のぢしゃ工房 Novels

ナイチンゲールのさえずり

第七章〜Fusion

……ああ……ここはなんて温かいんだろう。なんだか赤ちゃんの頃に戻ったみたいな……お母さんのおなかの中に戻ったみたいな、そんな感じ。

でもねでもね……なんだかだんだん……だんだん冷たくなってくるの……心が、さむくなってくるの。

どんどんふかいところにもぐっていくみたいに……だんだん、だんだん……さむいの。こごえそうなの……くらいの。なにもみえないの……こわいの……こわい。

くらいくらい、そのまたくらい、そのおくふかくにみえるの……かんじるの。

くるんだわ、くるんだわ……きてはイケナイもの。かつて共にソンザイしたもの。

それはなに?

それはどこ?

それは……あたし?

そう……あたし。

他の誰のものでもない。あたしの……あたしの……。


……ここは……どこだろう?

まどろみの中から、ゆっくりとみどりは目覚ました。うっすらと目を開けてみるが、まわりは真っ暗で何も見えなかい。

……あたし……確かあの子たちと一緒に転んで、それで気を失って……あぁ?。

みどりは赤ん坊のような姿勢になっているのに気がついた。膝をおりまげ、胸に押しつけるようにして腕は膝をかき抱き、そして両肩を自ら抱き締めるようにして、小さく丸まりながらみどりは漂っていた。

……変な格好……でもなんだかとても落ち着くの……いつまでもこのままでいられたら……いられたら?

……でも……なんであたしはこんなことをしているの?……あたしは絵俐素を……そうよ、絵俐素よ!!

みどりは思い切りよく身体を伸ばす。しかし……。

……!?

なんの手応えも感じなかった!

手を握ってみる……が、握るという行為はできるのだが、手を握った時に感じられる、手のひらに当たる指の感触や、筋肉の伸び縮みが全く感じられないのだ。

……え?え!?

半分パニックに陥りながらも、みどりは身体を動かし続けた。両手両足、腰、首……だが、動かしたことによる反作用や、身体の部分部分がこすれ合うといった実感が、何も感じとれない。

……なによこれ!!??

そして腕が身体をすり抜けるような感触に襲われるに至っては、もはや自らの身体が……物理的実体が消失しつつあることを認めるしかなかった。

『い……い……いやあああああああああああああああああああああああああ!!!!』

音亡き絶叫が、みどりの意識を埋め尽くした。

『いやっ、なによこれ、なによこれ、なによこれーーー!!』

いかに泣き叫ぼうと、嘆こうと、喚こうと、世界は変わらない。

『あたし、なに?!どこにいるのあたし?あたしなぜここにいるの、あたし??……あたしってなに??』

ついに身体を動かしているという感覚すら薄れてきた。自分の輪郭というものが崩れていく……。

『……なんか……スープの中でだしをとられてるみたい……ああ、なにもかもがごっちゃになって……もうどうでもいい……もう、終わりなのかな?……あたし、おしまいなのかな?あたしは……もうどうなっても……』

周囲の暗黒に意識までも侵食されかけたその時……みどりを包み込むように“声”がした。

……しっかりして。あなたがそれでどうするの?

『……だれよぉ?ほっといてよ、もう……』

……あなたはなぜここまで来たの?

『なぜって……どうでもいいじゃない、そんなこと……』

……よくないわ。そのために、あなたの今の姿があるのよ?

『だから……どうでもいいのよ、そんなことは……』

……ほんとうにいいの?なにもかもなくなるのよ?

『……なにもかも?』

……そう。未来はおろか、今日も……そして過去すらも。自分の存在全てが消えうせてしまうのよ?誰も覚えていない、自分が生きたという痕跡すら残らない……それでもいいの?

『……そ、そう、いいのよ』

……ほんとうに?

『本当に!!本当に……いいのよ……』

……絵俐素は……彼女はどうするの?

『……絵俐素?』

……そうよ。あなたはそれでいいかもしれない……でも彼女は?彼女もそうなってかまわないの?

『絵俐素があたしとおんなじ……あたしとおなじ?』

……そうよ。もうまもなく、それがはじまるわ。この世の全てを巻き込んでね。でも……それも、どうでもいいんでしょ?

『絵俐素が……いなくなるの?』

……そうよ。今のあなたと同じように……それでも、いいんでしょ?

『絵俐素が消えてなくなる……いなくなっちゃうの……?』

……いたのだという記憶すら無くなるわ。それでも、いいんでしょ?

『誰も覚えてないの……?』

……そうよ。彼女の存在、彼女の残したもの全てが消えうせる。それでも、いいんでしょ?

『残したもの……小説も?』

……そうよ。すべて、と言ったでしょう?それでも、いいんでしょ?

『小説……絵俐素の大切なもの……無くなるの……?』

……それでもいいんでしょ?

『絵俐素も消えて無くなる……』

……それでもいいんでしょ?

『あたしも消えてなくなる……』

……それでもいいんでしょ?

『みんな……みんないなくなるの?』

……それでもいいんでしょ?

『そう、それでも……それでも……』

……それでもいいんでしょ?

『……いい……』

……それでもいいんでしょ?

『いいわけないわ!!』

………………。

『いいわけないわよ!!だって……だってあたし、まだ何もしていない!何も伝えてない!何も残してない!……あたしはまだいい!!でも絵俐素は……絵俐素には夢があるもの。まだ叶えてない夢が……そうよ、絵俐素には夢を叶えるだけの力がある。それがこんなところで朽ち果てるなんて……こんなところ?……ここはどこ?あたしはいったいなにを……そうだ。絵俐素を助けようとして、双子と絡んで気を失って……そうよ、こんなところで立ち止まってなんかいられない!絵俐素を……絵俐素を助けるのよ!そのためにあたしはここにいるんだ!!』

そうみどりが自分を取り戻した瞬間、世界が生まれた。

ひかり、あれ。


みどりはゆっくりと目を開いた。以前テレビで見たダイビングのワンシーンのような、青い光が揺らめく空間が目の前に広がっていた。

「……ここは……海の……中?……あ」

いつのまにか全ての感覚が戻っていることをみどりは気がついた。依然として波間に漂うような浮遊感に包まれていたが、さっきまで暗黒の中で感じていた、溶け出してしまうような恐怖感は無い。

みどりはふと手を見た。さっき程の驚きは無かったが、それは実に奇妙極まりない光景だった。

「なによこれ!?……光ってる?あたしの全身……?!」

一時は消え失せるかとも思えた身体が、今度は白色の光の塊となって存在していた。多少輪郭がぼやけているが、普段通り動くし、ちゃんと動く感覚もあった。

「それにあたし……もしかして裸!?」

「案外時間がかかったわね」

その時背後から知った声がした。にくったらしい声。

勢いよく振り返ると、そこには乙夜の制服である紺のブレザーに緑色のタイ、グレーのフレアスカート姿の由莉と由魅がいた。

「あ、あんたたち、その格好!?そ、それにあたしはいったい……」

「落ち着いて、もう大丈夫だから」

由魅の静かな口調に、みどりはなんとか平静を取り戻した。

「ほ、ほんとに?な、ならいいけど……」

「それにしても……よく残ったわね」

由莉がじろじろとみどりを見回した。

「訓練も無しに、自我障壁をむき出しにされて……」

「今はそんなこと話している暇はないわ」

珍しくきつい口調で由莉を沈黙させると、由魅はみどりに向かって言った。

「いい?いつも毎朝、鏡の前で髪をとかしたり、服装をチェックしたりするでしょう?」

「え?う、うん……」

「その時の自分の姿を思い出してみて」

「自分の……姿?」

「そうよ。毎朝見ているから、覚えているでしょう?」

「う、うん……」

みどりは目を閉じて、今日の朝やってきたはずのことを思い返した。

……確か今朝は、みんなで一緒にお弁当食べようと思ってたから、特に念入りに……。

すると一瞬体全体が熱くなってきて、すぐ元に戻った。

目を開けて身体を見回してみると、いつもの制服を着た自分がいるのが見えた。

「元に戻ったの?!」

「いいえ……それはこの空間でのかりそめの姿。物理的な実体ではないわ」

「かりそめ?」

「ごめんなさい……時間がないの」

みどりの疑問に答えずに、由魅は足元を見つめた。みどりもならって下を見ると、そこには底無しの沼のような、闇く澱んだようなものが、深みで揺らいでいるのが見えた。

「なに……これ?あたしたち、宙に浮いているわけ?!」

「単にそう見えているだけ。それ以上の意味はないわ」

由莉はそう言って下を向くと、どういう理屈からか、そのままゆっくりと下の方に沈んでいった。

「え?!」

慌てるみどりを、下から見上げた由莉が言った。

「さあ、行くわよ。時間は貴重なんだから」

「そうね……」

由魅はみどりをじっと見つめると、重々しく口を開く。

「あたしたちには、これからしなくてはいけないことがあるの」

「しなくてはいけないこと……?絵俐素をどうかするつもり!?」

みどりは由魅を睨み付けた。だがそれにひるむでもなく、由魅は淡々と話しかけた。

「救おうとしているのは確かよ。それだけは信じて。でも……それがあなたの望むものと同じものとは限らないわ」

「あたしの望む結果……?」

「そう……すべては彼女の望みのままに……じゃあ、行きましょうか」

「え?」

「“彼女”のもとへ……そのためにあなたはここにいるのでしょう?」

無言で肯くみどりに由魅は肯き返すと、みどりの両の手をとって言った。

「希望は捨てないで」

「……!?う、うん……」

そうして二人は由莉と同じく、下へ、下へと下降を始めた。深く、もっと深く……。


「でも……こんなの初めてだわ」

青というよりは藍色に近い光の中を、下降を続けながら由莉がつぶやいた。そのそばには同じく下降中の由魅とみどりがいる。

「もう末期のはずなのに……まだ表層部を維持できてるなんて……」

「そうね……だからこそ選ばれたとも言えるのかも……」

「ちょっと……もっとわかるように言ってくれない?それに……もう隠さなくったっていいでしょ?いったい何が起っているの?」

いい加減わけのわからないことに焦れたみどりは、由魅の袖を引っ張って聞いた。

「言うことないわ、この子には関係ない」

由莉が突き放すように言うと、みどりは大声で言い返した。

「なによ!?関係ないことなんてないわよ!絵俐素はあたしの大事な友達だし、第一こんなことになって困ってるんだから!」

「だから何よ!勝手に巻き込まれたんじゃない!由魅、どうしてさっき帰さなかったのよ?!」

矛先を向けられた由魅は、首を横に振って答えた。

「だめなの……できないのよ」

「どうして?!」

「彼女の意思が強すぎるのよ」

「まさかそんな!?」

信じられないと言った表情でみどりを見つめる由莉。

「な、なによ……?」

「……」

しかし由莉はそれ以上何も言わずに、ぷいと視線を外してしまう。

しばらく三人は黙り込んでいたが、やがて由魅が静かに語り出した。

「今から十数年前のことよ……」

「う、うん……」

「ヨーロッパの少年少女たちが、突然死亡する事件が続発したの」

「え?!まさか今回みたいに?」

「その通りよ。前途洋々たる十三才から十八才までの……比率的には女の方が多かったのだけれど……大勢の子供が死んだの。でも、特別異常な死に方ではなかったし、初めは誰もその関連性を指摘しなかった。でも……それに気がついた人がいたの」

「誰なの、それ?」

「それは言えないの、ごめんなさい」

「そ、そうなんだ……で、その人は何に気がついたの?」

「あなたは……犠牲者が個人的に強い繋がりがることに気がついた……そうよね?」

「え、ええ……でもなんでそれを知ってるの?」

「蛇の道は蛇って言うでしょ?」

由魅がウインクする。

「そんなぁ……」

「ほんとは……隆があなたをマークしてて、図書館でのあなたの行動を見ていたの……後はその状況からの推理ね」

「あんにゃろ……」

「隆のことは怒らないで。彼はそういうのが……ああ、今はいいわね、こんな話は」

由魅はちょっとだけ難しい顔をして、話を続けた。

「それで、昔もあなたのような調査をして、その関連性に気がついたそうよ」

「へえ……」

「その原因を突き止めるまでに、更に多くの人間が死んだわ。でも、なんとかその原因を突き止めることができたの。そしてその対処方法も……」

「原因って?!」

勢い込んで身を乗り出すみどりに、由魅はゆっくりと首を振りながら言った。

「それは……いずれわかるわ」

「そんな!もったいぶらないで教えてよ!」

苛立つみどりに、由魅は静かに言った。

「もったいぶってるわけじゃないわ……実際に見てもらった方が理解しやすいと思うから。というより、言葉では伝えられない……感じてもらうしかないと……そう思うから……」

「感じる……?なによそれ?」

「言葉通りの意味よ……我々が相手にするもの……それはそういう存在なのよ」

由魅は暗い表情でつぶやくように言った。

それはみどりにはまるで空をつかむような話に思えた。まるで要領を得ない。

「そんなこと言われても……」

「もうすぐよ……じきにわかるわ」

由魅は暗く思い詰めたような表情で言った。

「これでも昔よりはましなのよ……昔はなにもかもが手探りで、犠牲も多かったというわ」

「犠牲って……死んだの?」

「ええ……大勢ね。救う側も救われる側も大勢死んだ……だからあたしたちの先輩は死神扱いされて……半ば自嘲気味に、自分たちのことをナイチンゲールと呼んだそうよ」

「ナイチンゲール……?看護婦さんの?なんで?看護婦さんだったら……」

「違うのよ」

ちょっとだけ微笑んで、由魅は言った。

「ナイチンゲールはヨーロッパにいる鳥の名前。とっても美しい声で鳴くそうよ。特に夜にね。でも……」

「でも?」

「ある伝説があってね……病人のいる家の軒先で鳴く時は、決まって翌朝にはその病人は死んでしまうんだって……」

そう言う由魅の目は、遙か遠くを見つめるようだった。

「そして、私達が犠牲者の前に現れた頃には既に手遅れで……ほとんどの人が死んでしまう……だから死告げ鳥なの、あたしたちは」

「死告げ鳥……」

みどりは不安そうな表情で由魅を見つめた。

「ああ、でもそれは昔の話よ」

その視線に気づいたのか、その不安を打ち消すように、由魅は思いっ切り明るく言った。

「だめね……今そんな話をしている場合じゃないのに……」

「う、うん、そうだよ……」

みどりは作り笑いでそれに答えた。

……そうよ……絶対助けるんだから……。

「とにかく……」

由魅は表情を引き締めて話を続けた。

「敵の正体はわかったのだけど……それは、単なる始まりだったの……前触れに過ぎなかったのよ……」

「前触れって……まだなにかいるの!?」

「そう……すべてはそこから始まるの……すべては……」

由魅は気持ち悪そうに目をつぶった。

「すべてって……いったい何が起るって言うの!?」

「それは……」

みどりの問いに由魅が答えようとした時、由莉が二人に声をかけた。

「さあついた。仕事始めるよ」

みどりは由莉の指し示す方向、足元の方を見た。

「……なによ、これ?」

その異様な光景に、みどりはうめく。

そこには、赤黒い地面のようなものが広がっていた。それはどこまで行っても続いているように見える。そしてその表面はごつごつとした感じで、なにやらうねるように、地面全体が蠢いていた。

その異様な状況に、みどりはただ途方にくれるしかなかった。

そんなみどりをよそに、由莉と由魅は状況を冷静に確認していた。

「これが彼女の“シェル”?!なんでこんなに状態がいいの?なにも影響を受けてないみたいじゃない!」

「そう見えるわね……すごい……でも、やはり……」

“シェル”と呼ばれたその地面のようなもの……それは微妙な収縮を繰り返しつつ、その色合いをより深くしていった。それに合わせるようにして、周囲の明るさも暗くなっていくのにみどりは気づいた。ただどういう理屈からか、由莉と由魅の姿も見えるし、地面?もちゃんと見える。

「なにこれ……生き物みたい……いったい何なの?」

うめくようにみどりが言うと、由莉が事も無げに言った。

「あれが深層意識の壁……まあ、いわゆる心の壁ってやつね」

「心の……壁?」

「そう。人の心はおおざっぱに言って、表層意識と深層意識に別れているわ。その境目が、今見えているものよ」

由魅が相変わらず冷静な声で言った。

「あれが……でも、これからどうするの?」

みどりがそういうと、由莉がふふんと鼻を鳴らし、腰に手を当てながら言った。

「ここは、このあたしの出番だわね」

「手順はいつも通り?」

「そ」

由魅の声に軽く答えて、由莉は地面に近づいた。そしてなにやらつぶやき始めた。

『壁を打ち破る力……力……我が手に宿りて、その様を示せ……』

低く、うめくような声。

次の瞬間、由莉の手が閃光を放った。

「うあ?!」

みどりは腕で目を覆ったが、それでも眩しくてしばらく目を開けられなかった。

目の痛みが無くなってから腕を下げたみどりは、由莉を見て我が目を疑った。

「な……な、な、なによそれ!?」

「なにがよ?」

「そ、そ、その手に持っているのはいったいなんなよ!?」

由莉の姿に変化はなかったが、どこから持ってきたのか、いつのまにやら削岩機としか見えないものが彼女の手に握られていた。

「削岩機よ。見てわかんないの?」

露骨に馬鹿にしたように言う由莉に、みどりは反論することもできずに、呆然としてそれを見つめていた。

「ここは、想像の海の中だから……」

由魅が言い聞かせるように言った。

「いかようにも世界を象ることができるわ……こんなふうに……」

途端、由魅の全身が光り始めた。光の人型となった由魅の身体は、一瞬にして光の球となって宙を自由自在に飛びまわったかと思うと、次の瞬間には拡大縮小を繰り返し、やがて空中で静止すると、なにやら四つ足の動物のような形に変わっていった。

それは猫のようだった。地面に寝そべってこちらの方を伺うかのように、首を曲げてみどりの方を向いた。ただ白いだけだった身体に色がつきはじめ、模様がはっきりしてくる。虎猫らしく、黄色地に濃い茶色のストライプ、そして身体の割りには大きな頭に、大きく見開かれた目、そして大きな口……口の端が奇妙にねじ曲げられている……笑っている?

そして猫はしゃべった。

「見せたいように、ね」

「!?」

「だから、さっきの姿形もかりそめのものに過ぎないの。あたしがそう見せたかっただけ。ここではなにをするのも自由……心の思うがまま。地平線無き、果て無き空間……」

そう言って、猫は一瞬にして元の由魅の姿に戻った。

「そして、無から有を創造することもできるわ……さっきの由莉のようにね」

「ああ、もう!能書きはいいから……やるわよ」

削岩機を地面に押し当てながら、由莉は言った。

「ど、どうするつもり!?」

「決まってるじゃない……壁を崩すのよ」

「崩すって……」

「そ〜れっと!」

由莉はみどりにかまわず、削岩機のスイッチを入れようとする。

……崩すって……まさか……まさか壊すつもりなの!?

「だ、だめえっ!!」

「ああっ!?」

みどりはものすごい勢いで由莉に飛びつき、削岩機を吹き飛ばした。途端削岩機は光のかけらとなって砕け散る。

「ちょっと、何するのよ!?せっかく出したのに!」

「だめ!絵俐素になんてことすんのよ!?」

肩で息をしながら、みどりは由莉を睨み付けた。

「なんてことって……こうでもしなきゃ、この子が危ないの!あたしたちだってね!」

由莉も負けずににらみ返す。その言葉の激しさにみどりは息を飲んだ。

「あんた、今何が起っているのかわからずにいちいちつっかかってくんじゃないわよ!この向こうに行かなきゃどうにもできないのよ!!そして……今のあたしたちには力任せにここを突破するしか方法がないのよ!!」

なんとも言えない静寂が辺りを覆い尽くす。

そののしかかるような沈黙を打ち破ったのは、みどりだった。

「でも……でも、たとえそうでも、そんなのいやよ!ねえ、他に方法はないの?」

由魅の方にすがるような視線を送るみどりに、由莉はあざけりの表情を向ける。

しかし……。

「……無いわけじゃないわ」

「え!?」

「由魅!!」

由魅の言葉に、みどりは希望の、由莉は恐れの声を上げた。

「由魅!あの方法はまだ訓練中で完璧じゃないのよ!?今そんなリスクを負うわけにはいかないわよ!」

しかし、みどりは決然とした表情で言った。

「お願い!方法があるんだったら……あたしにやらせて!!」

「あんたなんかにできるわけないでしょ!訓練も受けてないのに!大体それだって上手くいくかは……」

「でも絵俐素の心を切り刻むよりはましよ!……おねがい、やらせて」

由魅はみどりの目をまっすぐ見つめた。とても澄んだ綺麗な目……その目を真っ向から受け止めると、由魅は自らも決意するように肯いて言った。

「……わかったわ」

「ちょっと、由魅!!」

「あ、ありがとう!」

「ただし……失敗すれば、由莉の方法に切り替える……それでいいわね?」

「う、うん!」

喜色満面のみどりに対して、由莉は不満一杯の表情で言った。

「由魅!いったいどうやるつもりよ?訓練も受けたことのないあいつに、どうやってあの方法を……それに、融合作用が暴走すればあの子だって……」

「心配しているの?」

由魅が微妙な笑みを浮かべながら由莉に聞いた。

「べ、別に……あ、あたしはただ、あたしたちまで巻き添えを食いたくないから……」

目をそらしながら言う由莉に、由魅は笑みを消して言った。

「私がサポートするわ……みどりさんと一緒に融合する」

「な、なんですって!?」

由莉は由魅につかみかかりながら叫んだ。

「そんな無茶な!由魅までだめになったらどうするつもりなの!?だめ!絶対だめ!!」

「だけど……みどりさんだけでは無理だわ」

「だからって!共倒れになったらどうするのよ!?」

「その時は……由莉だけでも行って」

「ばか言ってんじゃないわよ!!あたし一人でできるわけないじゃない!だめよ、止めるべきだわ。危険過ぎる!!」

「でもね、由莉……」

双子の会話を恐れるように聞くみどりに、ちらっと視線を向けつつ由魅は言った。

「あたし、みどりさんの気持ち……よくわかるの。誰だって心を傷つけられたくない……それなのに、いくらそうしないといけないからって、他人の心を傷つけたりするのは、つらいことだもの……ましてそれがよく知った人間だったら……普通ならできないわ。それにもう……」

とても哀しそうに沈黙する由魅を、由莉も同じ表情で見つめていた。

「だから……今はがんばってみたいの」

しばらく由魅を睨み付けていた由莉だったが、やがてため息をつきながら言った。

「……わかった。わかったわよ!でも危なかったら無理にでも引き離すわよ!いいわね?」

「うん……ありがとう、由莉」

みどりには二人の言葉を全然理解できなかった。だが、どうやら自分の申し出が認められたことだけはわかった。

「じゃあ、みどりさん、準備はいい?」

「は、はい!」

「じゃあこっちに来て」

由魅はみどりを地面近くまで呼ぶと、みどりの両手をそこに触れさせた。こんにゃくにでも触ったような、ぶよぶよした感じがする。

「いい?これは“シェル”を破壊せずに、内部に浸透する方法なの。そのためには、この“シェル”……絵俐素さんの心に“融合”しなければいけないの」

「絵俐素の心に融合する?」

また訳の分からない言葉。

「あの子と……一緒になるの?」

「そうね……心を融合させる……一つになるの。それ故に危険な方法よ。なぜなら……自分を見失ってしまうから」

「自分を見失う……?」

「そう……当然よね。融合する、とは取り込まれることと同じだもの」

「取り込まれるって……まさかここもそうなの!?あたしたちがいるのって、絵俐素の心の中なんでしょう!?」

みどりは不安そうに辺りを見回しながら言った。

だが、由魅は相変わらず落ち着いた口調で言った。

「確かにここは彼女の心の中だけど……今ここにいるくらいは、大丈夫」

「ほんとに?」

「ええ……今あたしたちがいるのは、彼女の心の表層意識の中なの。ここには彼女の知っているいろんな人のイメージが含まれている……だから、それにまぎれて自分を保っていられるわ」

由魅は一瞬体を震わせると、言葉を続けた。

「そう……ここには、ね……本当の自分はいないの。いろんな自分がいるの。他人と自分を分け隔てるもののない、混沌とした世界……本当の自分は、この向こう側にいるの。たった一つの自分……かけがえのない自分がいるの。今絵俐素さんは……その殻の中に閉じこもっている……でもそれじゃいけないの。このままじゃいけないの……」

深く考え込むような表情の由魅に、みどりはひどく引きつけられた。

……なにが気になってるんだろう……?

「ああ……じゃあ、始めましょうか」

由魅の言葉に、みどりは力強く肯いた。

「といっても、それほど複雑なことをするわけじゃないの。ただ……絵俐素さんのことを考えて……心の奥底から、彼女になりきるくらいに……」

「絵俐素に、なりきる……」

「そう……でもね、それで自分を見失ってはだめよ?それだけは忘れないで……」

「う、うん……やってみる」

「では……目をつぶって」

由魅の指示に従って、みどりは目を閉じた。思わず手に力が入る。それを解きほぐすかのように、由魅はその上に自分の手のひらを重ねた。

融合が、始まるのだ。


……絵俐素。答えて絵俐素。あたしをあなたの所へ連れていって……なにに怖がっているの?なににおびえているの?

……だ、だめだ。こんなんじゃ、だめだ。もっと絵俐素の心に近づかなければ……。

……近づく……心を一つにする……心を合わせる……合気道と同じ?……自然の流れに……宇宙の流れ……絵俐素の心の流れに……ああ、落ちていく……底へ……。

……思い返すんだ……絵俐素の姿、しぐさ、表情……絵俐素のすべてを……絵俐素……。

……絵俐素の悩みごとってことは、小説のことよね、やっぱり……投稿作品がうまくできないとか……ううん、それくらいでめげるあの子じゃない……自信喪失?でも……でも、やっぱり考えられない。あの子は、そのくらいでへこたれたりはしない。これまで何度も落ちたけど、そのつど立ち直ってきたんだもの。きっとそう……。

……でも本当にそう?あたしの思い違いじゃない?今度こそ本当にだめなのかも……立ち直れないくらいに……ほんとに嫌になったのかも?小説を……そして、自分を?

……あ、でも変だ、違う。だって……直前まで小説書いてたのよ?それに、完成したって言ってたじゃない……疲れてはいたけど、すっきりとした顔で……。

……なにを、見落としているの……?

……絵俐素は小説を書いていた。これは間違いない。えっと、何書いてたんだっけ?……そうそう、シミュレーション小説だかなんだか……あれ?あれれ?……昨日あたしが見たのは……ホラー小説……頼まれ仕事だっていってた……頼まれ?……そうだ、頼まれてたのができたとか朝言ってたんだから……それは問題じゃないのかな……。

……じゃあやっぱり元々考えていた方のことなんだろうか……でもそれって……いままでずっと悩んできたことで……これから本腰入れて考えるんじゃないの?

……いや……だからこそかも……でも待てよ……頼み事が終わったのが今朝……絶望するほど悩むほど時間があったのかな?……いや……依頼を受ける前から悩んでたんだから、時間は問題じゃないのか……でも……そんなに悩んでるんだったら……なんで依頼なんか受けたの?単なる気晴らし?……ううん、あの子はいいかげんなことはしない。そんな時に、他のこと考えるほど器用じゃない……だとすると……問題はその依頼の話?

……あ……そう言えば昨日……あたしがその小説のこと聞いた時……なんか妙に暗かったっけ……いったいどういう依頼だったんだろう……作品はいつもの絵俐素の書く話じゃなかった……それにあの態度……嫌な依頼だったの?でもそれならなんで受けたの?

……大体小説の依頼なら、絵俐素が喜ばないわけないじゃない。たとえそれがどんな小さな依頼でも、なにかのきっかけになるはずだから。

……嫌でも受けなければならなかった依頼……受けたかった依頼……それも自らの心を閉ざしてしまうような……自分を……どんな自分を?……小説家としての自分を?

……それってもしかして……ゴーストライターかな?要するに代筆……でも小説のゴーストライターってなんだか変……変だけど、でも……なにか……なにか引っかかる……。

……ゴーストライターなら……作家としての絵俐素は存在しないわけだから、プライドが傷つくってことはあるかもしれない……でも、それならなんでそんな依頼を受けるの?報酬がいい?ううん、そんなことじゃ絵俐素は納得しないはず……もっと別のことだ。

……絵俐素が一番悩んでたことってなんだろう?小説の出来?……確かに悩みそうだけど……自分に心を閉ざすほどのことなんだろうか?

……なにか違う気がする……落ち込むくらいはするだろうけど、自分の殻に閉じこもってしまうなんて……そんなこと、やっぱり考えられない……。

……小説の出来じゃないとすると……なんだろう?一番悩んでいたこと……一番苦しんでいたこと……それは……みんなに認められないこと?

……これだ!つい最近そんなこと言ってたじゃない!なんで……なんで気がつかなかったんだろう……あたしはずっとそのことを知っていたはずなのに……。

……でもそれが、どう依頼の話と関係してくるの?

……みんなに認められること……小説家としてのデビュー……ゴーストライターの依頼……代筆?代筆ってことは……書いてもらいたい人物が他にいるってこと?絵俐素がそれを書くことで、いったい何のメリットがあるっていうの?報酬なんてあの子には無意味なのよ?……あ、いや、金銭的報酬は無意味ってことで……何らかの報酬……見返りがあったはずよね?……見返り?

……好きでもない依頼を受けてまで……本当に書きたいものをほったらかしにしてまで、欲しかったもの……それは……。

……まさか絵俐素、あんた……あんたまさか……デビューの見返りに依頼を受けたの!?自分のプライドを傷つけてまで……自分の心を殺してまでも?!

……そんなにしてまで、みんなに認められたかったの、絵俐素?お願い、答えて……!

その時、間髪入れず聞こえてきたその声は、絵俐素の声とも思われないような、地獄の底から聞こえてくるにふさわしいものだった。

『来ちゃだめよ……』

……絵俐素!?絵俐素なの!?

『これ以上……来てはいけない……来ないで、みどり……』

……絵俐素!なに言ってるの?絵俐素こそ、そこから出てきて!!

『できない……できないの……』

……どうして!?

『だめなの……もうだめなのよ……』

……なにがだめだっていうの?!まだだめじゃないわ!今そこに行くから、早くこっちへ来て!

『だめだよ……今のあたしは……もうあたしじゃないんだから……』

……どういうこと!?

『もうだめなの……だから……ああ……』

……絵俐素、絵俐素、絵俐素!!

『だから……』

突然声の雰囲気が変わった。それは絵俐素の声であって、絵俐素の声ではなかった。腹の底から響いてくるような、深いところから沸き上がってくるような、陰鬱とした声でそれは言った。

『だからあたしと一緒に来て』

突然、みどりは下に引きずりこまれるような感覚に襲われた。

……なにこれ!?絵俐素!絵俐素!

『ここに来るって言ってたじゃない……』

あざけるような、絵俐素の声。

『だからわざわざ招待してあげようとしているのに……どうしてそんなに嫌がるの?』

……そうだけど!これは違う!……あんた絵俐素じゃない!あんたいったいだれよ!?

『……いいじゃない、そんなこと……どうせ、なにも夢のない……したいことがなにも無いあなたには……』

……そ、そんな!?あたしにだって……あたしにだって夢くらいあるわ!

『なによ?言ってみなさいよ?』

……そ、それは……。

『ほら、やっぱりなにも無いんじゃない』

……ち、違う!……そ、それは……それは……そ、そうだ!里見さん……里見さんと、一緒にいたい……里見さんに自分を好きになってもらいたい……そう願ってる。夢みてる……。

『そう……それで、なにか努力したの?』

……努力?

『そう、努力よ……自分の気持ちを伝えようとしたの?』

……そ、それは……してるわよ……。

『嘘ね』

……嘘じゃない!いつもお話ししてるもの!

『それで気持ちが伝わると思ってるの?』

……そ、それは……。

『伝わってると思いたいだけでしょ?そしてそれにいつか応えてくれるって……そう勝手に思い込んでいるだけじゃない』

……ち、違うわ!!

『ううん……ぜんぜん、違わない』

……違う……違う、違う、違う!

『……じゃあ、里見さんはあなたの気持ちに応えてくれたの?好きだって言ってくれた?キスしてくれた?優しく抱き締めてくれた?』

……う、そ、それは……な、無い……。

『ほぉらご覧なさい……あなたの気持ちになんて、気づいていないのよ……里見さんは、あなたのことをなんとも思っちゃいないのよ。そうよ、そうなんだわ』

……う、そ、そんな……そんな……なんとも思ってないなんて……そんなこと……そんなことない……。

『でもそうなのよ。なんとも思っていないの。あなたのことなんてね……』

絵俐素の嘲笑が空間を震わせる。

『でも、それを変えることができるなら……どうする?』

……変えることができる……?

『そう……あの人を……里見さんを自分のものにできるとしたら?』

……里見さんを……あたしのものに……?

『そう……里見さんを自由にできるのよ?あなたの望んだ通りに……そうしたいでしょ?』

……里見さんを自由に……望んだままにできる……。

『里見さんを、あなたのものにしたいでしょ?』

……う……うう……。

『……欲しいんでしょ?』

……うう……う……うん……うん、欲しい……里見さんが欲しい……。

『だったら、こっちに……あたしの所に来て……そうすれば望みはかなう。里見さんはあなたのものになるの……』

……里見さんがあたしのものに……里見さんが……ああ……。

みどりは意識が遠のくのを感じていた。なにもかもがとろけてしまうような、そんな感覚に身をゆだねながら……。

……里見さん……あたし……あたしは……。


……由魅の言いなりになるんじゃなかった。全然訓練受けてない奴を“シェル”に取りつかせたって……ろくなことになるわけない。

由莉は今更ながら後悔していた。

状況に変化はない。みどりの手のひらは“シェル”に張りついたまま全く動かない。なのに時間だけが過ぎていく。貴重な時間が。

由莉はいらだっていた。既に彼女の肩にはバズーカ砲が載せられ、その筒先はまっすぐ“シェル”に向けられていた。

「由魅!もう待てないわよ!」

「まだ……まだ、だめ……今接触を始めたところなのよ……」

「だからって、もう時間が……早く処理しないと、みんな共倒れよ!」

「だめ……よ」

「由魅!!」

その時、“シェル”に変化が現れた。みどりの手のひらの下の赤黒い部分が急速に明るくなり、そしてみどりの手が“シェル”にめりこみ始めたのだ。

「……!?これは……」

「成功したの!?」

由莉の声に、由魅は悲鳴にも似た声を上げた。

「だめ、いけない!!」

慌てて由魅がみどりの手を引き戻そうとするが、由魅の手ごと“シェル”の中にめりこんでいく。

「由魅!?」

「みどりさん!自分を見失わないで!ああ、そっち行っちゃだめ!」

「成功したんじゃないの!?だから“シェル”の中に……」

「違うの!自我境界が……みどりさんの自我境界が保たない!取り込まれる!」

「何ですって!?」

「みどりさん、忘れちゃだめ!!何のためにここまで来たの!?」

「由魅、そこをどいて!!」

由莉がバズーカ砲を構えながら叫んだ。

「もうあいつは助からないわ!!やるしかないのよ!!」

「だめ!……見捨てることなんてできない!」

「このままじゃ由魅まで取り込まれる!今なら由魅だけなら助かるわ!だから早く!!」

「だめ!ここで引き下がったらだめ!!もう二度とあんなことは認めない!絶対に認めないわ!」

由魅は燃えるような目で、なかば“シェル”に埋もれたみどりを見つめながら叫んだ。

「みどりさん、思い出しなさい!何のためにここまで来たのか!いったいなにをすべきなのか思い出すのよ!!」


……え!?……いまなにか……なにか聞こえた……?

……なんか……怒ってた……それに……哀しんでいた……。

仰向けになって沈んでいく感覚に包まれながら、みどりは思った。

……でもこの感じ……沈んでいく……前にも同じことがあった……そうだ……初めてこの世界に来た時の……この世界……ああ、絵俐素……そうか……あたし、我を失って……このまま消えちゃうのかな……。

……でもまだ意識は残ってる……ああ、流れを感じる……もっと……もっと深いところへ……深い……絵俐素の所へ……本当の絵俐素の所へ……絵俐素!?

……そうだ……行かなくちゃいけない……絵俐素の所へ……本当の、真実の絵俐素の所へ……行かなくちゃ……そのためにあたしは……。

そうしてみどりは手を差し伸べる……上へ、更に上へと……。


「由魅、早く離れて!!」

由莉の絶叫が辺りに響く。だが由魅は離れようとはしなかった。

「由莉……でも……」

「だめ、もう待てない!!……え!?」

由莉が驚きの声を上げる。

由魅は“シェル”を振り返って、声を失った。

みどりの身体はほとんど“シェル”に埋もれていたが、両方の腕だけがもがくように外に突き出されていたのだ。

「みどりさん!?」

由魅は自分の腕を“シェル”から引き抜くと、突き出されたみどりの腕を掴んだ。

「由莉!早く来て!!」

由魅の呼びかけに、由莉が慌てて彼女のそばに来た。

「いける……準備はいい?」

「も、もちろん!」

「じゃあ……行きましょう!」

由魅はみどりから片腕を離すと、由莉に向かって差し伸べた。その手を由莉が掴むと、二人は目を閉じて共に唱和した。

『……黄昏の闇の中へ、冷たく閉ざされた暗闇を抜けてたどり着くは、混沌の地……一瞬の輝きでもて、汝を照らし出さん!!』

途端、二人の体は白く輝き出した。そしてそれは人の形を失って“シェル”の表面に張りつくようにして広がり、そして更なる輝きを放ったかと思うと、再び周囲は濃い藍色の光で満たされていった……。





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