてよっ。

 登場人物の描写は薄いと先にも書いていますが、『ポセイドン・アドベンチャー』での神父役的な存在だったカート・ラッセル演じるロバートは、元NY市長という設定なんですが、「有名な消防士で、その業績を経て市長になった」という過去があります。つまり元消防士。きゃ〜、『バックドラフト』だわ♪と思った人も少なくないはず。

 あと、水難パニックにありがちなツッコミなんですが、みんな随分と長時間潜っていられます。「あのおじいちゃんや女の人なんて、よくあそこまで息が持つなぁ」なんて思ってしまった(笑)。あと、エミリー・ロッサム演じたジェニファーの婚約者であるクリスチャンは、鉄骨に足を挟まれて怪我を負った割には骨には異常が無かったせいか動きまくり。たぶん、途中から怪我をした設定は消えていると思われる(笑)。

 リチャード・ドレファイス演じるリチャード・ネルソン(ややこしい)は、何か人生に絶望しているような感じでしたが(津波が来る前は自殺しようとしていた?)、道案内の役を買って出てくれた従業員を犠牲にしてまで自分の命を守ったり、怪我を負いながらも最後までみんなと一緒に脱出したし、あの中では最年長だったと思われるが「生きる」ことに対しては、かなり必死でした。私は、この人が生き残った数人の中での最初の脱落者かと思った。

 最後に救助に来たのがヘリだけではなく、遠くの方に船らしものが見えていた気がしたんですが…。あんな大津波の後に船なんて来られるわけないと思うんですけど(苦笑)。だって、島一つは軽く飲み込むほどの津波でしたよっ、監督!津波て本当に怖いんですからっ!最後の最後で気を抜かないでーーーっ!




 CGを多様し過ぎて妙なことになっているシーンもあったけど、その辺はウォルフガング・ペーターゼン作品にはよくあることだし(笑)、サマームービー作品らしい作品だと思いました。本国アメリカではあまりウケなくて「作品も沈没」なんて酷評されていましたが、アメリカの観客はパニックムービーのどこかに「泣き所」が欲しかったのかな?
 それとも、人間ドラマの描写が素晴らしかった『ポセイドン・アドベンチャー』のリメイク版だったからこそ、妙な期待はずれ感が観客に生まれてしまったのか?映像の迫力や展開の早さなどエンターテイメント作品の王道ではあるけど、リメイク作品としては「どうなんだろう?」という疑問点も残ってしまうもんなぁ。むしろ、リメイク版じゃなければもっとウケたんじゃないかな。『ポセイドン・アドベンチャー』へのオマージュはあまり感じられなかったからね。


 あとこのテのパニックムービーの戒めみたいな感じだけど、「生きたいのなら自分で生きる道を探し出せ!」て気がしました。待ち続けるだけじゃダメよ…てね。でも、都市の氷河期パニックを描いた『デイ・アフター・トゥモロー』は、「下手に動くと死を招く」って感じだったし、なかなか難しいもんだね。


 


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