Quality Management System ISO9001:2015ー品質マネジメントの原則



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品質マネジメントの原則


品質マネジメントの原則は、DIS案では付属書 Bとして掲載されていたが、正規の国際規格の発刊に伴ってISO9000:2014に移動された。

品質マネジメントの原則は、2008年版にも存在し、この原則にしたがって国際規格は策定されてきた。ISO9001:2015も同じように原則に則って策定された。しかし、今回の改定時に、原則の内容が大幅に変更された。例えば、原則の数も一つ削減された。

この原則は、規格の基礎となっているので、十分に理解することが望まれる。解説と併せて掲載する。


序文:


この文書では、品質マネジメントシステムに関するISOファミリー規格の基礎担っている七つの品質マネジメントの原則を紹介する。
この原則は、ISO/TC176の国際的な専門家によって策定され、更新された。     
この付属書は、それぞれの原則を説明した”ステートメント”、および組織が原則に取り組むのが望ましい理由を説明した”論理的根拠”を提供する。     

顧客重視:


a)原則の内容

品質マネジメントが最も重視しているのは、顧客要求事項を満たすこと、および顧客の期待を上回るように努力することである。

b)論理的根拠

組織が、依存している顧客およびその他の利害関係者の信頼を集め、それを維持するときに、持続的な成功が達成される。あらゆる側面での顧客との相互作用が、顧客に対してより多くの価値を生み出すための機会を提供する。顧客およびその他の利害関係者の現在と将来のニーズを理解することは、組織の持続的成功に寄与する。

 解説

7つの品質マネジメントの最初の原則であることは現行規格でも同じである。ただし、現行8つの原則での文言は次のようになっている。すなわち、"組織は顧客に依存しているので、顧客の現在と将来のニーズを理解し、顧客の要求を満たし、顧客の期待を上回ることに努力しなければならない"である。これが上記した内容に変わっている。
顧客重視が意味することは、顧客を満足させることによってはじめて利益が得られることを十分に理解することに組織のエネルギーを注ぐ"顧客がまずありき"のマネジメントである。したがって、顧客のニーズと期待を深く探求し、確実に理解することが、組織の最重要課題として活動を行われなけらならない。すなわち、顧客のニーズと期待と組織の目標とが堅実に結びつけられねばならない。そのためにはトップ経営者が、顧客のニーズと期待を組織全体に伝達することも必然となる。
さらに、顧客満足を測定し、その結果に基づいて適切な活動を実行しなければならない。顧客を満足させることと、組織に関わりのある人たちを満足させることにはバランスの取れた対応が求められる。

リーダーシップ:


a)原則の内容

すべての階層でのリーダーは、目的と方向性とを一致させ、組織の目標を達成させることに人びとが参画する状況を構築する。

b)論理的根拠

目的、方向性および参画を調和させることで、組織の目的を達成するために、その戦略、方針、プロセスおよび資源を連結させることができるようになる。

 解説

現在の原則では、”リーダーは目的と方向性を調和させねばならない。それには、人々が組織の目標を達成させることに全面的に参画できるような内部的な環境を創造し維持しなければならない”となっている。したがって、トップ経営者を始めすべての階層のリーダーが対象に加えれたこと以外に新しい原則の意味は変わっていない。
リーダーシップとは、組織の価値観に一致する具体的な行動技術や行動事例を提示することである。すなわち、組織の目標を設定して人びとに提示する行動を意味する。内部的な状況や環境には、社内文化と風潮、マネジメントスタイル、共有、信頼、モチベーションと支持が含まれる。
リーダーは、顧客、所有者、従業員、供給者、資金提供者、地域のコミュニティーと社会を対象にしたすべての利害関係者のニーズに配慮しなければならない。
リーダーの役割の一つは、組織の未来についての明瞭なビジョンを策定することであり、挑戦しなければならないゴールと目標を設定しなければならない。リーダーシップを発揮して、組織のすべてのレベルで共通の価値観、公正性、倫理的なロールモデル(規範)を作成し、維持する必要がある。
リーダーは利害関係者との信頼関係を確立し、彼らの"恐れ"を排除する必要がある。リーダーは、必要とされる人材開発トレーニングを提供し、責任と説明責任を持って行動する自由を人々に与える必要がある。リーダーは、人々の貢献を鼓舞し奨励し、彼らの貢献を認知する必要がある。

人々の積極的参加:


a)原則の内容

すべての人々が力量をもち、権限を与えられ、価値の提供に参画することが、組織にとって不可欠である。 組織全体に亘って、人々が能力をもち、権限を与えられ、参画するとき組織の価値創造能力は高まる。

b)論理的根拠

効果的で効率的に組織を運営管理するには、すべての階層においてすべての人々を参画させ、彼らを個人として尊重することが重要である、認識をもち、権限を付与し、技能及び知識を高めることが、組織の目標の達成に向けた人々の参画を促進する。

 解説

英語原文の現行の表題である"Involvement of people"が、"engagement of people”に変更された。邦訳では”人々の積極的参画”になっている。すなわち、人びととの結びつきや関わりの重要性がより強調されたと筆者は考える。現行の原則は、"すべての階層の人々は組織の要であり、彼らの全面的な参画によって彼らの能力を組織の便益に活用させることが可能となる"とし、抽象的な表現に終わっている。これに対して、新しい原則は、人々との結びつきについてより具体的な表現を採用している。
さて、人々を積極的に参画させること(engaging people)とは、どのような意味なのかを考える。それは、従業員自らが組織のゴールと企業価値を高めることを強く決意し、組織の成功に貢献することに意欲を持って臨み、同時に自分の幸福感を高めることができると感じている状態を言う。”参画意識の高い(エンゲージ)”された従業員は、仕事を達成した満足感、組織への強い熱意、職務へ深く関わっている実感と自分に仕事が任せられているという感情が混ざり合ったような体験をする。
"人々の参画"を語る時には、すべての従業員は業務を達成する十分な能力を有し、仕事が任せられ、実際に価値を生み出していることを意味することを忘れてはならない。"エンゲージ"された従業員は、業務の重要性についての認識が高いだけでなく、業務に期待されている本質的な中身を十分に理解している。したがって、改善の余地を見つけ出すことが多くなり、フィードバックが日常的に行われ上司との対話が多くなる。同僚、上司、部下と"エンゲージされた"従業員の業務面での関係の質が大幅に向上し、効果的な従業員とのコミュニケーションが行われるようになる。

プロセスアプローチ:


a)原則の内容

活動が、首尾一貫したシステムとして機能する相互に関連するプロセスが理解され運用されたときに、一貫性があり予測可能な結果が、より効果的で効率的に達成される。    

b)論理的根拠

品質マネジメントシステムは、相互に関連するプロセスによって構成されている。すべてのプロセス、資源、管理および相互作用を含め、このシステムによってどのように結果が生み出されるかを理解することによって、組織はそのパーフォマンスを最適化することができる。

  解説

現行の原則には、"活動と関連する資源が一つのプロセスとして管理されたならば、望ましい結果がより効率よく達成される"とやや抽象的な表現が採用されている。しかも、効率を向上させることには言及しているが、新しい原則のように効果についての文言はない。効率重視からの脱却を図ったと筆者は考える。
プロセスは動的なものであり、何らかのものごとを引き起こすことだと理解する。そこで、組織の中での種々のプロセスは、最も効率的かつ効果的な方法で特定の目的を達成する意図をもって構成されることが一般的である。しかも、このようなプロセス構築は、望ましい結果を体系的に獲得し達成するために必要な活動を定義する上で役に立つ。さらに、重要な活動を管理するための責任と権限を明確にすることにも役立つ。同じく、これら重要な活動の能力を測定し分析することにも役立つ。組織内の部門間との相互関係も明確にできる点でも有益である。しかも、顧客、供給者およびその他の利益関係者に与える影響をリスク、さらに危機が起きた時の結果と影響度の観点から評価することが可能となる。

品質マネジメントシステムは、利害関係者の満足であるシステムの目的を産出することを目指して相互に関連するプロセスを組み合わせて構築されている。これによって、最も効率的かつ効果的に組織の目的を達成することができる。また、システムのプロセス間の相互依存性をより明瞭に理解することもできる。さらに、共通の目的を達成するために必要となる役割と責任についてより理解を深め、障害となる部門間に存在する壁を取り除き、システム全体をいかに有効に運用すればよいのかを明確にできる。
なお、現行の原則の一つであるシステムアプローチはなくなったことはすでに述べた。その理由は、システムアプローチの定義が"関連するプロセスを一つのシステムとして明確化し、理解し、管理することは、組織の目標達成面での有効性と効率に寄与する"としていることから分かるように、新しい"プロセスアプローチ"に包含されたからである。

改善:


a)原則の内容

成功している組織は、継続的に改善を重視している。    

b)論理的根拠

改善は、組織が、現在のパーフォマンスのレベルを維持し、内部および外部の条件の変化に反応し、新たな機会を生み出すために不可欠である。

 解説

現行の原則での"継続的改善"が単なる改善(improvement)に変更された。"組織全体の業績の継続的改善は組織の永久的な目標であるべきである"とする現行の継続的改善では"組織の業績向上"を重視しているのに対して、新規の原則は、一貫して組織全体で改善に取り組むことによって組織が持続可能な成功を達成できるとしている。このような改善活動を可能にするためには、改善のための手法と知識を与える訓練を実施しなければならない。その上で、個々人の目標のみならず、製品、プロセスとシステムをも組織は絶えることなく改善しなければならない。トップ経営者は、リーダーシップを発揮し、組織の力をたかめるために適切な目標を設定しなければならない。

証拠に基づく意思決定:


a)原則の内容

データと情報の分析と評価に基づく決定は、望ましい結果を生み出す可能性を高める。

b)論理的根拠

意思決定は、複雑なプロセスとなることがあり、常に、多少の不確実性を伴う。それには、複雑な種類および源泉のインプットが含まれることが多く、またそれらの解釈も主観的なものになることがある。因果関係および潜在的な意図しない結果を理解することが重要である。事実、証拠、およびデータ解析は、客観性および信頼性がより高い意思決定に繋がる。   

 解説

現行の原則"事実に基づく意思決定のアプローチ"という表題は、"証拠に基づく意思決定"に変更された。現行の定義は、"効果的な意思決定はデータと情報に基づいている"であり、抽象的な表現が採用されている。新しい原則は"望ましい結果を生み出す"ための意思決定をした証拠であるデータと情報に基づくとし、より具体的で明示的となった。
証拠は、観察、測定、試験、あるいはその他の適切な手段によって収集することができる。意思決定は常に証拠に基づいて行われなけらばならない。そのためには、データと情報は十分に正確で信頼できる内容であるように組織が確実にしなければならない。必要とする人々がいつでもデータにアクセスできるように組織は勤めなければならない。その上で、データを適切に分析できるように何らかの適切な手段を用意しなくてはならない。組織は、経験と直感をバランスさせながら、データの分析結果に基づいて意思決定を行い、行動を起こさねばならない。

関係のマネジメント:


a)原則の内容

    継続的な成功のためには、組織は供給者のような、利害関係者との関係をうまく運営しなければならない。

b)論理的根拠

    利害関係者は、組織のパーフォマンスに影響を与える。組織がそのパーフォマンスへの利害関係者の影響を最適化するために、彼らとの関係を運用管理するときに、持続的成功が達成されう可能性が高まる。その供給者およびパートナーネットワークとの関係のマネジメントが特に重要になることが多い。  

 解説

現行の原則"供給者との互恵関係"は、"組織とその供給者は、相互関係にあり双方の互恵関係は両者の価値創造力を強化する"とあるが、このように変更された。新しい原則での利害関係者とは、"組織の成功もしくは業績に影響を与える人、もしくはグループ"と定義されている。利害関係者は組織によって直接的に影響を受けることがあるかもしれないし、あるいは、組織の業績に強い関心を示すこともある。利害関係者は、組織の内外に存在する。例えば、顧客、供給者、所有者、共同経営者、従業員、組合、銀行、一般大衆などである。これらの利害関係者との関係マネジメントとは、知識、ビジョン、価値を共有し、供給者を理解し彼らを敵にまわすことがないように取り扱うことを意味する。したがって、組織は、短期的な損得と長期的な配慮と共に均衡のとれた関係を築く必要がある。共同経営者とは、専門知識と経営資源を共有することも必要となる。また、組織は重要な供給者を明確にして選択することも重要である。
利害を共有する関係者とは、明快で解放されたコミュニケーションを保ち、情報と将来計画を共有することが求められる。共同開発や改善活動を設定することも必要となるかもしれない。特に、供給者との共同で改善活動を行うことを積極的に奨励し、その活動を認知することが求められる。