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第6話:すれちがい

入学式からほぼ三週間、初々しかった新入生も学園に馴染み、もうすぐGWということでどことなく浮ついた雰囲気が充満していた。

そういう雰囲気に流されやすい森村由布は、うきうきしながら帰り支度をしていた。

「ふっふっふ……」

「なあににやついてるかなあ……」

みどりが少し呆れながら言った。

「いや、ちょっと考えててさ〜」

「ああ……GW?」

「そう!」

「いいわよねえ、彼氏のいる人はさぁ」

つまんなさそうにみどり。

「みどりも和広君誘ったらいいじゃん」

「そんなわけいかないわよ……沙織はツアーで出払ってるからさ」

「抜け駆けは出来ない?」

「ま、一応ねえ……」

「べつにかまわないと思うけど?」

いつのまにか久美子がそばに来て話しかけた。

「仁義なき戦いという感じで」

「まあねえ……」

ぽりぽり頭をかきながらみどりは言った。

「でもなんか気が乗らなくてさ」

「当の和広君はどうするのかな?」

由布がのんきに言った。

「特に聞いてないけど……なんか最近ごそごそやってるみたいね」

久美子が目を細めながら言う。

「まあ、ようやくやる気を出したということなんだけど……」

「最近付き合い悪いもんねえ……その点、由布はいいわよねえ」

みどりは軽く由布を睨み付ける。

「へっへん」

自慢げに由布は笑うと、その時教室に入ってきた明を見つけて、彼に駆け寄っていった。

「あ、春日君!」

「あ……由布ちゃん」

なんだか少し焦っている様子の明。しかし由布はそれに気づかずにしゃべる。

「ねえねえ、今日さ、ちょっと相談があるんだけど……」

「あ、ごめん、今日はすぐ家に帰らないといけないんだ、それじゃ!」

「え、ああ?!」

由布が反応する間もなく、明は鞄を抱えて教室から出ていった。

「……かすが、くん」

「どうしたの一体!?」

みどりがそばに来て由布の肩をたたく。

「わ、わかんないよぉ……」

放心したように由布は言った。

「今日用事があるなんて言ってなかったのに……」

「ふうん……ま、そういう日もあるってことじゃないの?」

慰めてるんだか皮肉っているのかわからない口調でみどりは言った。

「あとで電話でもかけたら?」

「あ、うん……そうだね」

ちょっと不安そうな表情で由布は言った。


「はーん、いよいよ飽きられたか?」

由一は由布の話を聞いて、由一は馬鹿にしたように言った。

「なんてこと言うのよ!」

もちろん由布がおとなしくしているはずはない。

「春日君がそんなわけないじゃない!」

「いやいやわからんぞ。お前の本性がだいぶわかってきたみたいだからなあ」

「な、なんなのよ、本性って!?」

「寝坊でルーズでがさつで怒りっぽくて……」

「うー……」

由一はものすごい目でにらまれて、それ以上言うのを止めた。

「あ、いや……ただ用事があっただけなんだろう?なに気にしてんだよ」

「だって……あまりにそっけなかったんだもん……」

拗ねたような表情を浮かべる由布に、由一は意地悪そうな顔で言った。

「おまえ寂しがり屋だからなあ。俺がほっぽってどっか行くと、ぴーぴー泣いてたっけ」

「そ、そんな昔のこと言わないでよ!」

真っ赤になりながら由布は言った。

「由兄が薄情過ぎるのよ!まったく、友子、なんでまだ付き合ってるんだろう……」

「ふ……俺に惚れてるからな」

自信満々の由一に、由布はじと目で言った。

「……友子はそうは言ってなかったけどぉ?」

「あ?」

「あんまり安心してると、捨てられても知らないから!」

そう言って由布は立ち上がり、自分の部屋に戻っていった。

「……なんか弱みが広まってるな」

由一は苦い表情でひとりごちた。


部屋に戻った由布は電話を手にすると、明に電話をかけた。

ところが、なんどもなんども呼び出し音が鳴っても誰も出ない。

「……変だなあ」

一旦切って、携帯の方にかけるが、やはり誰も出ないで留守電モードになってしまった。

「誰も出ない……なんでぇ?」

由布は電話を置くとベッドの上にごろ寝した。

「どうしちゃったのかなあ……」

天井の白さがやけに目に染みた。こんな不安になったのは、谷底に落ちて以来のことだった。

「まだ九時前だし、寝ちゃったなんてことないよねえ……」

誰も答えてはくれない。余計に由布は不安になった。

「うう〜、もうねるっ!!」

由布は部屋の電気を消すと、そのままベッドに潜り込んだ。

……いいもん、明日訳聞いて、それから……予定とか聞くもん……。


翌日。いつになく早起きした由布は、急いで学校に向かった。いつもなら明が教室にいる時間……。

「はあはあ……あれ?来てない……」

「おはよう、由布ちゃん」

ただ一人だけいたのは……。

「あ!?……なんだ、和広君かぁ……」

あからさまに残念そうな顔をされて、さすがの和広もいい顔にはならない。

「なんだはひどいな……どうかしたの?」

「あ、ううん、なんでもないの……あ、春日君見てない?」

「いや、一番乗りだったけど、まだ来てないみたいだね」

「そう……」

落胆した様子で椅子に座る由布。

「せっかく早起きしてきたのに……」

「珍しいね。どうかしたの?」

和広は由布の顔をのぞき込むようにして尋ねた。

「うん……昨日春日君とろくに話せなくてさぁ……」

「昨日って……一日だけ?」

「一日だけだって大変だよ〜……せっかくGWの予定立てようと思ったのに……」

「そっか……まあ、そう言う日もあるさ」

「和広君は、なにか予定してるの?」

「予定はしてるけど、遊びはないね」

「遊ばないの?」

「あいにくと、ね」

「そうなんだ……みどりとか文句言わない?」

「もう言われたよ」

苦笑しながら和広。

「やっぱりね。それで強引に予定入れられた?」

「いやそれは……勘弁してもらったよ」

「え?なんで?」

「いや、暇を作れないわけじゃないんだけど……沙織ちゃんは仕事でいないわけだし、みどりちゃんだけを優先するわけにも、ね」

「そっか……」

「……優柔不断だよね」

和広は難しい顔で言った。

「でも今のところ……まだ誰、ということは決められないしね」

「うーん……そこまで考えなくていいと思うよ」

由布はじっと和広の顔を見ながら言った。

「みんな覚悟の上だと思うし……って、あたしが口出しできるような話じゃないよね。ごめんなさい……」

「ああ、うん、そうだね……」

和広は無理っぽく笑ってみせて、言った。

「まあ、由布ちゃんと春日君が仲よくやってくれていればそれでいいさ」


みどりが教室に入ってきたとき、ほとんどの生徒が中にいた。彼女は由布の後ろ姿を見つけると、元気よく声をかけた。

「おはよう、由布!」

「あ!?……なんだ、みどりか」

露骨に嫌そうな顔で由布が言った。

「なんだとはなによ!……あ。まだ来てないの?」

みどりは周りを見回すが、明の姿はない。

「そうなのよぉ……」

「なに泣きそうな顔してんのよ。電話すりゃいいじゃん」

「昨日から出ないのよぉ〜」

ほんとに泣きそうになって由布は言った。

「ええ〜、なんかあったのかな?」

「なに!?なにかってなに!?」

「うわ!!」

いきなり立ち上がる由布にみどりはぶつかりそうになった。

「いきなりなにすんのよ!」

「だ、だってぇ〜」

「あー、泣くなぁ!とにかく落ち着くのよ!」

みどりは強引に由布を座らせると、深くため息をついた。

「はぁ……まったく、一日連絡がつかないくらいでなにうろたえてるのよ」

「だって……」

「だってじゃないわよ!沙織も頑張ってるって言うのに、まったく……」

「うう」

余計に由布は落ち込んでしまう。

「いくらなんでももうそろそろ来るでしょ……って、ほら!」

「あ!」

みどりの差したその先に、明の姿があった。

「春日君!」

みどりに声に気がついたのか、明はふらふらと寄ってくる。

「やあ、おはよう、由布ちゃん……」

「おはようじゃないわよ!昨日電話したんだよぉ?」

「あ……ごめん」

どことなく疲れた様子の明。

「ちょっとやることがあって……今も寝不足なんだぁ……ごめん」

そう言って明はふらふらと自分の席に向かう。

「え!あ、春日君……」

由布の声に振り向かずに自分の椅子に座ると、そのまま机の上に頭を乗せて寝てしまった。

「なんか……疲れてるわね」

呆れたようにみとりが言って、由布の方を見た。

見るからに不安そうな顔をした由布は、呆然と明の顔見つめていた。

始業のチャイムが鳴る。


最初の授業が終わると、真っ先に由布は明の所へ駆け寄った。

明はまだ机に上に突っ伏していた。ずっとそのままだったのか?

「春日君!」

「うう……あー、由布ちゃん?」

ちらっと顔を上げて由布を見る明。

「だ、大丈夫なの!?寝不足?」

「う、うん、まあね……」

そう言って明は起き上がると背伸びをした。

「昨日は電話つながらないし、心配したんだから!」

「ごめんごめん……ずっと温室の方にいたから気がつかなくて……」

「温室?」

「そう……あれ?言ってなかったっけ?」

「な、なにを?」

「こんど花の品評会があるんだ。その作品を父さんと一緒に育ててるんだよ」

そういう明の目はきらきらと輝いていた。

「で、そいつの世話が大変で……もうここんところくに寝てないんだ」

「初めて聞いた……いつなの、それ?」

「えっと、こどもの日だよ」

「え?……いま、なんて言ったの?」

由布は聞こえないふりをして聞き直した。

「だから、五月五日が品評会の日なんだ。だからそれまではずっと張りついてないと心配で心配で……」

しかし、由布は明の言葉をうわの空で聞いていた。

五月五日、五月五日という日付が頭の中で踊っていた。

五月五日……。

「それでね……由布ちゃん?」

呆然と立っている由布に気付き、明は心配そうな表情で声をかけた。

「ど、どうしたの、由布ちゃん?」

「……じゃあ……連休は?」

「え?」

「連休中……は?」

「ああ、休み無しでずっと張りついてなきゃいけないんだ。片時も目が離せないという感じで……あ、ゆ、由布ちゃん?」

明は再び黙り込んでしまった由布に声をかける。だが反応はない。明は立ち上がって由布の目の前に手をかざしてみる。

「あの……由布ちゃん?」

「……そんな……せっかくの連休なのに……」

ぼそぼそとそう言ったかと思うと、急に怒った顔で明を睨み付けた。

「なんでもっと早く教えてくれなかったのよ!?」

「わっ!」

「いろいろ……いろいろ考えてたのに!」

「あ、あの、由布ちゃん……?」

なんで怒られているのかわからず、明はおろおろするばかり。

由布は余計に腹が立ってきたらしく、声をもっと大きくして言った。

「買い物にいこうとか、旅行に行こうとか、映画に行こうとか考えてたのに!そんなんじゃどこにも行けないじゃないのよ〜!春日君!」

「は、はい!?」

「あたしのことなんかどうでもいいわけ!?そんなにお花の方が大事なの!?ねえ、どうなよ!?答えてよ!?」

「そ、それは……」

蛇に睨まれたカエルのように、明は動かないで口をぱくぱくさせていた。

そこに成り行きを見ていたみどりが二人の間に割って入った。

「ちょ、ちょっと由布、止めなさいよ!」

「みどり!邪魔しないでよ!」

すごい目ですごまれて一瞬たじろぐみどりだったが、なんとか持ちこたえて言った。

「もうすぐつぎの授業はじまんのにけんかするの止めなよ!みんな困ってるじゃない!」

はっとなって由布が周りを見てみると、みんなが由布と明を見ていた。

「あうう……」

「まったく……痴話げんかなら昼休みか放課後にしてよね」

呆れたようにみどりが言うと、由布は真っ赤になってうつむいた。それを明が不安そうに見つめる。

そのとき、次の授業開始のチャイムが鳴った。

由布は仕方なく自分の席の方に戻ると、ちらっと明の方を見た。

明は、再び机の上に突っ伏して眠っていた……。


「そんなことがあったの?」

「そうなのよ……まったく、由布ったらもう」

二時限目終了後の休み時間、みどりは和広に愚痴っていた。

「GWがすっ飛ばされそうになって逆上するのはわかるけど……なんつーかさあ、 意思疎通がなってないというか。春日君も春日君よね。デリカシーに欠けてるというか……」

和広は由布の方を見た。彼女はちょっといらいらしなが、らちらちらと明の方を見ている。しかし明は不貞寝というわけでもないのだろうが、机を枕にして眠っていた。

「……で、どう思う?」

「どうって?」

「だから……これからどうなるのかなって」

「さあ……ぼくに聞かれても困るよ」

「だよねえ」

はあーっと大きなため息をつくみどり。

「当事者同士に任せるしかないわよね……。ああ、なんか昼休み教室にいたくない感じ……喧嘩に巻き込まれるの、ごめんだわよ。それも痴話げんかだなんて……」

「うーん……」


そして昼休み。

由布はまた眠っている明に近づくと、揺さぶって起こしにかかった。

「ねえ、春日君……起きてよ」

「うう……」

眠たそうな目をしながら明は顔を上げた。

「由布ちゃん……」

「ねえ、ちょっと来て」

「ど、どこへ?」

「いいから、さあ!」

由布は強引に明を立たせると、手を掴んで引っ張った。

「ちょ、ちょっと、由布ちゃん!」

しかし由布は何も答えずに、明を教室から連れ出した。廊下に出て、階段を降りてそのまま校舎の外に出て、中庭の方に進んでいく。

そして由布がようやく立ち止まった。そこは図書館そばの広場になっていて、木が何本か立っている。ちょっとした庭だった。

「あの……由布ちゃん?」

明は由布の背中に恐る恐る声をかけた。すると由布は振り返った。

なにか思い詰めているような、哀しい表情。

「いつ……いつ、品評会の日付がわかったの?」

「え!?……あ、えと……十五日だけど……」

今日は十九日だった。

「じゃあなんでその時教えてくれなかったの!?」

由布は悲痛な顔で叫んだ。

「い、いや……家に帰ってからだったし、その日からもう作業に入ってたから……じつはその前からもの作りはしていて……」

「……」

由布はしばらく無言で明を見つめていたが、やがてすうっと息を吐くようにして言った。

「だったら……だったらなんで、お花作りしていることを話してくれなかったの?お花作りって、時間がかかるんでしょ?だったらもっと前から話しておいてくれればよかったじゃないの!」

「そ、そんなこと……いつも話してたじゃないか」

明はちょっとむっとしたような顔をしていった。

「僕の話題なんてそれくらいしかないんだし……そんなこと、とっくにわかっていてくれていると思ってたのに……」

「あ……」

由布は絶句した。

その点は全く明の言うとおりだった。二人の会話ではお互いの共通の話題を話すよりも、自分の事を話すことが多かったのだ。

「で、でも……品評会の話は聞いてないもん!」

泣きそうな顔で由布は叫んだ。

「だからそれは……急な話だったからで……」

「で、でも……わかったときに電話でもしてくれればよかったじゃない!」

「だからそれは、すぐに手入れをしなくちゃいけなかったから……そんな暇なくて……」

「そんな!?そんな暇!?」

明の不用意な言葉は、由布を切れさせた。

「あ、あ、あたしって、そんなものなの!?何かあったら連絡してもらえないようないいかげんな存在なわけ!?」

「え、え、い、いや、そんな……」

なんとか言い訳しようとする明だったが、由布の勢いの前にはあまりにも無力だった。

「あたしって……春日君にとってその程度の仲でしかなかったのね!」

「ち、違うよ、由布ちゃん!」

「どこが違うのよ!?じゃあ、あたしが言ったら出るの止めてくれるの!?」

「そ、それは……で、出来ないよ」

「ほら!ほらそうじゃない!やっぱりあたしなんて……」

「違うよ!」

明は怒った顔で叫んだ。由布がびくつく。

「由布ちゃんは大事な人だよ!でもこれは……花作りは僕の夢なんだ!だからあの品評会にはどうしても出たいんだ!だから……でないわけにはいかないんだ」

「そんな……でも……」

由布は明の言ってることはよく分かっていた。自分だって絵のコンクールが目前に迫っていたら同じことをしていただろう。

しかし由布はいまさら引っ込みがつかなくなっていた。

「だったら……だったらもっと早く言ってて欲しかったわよ!やっぱりその程度にしか思ってないってことじゃない!」

「そんな……ちがうよ……」

明の反論は力のないものだった。その時由布のことはこれっぽっちも考えていなかったのは事実だったから。

「違わないわよ!もういい!!春日君なんかだいっきらい!!」

由布は決定的な言葉を叫ぶと、急に走り出した。

その後ろ姿を、明は何も言えないまま呆然と見つめていた……。


みどりは授業中にも関わらず、さっきからちらちらと由布を見ていた。

昼休みが終わってからの由布は変だった。妙に無表情で戻って来たかと思うと、みどりが声をかけてもなにも答えない。明の方はさっきと変わらないように見えたのだが……。

なんだかみどりの胸に不安が沸き起こってきた。

……単なる痴話げんかじゃなかったわけ?あんまりこじれないといいけど……。

そこまで考えて、みどりはなんだか馬鹿らしくなってきた。

……なんであたしがこんなこと考えなくちゃいけないのよ?別にあたしが付き合ってるわけじゃないのに……大体恋人同士のけんかなんて愚にも付かないのが当たり前で……ああ、なんか余計に悔しくなってきた。あたしだって和広君と……あ、別にけんかしたいわけじゃないけど……だけど……けんかできるくらい、仲良くなりたいな……でも、和広君、先にひいちゃいそう。彼、そういう性格だから……もうちょっとワイルドになってもいいのにね……。

みどりはまた由布の方を見た。

由布は依然として無表情に頭を垂れて机の上を見つめていた……。


放課後。

由布は声をかける間もなく教室から出ていった。気がつくと明もいない。

みどりは仕方なく和広に話しかけた。

「ねえ和広君、気がついた?由布と春日君のこと?」

「うん、まあね……」

和広はちょっと困った表情で首をかしげた。

「どうしたらいいかな?」

「うーん……」

和広はますます困った表情になった。

「それを僕に聞く?」

「え、なんで?和広君ならなんか知恵を出してくれると思って……」

「ああ、うん、普段だったらね……でもあの二人に関しては、ちょっと……」

「なんで?」

みどりには思い当たる理由がない。

「スキーの時のこと、わすれたの?」

いつのまにか現れた久美子が言った。

「久美子!……スキーのこと?」

「そうよ」

「スキーの時……あ!……そっか。和広君……由布のこと好きだったんだっけ……」

みどりは複雑な表情で和広を見た。

「確かに……口出ししにくいよね……」

「そういうこと……どう動いても、気持ちよくないものね、和広?」

「うん……まあね。直接動くのはどうも気が乗らない……自分が、いけない考えをしてしまうような気がしてならないんだ」

和広は真剣な表情で言った。

「こればっかりは自信がないよ。仲を悪くするようにだって誘導出来るんだ。それも誰にも気付かせることなくね……って、そんなこと思いついてしまう自分が怖いというか……情けない」

「うーん……じゃあ、どうすれば……」

「とりあえずは……」

和広はみどりと久美子の顔を交互に見ながら言った。

「情報収集だね。原因を調べるんだ。それには……あ、友子ちゃん!」

和広は友達と話していた友子を呼んだ。

「なに?」

「今日は時間ある?」

「あ、うん。練習休みだから……なんで?」

「由布ちゃんのこと、気付いてるよね?」

「うん、まあね……あ、その相談?」

「そうなんだ。由布ちゃん、多分まだ学校の中にいるから探し出して、事情を聞き出して欲しいんだ」

「喧嘩の理由ね?わかったわ!……ここままじゃなんか気まずいもんね」

「うん、頼むよ。春日君の方は……久美子、頼む」

「ええ」

「ね、あたしはあたしは!?」

みどりが身を乗り出す。

「みどりちゃんは……僕のことを見張ってて欲しい」

「へ?どういうこと?」

「僕が……変なことしてないか見張ってて欲しいんだ」

「和広君……」

「なにか矛盾したことをしていないか、みんなの話を聞いておいてほしい。変なことを少しでも感じたら……由一君か始に連絡してほしい。出来るかい?」

「そ、そりゃやると言われればするけど……そこまでするの?」

みどりは不安な表情で和広を見つめた。

「うん。何事も怠りないように……それが僕の方針なんだ。自分自身に対しても、例外じゃないよ」

そう和広は言い切ると、席から立った。

「では、はじめよう」





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