Quality Management System 品質マネジメントシステムーISO9001:2015



8.5 生産とサービスの提供
8.5.1 生産とサービス提供の管理


組織は,製造およびサービス提供を,管理された状態で実行しなければならない。

管理された状態には,,該当する場合,次の事項を含めなければならない。
 a) 次の事項を定めた文書化された情報を利用できるようにする。
  1) 製造されるべき製品,提供されるサービス,もしくは実行されなければならない活動の特性;
  2) 達成されねばならない結果;
 b) 適切なモニタリングと測定の資源が利用できるようにし、かつ、使用する;
 c) プロセスの管理とプロセスのアウトプットの基準、および製品とサービスの許容基準が満たされていることを検証するための、適切な段階でのモニタリング及び測定活動を行う;
 d) プロセスの運用のために適切なインフラストラクチャーおよび環境を使用する;
 e) 必要とされる資格を含め、力量を備えた人々を任命する;
 f) 製造およびサービス提供のプロセスで結果として生じるアウトプットを,後工程のモニタリングもしくは測定によって検証することが不可能な場合には,製造およびサービス提供に関するプロセスの計画された結果を達成する能力について,妥当性を確認し,ならびに定期的に妥当性を再確認する;
 g) ヒューマンエラーを防止するための処置を実施する;
 h) リリース,顧客への引渡しおよび引渡し後の活動を実施する。
 

解説:
現行規格の条項7.5.1”製造およびサービス提供の管理”と条項7.5.2”製造およびサービス提供に関するプロセスの妥当性確認”の二つを統合した条項である。ただ一つ変更されているが些細なことである。それは、昔から言い表されてきた”特殊工程”の妥当性確認に対する記録が求められなくなったことである。この変更は、旅行代理店や食品販売などサービス業では有利に働くだろう。これらの組織では、訓練やトレーニングを行い従業員に資格を与えることで対応していたはずである。この実態を反映した結果の現れと思う。

ちなみに、現行規格に新規に加えられた条項は、以下である:
ー製品とサービスの特性を明確にした文書の利用可能性、
ー要員の力量、および該当する場合、必要な資格認定、
ー引き渡し後の活動。

なお、従来の規格での”特殊工程”と称されいた製造業での溶接作業、サービス業での食品(ふぐ料理など)や医療(手術など)など後工程では不具合を検証できない”プロセスの妥当性確認”に関する要求事項は何も変更されず、そのまま残されている。

ここで、この条項での”管理された条件下”とは、次のことを言う:
 ー製品の特性を示す仕様が利用できる状態、
 ー決められた作業手順が現場で利用可能な状態、
 ー作業手順を実行できる日常点検が行われた設備が利用できる状態、
 ー工程をモニターしたり、製品を検査する測定機器が利用できる状態、
 ー工程管理を計画されたとうりに実行されている状態、
 ー次工程、または顧客へのリリースが行われている状態。
 


8.5.2 識別およびトレーサビリティ


製品とサービスの適合性を確実にするために必要となる場合には、組織は、プロセスのアウトプットを識別するための適切な手段を利用しなければならない。

組織は、生産とサービス提供の全般に通じてモニタリングおよび測定の要求事項に対するプロセスのアウトプットの状態を識別しなければならない。

トレーサビリティが要求事項である場合には、組織は、プロセスのアウトプットについて個別の識別を管理し、トレーサビリティを維持するために必要な文書化された情報を保持しなければならない。


解説:
現行規格の条項”7.5.3識別およびトレーサビリティ”とほとんど同じである。プロセスでの識別に関して現行規格では”該当する場合”と曖昧だが、新規格では、”製品とサービスの適合性を確実にするために必要となる場合”に変わった。識別の必要性の判断をこの文言で行うことができる。 なお、トレーサビリティの確保のための個別識別に関しては現行規格と同じである。あくまで顧客からの要求であったり、自社が決めた製品の要求事項の一つである場合に限られる。

品質マネジメントシステムの規格では、次のように二つの種類の識別がある。
ー製品の識別ーー製品名、ロット番号、契約番号などを使いどの製品がどの顧客に向けなのかを見分けて、正しい製品を顧客に納入することができる目的で行う識別。
ー製品のモニタリングと測定の状態についての識別ーー製品が未検査なのか検査済みなのかのどちらなのか、また検査済みならば合格・不合格のどちらなのかが分かるようにするために行う識別。この場合の識別には、現品票を製品に貼付する、あるいは不合格品を隔離するために容器や置き場所を変えるような方法が使われる。

トレーサビリティーの定義は、”考慮の対象となっているモノの履歴、適用または所在を追跡できること”とある。製品を顧客に納品した後に不具合が判明し、なんらかの対応(例えば、リコール処置)が必要となった場合、対象となる不具合製品の範囲や引き渡し先を特定できるようにすることである。遡及によって特定された製品の不具合の原因を検証し、対応処置を決めることができるようにすることを目的にしている。食品関係や自動車での不祥事が多発していることから分かるように、トレーサビリティーの必要性は高まるばかりである。



8.5.3 顧客もしくは外部供給者に所属する所有物


 組織は、顧客又は外部供給者に属している所有物が組織の管理下にあるか、あるいは組織が使用している間ずっと所有物に注意を払わなければならない。  

 組織は、製品とサービスに使用されるか、または組み込むために提供されている顧客の、あるいは外部供給者の所有物を識別し、点検し、保護し、防護しなければならない。  

 もしも顧客の、あるいは外部供給者の所有物が、紛失したり、 破損したり、あるいは使用には適さないことが判明した場合には、組織は顧客もしくは外部供給者にこれを報告し、発生した事柄について文書化された情報を保持しなければならない。  

注記: 顧客、もしくは外部供給者に所属する所有物には、材料,部品,道具,設備,顧客の施設,知的財産,個人情報を含むことがあり得る。



解説:
現行規格では、”7.5.4 顧客所有物の管理”としての要求事項であったが、外部供給者の所有物も管理の対象に新しく追加された。顧客と外部供給者の所有物には、注記で例示されているように多肢に亘る。これらに該当する物品を自社内で使用あるいは管理下にあるときには、その取り扱いには厳重な管理を求めている。知的財産や個人情報が不用意に管理されたために生じたと思われる事故が時折報道されている。これらの組織では顧客所有物の管理体制の見直しが必要であろう。一方で、現行規格で要求されている記録はなくなった。

この要求事項の対象となるのは、”法的に所有権が顧客または外部供給者に所属する物品もしくは知的所有物”である。具体的には、製造業では顧客が支給する原材料や部品、サービス業では自動車修理店での顧客の自動車、クリーニング店での顧客の衣類、建設業では顧客が支給した建築物のデザイン・設計図、著作権が顧客にある原稿、家電製品や衣類のデザインや意匠などの知的所有物、新規製品の開発会議で使われた資料や書作物などである。

外部供給者であるコールセンターで使われる顧客の個人情報も”顧客の所有物”であり、厳重な管理が求められるのも関わらず、外部に漏洩された事故が報道されている。サービス提供の外部供給者が普及している今日では、外部供給者自身にも顧客の所有物の管理が求められていると認識されねばならない。



8.5.4 製品の保存


組織は,製造及びサービス提供を行う間,要求事項への適合性を確実にするために必要となる範囲で、アウトプットを保存しなければならない。

注記 保存には,識別,取扱い,汚染防止,包装,保管,移転もしくは輸送,および保護を含めることができる。  


解説:
現行規格と同じで、生産の過程での半製品の取り扱い、製品の在庫管理や配送などが保存に相当する。顧客が指定した目的地までの配送と納品を確実に実行できるように業務プロセスを定めることが求められている。半製品であろうが最終製品であろうが企業にとっては貴重な資産であるから日本では厳重に取り扱うことは常識的に行われている。現在行われている方法で顧客が満足しているならそのまま実行すればよい。
ただし、サービス提供のアウトプットに関連する要求が少しだが強化されていると見るべきである。たとえば、飲食業での食品加工後の保存がこれに相当するだろう。また、ある工程から次工程に移される間での保存も必要と明確にされた。

規格原文の”preservation"の本来の意味は、”現状を維持・保全すること”であり日本語の”保存”では誤解を招く恐れがある。適合製品をそのまま納入先に届けることをいう。加工食品などは輸送中の温度管理も重要となるなどが理解する上で役立つであろう。

製品を適合したまま保存するには、識別、取り扱い、包装、保護についても的確に管理する必要があることは当然だが、忘れがちなのが、顧客に提出しなければならない検査合格書や請求書などの書類も間違いなく提出されねばならない。すなわち、顧客の受領印を受けるまで保存の対象範囲であることの認識が求められれいる。



8.5.5 納入後の活動


組織は,製品及びサービスに関連する引渡し後の活動に関する要求事項を満たさなければならない。

要求される引渡し後の活動の範囲を決定するに当たって,組織は,次の事項を考慮しなければならない。
 a) 法令・規制要求事項;
 b) 製品およびサービスに伴って起こり得る望ましくない結果;
 c) 製品およびサービスの性質,用途および意図した耐用期間;
 d) 顧客の要求事項;
 e) 顧客からのフィードバック。

注記 引渡し後の活動には,保証書に基づく処置,メンテナンスサービスのような契約上の義務活動,およびリサイクルあるいは最終廃棄のような補助的サービスを含めることができる。

解説:

現行規格の7.5.1項に用語として”納入後の活動”はあるが、新規格のように具体的な活動を明確にしていなかった。したがって、新規の要求事項であり、その要求内容も幅広く多肢に亘っている。ただし、要求事項の冒頭に”該当する場合”とあり、要求は限定されていることに留意する必要がある。

注記の事例のように、品質保証期間中のアフターサービスなどの提供が契約上で定められているならば、納入後顧客に対して誰が何をどうするかを定めることが必要となる。リスクとライフタイムという文言が加わったために、要求事項を満たすことは複雑になり困難を伴う場合があろう。たとえば、製品の”寿命が尽きるまでのプロダクトライフ”に亘るリスクをどのように予測するか、リスクを回避する方法は何か、製品寿命が尽きた時の取り扱いをどうするのかなどを考慮しなければならない製品やサービスが対象になる可能性がある。注記にある保守サービスは家電製品など耐久財にはすでに実施されている。また、製品によってはリサイクルや最終処分に関する活動を決定する必要性がある。日本では、リサイクル法など法的な規制が課せられているので、すでに対応している。ただし、組織の社会的責任が強く問われる今日、製品とサービス次第では、この要求事項に対処することが重要な課題になる場合も考えられる。



8.5.6 変更の管理


組織は,製造又はサービス提供に関する変更を,要求事項への継続的な適合性を確実にするために必要となる範囲で,レビューし,管理しなければならない。

組織は,変更のレビューの結果,変更を正式に許可した要員(複数)、およびレビューから生じた必要な処置を記載した文書化された情報を保持しなければならない。


解説:

新規の要求事項である。ただし、現行規格の”4.2.3 文書管理”と”5.4.2 品質マネジメントシステムへの変更管理”と関連があり、これら二つの要求事項が合わせられたと考えられる。

留意すべきは、”必要となる範囲で”の文言が加わっていることである。あくまで限定的な範囲での変更管理を行うことが賢明であろう。たとえば、建設現場や機械加工工場で、作業を順調に進めるために作業員が自己判断で行う些細な変更までレビューし管理するようなことまで要求していない。しかし、定められた工程で生産作業を行うと不適合が発生し、工程変更がどうしても必要となるなど計画された手順を変更しなければならない場合には、この要求事項を適用する必要はある。 言い換えると、作業手順書を承認を得ずに作業員が勝手に変更するなどは危険であるので、許されない。この場合には、製品の適合性を維持できることを確認した後、権限を有する責任者が承認を与えることが肝要である。変更についての文書化された情報は記録となる。作業手順書が変更されると、古い手順書は置き換えられるので、改定された手順書に承認者と日付が明確にされていればよいだけである。

なお、留意すべきは、変更管理の対象は、測定機器にも及ぶことである。適合性の合否判定を行う検査機器が変更されることはしばしば起きる。検査機器がデジタル化された新機種に変えられることはその事例である。この場合は、検査手順も変更され文書化されるのが通常なので、必然的に文書化は実施されるとは思うが、念のために記述した。



8.6 製品とサービスのリリース


組織は,製品およびサービスの要求事項を満たしていることを検証するために,適切な段階において,計画した取決めを実施しなければならない。

計画した取決めが問題なく完了するまでは,顧客への製品およびサービスのリリースを行ってはならない。ただし,当該の権限をもつ者が承認し,かつ,該当する場合に顧客が承認したときは,この限りではない。

組織は,製品およびサービスのリリースについて文書化した情報を保持しなければならない。これには,次の事項を含めなければならない。
 a) 合否判定基準に照らした適合性の証拠;
 b) リリースを正式に許可した人(人々)に対するトレーサビリティー。


解説:

現行規格の”8.2.4 製品のモニタリングと測定”では、単に製品の”リリース”という用語が使われていたに過ぎないが、独立した新しい要求事項となった。しかし、実質的には何も変更されていない。リリースとは、製品ならば出荷を意味する。コンピュータソフトならば顧客のサーバーにインストールし、検証の結果不具合がないことを確認した後の引き渡しなどがこれに相当する。

顧客が求める納期を守るために検証が完了していない状況で出荷しなければならない緊急事態も生じる。規格では権限を持つ責任者から出荷承認を得ることでもよしとしている。しかし、規格でも指摘している顧客の承認も同時に得ることを条件にリリースするべきだと筆者は従来から主張してきた。

出荷承認者が誰かが分かるように文書化された情報が作成されねばならない。しかし、出荷伝票に出荷許可の押印するだけでもよいので、無駄な文書は作らないように注意すべきである。

もしも、検証で不適合が判明したならば、次項の不適合の管理に委ねる。



8.7 不適合のアウトプットの管理


8.7.1 組織は,要求事項に適合しないアウトプットが、誤って使用されることもしくは引き渡されることを防ぐために,識別され,管理されることを確実にしなければならない。

組織は,不適合の性質,および不適合が製品およびサービスの適合に与える影響に基づいて,適切な処置をとらなければならない。このことは,製品の引渡し後,サービスの提供中、あるいは提供後に検出された不適合な製品およびサービスにも適用されなければならない。  

組織は,次の一つ、あるいはそれ以上の方法で,不適合なアウトプットを処理しなければならない:
 a) 修正;
 b) 製品およびサービスの分離,散逸防止,返却又は提供停止;
 c) 顧客への通知;
 d) 特別採用による受入の正式許可の取得。
 
不適合なアウトプットに修正を施したときには,要求事項への適合を検証しなければならない。  

8.7.2 組織は、次の事項について文書化された情報を保持しなければならない:
 a) 不適合の記載;
 b) とられた処置の記載;
 c) 取得した特別採用の記載;
 d) 不適合に関する処置について決定を下した承認者の特定。


解説:


不適合となった製品とサービスの管理に関する要求事項であるが、”プロセスのアウトプット”が追加された以外は、現行規格の8.3項”不適合製品の管理”の内容が安易な文言に書き換えられたに過ぎない。あえて新規の要求事項だと指摘するならば、”特別採用、および不適合の処置に関する意志決定を下した要員もしくは承認者”を明らかにした文書の作成だろう。

新しい規格条項に使われている文言は、不適合の処理についての選択肢が明示されていることともに、理解しやすいので好感が持ている。ただし、FDISで変わるかもしれないので、発表されるまで待たねばならない。
最終製品だけでなく、社内工程で発生した不適合に対する処置を決めることが求めれていることには留意する必要がある。これらの不適合品をどのように処理するか、誰がその処理を決定するのか、特別採用をする場合の責任者はだれか、不適合品の識別・隔離をどうするのかなどに関する手順が求められている。現行規格でも、下図に示した”文書化された手順”が要求されているので、多少の手直しで対応できるはずだ。留意すべきは、不適合の取り扱いに関する決定をした要員またはその権限の詳細を含めて不適合の処置に関する文書は記録として保持しなければならないことである。

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