文書およびデータの管理

人々に必要とする情報を提供する

人とひとが直接向かいあって話しをすることが、情報を交換する方法として最も効果的であることはどこの国でも同じである。しかし、話し合いの結果を文書にして確認したり、記録として残すということに関しては日本人の不得手とするところであることは、多くのひとが納得している。だから、ここでの文書管理を読むととても歯がたたないとISO9000の取得をなかば諦める人がいるやに聞いている。それは早合点である。このガイドラインを良く理解してからでも遅くないと思う。
当然のことながら、ISO9000の要求に関係する全ての文書やデ-タを管理するための手順を作成する必要はある。しかし、改訂や文書管理のために複雑な仕組みを作り上げるとこはできるだけ避けるように示唆している。さらに、できるだけ単純で、しかも実用性の高い文書管理の方法を採用して、お役所仕事になったり、コスト高にならないようにと注意を促している。
ではどうしたらよいのかであるが、まず品質マニュアルや手順書は中小企業では原本の一部のみを作成することである。業務規模の小さい会社では現場と事務所との距離も少なく、社員同士のコミュニケーションも簡単に出来るのだから、一つの文書を共用し、不要な写しを増やす必要はない。たったこれだけで文書の改訂による複雑な管理を単純化できる。手順書の1ページが改訂され、改訂版を各部署に配布し、各部署の担当者がいちいちページを差し替える作業がいかに無駄な作業であるかは、体験すればすぐ分かることである。しかも、差し替えをしていない社員のマニュアルが監査で見つかり、不適合となることもあった。最も単純な文書管理は文書そのものを最小にすることに尽きる。
ガイドラインは、文書管理の仕組みにコンピュータを利用して、最新版が常に使われるようにすることも示唆している。たしかに、コンピュータ利用は文書を書き換えたり保存するには強力な道具である。しかし、これが逆の結果になったりすることがある。たとえば、コンピュータ上で作業指示書が改訂されたことを関係者に伝えることが不十分で、改訂前の作業指示書のハードコピーを使ってそのまま製造が進められしまうという経験もしている。したがって、生産管理を含めたLANによる完全な情報管理をしていない小規模の業務には不必要と考える。

では、上記以外にガイドラインで指摘していることを簡単に整理しておきましょう。

まず、「文書」と「記録」の違いを明確しなくてはならないとしている。文書とは、業務をどのように行うかを書き下ろし、それを業務管理に使用するものであり、図面、手順書、指示書などの内部文書や法的規制、規格、仕様書などの外部文書が含まれるとしている。一方、記録は、なんらかの活動の結果として生成されたものであり、その時点で存在した事実を述べたもので、改訂することは出来ないとしている。

文書は、どんなものでも発行される前に内容が使用目的に適しているかどうか、だれか適切な人によって確認され、承認されねばならいとしている。小規模の企業ならば 社長でもよいが、その下の、権限が委譲された管理者でも良しとしている。

文書管理には、廃止された文書は破棄することが要求されているが、法律上の理由や参考資料として保存していなくてはならないものは、当然のことだが、ISO9000の管理文書とは別に保存することは出来るとしている。

規格では、データについても言及しているが、ここでのデータとは、常識で理解できる製品名や顧客リスト以外に在庫情報も含まれるので注意したい。これら管理可能なデータは、更新、改訂、再発行できるが、管理不可能なデータ、すなわち記録は改訂出来ない。たとえば、ある日の出荷数量はデータであり、変更できないとしている。ただし、誤って記入した数量は訂正できるのは当然であるが、訂正者の名前と日付を訂正箇所に記入することが求められる。このような訂正方法は、検査結果にも当てはまる。

購買

購買--一般

購入品による問題を避けること

この節が意図していることは、外部から何か業務に必要なもの(物とサービスの両方)を購入する際に、必要十分な情報を相手側に伝えなかったり、下請け業者の選択が適切でなかった場合に起こる問題を回避することである。特に、後者の下請け業者の選択に重点が置かれている。

下請負契約者の評価

だれからそれを入手するか?

まず始めにしなければならないことは、購入しようとしている材料とサービスの中でなにが自社製品の品質に影響を及ぼすのかを明確にしておくことが大切だとしている。次に、購入先になるいろいろな下請負契約者の中から選択することになる。ここまでは、言われなくても自然に意識しないで誰でも実行していることである。ところが、購入対象となるものやサービスが、設計、輸送、保管倉庫、測定機器の校正であるとすると意外に無頓着であることに気付くのではないだろうか。これで、下請負業者の選択を明確にしておくことの必要性があるのを理解していただけるでしょう。

話しをすこしそらすことになるが、日本企業では下請負業者の選択に明確な基準はなく、過去のいきさつや人間がらみで決められていないだろうか?親会社の苦しい時に 協力してもらったからとか、先代の社長からのおつきあいがあるからなどなどISOの世界 では通用しないロジックがまかり通っているのが多いと見る。このような日本の現状をすこしでも国際標準に合わせてやって行こうとしているのが動機になり、ISO関連認証を取得する企業が増加しているのではないかと考えている。間違いならぜひ教えていただきたい。

話しをもとにもどします。この規格では、品質要求を満たすことが出来ることを確認した上で、下請負業者を選定し、委託業者と請負契約を締結しなさい。そして、下請負業者として容認できることを何らかの方法で定期的に調査し、その記録を残しなさいと言っている。このようなことをまともに実行していたら、たいへんな時間と費用がかかり、とても中小企業ではやっていけません。そこで、ガイドラインが示唆している方法は次のようなものです。すなわち、一応下請負業者の選定基準は作りなさい、しかし、厳格なものにはしないで、実績主義がよいとしている。実績主義とは、一定の試験期間の購買を行い、その期間の終わりに納入された製品が問題無かったことを判定基準とし、下請負業者を選択する方法も許容できるとしている。とすれば、日本で一般に行われていることにほとんど同じで、それほど苦痛にはならない。しかし、これら一連の記録はしっかり残すのが要点となる。

さらに、規格は選定された下請負業者の能力を定期的に監査することを求めているが、購入した製品、たとえば、材料、そして製品の輸送業者から受けるサービスが最終品の品質に与える度合によって、監査をするかしないを決めてよしとしている。ならば、よほど精密度の高い製品でないかぎり、中小企業が下請負業者の監査をする必要はないと考える。ただし、納期に影響する下請負業者の供給能力を一度は厳格に調べ、評価する必要はある。なぜなら、中小企業ではすこしでも価格の低いものを優先し、材料ぎれを起こすことが懸念されるからである。

購買データ

購買の要求事項を述べること

文書による注文を購入先に発行するのが普通であるが、口頭での注文もしばしば実際に行われている。この規格で言わんとしていることは、購入するものもしくはサービスについての詳細な注文内容を注文時に購入先に正確に伝えることで、格別のことを求めていない。普通には、購買伝票もしくは注文書などが使われていてこれが問題となることはほとんどない。ただ、一つ取り上げるとすれば、これらの注文書はだれか適当な人によって発行前にチェックされ、内容の確認が行われていれば良しとしている。

余談になるが、内容がこんなものであるのに題名が「購買データ」になっていること自体理解に苦しむ。なぜ、注文内容の確認と出来なかったが疑問である。規格の権威付けのようにしかとれない。

購買品の検証

下請負契約者の事業所へあなたが立ち入れることを確実にすること

下請負業者に対しての監査については、この章のはじめに述べた。この節は、購買品の品質を下請負業者の事業所内で立会検査を行う権利を注文書に明記して確保しておくことを要求している。立会検査が必要な特注品の場合にのみ当てはめればよいのであって、通常の部品や原材料の購入には必要のないことである。
蛇足であるが、購入物品の受入れ検査ではないので誤解のないように。

下請負契約された製品の顧客による検証

下請負契約者の事業所へあなたの顧客が立ち入れることを確実にすること

この節も上の事項と同じく、立ち入り検査に関することである。下請負のまた下請負業者の事業所で、顧客が直接立ち入り検査をする必要があり、しかも契約で定められている場合を述べている。これも特注品に必要なものであって、普通には必要のないことと考える。しかし、海外の顧客に販売する場合には、しばしばこの権利を要求してくるので、必要な企業は契約時によく確認するのが肝要である。ISO9000認証取得会社と取り引きをする場合には、特に注意すべきだろう。


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