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第八話 臨海学校(3)〜ぱじゃまぱーてぃ

キャンプファイアーが終わったのは九時すぎ。でも遊ぶ場所なんてないから、ちょっと散歩したり、お風呂に入ったりなんかして時間をつぶすことになる。まあ、そこでは大したことは起きなかった。

一応十一時消灯ってことになってるので、各自部屋に戻って布団の用意。もちろん女子と男子の部屋は別々。なんかみどりちゃんがぶーたれてたけど、無視する(^^;

一応先生の見回りがあって、いっせいに消灯……となるはずなんだけど、何処の部屋もそうはならなかったらしい。

と、いうわけで。


「じゃ、はじめよっか!」

「お〜!」

どうやって持ち込んだんだか知らないけど、車座になったあたしたちの前には、お菓子やジュース、それに何故か缶ビールまであった。

「しっかし、今日はつまんない日だったなあ」

缶ビールを手にしたみどりちゃんが言う。

「ちょっと、それ呑みながらってのはまずいんじゃないの?」

「いいのいいの、こういうときでないと呑めないじゃないの」

いや、そう言う問題じゃないような気がするんだけど……。

「まあ固いことは言いっこなし!でもさ、由布はいいよねえ。ずっと春日君と一緒だったじゃない。なに話してたのよぉ?」

「ええ!?」

ま、まずい!このままでは洗いざらい白状させられてしまう!

「べ、べつに大したことじゃ……そ、それよりもさあ。友子ちゃんだって由兄と一緒だったじゃない?」

「え?!」

かーっと頬を赤らめる友子ちゃん。うう、ごめんよぉ。

「そうだそうだ!ねね、どんなこと話してたの?」

瞳を輝かせながらみどりちゃんがずずいっと友子ちゃんににじり寄る。

「な、なにって……練習のこととか、陸上競技のこととか、お勉強のこととか……」

「ああ、もう、じれったいなあ!知ってる?由一君って人気すごいんだよ。はやく動かないと取られちゃうよ」

「……そうかな?」

「そうよ!」

ばばーん、と立ち上がりながらみどりちゃん。

「積極的行動あるのみよ!いい、友子?せっかく同じ部活なんだから、もっともっと話すチャンスを作って、自分を印象づけなきゃだめよ!」

「……そ、そう?……あたし、やっぱり印象薄いのかな?」

ちょっとしゅんとなる友子ちゃん。

「あ、いや、そういうわけじゃ……」

「だめよ、みどり、そんな言い方しちゃ」

沙織ちゃんが言った。

「だれもがみんな、あなたみたいに攻撃的にはなれないんだから」

「な、なによぉ、その言い方?別にあたしは和広君をいきなり襲ったりしないわよ!」

「い、いきなり……襲う?」

沙織ちゃんは目を丸くして驚いた。友子ちゃんなんて、口をぽかんと開けちゃってるくらいだし……。

「ちょ、ちょっとそれは飛躍しすぎのような気が……」

あたしがそう言うと、さすがにまずったという顔をした。

「あ、いや、い、いまのは言葉のあやで……と、とにかくよ!」

ぐっとこぶしを握り込んでみどりちゃんは力説する。

「自分の良さを積極的にアピールするの!たとえば友子ちゃんの場合は、やっぱ足よね」

「あし……?」

「そ!走って走って走りまくる!すごいんでしょ、友子ちゃんって?本見たもん。レコードブレイカーだって書いてあったよ。そこんとこ、利用しなくちゃだめだよ。でも、ちゃんと練習しないとだめだろうけどさ。その点、由一君も同じ陸上部なんだし、練習一緒にできるじゃない?まさに一石二鳥じゃない。だから、がんばんなよ!」

「は……はい」

一気にまくし立てるみどりちゃんにあっとされたように、気の抜けた返事をする友子ちゃん。でも、なんだか表情が輝いて見えるのは気のせいなのかな?

「そんでもって由布はねえ、絵しかないでしょう」

「あ、あたし?」

いきなりふられてあわくった。

「そ!彼のポートレートでも描いてみたら?それとも彼の家に行ってお花でも描いたらどう?どっちにしても、そばに立ってるだけじゃだめだと思うよぉ〜」

う……た、確かに。さっきまではそばにいただけでうれしかったけど……やっぱりそれだけじゃねえ……。

「沙織はやっぱり文才を活かすべきよね」

今度は沙織ちゃんの番らしい。

「せっかく和広君のおかげで文芸部に入ったんだしさ」

「へえ〜、そうなんだ」

「べ、べつにそういうわけじゃ……」

沙織ちゃんは顔を赤らめながら言う。

「またまた〜。でもさ、沙織は詩を書くのがうまいんだから、和広君のこととか自分のこととか書いて見せるのよ。……でも、あんまりされたら、あたしが困っちゃうけどね」

ぺろっと舌を出しながらみどりちゃん。

「みどりちゃんはどうするつもりなの?」

「あたしは、もち、この口車……じゃなかった、軽快なトークで、彼のハートをがっちりキャッチ!てね」

そういってウィンクするみどりちゃんって、ほんと格好いいなあ。

「でも、一番の謎は……久美子よね」

そう言ってみどりちゃんが見る先に、小首をかしげて彼女を見る久美子ちゃんがいた。

「わたし?」

「そう……で、どっちが本命なわけ?和広君と飯坂君の?」

みどりちゃんの鋭い視線を、久美子ちゃんはまともに受けた。でも、彼女は無言でみどりちゃんを見つめるだけ。

「ねえ、どうなのよ!?」

「まあまあ、みどりちゃん……。そう言えば、いつも一緒にいるよね?確か中学からの……」

思わず助け船をしまった。

「ええ、同級生よ。和広は一年の時から、始は二年からね」

「いいなあ、久美子は……ずっと一緒で」

珍しくみどりちゃんがため息をつく。

「ねえ、昔の和広君て、どんなだったの?」

「今と大して変ってないわ。自分をアピールすることはしない。物静かで、ちょっと取っつきづらい感じがするけど……とても優しい。あの人は、困っている人を見過ごしてはいられない人なのよ」

沙織ちゃんが肯きながら久美子ちゃんの言葉を聞いていた。さっき言ってた”おかげ”のことを思い返していたんだろうか?

そのあと、久美子ちゃんは呟くようにぽつりと言った。

「でも……自分は関係ないの。自分はその中には入っていない……」

「え……?どういうこと?」

そうあたしが聞き返すと、久美子ちゃんははっとして、気弱な笑みを浮かべた。

「ううん、何でもないの。……気にしないで」

うーん、そうは言ってもなあ……。

「だめねえ、和広の話になると、どうしてもしんみりしちゃって。おもしろみに欠けるのよ、あの人」

「まじめそうだもんねえ」

「でも……そこがまたいいのよ」

うっとりとした目でみどりちゃん。

「そこいらの軽薄な男共とは違う何かを感じちゃうの。絶対なにかあるわ、彼」

「なにかって?」

「それは……まだよくわかんないけど、それを知るためにも、もっと仲よくならなくっちゃね!」

「……確かにそうね。見守ってて上げるわ、天城さん」

すこし考え込むような表情で久美子ちゃんが言った。

「ああ、名前で呼んでよ。なんかへんな感じ。……ん?すると、久美子は飯坂君の方が本命なわけ?」

「さあ……それはどうかしらね」

「ああ、またそうやってごまかす!だめよ、そうやって逃げようとしたって。今夜はとことん話してもらうから!」

……ふう、やれやれ。今晩、荒れそうだなあ。


結局久美子ちゃんは本音を言わず、眠り始める人も出て、自然にパーティはお開きになった。朝はもう大変……部屋はひどいありさまで、片付けるのが一苦労……もう、みどりちゃんたら!

その後は部屋を片づけて、みんなで朝食を取って、宿泊所を引き払って、おしまいだった。その間、何の進展も無し。なんだかつまんなかったけど、ほっとしたような、そんな気分だった。

さて、今度学校に行ったときは、何かが変るのかな?変ると……いいな。





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