是正処置

発生した問題の原因を取り除く

この規格の内容は理解しやすいし、中小企業といえどもほとんどの企業では、かならず実施していると思われるので、格別の説明はいらない。しかし、ガイドラインは、まず是正処置と「不適合品の管理」の章で述べられている不適合品の処置とを混同しないよう示唆している。不適合品の処置は、手直し、修理などによって単に問題を好ましい状態にするだけの行為である。一方、是正処置は問題の原因を見つけ出した上で、根本的再発防止策をたてることである。しかも、前節で述べたように是正処置の対象となる問題内容も顧客からの苦情なども含め広い。したがって、原因分析の結果次第では、従業員の再教育、製造管理規定の修正、作業指示書の変更などの再発防止策が必要になることがある。

ガイドラインでは、この再発防止策は、問題の大きさによってとる処置が変わるが、処置をとらなかった場合に生じる可能性のあるリスクに見合ったものであることが大切としている。この考えをとると、問題が小さく、リスクが低ければ何らの処置をとらなくてもよい場合も有り得る。中小企業では、限られた人員で多くのことをこなさなければならないので、この示唆は利用する価値がある。

さらに、実務の経験から言えることだが、顧客の苦情が発生した場合には、営業面から出来るだけ短期間、たとえば、発生日の翌日には顧客に再発防止策を伝えなくてはならないことがある。このときに取る対策は、一次対策として顧客に説明する仕組みも必要である。何故なら短期間には、根本的再発防止策をたて得るほど情報がとれず、十分な原因分析も出来ないからである。

是正処置が取られた場合には、その内容を文書化し、妥当な期間のあと処置が本当に有効だったかどうかを調べることも大事である。とともに、これら一連の処置に関する文書化が、品質管理者にとって負担にならないように決められた書式を作成することが望ましい。

予防処置

潜在的な問題の原因を取り除く

予防処置とは、前述したように問題はまだ発生していないが、中期(6か月から一年ぐらいをさす)わたって発生した品質に関わる問題を整理・分析を行ってみると、潜在的な問題の発生が有り得る傾向がはっきりした場合に取る処置である。では、具体的にどのような案件があるのかであるが、ガイドラインでは4つの事例を挙げている。しかし、その事例を理解するのが困難ものもあるので、以下は、想像をたくましくしてまとめてみた。

- 工場内の機械や製品置場のレイアウトが悪くて、小型の移動運搬車が製品置場のそばを通る際に製品に傷を付けてしまう可能性がある。
- 製品の販売量が急激にふえてたために、従来してきたサービスが出来なくなって、顧客が不満を持っていることが判明した。
- 現場の一担当者からより効率のよい作業方法があることが報告されて、従来の工程を変更する方が得策であることがわかった。
- 従来から用いていた工具や材料を再評価する必要性が判明した。

このような予防処置を見つけるための情報源としては、次のものがあるとしている。しなわち、

- 工程内の問題、手直しの割合、ロスのレベル
- 最終検査による不合格
- 顧客の苦情と顧客調査
- 損害を弁償しなければならないクレーム
- 特別採用が必要となった製造工程とその品質

などである。

ところが、ガイドラインは、中小企業の場合にはマネージメント・レビュウの席で是正処置と予防処置を分けて検討することはあまり妥当ではないとしている。その理由は、担当者が少なく、同じ人達が両方の案件に携わったのであるから、人為的にこれらを分けることは結果として作業の重複となりうるとしている。この示唆は重要で、中小企業では組織を見ても両方の処置の実行者と報告者は同じになることが多いので、この規格に対する手順書は一つでもよいと思われる。当然のことではあるが、品質マニュアルでその方法を採用していることを明確に記載する要はある。

取扱い、保管、包装、保存および引渡し

取扱い、保管、包装、保存および引渡し--一般

製品の面倒をみる

規格のこの章では、題名の手順書の作成を要求しているが、ガイドラインは、企業の内容によっては、すべての手順を必要としない場合があるとしている。当然で、たとえば、製品によっては包装などまったく必要がないものもある。また、この要求事項は、顧客からの支給品の管理にも適応できる。たとえば、自動車の修理工場では、顧客の自動車を工場に預かった場合の取扱いはこの章の要求事項として手順者が必要となる。

確認のためであるが、この規格は製造後ばかりでなく、製造工程での製品の損傷、劣化を防止するため取扱いに関する管理方法、すなわち、キズ、錆びなどを保護するカバ-などが用られているならその手順が求められる。また、製品が外部の倉庫(自社・他社を問わず)に保管されている場合は、外部倉庫での取り扱い等が対象となる。

取扱い

製品を適切に取り扱う

ガイドラインでは、製品のみでなく材料の取り扱いも、製品の品質に影響を及ぼすので、必要な場合は手順を作成するよう示唆している。事例としては、次のものを挙げている。すなわち、

- フォークリフトをつかって材料を積む場合、誤って操作したときに損傷を与えたり、積み上げ方が悪く倒壊するおそれがある。
- 銅をベースとする金属、たとえば、黄銅や青銅は手の跡から腐食が起こりやすい。好例がプリント基板である。この例では、手袋の使用が必要となる。
- 液体の化学品のように、輸送容器に別の製品が残っていて、それが化学品を汚染することがある。この場合は、事前に完全な洗浄が必要となる。
- 同じように、食品を取り扱う場合は、衛生上の理由から容器の洗浄が必須となる。
- パソコンなどの電子装置の場合は、静電気による破損を防止するための特別な取り扱いが要求される。

以上のように、業務の内容によって取り扱い方法は大きくことなる。明確な文書化が 求められる由縁である。

保管

正しい保管条件を用いる

取り扱いと同様に、保管条件も産業分野によって大きく異なる。食品の冷凍保管、腐食性の化学薬品による金属の腐食防止、コンピュータ・ディスクのような磁気媒体の磁気による破損を防止するための保管などが好例かもしれない。いずれにしろ、製品に影響すると思われる要素、すなわち、積載高さ、照明、温度、湿度、振動などに配慮した保管を検討する必要がある。

さらに、在庫期間が長くなると製品の品質が変わるものがある。たとえば、食品や化学製品である。ともに、製品寿命(セルフ・ライフ)があるのが一般で、このような製品の場合には、先入れ先出し法による在庫管理がおこなわれている。さらに、保管中製品が損傷・劣化していないかどうかを確認する手段、たとえば中間製品や原材料を含め6か月以上の在庫品の再検査などが行われる。このような製品以外でも何らかの在庫管理が実施されて、製品の状態が定期的に点検されてので、その手順を文書化すればよい。

包装

適切な包装を用いる

一般の製品は、何らかの包装をして顧客に発送されている。この場合には包装に表示されている品名と製品が一致していること確認するための手順は文書化の対象となる。とくに、バルク製品の場合には、バルク・コンテナが用いられることがあるが、前荷との誤混合を防止することが肝要である。

ガイドラインは、製品が輸送されている途中で雨などで濡れることを想定し、製品としての価値が損なわれないような包装にするように指摘している。さらに、包装に関しては何か法的規制があるならばそれに従うことになるとしている。とくに、PL法によって取扱の説明や内容物の情報を包装に表示することも要求されているので、この点での配慮も必要になろう。

保存

劣化を防ぐ

ここでの保存とは、製品がたとえば倉庫におかれている間に損傷、劣化そして他製品との誤混合が起こらないように必要な方法を講じることである。保存に対するこれ以上の要求がある場合は、それを明確にして文書で手順化が必要となる。とくに、法律上および法的規制上の制限があり、顧客が注文の際に保存の方法を指定されている場合もあるとしている。

引渡し

顧客に製品を引き渡す

製品が最終検査・試験を終え、顧客に目的地に引き渡されるまでの輸送時の品質保護が注文の一部であれば、その品質保護に関する管理、例えばバルク製品の輸送時の温度管理などが目的地での引き渡しまで及ぶことになる。すなわち、輸送に責任を持つことになる。輸送にはいろいろな法的規制があるので注意が必要としている。


|前のペ-ジ||次のページ|