Corpse Bride〜コープス・ブライド

 ティム・バートン監督が『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』以来に挑んだストップ・モーションアニメで、今回は監督や製作までも担当。2秒撮影するのに12時間以上も掛かる手の込んだ技法なので作品は72分と短いのですが、費やした時間は計り知れないです。

 私は『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』が大好きなので、この作品もそこそこ期待しておりました。だって、タイトルが『コープス・ブライド(死体花嫁)』ですよ。ティム・バートンが得意とする、ブラック・ユーモア満載の予感じゃないですか!しかも、声優を『チャーリーとチョコレート工場』でも主演しているジョニー・デップとヘレナ・ボトム=カーターが担当していたのも楽しみの一つでした。


 内気で冴えない青年のビクターは、親の言いなりで会ったこともない貴族出身のビクトリアと結婚することに戸惑っていた。魚屋を営んでいたビクターの家はそれなりに金持ちだったが、家柄がなく貴族という「地位」を得たいが為の親の陰謀による政略結婚だった。かたや、ビクトリアの親も、貴族というのは名ばかりで財産は底を突いていたので、金のある魚屋に娘を嫁がせれば不自由しないという思惑があった。そんな訳で、当人達の気持ちを無視していきなり結婚式のリハーサルが行われることになったが、そこで初めて出逢った2人は互いに一目惚れ。お互いに結婚できると思うが、なんせ内気のビクターは結婚式の段取りすらロクに把握できないダメっぷり。神父にも愛想をつかされ、教会を飛び出してしまったビクターは何とか式が上手く出来るようにと一人森の中でリハーサルをやるが、木の枯れ枝と思って結婚指輪を嵌めた場所が、なんと花嫁の死体の指だった!ビクターの誓いによって甦ってしまったコープス・ブライドは、ビクターに結婚を迫り、逃げ惑うビクターを死の世界まで連れて行ってしまう。一方、人間の世界では、ビクターが謎の女性と駆け落ちしたということになり、ビクトリアは金持ちの伯爵だと自称する男と結婚させられることになってしまった。

 という話で、内気で優柔不断な男ビクターが、コープス・ブライドに結婚を迫られて死の世界で右往左往するという感じです。もうね、何が凄いって、生きている人間の世界が全体的にセピア色というか灰色がかった暗い色彩で描写されているのに対して、死の世界てみんなガイコツか顔が真っ青な死体ばかりなんだけど、原色をふんだんに使ったカラフルな世界で賑やかで楽しいのよ。「結婚相手が死んでいて何が悪い?」て、楽しげに聞かれても返答に困っちゃう感じ。少なくとも、生きている世界のような陰謀や政略はない。
 そんな訳で、最初は嫌がっていたビクターだけど(現に、1回だけビクトリアの所に逃げるが)、コープス・ブライドのエミリーの気持ちに絆されて、「死んで彼女と結婚するのもいいか」って気持ちになるのであった。なんかさ、男て情に流されやすよな〜って、このビクターを見てつくづく感じたわ(笑)。もちろん、コープス・ブライドのエミリーはちょっとした感情も顔に出したり、仕草も可愛かったりで、一番感情移入してしまったキャラではあるんだけどね。ある意味、一番人間ぽい仕草というか言動をしていたし…。

 でもって、地上でエミリーとビクターの結婚式を挙げて、そこでビクターは毒入りの酒を飲んで死体となってエミリーと共に死の世界で暮らそうと決めるのですが、そこに公爵との披露宴を中断させられたビクトリアが現れ、「やはり生きている人間同士で愛を誓うべき」とエミリーが引き下がるんだな〜。うう、切ない。しかも、ビクトリアの結婚相手となった公爵は、かつてエミリーを殺害した男だということが判明!彼は誤って毒酒を飲んでしまい、エミリーの死の世界の仲間達と共に死の世界に連れて行かれ、エミリーはビクターから本当の優しさと愛情を得ることができて、やっと心の自由を取り戻して天に昇っていくのであった。ちゃんちゃん。

 で、思いっきりネタバレを書き巻くっちゃったけど、ビクターて優柔不断で内気で役立たずな男だと思ったけど、ずーっと悲しみに囚われていたエミリーの心に安らぎと自由を与えてあげたって意味では非常にに役立った存在でした。なんか、それ以外良いところないし(笑)。

 この話の登場人物の中では、女性の方が逞しいっていうか芯が強いです。コープス・ブライドのエミリーは執拗なまでにビクターとの結婚を迫るけど、ビクターの立場のこともちゃんと考えるようになっていくし、何より生きている婚約者のビクトリアのことを想ってあげるだなんて優し過ぎるよ、ホントに!しかも、自分を殺した公爵がビクターに斬りかかった時に身を挺して守った男前ぷりと、公爵が謝って毒酒を飲んでしまう様をジッと見据える姿なんてジーンときたもんなぁ。
 ビクターの最初の婚約者だったビクトリアも、最初は親の言いなりの結婚を嫌がっていたけど、ピアノを優しく弾いていたビクターの人となりに一目惚れして、どんなにビクターが情けない姿を晒そうともバカにしなかったし、ビクターが「謎の女と駆け落ち」したというニュースを聞いても信じなかったし、コープス・ブライドに攫われたと知った時はなんとか助けようと神父に協力を求めに行ったりと、本当に最後までビクターのことを想っていたからね。


 あと、この作品て「死しては愛を分かち合えない」って言っているようで、ややキリスト教に反しているような考えだな〜って思いました。もちろん、生きている人間同士が愛し合うのがベストなんだけど、ファンタジーのようで現実味のある設定というか、ちょっと現実を突き付けられている気がしました。それに、一度は愛を誓い合ったビクターとコープス・ブライドのエミリーだけど、エミリーからその誓いを破っちゃっうというのも、キリスト教なら在り得ないことだけど、それだけビクターのことを想っていたということでもあるので切ない。

 ブラック・ジョーク満載の話なんだろうと思っていたので、まさかこんなホロリとくるとは思いませんでした。エミリーが生きていたら、見事なまでな三角関係になって「昼メロ」突入か?て勢いになったんだろうけど、「自分はビクターと違って生きていない」ってことが、すっごく重く圧し掛かってきていて、そこをエミリーが理解することが切ないんだよね〜。
 エミリーは成仏(?)したし、ビクターとビクトリアは結ばれたからハッピーエンドではあるんだけど、妙に切なさの残る終わり方でした。


 最初、エミリーがコープス・ブライドになってしまった話をして結婚を約束した男に殺されたと知った時は、すぐに「あの公爵がエミリーを殺したんだな」とすぐに判ったんだけど、ティム・バートン監督のことだから、最終的にエミリーとビクターを結びつけちゃうんだと思っていた。ビクターが公爵に殺されちゃうんだけど、死んじゃった方がエミリーもいるし仲間もいるしビクターは幸せでしたって感じになるかと(笑)。でも、そこまでティム・バートンは暴走することはありませんでしたね。まぁ、そこまで暴走されたら、あの最後の感動は台無しになっちゃうけど。




 …で、ここからミーハー語りというかツボ語り。ティム・バートン監督だけあって小ネタ&遊び心満載でしたからね♪

 主人公のビクターはジョニー・デップが演じていたんだけど、「ジョニー・デップだ!」と意識しないと判らないくらい普段のジョニーと違った声で、小心者のビクターにハマっていた声でした。で、『チャーリーとチョコレート工場』公開からすぐの作品だったので(撮影自体はほぼ同時進行だったらしい)、ビクターのことをビクトリアの両親が「なんて名前だったっけ?ウィリアム?」て間違えるところがツボでした。ウィリアムは、『チャーリー〜』でジョニーが演じたウィリアム・ウォンカさんだもんねっ!

 名前といえば、ビクターのフルネームが、ビクター・バン・ドートなんだけど、何気にティム・バートンの名前に似せている。あと、ヒロインのビクトリア(Victoria)とビクター(Victor)は、わざと似せた名前にしていたのかな?
 それと、ビクターの家の商売を魚屋にしたのは、前作『BIG FISH』を意識してか?などと、勘ぐってしまいました。

 コープス・ブライドの声優を担当したヘレナは『チャーリー〜』にも出ていたけど、その前に『フランケン・シュタイン』に主演していまして、まさに死体花嫁になっていましたよ。この辺もティム・バートン監督のことだから狙っていたんだろうな。
 そうそう、全体的にコミカルでブラック・ジョーク満載だけど、最初のコープス・ブライドがビクターを追っ掛けてくる様はマジでホラーテイスト入っていて怖かったです。

 『ナイトメア〜』ほどの強烈なキャラは登場しなかったけど、死の世界のガイコツ達はどれも個性豊かで可愛かった。過去にビクターが飼っていた犬が「スクラップ」という名前にもウケたんだけど、ビクターよりもエミリーに対して忠犬で可愛かったわ。
 あれだけガイコツが登場したから、カボチャの王様のジャックが紛れてないか?と探したんだけど、さすがに版権にうるさいディ●ニー作品でもあるので居なかった模様。居てくれたら面白かったのになぁ。そういえば、ビクターの住む村の新聞屋みたいなキャラは、『ナイトメア〜』の市長みたいなキャラだったなぁ。

 この作品で一番好きなシーンは、エミリーとビクターの結婚式を祝おうと死の世界の仲間たちが生きている世界にやって来た時、生きている家族と死体達が感動の(?)再会をするシーン。何気にほのぼのしていて好きだったわ。




 冷静に考えると、優柔不断男が死体の花嫁に取り憑かれちゃった話になるんだろうけど、その死体花嫁はすご〜く人間ぽかったお陰で助かったのよね。こう書いちゃうと身も蓋もないんだけど、そういう内容をファンタジー要素満載で切ない話に仕上げたのは、正にティム・バートンマジックだと思います。
 だって、人間よりも死体も方が可愛いな〜って、思っちゃったもん。この時点で、ティムのマジックにかかっちゃったってことでしょっ♪


 


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