6 戦略、方針およびコミュニケーション
6.5 戦略の計画作成
経営資源の適切な配分、事業の主領域での成功要因の導入、および利害関係者のニーズと期待に応えるための枠組みを備えるために、組織の戦略計画作成を以下の事柄に配慮して経営者は実施すべきである。すなわち、
組織の目標に負の影響を与えるポテンシャルがあるいかなる出来事は、組織に対するリスクと考えるべきである。それに反して、組織の目標に正の影響を与えうる出来事は改善及び改革活動の機会としてとらえるべきである。
リスクであるとの確認には、コスト、時間、製品品質にとどまらず、組織の評判、セキュリティ、確実性、組織の責任、職業上の責任、情報技術、健康上の安全性および環境を考慮すべきである。
戦略を策定するためには、組織は以下の事柄を明確にし、分析し、理解し、そしてこれらに関連するリスクを明らかにするべきである。すなわち、
企業を取り巻く環境が絶えず変化していることを考慮し、しかもミッションとビジョンを達成しているかを評価するために、経営者は組織の戦略を定期的に見直しするべきである。
見直しでは、以下の事項に焦点をあてるべきである。すなわち、
見直しにより、戦略の適切性とマネジメント・システムが重要なプロセスに関し内外の学習すべき事項を吸収する方法を備えているかどうかを確認できる。同時に見直しは競合他社に対しての自社の業績面を比較でき理解することできる。あるいは、世界クラスか業界で一番の組織になっているかを知ることができる。また不足している点や乖離しているリスクも評価できる。
ここで思うことは日本企業がこのリスク管理には欧米企業と比べ弱いことである。単一民族で温暖な気象のもとでは企業風土がやはりリスクに対して鈍感になるのだろう。市場のグローバル化が進む中日本企業は今一度このリスク管理を強化する必要があると思う。
多くの組織内で起こった多大な費用のかかった大きな問題は社内外両面でのコミュニケーション不足に起因していることを過去の経験が示している。
かかわりのある情報(たとえば、ミッション、ビジョン、戦略、方針、目標、運営上のデータおよびフィードバック)が効果的に伝達されるには、組織の経営者は正式のコミュニケーション方針と内外のコミュニケーションプロセスを確立する必要がある。このことは組織の独自性と持続可能性のために重要である。
内部コミュニケーションで考慮すべき事項
外部コミュニケーションで考慮すべき事項
村社会のDNAをもった日本企業では、コミュニケーションを暗黙のうちに実施する慣習がいまだにあるようだ。定年後の一時期所属していたNPO法人で日本企業で長く務めた退職者の集まりでの経験から言えることである。日本以外の欧米社会でも裏で何かを伝達することは盛んに行われている。自宅に同僚や友人を招いてパーティーを開きそこで会社の問題点や将来性を議論することを数多く経験してきた。それと同時に、欧米の経営者は、公式のコミュニケーションについての価値観は高い。いまアメリカの大統領選挙が進んでいるが彼らのスピーチの巧みさを見ればそれを理解できるだろう。ただし、日本のマスコミがなぜこれほど派手に報道するのかは不可解だ。クリントンだろうがオバマだろうが日本の一般国民にどんな影響があるのだろうか。考えればわかることだが、日本の一般国民には報道されるほど大きな影響はないだけは確かだ。とはいえ、株主総会がシャンシャンで終わる時代はもう終わったのだから、マスコミを通じて何をいかに伝えられるかの日本人経営者の能力を試すことは非常に重要だと考える。
コミュニケーション・プロセスの有効性と効率は、改善あるいは改革を必要としているのかを決めるために定期的に評価され見直されるべきである。
コミュニケーションの有効性に影響する要因には以下の事項を含む。
コミュニケーションの道具が発達した現代で、経営者が社内外のコミュニケーションに困ることは一切なかろう。むしろ、現在の余りにも発達したコミュニケーション技術に追いついていけないことが苦痛となっている人もいるかもしれない。しかし、これを克服できないならば、潔くステップダウンすることだ。組織を運営するためにはそれほど現代では即時的なコミュニケーションが必要となっている。今晩いっぱい飲みながらなんていうことは昔話だ。
ところで、いま中国産餃子への農薬混入が大きな問題となっている。食品安全の国際規格ISO22000があるが、そこで強調されていることは「食品のサプライチェーン全域でのコミュニケーションが重要だ」ということである。今回の農薬混入も、昨年消費者から苦情が寄せられていたにも関わらず販売者や輸入業者は特に問題視しなかったことが被害を拡大させたことは確かである。ISOでいう「コミュニケーション」とは、企業の責務としての「業務内容伝達」を意味すると理解されたい。