品質記録の管理

記録を管理する

記録はどの企業でも作られ、企業の業務を円滑に行うための手段となっている。この章ではどのような記録が管理の対象となるかを定め、どのように管理するかを手順書で決めることが求められている。品質記録とは、実際に行ったこと、ある情報をデータとして記録したこと、または製品やサービスのある特定の品質要求を満たしていることを示すために作られたものである。となると、従来よりも書類が増えることになることもあるが、ガイドラインは、中小企業では目的のない紙の山に埋もれないようにすることが重要だとしている。そこで、どの書類が品質記録になるのかをまず決める必要がある。品質記録の保管期間も決め、どこに置くか、どのような手順で廃棄するかも明確にすることも求められている。そこで注意しなくてはならないことは、本当に残す必要のあるものだけのして、単に監査員を満足させるために記録を残すことはゆめゆめしないように、ガイドラインで忠告している。

品質記録となりうる書類を例示しているので、以下にそれぞれを挙げる。

- 設計のファイルや計算書
- 顧客の注文書、顧客と合意した契約内容
- マネージメント・レビューなどの議事録
- 内部監査報告書
- 顧客の苦情などの不適合報告書、是正処置の記録
- 下請負業者の評価、実績などの履歴
- 工程管理の記録
- 検査および試験報告書
- 教育・訓練の記録
- 商品の受領および引き渡しの記録

などである。

記録の形式やファイリング方法は適切なものであればどのようなものでもよく、ハードコピーでも電子的なものでもよいとなっている。ただし、劣化、損傷、または紛失の危険性ができるだけ少ないものにすることが大事としている。電子的に記録を残す場合、気を付けなければならないことは、ソフトウェアのバージョンアップにより数年前の記録が読み出せなくなることである。古いソフトウェアをとっておくなど対策が必要である。

内部品質監査

決まったとおりのことをしているか、それは役に立っているか?

監査とは、計画的にいろいろな情報源から情報を集め、それらを相互に照合し、業務が適切に行われているかを確認することだと、ガイドラインは述べている。そのために、次のステップがとられる。すなわち、

- 手順書を読む
- 実行されている仕事を観察する
- 仕事をしている人と話をする
- 記録を見る

である。

中小企業では、規模が小さいので毎日の業務がどのように行われているかを知ることは簡単かもしれないが、監査をして業務を見直すことはやはり有益である。なぜなら、一歩ひいたところから自分の事業を客観的に観察することによって日頃気付かないことが見えることがあるからだ。特に、認証を取得した後、自分の品質システムが品質方針や品質目標の達成に役だっているかを再確認するためには、この内部監査は非常に有効であると考える。

内部品質監査によって不適合や業務内容が一貫性に欠けることがわかれば、必要な是正処置を決めて、実施することが必要なことはすでに説明した。この是正処置にしてもつぎのように簡単なことですむ場合がある。すなわち、

- 手順書を追加するまたは改訂する
- より多くの情報を取り入れるために書式を再設計する
- 従業員の再教育・訓練を決める

などである。

どの程度の頻度で内部監査をすればよいかであるが、工程が複雑で個別に監査した方が良いと思われるところがあるか、問題点があることを日頃気ついているとこらがあるかどうか、あるいは実施状況が進んでいて監査の頻度を減らせるところがあるか、などで決めることが出来る。

おのおのの監査については報告書または要約を作成しなければならないが、複雑なものは必要ない。たとえば、日誌に一言かくだけで十分な場合もあると、ガイドラインは述べている。また、前回の監査でなにか処置を講じるように要請されている場合は、今回の監査で実施されていることを確認することは、監査によって改善活動を進める上でも大切である。

規格では、監査対象となっている業務に直接責任のない人によって監査を実施することがもとめられているが、中小企業の場合には人員上これが出来ないときがある。この場合には、監査員の役割を果たす管理者が業務へ直接的に関与しないように一歩身を退き、客観的に監査を行うよう努めることも、ガイドラインで述べられている。別のアプローチは、他の中小企業の助けを求めて交互に内部監査が出来るような企業を捜しても良しとしている。

最後に、ガイドラインは、内部監査を本当に有効的に利用すれば、認証の取得の際や 6か月ごとに行われる定期監査の費用を抑えることも出来るとしている。その根拠は、監査員は内部品質監査報告書から品質システムが効率よく働いていることを確認できれば、監査員はその実施状況を検証するために長時間を費やす必要がなくなるからだとしている。

ガイドラインが述べているのは以上であるが、個人的には次の点を強調しておきたい。すなわち、 内部品質監査はISO9000モデルの中でも重要でユニ-クな活動であるが、経営者の見直し会議で監査結果は詳細に検討されなければならないと考える。しかしながら、日本古来の風習から、身内の人のやっていることを監査することには抵抗感があるのは、否定できない。実際に体験したが、監査をされる方にすれば嫌なものらしい。やはり、監査という言葉からのイメージが日本人にはなじめないし、悪いと思う。とはいうものの、いま日本では内部監査の仕組みを取り入れておれば、そんな問題は生じなかっただろうと思われることが頻発しているが、真剣に努力している中小企業の実態を知るにつけこの日本がどうなっているか考えてしまう。 個人的には、この内部品質監査は経営者の見直しのための調査ぐらいにした方が受け入れやすいと考えるがいかがなものでしょう。外資系の会社に長く勤め、会計、法律上の制約、たとえば、独禁法の遵守、などに対する監査が日常的に行われいたので、日本人のよい点に対する情緒的な憧憬が強くなったのだろうか。 すでにこの内部品質監査を実行している企業に方からぜひ感想をお聞きしたいと思う。

教育・訓練

あなたとあなたの部下を教育・訓練する

どのような企業でも何らかの社員の教育・訓練は実施しているのだが、記録として残っていないのが普通だと思う。ここの要求を満たすには、まず過去に行った教育・訓練と業務の経験年数を掘り起こし、個人別の教育・訓練記録を作ることから始めるのがよい。なぜなら、ガイドラインでは、経営者を含む社員の経験、資格、能力、実力が業務を正しく行う上で十分かどうかを、定期的に見直すことが求められているからである。その見直しに基づいてどのような教育・訓練をどのくらいの期間行うのが必要かを決めることが出来る。さらに、マネージメント・レビュウでの人的資源の見直し、是正処置および内部品質監査の章ですでに述べたように、教育・訓練の必要な分野や対象者が自然に浮かび上がってくるはずである。

中小企業でも、新入社員に対する簡単な入門教育・訓練プログラムをつくる必要性はあり、正規社員のみならず臨時雇いやパートタイム社員にもこれらの教育・訓練プログラムの実施が求められる。入門教育・訓練プログラムには、次のような内容となる。 すなわち、

- 企業の事業内容
- 安全衛生に関する規則や法規
- 品質方針
- 新入社員の役割

である。この入門プログラムが終われば、実務につき業務に対する慣れの期間があり、次の教育・訓練を行い段階的に習熟度を挙げていく方法が効果的である。これらの教育・訓練には、社内だけでなく社外のセミナーや講習に出席させることもある。内部品質監査に関する教育・訓練は重要であり、監査を行う社員に対してなんらかの方法でかならず教育・訓練を実施する必要がある。これをおこなわないと、効果のある内部監査が出来ず、品質システムの採用によるメリットを実現させえない。

さて、おのおのの従業員がどのような教育・訓練を受けたのかを示す記録をつくることが求められている。記録を作るにはいろいろな方法がありが、簡単にするのが賢明である。ガイドラインは、担当者が特定の装置を使用できること、特定の工程を実施できること、または特定の手順にそって作業ができることを確認する「署名」を記録することもあるとしている。すなわち、経営者や管理者が社員の業務に対する能力、技能を社内認定することが出来ることである。とくに、中小企業では長年同じ業務をしてきた社員がいる、このような社員はこの履歴だけでも認定できる。認定した場合には、それを確認できるようにかならず文書を作成しなければならない。

長年の経験と高い習得度をもつベテラン社員が、他の社員に対して社内教育・訓練を行った場合も有効な教育・訓練となるので、かならず記録することが望まれる。社内教育・訓練となるとなにか大げさな講習のようにみえるが、そうではない。事務所にいる新入社員や新しく現場にきた人に対してベテラン社員が15分程度の指導をした場合も記録に残せば、立派な教育・訓練となる。よって、中小企業では教育・訓練そのものが出来ないのが問題にならない。むしろこまめに記録することに努力することが必要だ思う。

付帯サ-ビス

関連する保全と支援のサービス

家電製品のようにアフターサ-ビスを提供することが契約の一部として決められている場合にこの規定が適用される。ガイドラインが事例として挙げているは、空調設備会社とソフトウェア開発会社の場合である。空調設備会社の場合は契約の条件として一定の運転期間ごとに空調システムの点検・調整をすることに同意しているので付帯サ-ビスの規格が適用されるとしている。また、ソフトウェア開発会社の場合は、契約の一部として、ソフトウェア使用に対する指導およびバージョンアップ・サービスを提供することに合意している。これに類似する企業は付帯サービスの手順設定が求められる。 手順書には、次のようなことを定めることが求められている。すなわち、

- 付帯サービスの内容の説明
- 付帯サ-ビスの実施スケジュール
- 必要となる要員と教育・訓練の内容
- 付帯サ-ビスのための指示書の作成
- 付帯サ-ビスの実施記録

である。

ここで注意しなくてはならないことは、不適合のためになんらかの行為を行うことと付帯サービスを混同しないことである。すなわち、故障のために余儀なく補修修理を行うことが要求された場合は、製品が意図したとうり作動しなかったわけであるから、これは不適合の一形態である。しかも、付帯サービスを提供している時に発見された故障箇所などの不適合は「是正処置」の手順に従って処理する必要があることも忘れてはならない。

中小企業の中では業務が保全やアフターサ-ビスを提供するだけの企業である事もありうる。この場合は、この章だけでなくISO9000の規格全体(設計管理を除く)対する品質システムを構築する必要があるので、注意してほしい。

統計的手法

統計的手法の選択と使用

工程能力および製品特性の管理のために統計的手法を使用する必要あるか否かを明確にし、もし必要がなければこの章は適用されない。ガイドラインは、中小企業でも統計的手法は工程管理の仕組みに取り入れば有効になることもあるとしている。しかし、統計的手法を活用して効果を上げようとするには専門家の助言がいる場合もあるとしている。ガイドラインは、適用できる統計的手法や分野を記載しているが、これはあまり役立たない内容で、統計的手法やQC活動の専門誌を参考にしたほうがよい。

ガイドラインが抜取り検査について記載しているので、引用しておきたい。すなわち、全数検査ができないので抜取り検査を採用するしかない製品が多い。この方法で不合格品を検出できれば、品質システムに採用している抜取り検査が間違っていないことになるとしている。しかし、不合格が続いたり、予想以上の不合格率になる場合は、その抜取り検査法とサンプリングの手順のどちらか、もしくは両方が不適当であることが考えられる。したがって、検査手順の見直しが必要となる。

さらに、抜取り検査では何ら問題なく合格品として出荷したが、顧客からの苦情を多く受ける事になったときも、抜取り検査の内容を再検討する必要があるとしている。

ここで個人的意見を述べる。中小企業といえども何らかの方法で品質管理を行ってきたはずである。しかもISO9000にかかわらず製品が問題なく販売されてきているなら、統計的手法をわざわざ取り入れなくともよいではないかと思う、しかし、過去には多くの、しかも重大な品質問題が発生したことがあるなら、この際よく検討して簡単で効果のある統計的手法を取り入れることが最善の方法である。


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