Quality Management System 品質マネジメントシステムーISO9001:2015



9 パーフォマンスの評価
9.1 モニタリング、測定、分析および評価
9.1.1 一般


組織は、次のことを決定しなければならない:
 a)何がモニターされ測定される必要があるのか;
 b)妥当な結果を確実にするための、モニタリング、測定、分析および評価のための方法;
 c)モニタリングと測定はいつ実行されなければならないか;
 d)モニタリングと測定の結果はいつ分析され評価されねばならないか。

組織は,パフォーマンス及び品質マネジメントシステムの有効性を評価しなければならない。

組織は,この結果の証拠として,適切な文書化された情報を保持しなければならない。


解説:


共通規格Annex SLの規格構成に合わせるために、現行規格の8章の"測定、分析および改善"が分割され、"パーフォーマンスの評価"と"改善"の二つの章で構成する新規格となった。本章には、Annex SLからの引用文が多くなっている。その結果、規格の要求事項は理解しやすい口語的な文言で記述されている。

現行規格の”8.2 モニタリングと測定”から引用された要求事項に関する概要であるが、新規格ではその内容が拡張し強化された。規格は説明の必要がないほど易しい文言だが、最後の文言だけは注意を要する。品質面での成果とともに品質マネジメントシステムの有効性を評価するには、どのような活動や指標を決めるかが問われている。その中でも必須となる指標は、次項の顧客満足である。 また、モニタリングはリスクに基づいて実施されるべきである。また、現行規格での”予防処置”と”統計的手法”は無くなった。

それ以外は、組織が決めることになるが、一貫して適合した製品とサービスを提供できたかをモニタリングし、定量化し、評価することが求められる。また、プロセスと製品の特性に関する評価結果と外部供給者の情報が評価の対象となる。すでに認証を取得している組織ならば、現行規格の”データ分析”で求めらている何らかの指標を活用しているはずだから特段の問題はなかろう。



9.1.2 顧客満足


組織は,顧客のニーズおよび期待が満たされている程度について,顧客がどのように受け止めているかをモニターしなければならない。組織は,この情報を入手し,モニタリングし、およびレビューする方法を決定しなければならない。  

注記 顧客の受け止め方をモニタリングする事例には、顧客調査,提供した製品およびサービスに関する顧客からのフィードバック,顧客との会合,市場シェアの分析,顧客からの賛辞,補償請求及びディーラ報告を含めることができる。


解説:


現行規格の要求事項と変わる内容はないが、より明確になるように書き換えられている。ただ、顧客の”受け止め方(perception)”が”考え方(views)と意見(opinion)”に変わっているが、その真意とその影響は分からない。注記にあるように、市場占有率や代理店報告なども満足度の測定に使うことを意識したのかもしれない。いずれにしても、付属書Bにあるように、顧客重視は、組織の持続的な成功には不可欠であるとの認識は現行規格と同じである。

翻ってみると、2000年にISO9001品質マネジメントシステムがはじめて導入された。その冒頭で次のような記述があった。

”品質保証という言葉をもはや含まない規格タイトルとし、品質マネジメントシステムの要求事項は、品質保証を顧客満足と同義的に扱っている事実を反映している”。

以来今日まで、供給者側の論理で製品品質を決める”プロダクトアウト”の思想を否定し、製品とサービスの品質は顧客満足の度合いによって決められるとする”マーケットイン”の考え方が、品質マネジメントシステムに採用されてきた。だからこそ、顧客の視点を重視し、顧客のニーズをどの程度満たしたかを調べることが求められている。ただし、その手法や頻度などは組織が決めることになる。

顧客満足のモニタリングには、製品とサービスの種類によって大きく異なり、収集方法も多肢にわたるので、一概には言えない。あえて、事例をあげると以下になる。

 ー顧客との契約によって製品を顧客に直接納入する契約型製品では、苦情という形で不満足の情報が得られる。また、営業担当者が顧客に電話したり、直接訪問によって情報を収集する。
 ー自動車や電気製品のように組織が製品の要求事項を決めて計画的に生産し、市場に投入する市場型製品では、顧客の考え方や意見はアンケート調査やマーケット調査、市場占有率の調査、インターネット情報などによって情報収取する。
 ーレストランなどのようにメニューを事前に用意し、お客の注文に応じて料理を作るタイプも市場型製品であり、アンケート調査が一般的であるが、顧客苦情を直接受け取ることもある。しかも、携帯電話やスマホなどモバイル端末の普及が進み、”口コミ”情報も下記するサービス提供業では重要視する必要がある。
 ーホテルなどサービス業では、集客数の推移を測定すると同時にアンケート調査が一般的だろう。
 ー旅行代理店の提供する観光サービスなどもこれに相当し、アンケート調査は必須となる。




9.1.3 分析および評価


組織は、モニタリング、測定から生じた適切なデータと情報を分析し評価しなければならない。

分析の結果は,次の事項を評価するために利用されなければならない:
 a) 製品及びサービスの適合性;
 b) 顧客満足度;
 c) 品質マネジメントシステムのパフォーマンスおよび有効さ;
 d) 計画策定が効果的に実施されたか否か;
 e) リスクおよび機会に取り組むためにとった処置の有効性;
 f) 外部提供者のパフォーマンス;
 g) 品質マネジメントシステムの改善の必要性;
 
 データ分析の手法には、統計的技法を含めることができる

解説:


現行規格の”8.4 データの分析”をより鮮明に説明し、モニタリングと測定の活動によって得られたデータを組織は分析するように求めている。分析と評価の結果は、次項のマネジメントレビューのインプット情報に供される。

製品とサービスの適合性やプロセスのパーフォマンスについての情報やデータは、組織の中に多数存在している。たとえば、製品の工程内検査結果、通信販売された製品の口コミ、ホテル宿泊客からのアンケート結果、ベンチマーキングのための他社の調査結果、第三者機関や自治体による業界調査結果などである。これらは社内のどこかには存在はしているが、分析されて規格の要求しているような目的に活用されずに放置されていることもよく耳にする。顧客満足向上のための改善の余地を見つけ出すことや新製品や新市場開発の資料として役立てたりしていないこともときたま見受けられる。ならば、活用せよと規格は示唆している。現代のIT技術を活用し情報とデータを共有できるように情報管理を徹底させる必要があろう。情報はあるが使われていない事態の調査から始めるべきと思う。いまやビッグデータを分析して商品の仕入れや回転寿司の種類を決める時代であることの認識が求められる。



9.2内部監査


9.2.1 組織は,品質マネジメントシステムが次の状況にあるか否かに関する情報を提供するために,計画された間隔で内部監査を実施しなければならない。
 a) 次の事項に適合している。
  1) 品質マネジメントシステムに関して,組織自体が規定した要求事項;
  2) 本国際規格の要求事項;
 b) 有効に実施され,維持されている。
 
9.2.2 組織は,次に示す事項を行わなければならない。
 a) 頻度,方法,責任,要求事項の計画策定および報告を含めて監査プログラムを計画し,確立し,実施し、および維持する。監査プログラムには,関係するプロセスの重要性,組織に影響を及ぼす変更,および前回までの監査の結果を考慮に入れなければならない;
 b) 各監査に対して,監査基準および監査範囲を定める;
 c) 監査プロセスの客観性及び公平性を確保するために,監査員を選定し,監査を実施する;
 d) 監査の結果を関連する管理層に報告することを確実にする;
 e) 遅滞なく適切な修正を行い,是正処置をとる;
 f) 監査プログラムの実施および監査結果の証拠として,文書化された情報を保持する。
 
注記  ISO19011を指針として参照のこと。

解説:


共通規格Annex SLの文言をほとんどそっくり取り入れたために表現の仕方が変わってはいるが、内容は現行規格とほとんど同じである。ただし、品質目標と顧客のフィードバックを監査計画を作成する際には考慮しなければならないという細かな文言が追加された。

この要求事項に基づいて行われた内部監査の結果は、マネジメントレビューで検討され、品質マネジメントシステムが効果的に運営されているかどうかを検証できるように仕組まれている。すなわち、この行為は品質マネジメントシステムの運営状況を”モニタリングし測定する”ことの一つに該当する。次項のマネジメントレビューを通じて、内部監査の結果を積極的に利用し品質マネジメントシステムの継続的改善を推進する意図がある。

なお、顧客からのフィードバックも内部監査の対象となったことは留意すべきである。したがって、顧客からのフィードバックとしてもっとも重要な顧客苦情の記録とそれに対する処置が適切に実行されていることを確認しなければならない。



9.3 マネジメントレビュー


9.3.1 一般
トップマネジメントは,組織の品質マネジメントシステムが,継続的な適切性,妥当性、および有効性、および組織の戦略的な方向性との合致性を確実にするために,計画された間隔で,組織の品質マネジメントシステムをレビューしなければならない。

9.3.2 マネジメントレビューへのインプット

マネジメントレビューは,次の事項を考慮して計画され,実施されなければならない:
 a) 前回までのマネジメントレビューで決められた処置の状況;
 b) 品質マネジメントシステムに関わりのある外部および内部の課題の変化;
 c) 次に示す傾向を含めた,品質マネジメントシステムのパフォーマンスおよび有効性に関する情報:
  1) 顧客満足、および関連する利害関係者からのフィードバック;
  2) 品質目標が満たされている程度;
  3) プロセスパフォーマンス,および製品及びサービスの適合性;
  4) 不適合及び是正処置;
  5) モニタリングおよび測定の結果;
  6) 監査結果;
  7) 外部提供者のパフォーマンス
 d) 資源の妥当性;
 e) リスクおよび機会に取り組むためにとられた処置の有効性(6.1参照);
 f) 改善の機会。

9.3.3 マネジメントレビューからのアウトプット

マネジメントレビューからのアウトプットには,次の事項に関する決定および処置を含めなければならない:
 a) 改善の機会;
 b) 品質マネジメントシステムのあらゆる変更の必要性;
 c) 必要な資源。

組織は、マネジメントレビューの結果の証拠として文書された情報を保持しなければならない。

解説:


現行規格の”5.6 マネジメントレビュー”と基本的には変わらないように見えるが、今回の改正で意図されたポイントであるトップマネジメントのリーダーシップの発揮がここでも求められている。変更点として留意すべきは、現行規格にはない6.1項でのリスクと機会、および組織の戦略的な方向性と組織環境がマネジメントレビューの対象議題になり、さらに次の品質パーフォマンスに関連する種々の指標とその傾向をレビューすることが求められていることである。

 ーモニタリングと測定の結果、
  ー外部供給者およびその他の関連する利害関係者に関する事項、
 ー資源の妥当性、
 ーリスクおよび機会に対応する処置の有効性。

モニタリングと測定の結果には、たとえば、品質目標達成率、設備故障率、クレーム件数、特別採用率などが考えられる。さらに、品質と納期遵守など外部供給者の実績、自社の設備や要員の妥当性やリスク対応策の策定などを検討するのがマネジメントレビューである。これから分かるように一般的に行われている経営会議で討議される内容そのものである。”ISOの会議”と称して仕方なく行う会議ではなく、マネジメントレビューを前向きに活用することなしには品質マネジメントシステムの効果は望めない。

なお、現行の規格では、マネジメントレビューは”経営者の責任"の要求事項の一つだが、共通規格Annex SLの規格構成に合わせるためにこの章に移された。しかし、決して不都合なことではない。下図に示されているように、マネジメントレビューは、品質マネジメントシステムの継続的改善のためのPDCAサイクルを回すドライバー(駆動力)の役割を果たすからである。
Quality Management System

トップマネジメントの強い意思をレビュー会議で示し改善の意図を反映しなければ、今日のような急速に変化する企業環境に追従できる製品とサービスの品質を確保し顧客満足を向上することはできないと新規格は示唆している。トップマネジメントの意思を各部署の責任者たちに伝えるコミュニケーションの場であると位置付ける必要があると強く強調したい。したがって、個人的な意見ながらレビュー会議の開催は、四半期毎が最低限になると考える。