THE CHRONICLES OFNARNIA: THE LION, THE WITCH AND THE WARDROBE 〜ナルニア国物語 第1章:ライオンと魔女

 全世界で1億部の売り上げを記録し、傑作ファンタジー小説として同じ英国のJ.R.R.トールキンの『ロード・オブ・ザ・リング』と並び称される、C・S・ルイスの『ナルニア国物語』を映画化した大1弾『ライオンと魔女』。映画の『ロード〜』シリーズが大好きな者としては、非常に気になっていた作品でした。しかも、CG(コンセプチャル・デザイン)に関しては『ロード〜』のスタッフと同じだし、撮影した場所に一つにニュージーランドもありましたからね。しかも、リーアム・ニーソンがこの物語の影の主役でもあるライオン(ナルニア世界の創造主アスラン)の声を担当しているということもあって、「観たい!」という気持ちが強かったです。

 ただ、日本でも有名な児童小説ですが、小学校の頃に1回読んだだけであんまり原作の内容を覚えていなかったですよね。原作は『ロード〜』よりも読みやすかった…くらいの印象しかない(笑)。観る前に読み直そうかと思ったけど、『ロード〜』も映画を観てから原作を読み直したので同じパターンでいくことにしました。


 物語の舞台は第2次大戦下のイギリスはロンドン。空襲が激しさを増す中、田舎に住む教授の家に疎開して来たペベンシー家の4人兄妹。母親の元を離れた寂しさや退屈さを紛らわす為にかくれんぼを始めた4人だったが、末っ子のルーシーが空き部屋にある古い衣装ダンスの中に隠れる為に入ると、衣装ダンスの奥はどこかに続いていて、先を行くと信じられないような異世界が広がっていた。そして不思議な生き物フォーンのタムナスさんに出会い、ここが「ナルニア国」という不思議な国であることを知る。最初はルーシーの話を信じなかった長男のピーター、長女のスーザン、次男のエドマンドだったが、彼らも「ナルニア国」の世界を目の当たりし事実を受け止めることになる。
 そして、彼ら4人が白の魔女によって100年もの間長い冬に閉じ込められているナルニア国の救世主であると予言されていると知り、ナルニア世界の創造主アスランと共に白の魔女と戦うことになっていく…。

 という話で、「アスラン軍vs白の魔女軍」と対立関係がハッキリしているので、ファンタジー作品とはいえ難しい呪文やキャラクターもほとんど無く判り易い内容だったと思います。ただ配給会社があのディ○ニーなだけに、全体的に子供向けな印象が残りました。残酷的な描写は絶対に見せないというだけではなく、展開そのものが判り易い感じになっていて、非常にラストはあっけない印象を受けてしまった。
 『ロード〜』ファンタジーのダークな世界を描写した話だとしたら、『ナルニア国物語』は明るい世界を描写した話でもあるので、全体的に雰囲気が明るいので余計に軽い感じに見えてしまったのかもしれません。まぁ、これは私がダークな話の方が好みだから…というのが一番大きいと思うので、むしろ『ロード〜』よりも老若男女問わず誰にでも受け入れられる作品に仕上がっていると思います。


 話は空襲を逃れる為に4人の子供達が疎開するシーンから始まりますが、ここで母親と駅で別れるシーンが一番グッときたシーンでもあります。特にルーシーなんてまだ幼いのに、いつまた母親や家の元に戻れるのかも判らない不安な状態に包まれている子供達や、そんな子供達の傍に居てあげることのできない母親の悲しみや辛さが伝わってきて、非常に印象に残ったシーンでもありました。
 しかしそういった悲壮な雰囲気がここまでで、カーク教授の屋敷で暮らすようになると、すぐにルーシーが不思議な洋服ダンスを見つけるので、母親と離ればれてになっている悲しさが消えてしまいます。かなりこの辺の展開は早いです。さすが、ディ○ニー良くも悪くもサクサク話が進みます。4人がナルニア国の存在を知り、予言によって自分達が救世主になっていることとか怒涛のような展開なんですが、判り易くする為に移動時間や会話を短くしているせいか、妙に中途半端な感じが否めませんでした。キャラクターもルーシーやタムナスさん以外は、もうちょっと掘り下げても良かったんじゃ…と思ってしまいます。映像が美しかっただけに、なんか違和感というか、薄い内容だな…と感じてしまった。

 ただ、これは無意識に『ロード〜』と比べてしまっただけであって、『ロード〜』のことを無しにすれば「面白い!」と言える作品でした。先にあれだけの作品を知っていたので、すごくハードルを高くして観てしまったことは否めません。たぶん、私が『ロード〜』のシリーズを観ていなければ、「なんて凄い作品なんだっ!」と感激したと思います。


 原作は児童書だけあって、4人の兄妹関係の描写が良いです。3人の妹や弟の親代わりになろうとする長男のピーターは、その気持ちが強い余り次男のエドマンドに反感を買ってしまったり、長女のスーザンは真面目さのあまり理論的な判断しか下せなかったり、次男のエドマンドは厳しい兄や姉に反発して欲に目がくらんで白の魔女に従ってしまったり、次女のルーシーは好奇心旺盛ですぐどこかへ行ってしまったり、強い兄弟の絆で結ばれつつも、それぞれ短所はある。そういった面がそれぞれ顕著に出てしまうと、お互いが信用できなくなって喧嘩や裏切りに発展していってしまうのですが、自分達がナルニア国の救世主なんだと自覚していくことで、少しずつお互いのことを考えるようになったり、心理面での成長が頼もしく見えました。
 しかし繰り返すようになるけど、展開が早いので「改心が早い」なとか、大して訓練もしていないのに何であそこまで戦えるんだろう?とか、子供にしては飲み込みが早いな、ナリニアってそんなに広くない国なのか?…みたいな部分も目立ってしまうのも事実でした。この辺の描写はじっくり見たかったな。それぞれ魅力的なキャラクターだったのに…。スーザンに至っては、大して活躍も無かったように思われる。勿体無いよう…。

 アスラン率いる軍と白の魔女との軍の対戦シーンは映像的にはとても美しかったのですが、なんか迫力不足でした。だけど、そんな中での白の魔女の戦いっぷりにはビックリしました。悪の方のボスて高みの見物をするもんだという先入観があったもので、白の魔女自ら二刀流で参戦する姿なんて怖いくらいの迫力がありました。顔も『コマンドー』じゃないけど、ちょいと戦闘用メイクだったし、見た目が怖い不思議な生き物達よりも怖くて迫力がありました。それだけに、白の魔女は一体どうやって倒されるだろう?とドキドキしながら観ていたんですが、まさかアスランが飛びついてアッサリ……なんて思ってもいなくて呆然。「え?今ので終わり?ええ?戦い自体も終わり?」と、あの展開にはちょっと着いて行けませんでした。あんなに活躍した白の魔女を、あんなにアッサリ終わらせちゃうだなんて…。これも勿体無い。

 その後の展開は、4人はそれぞれ王位についてナルニア国安泰、そして成長した4人が無意識に洋服ダンスの扉を開けて元の世界(時間)に戻る…という、予定調和的な終わり方ですが、これはこれで素敵な終わり方でした。
 それにエンドロールが流れる途中でのカーク教授とルーシーの会話が素敵だった。


 たぶんピュアな心を持った人は純粋に楽しめたと思いますが、私みたいに汚れてきている人間には若干の物足りなさと中途半端さが残る作品なんじゃないでしょうか。まぁ、子供達に「見せたい」と思わせる作品でしたけどね。
 かなり辛口な感想になってしまっているかもしれないけど、劇場で観るべき素敵な作品だと思いました。有名な原作を映画化するっていうのは難しい面が多々あると思いますが、それをここまでの作品に仕上げたっていうのは凄いことですからね。




 …で、ここからキャラ語り。

 一番印象に残ったキャラクターは、やはりティルンダ・スウィント演じる「白の魔女」。残酷な描写はほとんど無いものの、彼女の冷たい表情というか眼差しだけで十分「怖さ」が出ていたし、彼女の出てくるシーンはゾクゾクしました。彼女の殺陣のシーンはホントに迫力ありましたからね。
 個人的には、無表情で冷酷な言動を取る姿よりも、無表情ながらも「チッ」と口を歪めたり、眉を顰めたりする表情に「強烈な怒り」を感じました。


 アスランは100%CGだと聞いていましたが、あまりのリアルさにビックリしました。でも、あの目の表情の豊かさは本物で表現するのは不可能だろうし、うーんCGの技術の高さに感動。あと、リーアム・ニーソンの声はハマってましたね〜。リーアムてなんとなくライオンぽい顔しているし(笑)。ただ、アスランがピーターを騎士と認めるシーンはリーアムが出演していた『キングダム・オブ・ヘヴン』の某シーンを思い起こさせましたわ。


 この物語の登場人物の中で一番喜怒哀楽豊かだったのが、ルーシーと友達になったタムナスさん。愛くるしいキャラクターだった。最初は白の魔女の指示通りにルーシーを誘拐しようとするんだけど、そんな自分が嫌で泣いちゃったり、ルーシーに「友達になれたと思ったのに」と言われて彼女を逃がしちゃったり、本当に良い人です。しかも、エドマンドが密告したことで、白の魔女に裏切りがバレて捉えられた挙句に凍らされてしまってと散々なんだけど、最後はアスラン達に助け出されルーシーとも再会。王女になったルーシーに冠を置いたり、去って行くアスランを寂しく見送るルーシーを励ましたりと、本当に良い人だった。この2人の友情関係は永遠に続いて欲しいわ。


 ペベンシー家の4兄妹はみんな普通の子供達って感じで良かったです。特にルーシーの好奇心旺盛ぶりは可愛かったなぁ。しかし、ルーシー以外の兄妹の描写はやや不足気味だったと思います。先にも書いたけど、特に長女のスーザンはほとんど活躍シーンがなくて残念。
 次男坊のエドマンドは白の魔女にそそのかされて3人を裏切ってしまうけど、最後はピーターも言うことも聞かずに彼のことを命懸けで助けようと捨て身の行動に出ていた。冒頭の防空壕に避難するシーンで、ピーターの制止も聞かずに危険を顧みず家に父親の写真を取りに戻ったりと、ある意味一番家族想いなのかもしれない…と感じました。


 あとカーク教授てちょっとしか登場しないけど、洋服ダンスの向こうに世界がある!と言ったルーシーのことを理解したり、逆にピーターやスーザンのことを諭したりして、素敵な存在でしたね。C・S・ルイス自身というか、彼の憧れの大人像なのかもしれないですよね。


 その他のキャラクターもなかなか素敵でした。特に人間よりも、CGのキャラクターの方が表情豊かで面白味があったのは、監督が『シュレック』のアンドリュー・アダムソンだからなんだろうか。




 この『ライオンと魔女』の世界的大ヒットにより、続編である『第2章:カスピアン王子のつのぶえ』の映画化が決定したそうですが、撮影は来年になるらしい感じですね。まだ脚本を作らなくちゃいけない段階だし。ただ、子供達の成長は早いので(特にルーシー役のジョージー・ヘンリーなんか2,3年も経てば雰囲気がガラリと変わっちゃうはずだ!)、監督にはサクサク撮影に挑んで頂きたいものです。


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