「……うふふ……えへへへ〜」
「なーに、にやけてんのよ!!」
みどりにそういわれて、余計に頬が緩んできた。
「えへへ……わかるぅ?」
「あったり前じゃない。そんだけ幸せそうな顔してたら誰だってわかるわよ。……はは〜ん……夏祭り、春日君と、だな?」
ぎ、ぎく!
「キスでもした?」
さらに、ぎくぅう!?
「あ、あはは、そんなんだったらどんなにいいか……あはは」
「あっやしい〜」
「そ、それよりもみどりの方はどうなのよ?和広君と一緒だったんでしょ?」
「それがさあ……沙織もずっと一緒だったから、全然なーんもなし。あ〜あ、やっぱり抜け駆けしないとだめだわ」
「うふふ……沙織だってそう思ってるかもよ?」
「だからさあ、今度の合宿ではもっと大胆にせまろうかって思ってるのよ」
「ひゅ〜、過激〜」
「でさ、今日帰りに水着買いに行かない?」
「あ、いいねえ。どうせ今日は半ドンだし、お昼がてらみんな誘っていこう」
そういうわけで、いつものメンバー(あたしとみどりと沙織と友子と久美子ね)で街に繰り出すことにした。行き先は、水着の専門店。友子のおすすめなの。
「わあ!いろんなのあるねえ!」
店内にはそれこそ、水着水着水着のオンパレード。天井からつるしてあるものや壁にかけられてるもの、衣装ラックにかかっているもの……一体何着あるんだか。
「でしょう?たぶん、市内じゃ一番だと思うけど」
友子が自慢げに言った。
「さ、えらんで」
「よっしゃああ!」
一番元気なのはやっぱりみどりだった。
「いっちばん、脳天直撃なのはど・れ・か・な〜」
「これなんかどお?」
あたしが手渡したやつは、最初は大したことないと思ったんだけど、広げてみると……。
「わあ、これいい〜!」
みどりは大声を出して跳ね回ってたけど、他のみんなは、あたしも含めて目が点になってた。……わ、わたすんじゃなかった。
「ねね、これなら和広君を一撃でおとせるわよね?」
「……ちょ、ちょっと……まあ、そうかも……」
一応ワンピースなんだろうなあ……正面から見るとV字型している。で、斜め線が胸を隠すようになってるんだけど……だけどぉ……幅が数センチも無い!これじゃあ、ほとんど丸見えじゃないのよ〜!おまけにおへそは丸出しだし、背中も同様。ハイレグなんてもんじゃないくらい角度ついてるし……。
「じゃあ、これに決めた!」
「ちょ、ちょっと待った!!」
あたしはみどりの手からそれを奪い取る。
「ちょ、ちょっとなにすんのよ?!」
「こ、これはだめ!絶対だめ!!」
「はは〜ん……さては由布が着るつもりね?春日君のた・め・に」
「ちがああああああああうっ!!」
目一杯、否定否定否定!!
「こんなの着られたら、こっちが恥ずかしいのよ!」
「そ、そうなのよ。あたしも、ちょっと……」
友子がひきつったような顔で助け船。
「あ、あたしも……」
沙織が言うと、ちょっと説得力に欠けるかな?
「うーん……絶対これいいと思うんだけどなあ……和広君、気に入ってくれると思うんだけど……」
その時、それまで黙っていた久美子ちゃんが、ぼそりと言った。
「和広は……そんなに派手じゃないのが好みだったはずよ」
「へ?!そ、そうなの?」
みどりは久美子と水着を交互に見比べてうなり出した。
「うーん……これは気に入ってるんだけど……でも……」
「あ、別に悩まなくっても、二つ買っちゃえばいいじゃない」
あたしがそういうと、みどりはようやく納得がいったようだった。
「うん、そうする!!あ、じゃあ、これにしっよかなあ?」
品定めを始めたみどりに、みんなは一様にほっとしたような顔をする。
「じゃあ、あたしたちも選びましょ」
友子の言葉に、みんな弾かれたように水着を見始めた。
うふふ……春日君、気に入ってくれるといいな。
さて、旅行の下準備やら終業式とかがあったんだけど、んなもんはさっさとすっ飛ばして……いよいよしゅっぱ〜つ!、みたいな。
「みんなそろった?」
和広君がみんなを見回して言った。
「はいはいは〜い!」
みどりが元気一杯に答える。気合い入りすぎだよ〜。
「あれ?雪絵さんはどうしたの?」
あたしがそう言うと、和広君はシャツのポケットから携帯端末を取り出すと、ボタンを一つ押した。すると聞き慣れた声が聞こえてきた。
『和広君?やっほ〜、雪絵よ〜。ごめん、急用ができていけなくなっちゃったの。あんね、達哉と旅行に行くことになっちゃって〜、てへへ〜、だからあとはよろしくねん』
「……とまあ、こう言うわけで」
はあ……あの人らしいと言えばらしいけど……はあ。
「それじゃあいこうか」
和広くんに促されて、みんなぞろぞろと歩き出す。あたしは春日君のそばだ(^^)。
移動は電車を乗り継いでいくことにした。バスを借りるのって、結構お金がかかるんだそうな。
行く途中の電車の中は普段とかわらなかった。みどりは和広君にべったりだし、沙織も負けじとそばにいる。飯坂君と久美子は相変わらずのマイペース。あたしと春日君は外の風景を眺めながらのおしゃべり。ああ、なんかのんびりしていていいなあ……。
そうして電車に揺られて三時間少し……いよいよ目的地にやってきた。駅からは徒歩で十分くらいで海になってて、宿舎はその海岸から十分の山の中にあるの。
「ね、どっちから行くの?」
あたしが和広君に聞くと、
「あと少しでお昼だから、先に宿舎の方に荷物置いて、食事したら海に出ようと思うんだけど……」
「じゃあ、早く行こう!」
みどりが和広君の腕に抱きつきながら言う。うーむ、積極的だなあ。
「ほらみんなも早く!」
みんなは苦笑しながら荷物を手にとって移動を始めた。
もうあたりはすっかり夏の景色。日ざしは強いし、あちこちでセミが鳴いている。
「あ〜、スケッチブック持ってくればよかった……」
あたしのぼやきに、春日君。
「持ってくれば良かったのに、どうして?」
「いや、かさばるかなあって思ったから……それに、春日君と話す時間が多い方がうれしいなあ……なんて」
「由布ちゃん……」
……んなこと話していると、宿舎に着いた。宿舎というのは二階建ての建物で、かなり大きいやつ。まあ、一学年が丸々入るくらいから当然なんだけど。
管理人さんに挨拶してから、和広くんに部屋割りを聞いて部屋に入る。部屋は男女一室ずつで、隣り合わせだった。
「なんか懐かしいねえ」
みどりが中を見回しながら言った。
「ほんとほんと……たった二月前のことなのにねえ」
あたしは相づちを打ちながら荷物を置いて、中をあさった。
「なにしてんの?」
と、みどり。
「水着だそうと思って……と、あったあった。さあ、これで準備オッケーと」
「あ、お昼は食堂でだって。早く行きましょう」
沙織が部屋を出かかりながら声をかけてきた。心なしか急いでいるみたい。まあ、無理もないか……あたしだってそうだもの。
……水着、気に入ってくれるかなあ、春日君?
昼食もそこそこに、あたしたちは早速海に出ることにした。
太陽はもう中天にかかって、激しく浜辺を照らしていた。ビーチサンダル越しに砂の熱気が伝わってくるくらい。ときおり吹く潮風がとても気持ちよかった。
「ほら、由布!早く着がえよ〜よ!」
脱衣所の方からみどりが手をふってくる。
「うん、わかってるって!」
あたしは駆け足でみんなのいるところに走った。
数分後、みんなが着がえ終わって出て行くと、男の子たちが待っていた。
「やっほ〜!」
みどりが真っ先に外に飛び出した。さすがにお店で見つけた水着ほど露出度は高くないけど、それでも結構際どい青白ストライプのハイレグビキニだったりする……あ〜あ、なんだかこっちの方が恥ずかしい……。
「ねね!和広君、似合う?」
和広君のそばに真っ先に近づくと、モデルみたいにその場でくるりと一回転した。
「うん、元気なみどりちゃんらしいね。よく似合ってるよ」
和広君は眩しそうにみどりを見ながらそう言った。
「ほんと?!うれしい〜!」
みどりは躍り上がらんばかりに感激して、和広君に飛びついた?!
「あは!」
「み、みどりちゃん……!?」
あちゃ〜……のっけからやってくれるよ〜。沙織は……あ、出てきた。
うーむ、これはまた……。
モデルみたいな足どりで歩く沙織は、ブルーのワンピースなんだけど……背中が、思いっ切り開いているの、うひゃあ!
沙織は和広君の腕に抱きつくみどりという光景をちらっと見ると、すたすたと和広君に寄っていき、空いてる腕の方をとってこう言った。
「さあ行きましょう?せっかく海にきたんですもの」
「あ、うん……」
あっけに取られたように和広君は肯くと、沙織に引かれていくように海に向かって歩き出した。ちょっとだけぼーっとなったみどりは、慌ててその後を追った。
「……行っちゃったわね」
いつのまにか隣に来ていた久美子が言った。
「うん……ねえ、なんかさ、沙織、いつもとちがったね」
「そうね」
「なんて言うのか……えらく気合い入ってない?」
あたしがそう言うと、久美子は微笑を浮かべながら言った。
「だって……今日は満月だから」
「え?」
「じゃ、あたしもいこっかな。……じゃ、がんばってね」
ぽんと肩を叩いて、久美子は飯坂君と一緒に歩いていっちゃった。
はあ……。
あう、こんなとこでぼーっとしてるわけにはいかないぞ!!
「か、春日君!」
あっけに取られてる春日君に声をかけると、びっくりしたようにあたしを見た。
「え、あ、ゆ、由布ちゃん!?」
「そ、そそ……ど、どうかな、この水着?」
「う、うん……とってもよく似合うよ」
春日君は、なんか恥ずかしそうに言ってくれた。そうされると、なんだかこっちまで恥ずかしくなってくる……うう、照れるよ〜。
あたしが選んだのはワンピース。ちょっとだけハイレグかなぁ?大して派手じゃないけど。でもね、色は白なんだ〜……って、透けるわけじゃないんだけどさ、いまどき。
「よかった……春日君、気に入ってくれて……」
「ほんと、綺麗だから……」
あうう、二人してこっぱずかしいよ〜。
「あ、その……このままじゃなんだから、泳ぎに行こうよ。みんな、行っちゃったし……」
「う、うん。行こう!」
ようやく堅さの取れた笑顔ができるようになって、あたしたちは連れだってみんなの待つ浜辺へと歩き出した。
あたしと春日君が海辺近くまで行くと、和広君と飯坂君がなにやらネットを張っていた。
「なにしてるの?」
そう聞くと、飯坂君が振り返って答えてくれた。
「ああ、ビーチバレー用のネット張りさ。泳ぐだけじゃ能がないからな〜」
なんかうれしそうに言う飯坂君。そういえば、いつもは気難しい顔してるけど、今日は明るい顔してるなあ。
ううむ、それにすごい筋肉〜。なにかスポーツやってるのかな?
「あとでみんなでやろうね」
和広君が笑って言う。
「うん。でもまずは海だよね!」
「もうみんな泳いでるよ」
和広君の言葉通り、もうみどりたちが海に入って遊んでる。
「うん、じゃあ行ってくるね!」
あたしは春日君と一緒にみんなのとこに走っていった。
「由布!おっそいぞ〜!!」
みどりが手を上げて叫ぶ。
「ごめんごめん!」
「そ〜れ〜に〜」
「きゃっ!」
「由布ちゃん!?」
みどりがいきなりあたしの腕を掴んで、頭から海に突っ込んだ!
「げほげほ……いっきなしなにすんのよ!!」
「一人だけ彼氏と一緒なんてずるいぞ〜!」
「へっ?!」
「えっ!?」
にやにやしながらあたしと春日君を見るみどり。あたしたちは赤面したまま硬直状態。
「二人っきりにしたげるからさ、あたしたちの邪魔、しないでよね!」
そう一方的にみどりは言うと、沙織と久美子と一緒に和広君たちのとこに行って、ビーチバレーを始めちゃった。
「……」
あっけにとられて、あたしは春日君と顔を見合わせた。
「いくら二人きりっていったって……ねえ?」
「うん……でも……」
春日君は(あ、そういや眼鏡してないや。細くて猫みたいな目……)、ちょっとだけ自信に満ちた声で言った。
「その方がいい。ずっと二人っきりでいたい……」
「春日……君」
見つめ合う二人、風にそよぐ渚、青い空、青い海……ああ。
「お、およご!」
めちゃ照れくさくって、勢い込んで突っかかるようにあたしは叫んだ。
「え?」
「せ、せっかく海だし、泳がなきゃ、ね!?」
顔を真っ赤にして叫ぶあたしを、春日君は怪訝そうに見てたけど、すぐ笑って言った。
「もちろん!」
「うん!」
そうしてあたしたちは沖の方に向かって泳ぎ始めた。
あたしたちが浜辺に戻ってくると、他のみんなはビーチバレーで遊んでた。
今は飯坂君と沙織、和広君と久美子がペアになってプレーしてる。なんか飯坂君、張り切ってるみたいでずばずばスパイクを打ち込んでいる。それをいとも簡単にレシーブする和広君ってなんかかっこいいな……。
「あたしたちもまぜてよ!」
あたしが声をかけると、審判役のみどりは
「いいけど、組み合わせはじゃんけんだからね」
「ええ〜!?」
「平等平等……」
てなわけで、じゃんけん大会に。
「じゃーんけーん……ぽーん!」
グー2、パー2、チョキ3……ということで、グーとパーのペア同士の対戦てことね。
「あ、和広君とペアかぁ」
グー同士のペアってわけだ。
「よろしくね、和広君!」
和広君は自分の出した手をじっと見つめていた。あたしが声をかけると、我に返ったように、びっくりした顔してあたしを見た。
「あ、あ……うん、よろしく」
「?」
対する相手は……あう、みどりと沙織だあ……ああ、にらんでるよ、みどり〜。
「由布〜、許さないからねえ〜!」
「そ、そんなこと言われてもぉ……」
「勝負よ!!」
うわ、目が血走ってるぅ〜。
「さあ、みんなコートに入って」
審判役の久美子が声をかけてきた。
「和広はなんかハンデつけたほうがいいわね」
「そうだな、あいつなら二人を相手にしかねん……どうだ、左足一本てのは?」
そう飯坂君が言うと、和広君肯いて、
「かまわないさ」
お、なんか自信に満ちた声。
「じゃ、プレー開始!ボールはみどり達の方にね」
久美子の掛け声の後、春日君が声をかけてくれた。
「由布ちゃん、がんばって!」
あたしはその声に、にっこりと笑う。
さあ、みどりのサーブで試合開始。
「どりゃあ!!」
ものすごい掛け声と共にみどりがサーブする。まあ、ビーチボールだから大したことは無いんだけど、それにしてはぶっ飛んでくる。ねらいは……あたしだぁあ!
「わわ!」
見込みよりも深いサーブで、躓きながら後ずさる。きたきたきた!
ばふっ!!
やったぁ、受けたぞ!あ、でも方向が変〜!
「由布ちゃん!」
うお?!和広君、左足だけでなんなくそのボールをトスアップしちゃった!
と、見とれてる場合じゃない!スパイクスパイク!
「えいや!!」
おもいっきり跳び上がって、スパイクを打つ!……って、レシーバは沙織だ。
「あ!?」
沙織は転んでボールを受け損なった。つまり……。
「やったぁ!」
あたしたちが一点先取だ!
「やったね、和広君!」
「うん!」
和広君もうれしそうに笑う。あ〜、なんかしあわせって感じ〜。
……はっ!?ものすごい視線を感じる……恐る恐るふりかえると……あうう、みどりの怒りまくった視線が……突き刺さる〜。
「さ、さあ、次行くわよっ!!」
こぶしを握りしめて叫ぶみどり。こりゃ、ただじゃすみそうにないなぁ……。
それからもう大変。むちゃくちゃ気合い入りまくりのみどりは、そこら中走り回って動く動く。おまけにあたしばっかりねらってくるからこっちはへとへと……でも、和広君のサポートがよかったおかげで、なんとかあたしたちの勝ちになった。
「あは、やったね!」
あたしは飛び跳ねながら手を上げた。もう汗だく〜。和広君は息一つ乱さずに、汗もあんまりかかずに、あたしを見て言った。
「うん……やったね」
「あ……」
思わず……和広君の表情に引き込まれそうになった。憂いを含んだとでも言えばいいのか……哀しみの中になにか希望の光をこめている、そんな感じの、訴えかけるような目をして、あたしを見つめていた。
……そ、そんな眼で見ないで……
「由布ちゃん、よかったよ」
固まっているあたしを動かしたのは、春日君の声だった。
「え!?……あ、ああ、春日君」
「結構いい動きしてたよ」
「あ、ありがと……」
春日君のくれたタオルで汗をふきながら和広君の方を見ると、みどりになにやら迫られていた。
「和広君!今度はあたしとペア組もうよ〜!」
「う、うん、僕はかまわないけど……」
「まあまあ、それじゃあ公平じゃないから……」
久美子がなだめているけど、あれじゃおさまりそうにないなあ。沙織は何もできずにおろおろしてる……って、わけでもないか。なにか思い詰めたように和広君を見つめて……あれ?なんであたしを見るの?
あたしが視線を合わせると、沙織は一瞬だけ合わせて、和広君に視線を移した。
うーん、わからないなぁ……一体何がどうなってるっていうの?
なんにせよ、なんか波乱含みな感じがする……みたいな。