……ん?気付かれたかな?周りが騒がしい……でもまだ大丈夫だ。アクセス権限リストはもう書き換えてあるから、こちらを上回ることはできない。あとはハードダウンくらいかな、怖いのは。でもまあ、これだけのシステムを切るのは、怖すぎてできやしないわよね……ささ、作業作業。
……うーん、圧縮してもだめだな。全部のシステムを取り込むのはやっぱり無理か。
そろそろ潮時かな?こんくらいデータがあれば、あとは自分でなんとかなるだろう……さて、後はこのブロックを……よっと。
その時しかけてあった監視プログラムからメッセージが上がってきた。
『警告、アクセスレベルダウン、ダウン、ダウン……』
え!?警告!?アクセスレベルダウン!?
そんなばかな……変わってない、管理者権限に変化は無いのに、なんでそんな警告が……。
え!?なにこの音……ファンファーレ!?
とその時……いきなり目の前に扉が現れた!へ、なに!?
そして扉は開け放たれ、そこから……なんだ、ありゃ?
あたしはぽかんとしてその人物……少女の姿を見つめた。
年の頃は十五、六……にしては顔が子供だなぁ。白のフリフリのドレスがそれを強調している。それに金色の瞳……怖さを通り越して神々しささえ感じる。背はあたしくらい……それにしても、あの髪の長さは一体何?身体にグルグル巻きにして……一体何メートルあるんだろう……。
見とれるあたしに、彼女はまじめくさった顔であたしを見つめ……次の瞬間。
「う……ぷぷぷ……あはは……あははははははははっは……ははっははっは!!」
……なぬ?……笑われた?あたしが?
「あはっ、あははははっ……ふふ……ふふふふふふふ……あはははははは!くーっ、おか、おかしくって……はははっ……げほげほげほ……あー、くるしぃ……」
息も絶え絶えという感じで、ようやくそいつは笑い終わった。
くそー!
「な……何がおかしいのよ!?」
あたしがそう叫ぶと、そいつは涙目になりながら言った。
「だって……顔と手だけでまぬけなんだもん……あ、また……あははは!」
そしてまた笑い出す……誰がまぬけだって〜!?
う……でもなあ……確かに顔を手だけじゃ、まぬけだよねえ……くう、つらい。これしかハンドリングできないだもの、しょうがないじゃない……。
って、しまった!あたし素顔さらしてる!?いくらでも偽れるとはいえ、素顔のデータを流すのはまずすぎた……でも今更変えてもしょうがない。
あたしは笑い転げる彼女を睨み付けた。ここは弱気なところを見せたら負けだ。
するとようやく笑い終わったそいつは、なんか値踏みするみたいにじろじろとあたしと見た。負けじとぐっと力を込めて睨み反す。
「あらら……どうしてそんな怖い顔してるの?せっかく会えたのに」
会いたくなかったわよ!
それにしても……なにこいつ?応答プログラムだろうか?それにしちゃ反応が自然だし……でも外部からのアクセスは感知してないわよ?それにさっきの警告……あれは一体何?わからない……時間が欲しい……調べる時間が……。
よし、とにかく、状況の把握だ。適当に話して時間稼ぎをしよう。
「……あんた、何者?」
すると、そいつは不思議そうな顔をして聞き返した。
「あなたが先にそんなこと聞くの?なんか順番間違ってなぁい?」
「順番って何よ?あたしが作業してたのに邪魔しないでくれる?」
ええと、アクセスプログラムを走らせてと……それからデータ収集の方は、まだだめか……。
「あららら……ここはあたしのものなのに、そういう言われ方、心外だわっ」
そう言って彼女はほっぺたを膨らませて怒る。なんか……妙に生々しいなあ。
「あなたこそ誰なの?見たところ……って、顔しかないからわかんないよね」
彼女はまたくすくす笑い出した。むかつく〜!
「し、しかたないでしょ!」
思わず怒鳴ってしまった。するとそいつは馬鹿にしたような口調で言った。
「しかたない?へえ?その程度でここまで入ってきたの?あははは!!」
う、うう……思いっ切り馬鹿にされてる……だって……だってしょうがないじゃないの!全身の感覚変換なんて今あるハードとソフトじゃ出来ないわよ!
「だからなによ!?じゃあその程度に侵入されてるここって何なの?ふん、インフィニットも大したことないじゃない!」
すると彼女は黙り込んでしまった。痛いところをつかれてループにでも入った?それとも語彙データベースの不良?
「そら、反論できないじゃないの!」
今のうちにチェックデーモンを……念のため、ハードを全スキャン……。
「あたしのせいじゃないもん」
ようやく、拗ねたような口調で彼女は言った。
「へー、じゃああんたは一体何者?ただのプログラム?」
「何だと思う?」
そう言って首をかしげながらにっこりと笑う。
んー……やっぱりなんかAIって感じがしない。向こうから返ってくるメッセージの内容が細かいせいもあるんだけど……その細やかさの中に、なにかこう、カオス的なものを感じる……フラクタルAIなんだろうか?
「さあ……出来の悪いAIってとこかな?綺麗だけど、ろくな反応しないじゃない」
そうなんだ。いったい何しに出てきたのかがわからない。ガードプログラムならとっくに攻撃してきてるはずなのに……それに特別なにかを調べようとしてるわけじゃない……ただ、話をしているだけ。
すると、彼女は意地の悪そうな顔で言った。
「さあどうかしら?でもお姉ちゃんよりは格好良く出来てるよね」
「うぐ……」
は……反論のしようがない……えーえー、どうせあたしは生首ですよーだっ!
「それに、元々が、あたしの方が可愛いと思わない?」
「思わないわよ!」
あたしがそう叫ぶと、彼女は勝ち誇ったような目で言ったのだ。
「またまたぁ……やっかまないやっかまない。首と手だけの女の子でもいいって言ってくれる人が全宇宙に一人か一匹くらいはいるよ。だから大丈夫」
「なっ……」
……ぐう……な、舐められてる……完全に舐められてる!ここまで侮辱されたのは生まれて始めてだわよ!!
こいつは……AIなんかじゃない!誰かが操作してるんだ!ここまで人間的なAIなんているはずが……。
でも一体どうやって?ルート権限はあたしが握ってるのに、どうやって現れたっていうの?
そういえばさっきの警報……でもやっぱりへん。あたしの権限は変化していないのに……なんであいつはここにいられるの?
そうだ、ハードウェアスキャン!
……なによこれ。低位アドレスにアクセス不能な部分がある?なにも受け付けない!?特権レベルは握ってるはずなのになんでよ!!
「どーしたの?黙り込んじゃって!」
「え?」
うわ!なんで目の前にいるのよ!?
「そんな顔してるとすぐ老けちゃんだから」
そういって彼女は……あたしのほっぺたをむぎゅっとつかんで、横に引っ張ったのだ!
「いだだだだだだだだだだだだだぁああ!」
止めさせようと腕を掴んでも全然叶わない!なんて馬鹿力なの!?
いててて!!まじ痛い!!
「ひ、ひたいい!ひゃ、ひゃめてひょ〜」
うわーん、涙出てきたよ〜!
「だ〜め。お痛した子にはお仕置きしないとね」
にっこり笑いながらそいつは言った。無邪気な笑顔……そう、無邪気な。
だ、に、逃げなきゃ!強制切断!!
……え、なんで!?切断できない?なんでなのよっ!?
「だめだよ〜、逃げようなんて考えちゃ」
相変わらず天使のような笑顔を浮かべてそいつは言った。
「ちゃんと質問には答えてもらわないとね」
「ひ……」
怖い……マジで怖い!な、なにをしようって言うの!?なんで逃げられないのよ!ルート権限のままなのに!
「あなた何者?」
「……」
ふ、ふん!なにもいうもんか!
「あらあら、まだ抵抗するわけ?」
うぎゃあ!!もっと引っ張ったぁ〜!いででっで!!
か、感覚オフ!オフ!!
があ、切れない〜!
「ひ、ひたひ〜、ひゃ、ひゃめへ〜」
「ん?なに?聞こえないよ?」
「ひゃへれるはけないでひょ!」
「え?しゃべれるわけないでしょ?あ、それはそうだね」
そう言ってそいつはあっさりと、手を離した。
「えーん、なんでこんなに痛いのよ〜!」
「そりゃ、感覚変換がちゃんと動作してるって証拠だよね」
ぽんと手を合わせながらそいつは言った。なんでこんなに嬉しそうなの?
ああ、そんなことより逃げるのよ!今度こそ強制切断!
え!?また切れない!?なんでよ!!
「だめだよ、まだお話し終わってないのに……」
くすくす笑いながらやつは言った。
「ここからはもう逃げられないよ。そっちのポートはロックしたから」
「え?」
なんだって!?ポートをロックした?ってことは……あたしのシステムに介入したってこと!?なんで!?ダミーは?ガーディアンは?
ああっ!こっちからのアクセスが……拒否される……なんで!?
「一体なにをしたのよ!?」
「こちらがやられたことをやり返しただけのことよ。いけなかった?」
「ぐ……」
は、反論できない……やられた、完璧に。自分のシステムを乗っ取られるなんて……大まぬけだ……。
「あらあら、そんなにがっかりしなくてもいいんだよ」
奴はそう言って、ちょっと慰めるような顔で言った。
「喧嘩売る相手が悪すぎただけだから」
「相手って……だからあんた何者?人工人格なんかじゃないわね!」
「あたりまえよ〜。こんな対応のいいAIなんてあるわけないじゃない」
「対応のいい?意地の悪いの間違いなんじゃないの?」
「ふうん……まだ憎まれ口をたたく余裕あるんだ……」
「う……」
ま、まずい!またなんかされたら……もう抵抗できないのに……。
でも、そいつはなにもしないで、ただあたしをじっと見つめるだけだった。
「まあ、いいわ。そんなことより、あなたはだあれ?」
またその質問……もう首根っこ捕まえてるんだからわかりそうなもんだけど……まあ、いいか。それに、本当のこと言う必要もないし……。
「……"EE"よ」
「いーいー?なにそれ?」
「アルファベットのEが二つで"EE"!ただそれだけよ!」
"EE"……それはあたしのネットワークでの名前。
「ふうん……なんか意味あるの?」
もちろん意味はあるけど、そこまで話す義理は無いわね。
「いいでしょ、べつに!さ、あたしは名乗ったわよ。あんたは誰?」
「え、あたし?見てわからない?」
そいつは長い髪を揺らしながら首をかしげた。
「わかんないから聞いてるのよ!」
「おかしいなあ……こんなに綺麗な金色でなが〜い髪の女の子なんて、たいしていないはずなんだけど……ま、いいか」
そうしてそいつは微笑みを浮かべながら言った。
「あたしの名前は"Rapunzel"。サイバースペースの"Rapunzel"……それが、あたし」
「"Rapunzel"……"Rapunzel"だってええ!?」
あの伝説のハッカーがなんでここに!?
"Rapunzel"というのは、今から十年ほど前に現れたすご腕のハッカーのことだ。といってもそのころあたしはまだネットデビューしてなかったけど……だって当時五歳だよ、あたし!
聞いた話じゃ、あらゆるサイトに侵入して一度も発見されたことはなかったらしい。そして破壊的なハッカーの退治したり、ソフトの開発や改良で名を馳せたりと、数々の武勇伝や伝説をあった。
あたしもちょっとだけ後を追っかけてみたことがあるけど、一度も接触したことは無かった。だれもアドレスを知らなかったから当然なんだけどね。誰もどこの誰だか知らなかったのだ。
それが突然引退声明を出したのが、今から一年前のこと。以来、その活動を見た者は誰もいないという……元から伝説的だったけど、余計に伝説的になったわけだ。
その後も何度か現れたという情報が流れてたけど、ガセったり詐称だったりで、最近では誰もその名前を口にしなくなった。
その"Rapunzel"が、今目の前にいる……。
「そんな……だって"Rapunzel"はもう引退したって……」
「引退したからって、ネットワークからいなくなるって事じゃないでしょ?単に名前を出すのをやめたってだけだし」
そう彼女はしれっとして言った。
「信じないのならそれでもいいよ。でもあたしは"Rapunzel"……ここではそれ以外の存在じゃない」
自信に満ちた表情……そう、確かに彼女が"Rapunzel"であるという証拠はない。でもあたしを押さえ込んだ手際は……すご腕なのは間違いない。そう思ってしまいそうになる。けど……。
「あら、結構悩んじゃってるみたいね」
いたずらっぽく微笑んで彼女は言った。
「そりゃそうよね。"Rapunzel"だという署名もなにも無いんだものね。ま、名前なんてその程度のもの……単なる識別子……それに意味を与えるのはその行動と、行動によってもたらされた結果だけ……そうよね、"EE"?」
あたしはなにも言えずに、ただ彼女を見つめた。確かにその通りだ……この世界、なにをしたのかでしか、物事は測れない。
「ま、いいわ」
あきらめたように彼女は言うと、あたしの髪をそっと撫でた。
「で?一体なにをしに来たの?」
どう答えればいい?
……嘘ついても仕方ないな。システムを荒らすだけならこんな面倒な真似をする必要はない。かえって無駄なだけ。それがわからない相手とも思わない……よし。
「……あたしの格好を見ればわかるでしょう?それでサーチしてたらここが引っかかってきたの。そしたらこんなものがあるじゃない。そんなの、見逃す手は無いわよね。でもシステムを破壊するつもりなんかなかったわ」
「ふうん……そんなみっともない格好で?」
冷ややかな目で奴はあたしを見た。
「みっともないって……仕方ないでしょ!全身をサポートできるようなハードなんて調達できるわけないじゃない!」
「ふうん、なるほどねえ……」
まるで値踏みでもするように彼女はあたしをねめつける。
「だった格好だけでもつければよかったのに……」
「え?……格好だけ?」
つまり補うだけ補ってやるってことか……。
「そう。まあフィードバックが効かなくて気持ち悪いけどね……」
そう言って嫌そうな顔をする。
「……やったことあるの?」
「当然じゃない!初期段階はもっと大変だったんだから!目だけとか口だけとか……」
う……想像してしまった。確かにまぬけだなぁ。でも……そんな段階があったなんて、なんだかおもしろいな。
「で、今やっと全身の感覚変換が可能になったのよ!それなのに……あんたが侵入してくれたおかげでスケジュールがめちゃくちゃだわ!だから……」
ぎくぎく!
「ちょ〜っと、付き合ってもらうわよ」
ちょっと逝っちゃってる目で睨み付けられる!
うわわ……い、いやだぁ〜。
「あ、あたしこんなだから役に立たないわよ!それにもううちに帰らないと……」
「もう逃げられないって言ったじゃない」
彼女は少女とは思えないような色っぽい笑みを浮かべながら笑った。
「あ、あたしは、そ、そんな趣味は無いわよ!!」
うわ、思わず口に出しちゃった!
「あら、それじゃどういう趣味なの?あたしはごくノーマルなんだけど……」
「あ、あたしだって普通よ!」
「それは良かったわ、気が合って」
彼女はまるでキスでもしそうに顔を寄せてきた。吐息が……顔にかかる。
「ひっ」
「……ふうん」
すると今度は耳もとに唇を寄せて、ふうっと息をふきかけやがった!
「うひゃあああ!!」
「あらあら……感じやすいのね、あなたって」
「や、やめてよ〜!」
「やめちゃっていいの?」
「当たり前よ!!」
「なんだ、つまんない……」
うひゃあ……こいつ、生身だったら襲いかねないわね……。
「でも……ずいぶんと敏感な調整してるのねえ。なぜ?」
「し、知らないわよ!そんなことされたの初めてだもの!」
「ふうん……それで初体験のご感想は?」
うわ……なんかいやらしい言い方!
「そ、それは……い、言えるわけないでしょ!」
「それじゃあ実験になんないのよねえ……」
彼女は首を傾けながら言った。
「また痛い目にあいたい?」
うわ、そんな嬉しそうに見るなぁ!サドかこいつ!?
でも……い、痛いのはやだな。でも……拒否できないかぁ。
「……なんかこう……ぞくぞくっていうか……ほんとに息を吹きかけられたみたいに……」
「なるほどね……あなたの変換システムも、なかなかの出来ね」
「え?」
そう言って奴はあたしから少し離れた。
「一体何処からそんなハードを手に入れたの?それにソフトはどうやって?そして……なんでそんなものに手を出そうとしたの?」
唇に人指し指をあてて、まるで子供が質問するかのようにそいつは言った。
「そんなものって……あんたがここのシステムを作ったんじゃないの?」
「それはそうだけど……」
「あんた、インフィニットの社員?それとも雇われ?」
「さあ……自分で調べてみたら?」
そう言ってくすくす笑う。
「く……大体その格好はなんなのよ?少女趣味丸出しでさ?あたしの記憶が確かなら、"Rapunzel"の出現は今から十年前……まさかデビューの時ガキだったってんじゃないでしょうね?そもそも、あんたほんとに女?」
「そうよねえ……その辺りが問題なのよね……」
そう言って悩ましげに腕組みする。
「ちょっと!あたしの質問に答えなさいよ!?」
「でもねえ……サイバースペースでの認証なんてそもそも不可能だし……それはリアルスペースでも同じだけど……」
「ちょっと!無視するんじゃないわよ!」
「え?ああ、あたしが女かどうかって?さあそれは……想像にお任せするわ」
そう言って、"Rapunzel"を自称する少女は、にっこりと笑った。
「それにね……女に歳のことを聞くもんじゃないわよ」
「だー!」
「さてと……こんなものかしらね」
「え?」
突然"Rapunzel"があたしに近付く。身体を動かそうとしても動かない!わーっ!
目と目が合った。金色の綺麗な瞳……一体いくらポリゴンをつぎ込んだらこんなに綺麗に出来るんだろう……うう、見とれてる場合じゃないのに……ただの作り物なのに……。
作り物?確かにその通りだ……単なるデータ、単なる情報から作り上げられた、幻想の世界……でもそれって、現実世界となんの違いがある?
空虚な街並み、ただ流されていく人の群れ、意味もなく垂れ流されるデータ……それを私達は現実世界と称している。でも、そのなにをわかっているというの?それだって所詮、自分以外の誰かが作り上げた作り物……何一つ確かな物なんて無い。
ただ自分が感じたことだけが……自分が信じるものだけが……この世の真実。
自分を自分であると思うことだけが……あたしの存在証明。
あたしの、真実。
だから負けないように……あたしはその目を睨み返した。
あたしは自分に負けたわけじゃない。あたしの出来る精一杯のことはやった。ただ、こいつの方がより恵まれていただけなんだ。この屈辱はいつかならず晴らしてみせる。だから今は……。
すると彼女は、口元に微苦笑を浮かべて言った。
「お話しできてとっても良かったわ。でももうこういうのは無しにしてよね。今日のところはいいデータが取れたからこれで帰してあげる」
「ほ……ほんとに?」
目に更に力を込めながらあたしは言う。
「ええ、ほんとよ……そんな顔しないの」
うーむ……なんかうさんくさいんだよなあ……でも、本当に帰してくれるんだったら、少しは見直してやってもいいけど……。
「でもねえ……」
きらっと彼女の目が光った。うわ、ほんとに光ってるよ!
「やっぱり邪魔されたのしゃくにさわるから、なんかしてやりたいよね……」
「ひ〜」
な、なにする気!?ま、まさか……さっきの続きとか……。
うわあ、いやだあ、まだ知らなくてもいいぞ、そんなこと〜!
「さあ、よーく歯をくいしばんなさい!」
そう言って無邪気に微笑みと、"Rapunzelは"両手を広げて、そして……。
「ひい!」
「せーのっ!」
ばちーーーーーーーーーーーーーーーん!!!
いったっあああああああああああああああああ!!!
ぶった!ぶたれた!!両手で思いっ切り!!!
ああ、気が遠くなっていく……ほっぺたが痛い……気絶するってこういうこと……。
「この程度ですんで良かったよね!」
いいわけあるかぁ〜。
「これに懲りたらもうこんなとこ来ちゃ駄目だよ!」
懲りるもんか〜。今度こそ見つからないように……。
「じゃあ、またね!"EE"!」
なにが、じゃあ、だ〜!
……え?また?なによそれ!?
しかし、あたしの意識はあっと言う間に失われ、ただひたすら電子の沃野に吸い込まれていったのだった……。