製品を開発・設計する際に技術者が留意するのは、「品質」「コスト」「納期」の三点」だ。しかし、最近は「環境」を加えることが多くなってきた。
環境考慮設計で先攻しているのは欧州だ。たとえば、独BMWは、「リサイクル解体研究センター」という専門施設を持っており、実際に自動車を解体して有効な方法を研究している。
こうした研究を通じて、設計段階からいかにリサイクル性を盛り込むかの検討も進めている。構想設計の段階で、経済性を重視した詳しい解体分析を実施し、社内基準を設定して設計に組み込んでいるわけだ。
たとえば、横河電機は製品の構想設計段階から環境を考慮する体制を採り始めた。同社は98年4月から、製品設計段階で環境配備を評価する「環境アセスメント」の基準を、同社の最上位の設計基準であるDS(デザインスタンダード)としている。
アセスメント基準は、再資源化・処理の容易性や省エネルギーなど8項目について、設計中の製品がどの程度環境に配慮してるかを五段階に点数化し、総合評価する。評価は「概念設計段階」「設計試作品の完了段階」「製品設計の完了段階」の3回実施。問題があれば、出荷を停止するほどの重要性を持たせている。
一方、環境考慮設計を試演する手段として「LCA(ライフサイクルアセスメント)」という、環境負荷を定量化する手法の開発と導入も進んでいる。
LCAは製品の原材料採取から製造、使用、処分に至る生涯、つまり「揺りかごから墓場まで」を通して、環境に与える影響を分析、評価する手法だ。ある一つの項目に着目して改善しても、全体でみると本当に環境負荷を低減できるかどうかわからないケースで有用な手段になる。
LCAの手順は、ISO14040(JIS Q14040)ですでに規定されている。「目的と範囲の設計」「インベントリ分析」(工程ごとに投入物と排出物のデータを集積)「インパクト評価」(環境への影響の評価)「結果の解釈」--という四つの段階に分かれる。さらに報告書を作成して、外部機関に報告書を審査してもらう「クリティカルレビュー」を実施して完了となる。
NECが今春、初めてISO14040に準拠したLCAをパソコンの設計に適用したと発表したほか、各社ともLCAに取り組み始めた。現状では設計後の製品に適応するケースが多いが、松下電器産業エアコン社のように、設計段階からLCAを適用する企業も登場している。
また、NEC、東芝、日立製作所など先行企業は、自社で開発したLCAソフトウエアを外販しており、これを使えばだれでも容易にLCAを実施できるようになった。(日経メカニカル編集、藤堂安人氏)
日経新聞の記事を転載したもので、やっと化学会社並みに設計段階で環境への配慮が電器機具などに適応されてきたのかが感想である。化学品を開発する場合には、開発のある段階で必ず環境への影響負荷を評価しなければならなかった。新製品であったが、それでもこんな事例がある。少量生産での開発段階で毒性試験を行ったが、なんらの問題点は見つからなかった。しかし、商業生産のために約一千万ドルも投資したときに、ごく微量ではあるが毒性の高いある化学物質が生産時に発生することが判明し、すべての開発と生産設備の廃棄が行われた。数年に及ぶ開発期間での研究開発費と設備投資額は莫大であった。しかし、環境への悪影響が明確になった場合には、最高経営者は製品生産を決して許可しないだけの決断が必要なときもある。それほど環境に対する配慮は重要だ。
世界に於けるISO 14000認証取得状況
ISO事務局の最新情報によると、環境マネージメント・システム規格14000シリーズが発行した初年度である1996年末現在、45カ国で1491件の取得と報告されている。取得件数の多い国のトップ10を下図に示した。
事務局は、初年度としては急速なトレンドを示したとコメントしている。特記したいのは、ISO 9000の時と違って日本企業が認証取得に精力的であることだ。一方、米国やカナダは極端に低い取得件数で、それぞれ34件と7件のみである。単なる推測であるが、米国企業はすでに環境管理は安全・衛生の中に組み込まれているので、あえて認証を必要としないのかもしれない。事実、定年退職した米国企業はそうであった。このシステムは、安全・衛生・環境マネージメント・システムと称し、ISO14001と全く同等のもので、全世界の事業所が構築を義務づけられた。このために幾度か米国やシンガポールでの国際会議に出席し、定年前の大仕事であった。米国では、政府はもちろん、地域住民や自治体の環境に対する関心は日本と比べものにならないほど高く、環境を配慮しなければ企業運営は成り立たないと感じたのが約10年前のことだった。