のぢしゃ工房 Novels

e.e.e.

Layer03:Girl meets Girl

通信終わり、と……さて、もう一度セルフチェックしましょうか。

あたしは今、真っ暗な空間の中に仕事着の姿で漂っていた。あの部屋で入ったポッドの中と同じみたいだけど、ポッドの中を実際に見ているわけじゃない。

今あたしがいるのは、擬似的に作り上げられた電子空間……その中心部だった。レンダリングされているのは、あたしの姿だけというシンプルな構成だけど、システムがフル稼働すればそれこそ世界そのものを表現することも可能だ。いざとなればこの中で生活だって出来る。そのための感覚変換システム、そのための……。

ああ、蘊蓄垂れてる暇はないわね。この暗闇をなんとかしないと。

現在の状況を確認してみる……うわ、これはひどい。

あたしの目の前に浮かんでいる我が社のサイトマップは、まるでイナゴの大群にでもあったようにぼろぼろだった。各サイトは恒星で表現されているのだけれど、ほとんどが危険な状態を示す赤色巨星状態。星々をつなぐ階梯もご同様。唯一無事なのはラッキーとリックのシステムだけど、書込み権限を剥奪されていて、状況はわかっても介入することは出来なくなっていた。まさに、八方ふさがり。

敵は……ふうん、"TOWER"のシステム部分を吸い出しにかかっているのか……でも帯域が確保できなくて時間がかかるようね……すぐ帰る気がないということは、よっぽどこっちをなめてかかってるわね。

いい度胸してるじゃない……このあたしに喧嘩売るなんて。だったら……遠慮すること、ないね。

それでは押さえつけにかかりますか……え?権限も無しにどうするのかって?

ふふん……この世界では、あたしにできないことは無いのだ。たとえ管理者権限を奪われたとしても、あたしにはそんなものは無意味だから……インフィニットOSはあたしのもの……あたし自身なのだ。

とと、能書きはどうでもいいわね。まずは……よっと!

あたしは指をぱちんと鳴らす。真っ暗だった空間が白い光で満たされた……これで"TOWER"システムの制御はあたしの思うがままになった。サイト内を自由にアクセスできるようになる。

では、ご対面と行きますか。

あたしが腕を振ると、目の前に玄関が現れた。なんか昔のコミックみたいだね。

ノブに手をかけてドアをほんの少し開けると、向こうの光景が見えてきた。それは倉庫の中のようで、棚が一杯並んでいた。棚の上にはたたみいわし……じゃなくて、圧縮状態のオブジェクト・フレームワークが綺麗に積み上げられている。

そしてその間に、侵入者の姿が……って……あはははははははは、なにあれー!!ぷっ……うくくくく、あはっははははははっは!……あーあ、涙出てきちゃったよ……ん?涙?……ほう、感覚変換は見事なまでに機能しているようね。

でもねー、だれが見たって大笑い……うぷぷ……だってさー、頭と手しか無いんだもの!そんなのが宙に浮いてる姿だなんて、サイモン教授じゃ無いんだからさ……。

でも……へえ、女の子か……って、この世界じゃいくらでもうそつきになれるからねぇ。ほんとかどうか……。

さて、真打ち登場と行きますか。

ああ、でもこの格好じゃ……一発で正体がばれちゃうわ。他のペルソナにしないと……とくれば、あれしかないわよね。

あたしのもう一つの姿。もう1人の自分……いや、こっちがほんとうの自分かしらね。

ちょいと鼻をひくつかせれば……はいでき上がり!

もう1人のあたし……顔の造りはちょっと幼顔に、身体もこぢんまりとね。そして一番の特徴は……とぐろでも巻いてるような、とっても長いプラチナブロンドの髪……うふふ、久しぶりだな、このスタイル。服もフリフリなドレスだし……こんなの会社の人には見せられないわね。

では、今度こそ本当に行きましょうか!

ファンファーレを鳴り響かせながら、あたしはドアを開けて倉庫の中に足を踏み入れた。

おっ、驚いてる驚いてる。へえ、顔のレンダリングは結構よくできてるわね……でも……うぷぷ……ああ、だめ、もう耐えらんない!

「う……ぷぷぷ……あはは……あははははははははっは……ははっははっは!!」

あたしはお腹を抱えながら、それこそおなかがよじれて千切れるくらいに、笑い続けた。

「あはっ、あははははっ……ふふ……ふふふふふふふ……あはははははは!くーっ、おか、おかしくって……はははっ……げほげほげほ……あー、くるしぃ……」

「な……何がおかしいのよ!?」

侵入者は怒ったように叫ぶ。まあ、そりゃそうよね。馬鹿にされたとわかれば誰だって……ああ、でもその怒った顔がまた……うぷぷ。

「だって……顔と手だけでまぬけなんだもん……あ、また……あははは!」

もう思い出し笑いなんてのはとっくに通りすぎていた。なまじ顔のレンダリングが正確なだけに、よけい滑稽に見えてくるんだもの。

ああ、おなかが痛くなってきた……いかんいかん。

見れば、ハッカーはあたしを睨み付けていた。ふうん……いい面構えだわね。でもまあ、いくらでも外観は作れるからなあ……どこまで信用していいんだか。ちょっと対策考えた方がいいわね。

さて……。

「あらら……どうしてそんな怖い顔してるの?せっかく会えたのに」

すると余計にやぶにらみになってハッカーは言った。

「……あんた、何者?」

「なに……何者?」

うわ、そう来るとは思わなかったわね。

「あなたが先にそんなこと聞くの?なんか順番間違ってなぁい?」

「順番って何よ?あたしが作業してたのに邪魔しないでくれる?」

ほほう。盗っ人猛々しいっていうのはこういうことなのかしらね……ふうん、陰でごそごそやってるな……なるほど時間稼ぎか。するとあたしがなんだかもよく分かってないわね……。ま、ここはつきあってやるか。

「あららら……ここはあたしのものなのに、そういう言われ方、心外だわっ。あなたこそ誰なの?見たところ……」

……ぷっ。いやあ、何度見ても笑えるわねぇ。

「って、顔しかないからわかんないよね」

くくく……。

「し、しかたないでしょ!」

侵入者は顔を紅潮させて怒鳴った。よっぽど気にしてるみたいね。

ふうん……アマチュアってことかな。だとすればよっぽどのすご腕だけど。曲がりなりも感覚変換やってるみたいだし……でも、顔と手だけねえ……もうちょっとからかってあげよっかな?

「しかたない?へえ?その程度でここまで入ってきたの?あははは!!」

お腹を抱えて笑ってみせる。

案の定、悔しそうな顔だ。だけど……そんなのよく見せてるわね。普通ならポーカーフェイスなんだろうけど……調節がうまくいってないのか、それとも……本当にそうなのかしら?

「だからなによ!?じゃあその程度に侵入されてるここって何なの?ふん、インフィニットも大したことないじゃない!」

むかっ……ラッキーのせいでこれだ。一体どうしてこんなことに……む?まさかあいつ……外からなにかしてたな?そうでもなければ穴が空くはずがない。

これで一生ただ働きだねえ……ラッキー・スミス?

「そら、反論できないじゃないの!」

そんな自信満々言われてもねえ……ふうん、いろいろ抵抗しようとしてるみたいね。

「あたしのせいじゃないもん」

ぷんぷん怒ったように言う。まあ、調子を合わせとこう。

「へー、じゃああんたは一体何者?ただのプログラム?」

うーむ、メッセージがびしばし飛んでくる。回収回収……なになに?あー、これはかなり前のバージョンのメッセージだわ。種別の問い合わせ……これ大分拡張したから、ほんとにプリミティブなプロパティしか飛んでこない……。

「何だと思う?」

「さあ……出来の悪いAIってとこかな?綺麗だけど、ろくな反応しないじゃない」

「さあどうかしら?でもお姉ちゃんよりは格好良く出来てるよね」

「うぐ……」

「それに、元々が、あたしの方が可愛いと思わない?」

「思わないわよ!」

「またまたぁ……やっかまないやっかまない。首と手だけの女の子でもいいって言ってくれる人が全宇宙に一人か一匹くらいはいるよ。だから大丈夫」

「なっ……」

うーん、顔中真っ赤だ。ちょっとからかいすぎたかしらね?必死に頑張っていたんでしょうけど……まあ、喧嘩売る相手が悪すぎたということで。

ん……?なんか反応が固まってるわね。あー……なんかくすぐったい。そうか……こちらの存在をかぎ当てたわね。

ラッキー?

『はい、聞こえてますよ!』

今からシステム復旧させるから、侵入者のロックと逆スキャンよろしく。

『捕まえてどうするんです?』

もちろん……実験に使うに決まってるじゃない。ちょうどいいサンプルだわ。

『はいはい、わかりましたよ』

それじゃ……よ、システム復旧!

『復旧確認!よーし、借りは返させてもらうからな……』

まー、大人げない発言だこと……。

さて、いい加減メッセージの投げつけあいも疲れてきたとこだし……そろそろこちらから手を出してみましょうか。

「どーしたの?黙り込んじゃって!」

あたしはそう声をかけて、彼女の目の前に一瞬で移動した。

「え?」

あっけに取られる彼女に、あたしはしゃべりながら手を伸ばす。

「そんな顔してるとすぐ老けちゃんだから」

そしてむぎゅっとほっぺたを掴むと、横の方に思いっ切り引っ張ってやった!

「いだだだだだだだだだだだだだぁああ!」

へえ、痛み感じるんだ……すごくよく出来てるわね。

おーおー、抵抗しちゃって……でもロックしちゃってるからねえ……どれ、もうちょっと引っ張って……。

「ひ、ひたいい!ひゃ、ひゃめてひょ〜」

うふふ、涙流しちゃって……でも……いくら頭だけとはいえ、そこまで忠実に変換するなんて……一体どうやってそんなシステムを?

ま、それは後回しで……。

「だ〜め。お痛した子にはお仕置きしないとね」

そう言って笑いかけると、なんか陰でごそごそ逃げようとする。

「だめだよ〜、逃げようなんて考えちゃ。ちゃんと質問には答えてもらわないとね」

「ひ……」

ようやく自分の立場がわかったみたいね……じゃあ、始めましょうか。

「あなた何者?」

「……」

不満そうな表情。まあ、そりゃそうよね。

「あらあら、まだ抵抗するわけ?」

というわけでお仕置き第二弾。また引っ張る。

「ひ、ひたひ〜、ひゃ、ひゃめへ〜」

「ん?なに?聞こえないよ?」

「ひゃへれるはけないでひょ!」

「え?しゃべれるわけないでしょ?あ、それはそうだね」

これ以上もなんだし、離してあげよっか。よっと。

「えーん、なんでこんなに痛いのよ〜!」

うーむ……やった分だけちゃんと反応してるわね。リミッタもかけてないのかしら?

でもちゃんとデータ交換できるし、よしよしよね。

「そりゃ、感覚変換がちゃんと動作してるって証拠だよね」

手をあわせて素直に喜びを表現する。

でも……まだなんかやってるわねえ……どうせ無駄なのに。

「だめだよ、まだお話し終わってないのに……ここからはもう逃げられないよ。そっちのポートはロックしたから」

「え?」

愕然とした表情を見せる彼女。なにやら調べてるわね……ほう、気がついたか。

「一体なにをしたのよ!?」

怒りの表情を見せる彼女に、あたしは悠然と笑みを返しながら言った。

「こちらがやられたことをやり返しただけのことよ。いけなかった?」

「ぐ……」

ふふ……さすがに言うこと無しか。

「あらあら、そんなにがっかりしなくてもいいんだよ。喧嘩売る相手が悪すぎただけだから」

「相手って……だからあんた何者?人工人格なんかじゃないわね!」

ふうむ……そう来たか……確かに確認する術はない……。

「あたりまえよ〜。こんな対応のいいAIなんてあるわけないじゃない」

「対応のいい?意地の悪いの間違いなんじゃないの?」

「ふうん……まだ憎まれ口をたたく余裕あるんだ……」

ちょっと流し目気味に、あたしは彼女を睨み付ける。

「う……」

余計にびびらせちゃったか……そろそろ本題に……。

「まあ、いいわ。そんなことより、あなたはだあれ?」

しばらくあたしを睨み付けた後で、彼女はぼそりと言った。

「……"EE"よ」

「いーいー?なにそれ?」

「アルファベットのEが二つで"EE"!ただそれだけよ!」

「ふうん……なんか意味あるの?」

「いいでしょ、べつに!さ、あたしは名乗ったわよ。あんたは誰?」

「え、あたし?見てわからない?」

「わかんないから聞いてるのよ!」

うう、なんかショック……せっかく決めてきたのに……。

「おかしいなあ……こんなに綺麗な金色でなが〜い髪の女の子なんて、たいしていないはずなんだけど……ま、いいか」

あたしは思わせぶりに微笑むと、言った。

「あたしの名前は"Rapunzel"。サイバースペースの"Rapunzel"……それが、あたし」

「"Rapunzel"……"Rapunzel"だってええ!?」

さっきとは比べ物にならないほどの、驚愕の表情を浮かべて彼女は絶句した。

ま、それもそうか……十年前に突如として出現し、数々の伝説や武勇伝を残した、まさに伝説のハッカー……それがあたし。そう、あたしなのだ。

「そんな……だって"Rapunzel"はもう引退したって……」

そりゃいきなり信じろって言ってもねえ……あたしだって信じないわよ。

「引退したからって、ネットワークからいなくなるって事じゃないでしょ?単に名前を出すのをやめたってだけだし。信じないのならそれでもいいよ。でもあたしは"Rapunzel"……ここではそれ以外の存在じゃない」

すると彼女は黙り込んでしまった。

「あら、結構悩んじゃってるみたいね」

無理もないわね。見に覚えの無い人から妊娠したとか聞かされるのより衝撃的だものね。

「そりゃそうよね。"Rapunzel"だという署名もなにも無いんだものね。ま、名前なんてその程度のもの……単なる識別子……それに意味を与えるのはその行動と、行動によってもたらされた結果だけ……そうよね、"EE"?」

しかし、彼女はなにも答えない。まだ混乱しているのか、それとも……。

「ま、いいわ」

このままにらみ合ってても仕方ないものね。

あたしは彼女の髪に手を滑らせながら言った。

「で?一体なにをしに来たの?」

一瞬迷ったような顔をして、"EE"は答えた。

「……あたしの格好を見ればわかるでしょう?それでサーチしてたらここが引っかかってきたの。そしたらこんなものがあるじゃない。そんなの、見逃す手は無いわよね。でもシステムを破壊するつもりなんかなかったわ」

「ふうん……」

なるほど、そういうわけか……なかなか骨のあるハッカーね。わざわざ面倒な真似をしたのは、"TOWER"のようなシステムを探すためなのか……その意気は買えるわね。でもなあ……。

「そんなみっともない格好で?」

「みっともないって……仕方ないでしょ!全身をサポートできるようなハードなんて調達できるわけないじゃない!」

「ふうん、なるほどねえ……」

ちょっと、頭がまわらないのかしらねえ……。

「だった格好だけでもつければよかったのに……」

「え?……格好だけ?」

「そう。まあフィードバックが効かなくて気持ち悪いけどね……」

「……やったことあるの?」

「当然じゃない!初期段階はもっと大変だったんだから!目だけとか口だけとか……で、今やっと全身の感覚変換が可能になったのよ!それなのに……あんたが侵入してくれたおかげでスケジュールがめちゃくちゃだわ!」

うーむ、思い出してきたらむちゃくちゃ腹が立ってきた。そういや、ラッキーを死にそうに働かせてるのもそのせいだし……そうよ、スケジュールの遅れは許されないのよ!

「だから……ちょ〜っと、付き合ってもらうわよ」

きら〜ん!期待のまなざしで彼女を見つめる。

「あ、あたしこんなだから役に立たないわよ!それにもううちに帰らないと……」

「もう逃げられないって言ったじゃない」

あたしはずいっと近づく。

「あ、あたしは、そ、そんな趣味は無いわよ!!」

うーん、なにを誤解してるんだか……。

「あら、それじゃどういう趣味なの?あたしはごくノーマルなんだけど……」

「あ、あたしだって普通よ!」

「それは良かったわ、気が合って」

あたしは彼女の顔に自分の顔をすりつけるように近付け、そっと息を吹き掛ける。

「ひっ」

あらあら……。

「……ふうん」

今度は耳に、と……ふうぅ。

「うひゃあああ!!」

「あらあら……感じやすいのね、あなたって」

こりゃまた……完璧に近いわね、感覚変換……一体どこから手に入れたのか……。

「や、やめてよ〜!」

泣きそうになって拒絶する彼女……なんかおもしろい。

「やめちゃっていいの?」

「当たり前よ!!」

「なんだ、つまんない……」

もうちょっとけれん身があったりするといいのに……。

「でも……ずいぶんと敏感な調整してるのねえ。なぜ?」

「し、知らないわよ!そんなことされたの初めてだもの!」

「ふうん……それで初体験のご感想は?」

「そ、それは……い、言えるわけないでしょ!」

ううむ、まだごねるか。

「それじゃあ実験になんないのよねえ……また痛い目にあいたい?」

そう言って笑いかけると、観念したのか伏し目がちにぼそぼそと言った。

「……なんかこう……ぞくぞくっていうか……ほんとに息を吹きかけられたみたいに……」

「なるほどね……」

うーん……かなり微妙な感覚まで変換しているのか……これは……規模は小さいけど、かなりしっかりしたシステムだわね……よくもこんなシステムを……。

「あなたの変換システムも、なかなかの出来ね」

「え?」

半歩後ろに引き下がって彼女を見る。

「一体何処からそんなハードを手に入れたの?それにソフトはどうやって?そして……なんでそんなものに手を出そうとしたの?」

「そんなものって……あんたがここのシステムを作ったんじゃないの?」

「それはそうだけど……」

「あんた、インフィニットの社員?それとも雇われ?」

「さあ……自分で調べてみたら?」

聞かれて素直に答えるほどお人よしじゃないもん。

「く……大体その格好はなんなのよ?少女趣味丸出しでさ?あたしの記憶が確かなら、"Rapunzel"の出現は今から十年前……まさかデビューの時ガキだったってんじゃないでしょうね?そもそも、あんたほんとに女?」

うわ……そこまで疑われちゃうのか。しかし少女趣味ねえ……確かにデビューしたのは子供だったのは事実だけどねえ……ネットオカマみたいに思われるのは心外だなあ……。

「そうよねえ……その辺りが問題なのよね……」

「ちょっと!あたしの質問に答えなさいよ!?」

「でもねえ……サイバースペースでの認証なんてそもそも不可能だし……それはリアルスペースでも同じだけど……」

「ちょっと!無視するんじゃないわよ!」

「え?ああ、あたしが女かどうかって?さあそれは……想像にお任せするわ。それにね……女に歳のことを聞くもんじゃないわよ」

そう言っていなしておく。

「だー!」

「さてと……こんなものかしらね」

そろそろいい時間かな……。

「え?」

"EE"の顔をじっと見つめる。向こうも見つめ返してくる。おどおどした感じは微塵もない、挑みかかるような目で。

ふふふ……いいなあこういう目。昔のあたしみたい……

「お話しできてとっても良かったわ。でももうこういうのは無しにしてよね。今日のところはいいデータが取れたからこれで帰してあげる」

「ほ……ほんとに?」

不安そうに見つめる"EE"。

「ええ、ほんとよ……そんな顔しないの」

安心させるように微笑んで見せる。

「でもねえ……」

にやり……と、嗤う。目なんかきらきらさせちゃう。

「やっぱり邪魔されたのしゃくにさわるから、なんかしてやりたいよね……」

「ひ〜」

恐怖の色を浮かべる"EE"に、あたしはずいっと近付いて、両手を広げた。

「さあ、よーく歯をくいしばんなさい!」

「ひい!」

"EE"が悲鳴をあげるけど、気にしない気にしない。

「せーのっ!」

そして両手で思いっ切り、"EE"の顔を挟むようにしてぶった!

ただぶっただけじゃない……向こうのシステムもダウンさせてやる。もう間もなくシステムはシャットダウンし、接続は断たれるはずだ。

……痛みも当然一緒だけどね。

"EE"の像が歪む。苦悶の表情。ああ、なんかかわいそう……でもまあ後遺症は無いはずだから……。

「この程度ですんで良かったよね!これに懲りたらもうこんなとこ来ちゃ駄目だよ!じゃあ、またね!"EE"!」

すると、"EE"はなんの反応も見せずに消えていった。

ふう……そう、"またね"。

調査結果次第だけれど、もう一度会ってもいいかなという気がしている。自力でここまで来るような腕を持った、それも"TOWER"のシステムと交換可能なシステムを保有している……そんなのがごろごろいるわけがない。

場合によっては……いや、それは後の話だ。今は……これまでのデータの整理よね。おかげで計画に弾みがつきそうだし……悪いことばっかりじゃないってことよね、この世の中は。

さあ、リアルスペースへ戻りましょうか……ここだけじゃ出来ないことは、いくらでもあるんだから……。





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