Quality Management System 品質マネジメントシステムーISO9001:2015



10 改善
10.1 一般


組織は,顧客要求事項を満たし、その上で顧客満足を向上させるために,改善のための機会を明確にし,選択しなければならず,また,必要な処置を実施しなければならない。

これには,次の事項を含めなければならない:
 a) 将来のニーズおよび期待に取り組むためとともに、要求事項を満たすために製品およびサービスを改善すること;
 b) 望ましくない影響を修正し,防止し、あるいは低減すること;
 c) 品質マネジメントシステムのパフォーマンスと有効さを改善すること。

注記 改善には,例えば,修正,是正処置,継続的改善,現状を打破する変更,革新および組織再編を含めることができる。


解説:


規格が意図している改善に関しては、現行規格を踏襲している。しかし、注記では単なる継続的改善(”カイゼン”)以上のことが含まれているようにより能動的な改善を目指す新規の要求事項と言えるかもしれない。製品とサービスの適合性を確保し顧客満足を増強するために広範囲な改善手法を想定しているだけでなく、リスク回避が加わった。現行規格での継続的改善、ブレークスルー、イノベーション、そして組織の再構築以上を目指している。組織のコンテキストから始まる規格がここからPDCAサイクルを回せるように設計された。ただし、これらの改善活動の具体的な手法にまで規格の性格上言及していない。とは言え、多くの日本企業はこれらのいずれかをすでに実施していることは認識している。だが、リスク管理の甘さによる不祥事を知るにつけ、その弱点を再認識する必要があると考える。

リスクベースの考え方が導入された規格での改善には、PDCAサイクルを適時に回してリスク回避や緩和を実現しなくてはならない。その概念図を下に示す。リスクの回避と機会の探求こそ今回の改訂が目指している意図であることを忘れてはならない。”継続的改善”を”改善”に変えた意図もここにある。

Improvement


他方、アップルのiPhoneのような事例で見られる成功例を見るにつけ米国のIT企業が実践した”プロダクト・アウト”の考え方を忘れてはならないことを筆者は指摘したい。かつてのソニーのように消費者の潜在的ニーズを察知し掘り起こし、製品とサービスの革新的な製品開発と市場化を行う供給者(サプライサイド)の論理に基づくマネジメントの存在感が俄然台頭している。だが、新規格は残念ながらこれには対応していない。

とはいえ、注記の”改善”には、単なる継続的改善(”カイゼン”)以上の”抜本的なカイゼン”、革新、変革などが含められていることには留意したい。これを生かすことができるば、少なくとも組織の持続可能性を高めることはできる。



10.2 不適合と是正処置


10.2.1 苦情から生じたものを含め,不適合が発生した場合,組織は,次の事項を行わなければならない:
 a) 不適合に対応し,該当する場合には;
  1) 不適合を管理し,修正するための処置を講じる;
  2) 結果を処理する;
 b) 不適合が再発したり、あるいはどこか別のところで発生させないために、次のことにより、不適合の原因を除去する処置の必要性を評価する:
  1) 不適合をレビューし,分析する;
  2) 不適合の原因を明確にする;
  3) 類似の不適合が存在するのか、あるいは潜在的に発生することがあり得るのかどうかを判定にする;
 c) 必要とされる処置を実行する;
 d) 講じられた是正処置の有効性をレビューする;
 e) 必要な場合には,計画の策定段階で決定したリスク及び機会を更新する;
 f) 必要な場合には,品質マネジメントシステムの変更を行う。

是正処置は,遭遇した不適合による影響に対して適切でなければならない。
 
10.2.2 組織は,次に示す事項の証拠として,文書化された情報を保持しなければならない:
 a) 不適合の性質およびそれに対して講じられた処置;
 b) 是正処置の結果。


解説:


共通規格Annex SLを反映された結果として、現行規格の”不適合品の管理”と”是正処置”を合体させた条項になっている。顧客からの苦情として顕在化した製品の不具合だけでなく社内で発生した製造工程での不具合や欠陥も対象になる。社内検査によって発見された不具合はもちろん、購入部品や下請け業者が提供する役務サービスに何らかの欠陥が見つけられたならば”不適合”として扱う。不適合が表面化されたなら当然何らかの処置を講じるのは当然であり言うまでもない。特に、発生した不適合が他の部署で同じ不適合が発生する潜在的なリスクがないかを考える必要がある。さらに、組織は必要なる処置を講じ後、その有効性をレビューし、必要ならば品質マネジメントシステムに変更を加えることが求められている。

なお、内部監査での不適合の是正処置のフォローアップによって確認できた効果についても、”行われた是正処置の有効性を見直す”の対象となる。内部監査の要求事項では、フォローアップを言及する要求事項が無くなっているが、ここに移された。しかし、FDISでは修正されるかもしれない。



10.3 継続的改善


組織は、品質マネジメントシステムの適切性、妥当性、及び有効性を継続的して改善しなければならない。

組織は,継続的改善の一環として取り組まなければならないニーズ、および機会が存在するかどうかを明確にするために,分析および評価の結果、並びにマネジメントレビューからのアウトプットを検討しなければならない。

解説:


現行規格と同じ用語”継続的改善”ではあるが、すでに述べたようにリスク回避も視野に入れた新しい要求事項であると認識すべきである。品質マネジメントシステムを改善する意図を実現するために、種々の分析結果をマネジメントレビューで検討し、業績不振の解消や新規参入できる分野の有無を確かめなければならない。グローバル化による効果は高い。しかし一方では、多くのリスクが存在し、そのために製品の供給が頓挫したこともすでに体験している。リスク回避は組織の持続性を維持するために不可欠となっている。そのために組織は絶えることなく改善を継続することが求められている。

また、これらの改善活動に利用できる手法を見つけ出すことが必要かもしれないとも示唆している。規格の宿命として、具体的な手法については言及できていないが、国家経営品質賞、シックスシグマ、バランス・スコア・カード、ベンチマーキング、SAP業務運営システムなどが想定されていると推測している。組織が飛躍するための新たな挑戦が示唆されていることは現行の規格では言及されていない。組織の持続可能性を追求するならば、ISO9001品質マネジメントシステムにとどまることなく、さらなる挑戦に挑む姿勢が必要と筆者は考える。

中小規模の組織では、環境、職場安全衛生、情報セキュリティ、セクター規格など他のマネジメントシステムを導入し、シングルマネジメントシステムを構築することによって、組織の持続可能な発展を高めるアプローチを採用する選択肢があると筆者は思っている。これを”全体論的(Holistic)”アプローチという。その概念図を下に示す。この図は、次期規格を策定しているTC176委員会議長であるCroft博士が日本で講演したときに使われた。

Quality Management System


次々に策定されるISO規格を個別に運用することは、管理職を含めて多くの従業員の負担だけが増すだけで組織の効率を低下させかねない。今回の規格改定は、共通の規格構成と文言を採用し、複数のマネジメントシステムを合併させたシングルマネジメントシステムの構築と運用が容易になった。この利点を生かす工夫がいま求められている。