Quality Management System 品質マネジメントシステムーISO9001:2015



7 サポート
7.1 資源
7.1.1 一般


組織は、品質マネジメントシステムを確立し、実施し、維持し、継続的に改善するために必要とされる資源を決定し、提供しなければならない。

組織は,次のことを考慮しなければならない。
 a) 現存する内部の資源の能力、およびその限界(は何か);
 b) 外部の提供者から取得されなければならないもの(は何か)。


解説:


品質マネジメントシステムの効果的な運用に対し真剣に取り組むために必要となる資源に関する要求事項だが、現行規格の”資源の管理”が”サポート”に変更され、内容も強化された。現行規格での人材育成、インフラストラクチャー、作業環境に加えて、組織の知識、従業員の意識、コミュニケーションが新しく加わった。現行規格の”文書管理”と”測定機器の管理”もここに移されている。

現行規格の人的資源では言及されていない外部から入手する資源にも言及している。サプライチェーンの発達によって、部品に限らずサービスも外部から調達することが一般化する中では避けて通れない課題であり、その管理は企業経営を強化できる。

いかなる計画であっても、経営資源のヒト、モノ、カネ、および情報がなければ実現しない。品質目標を達成するための計画が策定されたとしても、何がしかの経営資源が必要となることは通常のことである。同じように、市場調査などによって新規参入できる市場があると判明したとしても、トップマネジメントが適切な経営資源を投入しなければ、せっかくの機会を逃すことになる。
ISO9001の品質マネジメントシステムによる便益を享受できないことが問題になっていることは既に述べた。その原因は、ISO9001の認証取得だけを目的にしたことが大半であるが、適切な経営資源を品質マネジメントシステムの運用に手配しないことも原因の一つである場合がある。特に、人材育成とナレッジマネジメントに対する認識の低さが見受けられる。この欠点を補うために新規格は、その強化を図った。

品質マニュアル事例文言

8. サポート
7.1 資源
7.1.1 一般
当社は、以下のために必要となる資源を明確にし提供する:

 a)マネジメントシステムを実践し、維持し、その有効性を継続的に改善する、
 b)顧客の要求事項を満たすことによって顧客満足を強化する。  

資源の配分は、供給者の期待に関連するニーズと合わせて、現有する内部の資源の能力と制約を考慮に入れて決められる。
資源と資源の配分は、マネジメントレビューで評価される。


7.1.2 人びと


組織は,品質マネジメントシステムを効果的に実施し,そのプロセスの運用と管理のために必要となる人びとを明確に決めて,提供しなければならない。


解説:


経営資源の中でも人びとが重要であり不可欠であることが明確にされた。人びとなくして企業組織は成り立たないことを強く認識して、品質マネジメントシステムの運用に欠かせない要員の確保を組織に求めている。日本では人口減少により、要員確保はすでに困難になっていることを考えると、日本企業には時を得た条項である。

なお、経営資源の中でも最も重要な資源であるにもかかわらず、規格の条項としての位置がインフラストラクチャーと同等である。他方、人との関連の強い”業務達成能力”、”認識”、および”コミュニケーション”は一段上の条項に上げている。規格条項の格付けのことであり、単なる懸念にすぎないかもしれない。

品質マニュアル事例文言

8. サポート
7.1 資源
7.1.2 人びと
上級マネジメントは、組織が明確にしたプロセスと同じくマネジメントシステムの効果的な運用のために十分な人員を提供する事を保証する。


7.1.3 インフラストラクチャー


組織は,製品及びサービスの適合性を達成するためのプロセスの運用に必要なインフラストラクチャを明確にし,提供し,維持しなければならない。

注記  インフラストラクチャには,次を含めることができる。
  a) 建物、および関連するユーティリティ;
  b) 設備。ハードウェア及びソフトウェアを含む;
  c) 輸送のための資源;
  d) 情報と通信技術。




解説:
この条項は、現行規格よりも拡張され明瞭になった。品質マネジメントシステムを変更する必要性が生じた際には、その整合性(integrity)が失われないように、規格の要求事項に沿って十分な検討を経た上で行われるべきである。変更を行う場合には、変更の目的とその変更による潜在的な結果を考慮しなければならない。

インフラストラクチャーを語る場合に留意すべきことは、製品とサービスの適合性を達成するために必要ではない敷地、建物、その他の設備も管理の対象に入れることが求められていることである。これらには、組織の製品の顧客以外の利害関係者が求めるインフラストラクチャーもある。これらまで明らかにし、提供し、維持管理するように要求していないように見えるが、暗示的に要求している。設計開発や製品とサービスの供給は、常にこれらのインフラストラクチャーを利用しながら行われるから無視することはできない。もしも、これらの施設が故障すれば、なんらかの影響を及ぼすことになる。

 通常、これらは全て固定資産として分類される。また、設備の維持管理が行われるので、財務管理と維持管理の二つが重なっている。しかも、これらインフラストラクチャーは、組織の成功に直接関係している。したがって、インフラストラクチャーの管理と維持は、組織にとって非常に重要なプロセスである。しかし、単純なプロセスではなく複雑である。それを反映してか、最近は生産設備を保有しないフャブレス化が促進されている。たとえ、フャブレスであっても、外部供給者の設備に対する管理はなくならないことは、言うまでもない。  

 設備の管理には、絶えずリスクが伴う。故障や悪天候による災害によって、生産に支障が生じたなどは頻繁に起きている。故障に対処するためにFMEA技法が一般的に使われている。洪水や地震による災害に対処するには、複数の外部供給者を確保する必要もあろう。このようにインフラストラクチャーには、リスク管理が必然的に求められる。

品質マニュアル事例文言

8. サポート
7.1 資源
7.1.3 インフラストラクチャ
当社は、製品の要求事項への適合性を達成するために必要となるインフラストラクチャを明確にし、提供し、維持する。インフラストラクチャには、適切なる場合 、以下の含む:
 a)建物、作業所及び関連施設、
 b)製造プロセス設備、ハードウエア及びソフトウェア、
 c)移動手段のような支援サービス、
 d)情報及びコミュニケーション技術。  

機器は、「機器の妥当性手順書』(未作成)に基づいて妥当性が確認され、さらに、「予防的維持管理手順書」(未作成)に従って維持される。


7.1.4 プロセスの運用に関する環境


組織は,プロセスを運用するために,また製品及びサービスの適合性を達成するために必要となる環境を明確にし,提供し,維持しなければならない。   

注記 適切な環境は,次のような人的及び物理的要因の組合せであり得る:
  a) 社会的(たとえば、非差別的,平穏,非対立的);
  b) 心理的(たとえば、ストレス軽減,燃え尽き症候群防止,心のケア);
  c) 物理的(たとえば、気温,熱,湿度,光,気流,衛生状態,騒音)。

これらの要因は,提供される製品及びサービスによって,大幅に違ってくることがあり得る。



解説:
現行規格の”作業環境”からの変更はない。日本の企業や団体での環境は、これらの要件を満たしているから特段留意すべきことはなかろうと、今までは説明してきた。しかし、日本でも労働する場所の環境が悪いために離職する事例も多くなった。特に、社会的もしくは心理的な人的要因が問題化している。セクハラとかパワハラなどによってうつ病になる人も増えている。

この要求事項に対応するためには、規格の注記にあるように次の三つの事柄を考える必要がある。ただし、組織の種類や提供する製品とサービスによって大きく異なることは当然である。

ー物理的要因ーー作業スペース、温度、騒音、照明、湿度、危害、清潔さ、振動、空気汚染、アクセス、物理的ストレス、空調など、
  ー社会的要因ーー職場での人間関係、個人的な家庭関係、教育、宗教、組織の倫理感、文化や雰囲気、
ー心理的要因ーー個人的な内部要因、外部からの影響、認識度、責任感、達成感、優越性、表彰、仕事の安定性、内部の人間関係、リーダーシップ、異性との情事、職業的なストレス。これら全てが、感情面、感じ方、個人感情、忠誠心、態度に影響を与え、仕事への意欲になんらかの変化をもたらす。

昔の日本のように、組織ぐるみで対策に取り組む姿勢がいま求められているように思えてならない。家庭的な雰囲気作りも解決策の一つかもしれない。

品質マニュアル事例文言

8. サポート
7.1 資源
7.1.4 プロセスの運用に関する環境
当社は、清潔で安全で明るい作業環境を提供する。当社の上級マネジメントチームは、製品要求事項への適合性を達成するために必要な作業環境を管理運営する。製品の具体的な環境面での必要事項は、品質計画の作成時に決定され、下位の手順書、作業指示書、または業務文書に記載されている。特殊な作業環境が実現されている場合には、上記の6.3項に準じて維持されなければならない。人間工学的要因は、製品とサービスの品質に与える影響の程度によって配慮されている。

注記:作業環境の社会的、心理的、安全面での側面は、マネジメントシステムの適用範囲外の活動を通じて管理運営される。プロセスの効率や製品やサービスの品質に直接影響を与える作業環境の側面のみが品質マネジメントシステムによって管理される。


7.1.5 モニタリングおよび測定機器


7.1.5.1 一般

要求事項に対する製品及びサービスの適合性を検証するためにモニタリング、もしくは測定が利用される場合には,組織は,結果が妥当で信頼できるものであることを確実にするために必要となる資源を明確にし,提供しなければならない。  

組織は,準備された資源が次のようであることを確実にしなければならない:
 a) 実行される特定の種類のモニタリング。もしくは測定活動に対して適切である;
 b) その目的に継続して適性でることを確実にするために維持されている。
 
組織は,モニライング及び測定のための資源が目的に対して適性であることの証拠として,適切な文書化された情報を保持しなければならない。  

7.1.5.2 測定のトレーサビリティ  

測定のトレーサビリティが要求事項である場合,あるいは測定のトレーサビリティが測定結果の妥当性に信頼を与えるために不可欠な要素であると組織がみなした場合には,測定機器は,次の事項を満たさなければならない。
 a) 定められた間隔で、または使用する前に、国際又は国家計量基準器に遡及できる測定基準器に照らして検証され、あるいは校正が行われている。そのような基準器が存在しない場合には、校正または検証に使用された基準器(basis)を文書化した情報として保持する;
 b) それらの状態を明確にするために識別を行う;
 c) 校正の状態及びそれ以降の測定結果が無効になってしまうような調整,損傷又は劣化から保護する。

測定機器が意図した目的に適していないことが判明した場合,組織は,それまでに測定した結果の妥当性が損なわれているか否かを明確にする,その上で、必要に応じて,適切な処置をとらなければならない。



解説:


要求事項そのものは、現行規格でのモニタリングと測定機器の管理とほとんど同じである。ただ、特記すべきは校正の必要性が明確になったことである。測定結果の妥当性や信頼性について遡及できるように機器を管理しなければならないと顧客や法規制で求められている場合には校正が必要となるとなった。校正の必要のない機器に対して必要だと決めつける審査員の誤判断がなくなることを期待したい。もちろん、組織自身が校正を必要とすると判断した機器に対しては、組織が定めた手順にしたがって校正されねばならない。”文書化された情報”として、測定機器が適切に管理されていることを証明する文書を保存することが求められている。なお、”equipment”が”resource”に変更されているが、お茶の味見のように人間の感覚や判断能力も測定資源として加えられた。

”国家測定基準器に遡及できる測定基準器に対して校正”を実証するために、外部による機器校正が普及しているが、これとて、自社校正の記録を残すことでも要求事項を満たすことができる。国家基準が存在しなければ、自社によって基準器を設けることで解決できる。むしろ、自社校正ができない組織の信頼性は低いと筆者はいつも強調している。

製品の生産プロセスを管理するためには、測定は必須である。製品の性質やプロセスをモニターするために必要となる機器を管理することが重要であることは誰もが理解している。しかし、ISO9001が導入された初期(1987年ごろ)には、これが大きな話題となった。その結果行き過ぎたことも起きた。たとえば、作業員が使うノギスの全てや建築現場で使う巻尺、室温を測る温度計を外部校正に出し、多額の費用を浪費したなどである。

同じような混乱がトレーサビリティでも起きた。トレーサビリティを確保するためと称して、作業員が”検査”のために使うノギス番号を管理したという。製品の製造過程を遡れるためのロット番号は、厳格に管理されねばならないが、検査機器までは必要ないことである。今回の改定によって、このような混乱が防げると思う。

品質マニュアル事例文言

8. サポート
7.1 資源
7.1.5 モニタリングおよび測定機器
機器が検査やテストなど重要な測定活動のために使用される場合、機器は管理され、校正もしくは検証のいずれかを必要とする。「校正手順書」(未作成)を参照すること。

注記:当社の全ての測定装置に対して校正および測定のトレーサビリティを採用しない。そうしないで、プロセス、製品およびサービスを対象にスペックもしくは要求事項に適合させるには校正の対象とすべきかどうかを決定する。この決定は、測定の重要性およびリスクを考慮した結果に基づいて行われる。


7.1.6 組織の知識


組織は,プロセスの運用に必要であり,かつ、製品及びサービスの適合性を達成するために必要となる知識を明らかにしなければならない。

この知識は維持され、必要な範囲で利用できる状態にしなければならない。  

変化するニーズとトレンドに対応するときには,組織は,現在の知識を考慮し,必要な追加すべき知識、および要求される更新情報を習得する方法、あるいはそれらにアクセスする方法を決定しなければならない。  

注記1 組織の知識は,組織に固有な知識である;それは経験によって得られる。それは,組織の目標を達成するために利用され,共有される情報である。
注記2 組織の知識は,次に基づいたものであり得る。
 a) 内部資源(たとえば 知的財産,経験から得た知識,失敗と成功プロジェクトから学んだ教訓,文書化されていない知識及び経験の取得及び共有,プロセス,製品及びサービスにおける改善の結果)
 b) 外部資源(たとえば 規格,学界,会議,顧客又は外部提供者からの知識収集)




解説:


新しい条項であり、欧米の国家経営品質賞や世界規模の企業で古くから採用されていナレッジマネジメントの概念が、この要求事項の根底に流れている。規格の定義では、”知識とは、利用可能な情報の収集であり、正当化された信念であることともに、真であるという高い確実性を持っている”としている。

組織が、過去の経験から得ている知識をデータベース化したのが知識とも言える。すべての従業員に共有されことも必要だろう。付属書の説明によると、”過去、現在および追加的な知識を考慮し、管理するためのプロセスでは、組織の規模と複雑性、対処しなければならないリスクと機会、知識へのアクセスを容易にする必要性を含めて組織のコンテキストに配慮する必要がある。有能な人々が持っている知識と他の手段(研修や教育など)によって利用可能になる知識との間のバランスは、製品とサービスの適合性を達成することができることを条件として、組織の自由裁量で決まる”としている。製品とサービスの適合性を確保するためには、品質管理に有能で知識に富む人たちだけではなく、研修や教育による現場の作業員や事務部門の人たちも含めた人材育成が不可欠であるとしている。種々の技能を身につけた多能工の育成も重要になる。日本企業ならば、情報と知識の管理に何らかの手段をすでに採用しているから特段の対応策は必要なかろう。

なお、この条項では巷で話題としてよく取り上げられている「暗黙知の形式知化」を内部の情報源として取り扱っている。もう一つの注意点は、次の条項”業務達成能力(competence)”とは区別して取り扱う必要があることだ。

単なるデータベースとしてのナレッジマネジメントは必ずしも成功しないと論じる専門家が多い。あくまで戦略としての取り組むナレッジマネジメントでなければ、顧客視点に立脚した企業価値を高めることはできないと考える。

「ナレッジマネジメント」(アーサーアンダーセン、ビジネスコンサルタント著)より以下に引用する。

「企業の日々の業務は大きなこと、小さいことを含めた、多くの問題解決プロセスの繰り返しであり、その中から組織としての価値が生み出されていくものである。組織知が組織価値に大きな役割を果たす競争社会において、ナレッジマネジメントの推進が担う役割は極めて大きい。
ナレッジマネジメントを活かすには、プロセス指向で業務を捉え、全体の中で自らの果たす役割を明確にすることが大切である。こうすれば活用すべき、また必要とすべきナレッジが明らかになってくる。そして、ナレッジが充分にプロセスの中を流れており、また、活用して業務を行う仕組みが求められる。
そのために、ナレッジマネジメントは、ひとつひとつのプロセスごとに行っても充分効果的であるが、同時に、プロセス全体で統合的に取り組めば、さらに大きな価値をもたらすと期待できる。」

「業務を行うためのナレッジは、人事部の中だけに存在するものではない。トップマネジメントから発信、現場の必要度、顧客の期待などのナレッジを活用してこそ、採用というプロセスが企業戦略と合致した方向で行われる。ここで、大切なことは、そのプロセスがきちんと行われるようなナレッジを入手して活用できる仕組みがある、という点である。
また、製品やサービスの設計を行うときでも、顧客の嗜好はもちろんのこと、組織のミッションやビジョン、マーケティング手法、流通の実態、さらには、顧客サービス体系までを包括した知識の流れの一環として行われれば、より顧客満足の高い製品を創り出すことが可能になる。」

knowledge


品質マニュアル事例文言

8. サポート
7.1 資源
7.1.6 組織の知識
当社は、組織のプロセスを運用するために必要となり、製品およびサービスの適合性を達成するための知識を決める。 これには、以下の事柄から取得される知識と情報が含まれる:
a)内部の情報源;例えば、学習したレッスン、専門家からのフィードバック、あるいは知的財産。
b)外部の情報源:例えば、規格、学界,会議,顧客又は外部提供者から収集した情報。

この知識は、維持され、必要に応じて入手可能でなければならない。

変化しているニーズや傾向に対処する場合、当社は、現有の知識を考慮し、必要に応じて追加的な知識を収得したりもしくはアクセスする手段を決定にしなければならない。


7.2 業務達成能力


組織は,次の事柄を行わなければならない。
 a) 品質マネジメントシステムのパフォーマンス、および有効さに影響を与える業務を、組織の管理下で行う人(複数)に必要な業務達成能力を明確にする;
 b) 適切な教育,訓練、あるいは経験に基づいて,それらの人々が業務達成能力を備えていることを確実にする;
 c) 該当する場合には,必要となる業務達成能力を身に付けるための処置をとり,そして、とった処置の有効性を評価する;
 d) 業務達成能力の証拠として,適切な文書化された情報を保持する。
 
注記 適用される処置に含められるのは,例えば,現在雇用している人々に対して教育訓練を提供する,あるいは経験者による指導を行うこと,または配置転換の実施などがあり;または,力量を備えた人々の雇用,そうした人々との契約締結などもあり得る。



解説:


ここからこの章の終わりまですべてがAnnex SLからの引用であることは指摘しておきたい。各種のマネジメントシステムの国際規格で同じ文言が使われることから、共通して利用できる。

規格の定義によると、”コンピテンス”とは、”知識を利用する能力および意図された結果を達成するための技能である”としている。よって、筆者は、業務達成能力と翻訳した。
さらに詳しい説明をすると、”仕事に求められた結果を達成するために、知識、技能および行動を利活用する能力である”。単に特定の仕事だけでなく全体の業務役割を果たすことができる能力であり、いろいろな変動があり、プレッシャーを感じ、仲間とよい関係を持ち、時には衝突が起きるような実際の仕事を行う場で仕事を実行する能力である。このような能力がなければ、期待された結果を生み出すことはできない。

”組織の管理下で行う人”であり、雇用契約に関係がなく対象すべき範囲は広くなり代理店のような外部の人的資源にも及ぶことに留意すべきである。業務に従事する人たちの技能と能力を明らかにすることが求められている。そのためには従業員がすでに受けている教育、訓練、さらに経験を纏め上げる「棚卸し」作業が望ましい。これによって従業員が業務を効果的に実行できるように充分なトレーニングが行われているかどうかを見極めることができる。これは組織の責務である。この責務を果たすには、必要とされる技能に不足する従業員数にはトレーニングを行い、新しい技能を付けさせるための教育訓練プログラムを策定することも必要となろう。もちろん、必要な場合には、知識と技能面で優れた能力のある要員を外部から新たに雇用することでも補える。

従業員の能力を証明する”文書化された情報”が要求事項となっている。そのためには、どのような能力が必要なのかを明確にすることがまず必要になる。さらに、それぞれの能力の基準を設ける必要がある。これらを作り上げると、個々の従業員がどの程度の能力を有しているかを評価することになる。これら一連の情報が文書化されることが求められている。業務の実績評価は、個人的な能力評価と同等の扱いをすることが一般的である。

教育や訓練を行うことを組織に要求している。これに対応するためには、二つのことを行う必要がある。一つは、能力の評価であり、もう一つは能力の向上である。

能力評価では、次のことを行う必要がある:
 ー求めている仕事のパーフォマンスについての基準を決める、
 ー能力に関する証拠を集める、
 ーこの証拠を基準と比べる、
 ー”達していない能力”は何かを決定する。すなわち、求められている能力と現在の能力とのギャップを明らかにする。
 
 能力ギャップを埋めるための処置を決定する。たとえば、
 ー内部での訓練や外部訓練コース、
 ー個人的な指導を行うための適任者は誰かを決め、指導に当たらせる、
 ー知識や技能を伝達するために優秀な経験者による実務訓練を実施する、
 ー経験を積ませるために臨時的に別の仕事場に配転する、
 ー新しい体験をさせるために特別のプロジェクトに従事するように任命する、
 ー他の人たちから経験談を聞くことができるグループ学習の機会を与える、
 ー高度なマネジメント手法など新しい理論を探求できるような部署に異動させる、または大学のMBAコースを習得させる。
 
 多くの資金を能力開発に費やすことは最高の投資だと信じる。  



品質マニュアル事例文言

8. サポート
7.2 業務達成能力
製品の品質に影響を与える作業を行うスタッフは、適切な教育、訓練、技能及び経験を根拠に判断された業務達成の能力を有している。文書化された手順書「教育訓練手順書」は、これらの活動が詳細に記述されている。

注記:品質マネジメントシステムは、給与、ボーナスなどの手当、社会保険、労務関係や懲戒処分などのような人事管理に関する側面は含まれていない。


7.3 認識


組織は,組織の管理の元での業務を行う人びとが,次の事項に関して認識をもつことを確実にしなければならない:
 a) 品質方針;
 b) 関連する品質目標;
 c) パフォーマンスの向上によって得られる恩恵を含めて,品質マネジメントシステムの有効性に対する自らの貢献(は何か);
 d) 品質マネジメントシステムの要求事項を順守しないときにもたらされる予想される影響(は何か)。


解説:


現行規格に比べて、認識を高める対象が”組織の管理の下で業務を行う人々”となり格段に広くなったことに留意すべきである。

リスクと機会を明らかにすることやより効果的なプロセスを開発する業務に従業員たちを巻き込むことは、良い職場文化の醸成を促し、改善活動を押しすすめることに役立つことは一般的に認知されている。組織の目的や品質目標を達成するには従業員の活動なくしてはあり得ない。また、なぜこの業務に従事しているのかという意識を従事している全員が持つことが望まれるのは言うまでもない。その意味では品質方針や品質目標への意識を高める必要があるのは当然である。新規に追加されたのは、品質マネジメントシステムの取り決めを守らない時に起こるリスクの重大性についての意識付けである。この意識の低い職場では品質面などのリスク発生は高くことは周知のことである。この点に関して、日本の現状を鑑みると、下請負業者の社員や契約社員など正規の社員でない人たちの意識の低さに危惧する。食品製造業での異物混入事件は未だに記憶に残っている。組織側からの積極的な取り組みが求められる。

従業員の認識を高めるためのいちばん良い方法は、業務をどのようにすれば適切かを業務の直前に従業員に口頭で伝えることである。日本での朝礼はその典型であろう。反対に、業務や行動が適切ではない方法で行われたことが分かったたび毎に、管理職が直ちに従業員に口頭で注意することも有効な手段である。管理職が時間の許す限り現場を巡回する習慣がある職場での認識は高くなることを否定する人は日本ではいない。

これら以外の手段には、次のことがあげられる:
ー新規の業務を行わせる、
ー新しい業務の訓練を行う、
ー警告や作業実績を掲示板に掲示する、
ー作業実績を終了時に口頭で伝える、
ー作業の動画を見せる、
ー模範的な作業を指導する、など。

このような事例を掲載しなくてはならないと著者が感じることが危惧に過ぎないことを祈る。



品質マニュアル事例文言

8. サポート
7.3 認識
教育訓練及び引き続いて行われるコミュニケーションによって、次のことについてのスタッフの意識が高く維持されている:

 a)品質方針、
 b)関連部門の品質目標、
 c)改善された業績による恩恵を含めて、マネジメントシステムの有効性に対する貢献、
 d)品質マネジメントシステムを遵守しないことで起きることの意味合い。    


7.4 コミュニケーション


組織は、次のことを含めて、品質マネジメントシステムに関連した内部的および外部的なコミュニケーションを決める:

 a)何についてコミュニケションが行われるか;
 b)いつコミュニケーションを行うか;
 c)誰にコミュニケーションするのか;
 d)どのような方法でコミュニケーションを行うか;
 e)誰がコミュニケーションを行うのか。


解説:


現行規格でのコミュニケーションは内部のコミュニケーションが重視されているが、外部に対するコミュニケーションも新しく加わった。 従業員が品質マネジメントシステムの取り決めに基づいて適切に業務を行い、そのことがなぜ必要なのかを理解できるように、管理職層と従業員とのコミュニケーションが適切に行われなければならない。また、反対の方向で、すべてのレベルの従業員から管理職層に向かってコミュニケーションができるように効果的なコミュニケーションのプロセスを確立することが求められる。
言うまでもないことだが、品質マネジメントシステムに関して、関連した外部の利害関係者と協議をする機会を持つことを確実に行うことは非常に重要である。特に、サプライチェーンに加わっている外部提供者との関係を良好に保つためのコミュニケーションの重要性は高まる一方である。原材料や部品の供給者とのコミュニケーションはより公式的な行事として行う必要があるかもしれない。
コミュニケーションの手法と言語は、従業員の必要に応じて適切であり、彼らが提供された情報を容易に理解できる形式であるべきである。特に、海外展開する組織においてはこのことは重要視されるべきである。

規格が要求しているコミュニケーションの内容を下に列挙する。

 ー組織のビジョン、使命および価値ーーこれに対して”我が社の理念”という表題の額を会議室や通路に掲げている企業がある。これをもってコミュニケーションを行っているとはおこがましい。ビジョンや価値についてどれほど理解され共有されているかを調べる手段が決めれなければならない。
 ー業務の運営方針ーー多くの場合、これに対応するためにマニュアルと管理規定が作成される。これとて本当に理解されているかどうかを確認する必要がある。
 ー全社目標ーーもっとも重要な目標なので、全ても階層にまで伝わるような手段なり方法を確立する必要がある。
 ー顧客の要求内容、法令や規制面での要求事項ーー製品の設計から出荷までに携わる人々とサービスの提供に関わる従業員に間違いなく伝わるようにするためのプロセスを確立する必要がある。
 ー製品とプロセスに関する目標ーー目標は、従事する人たちにわかりやすく伝わるように掲示板に掲載するなど種々の手段を使うこと。
 ー製品とプロセスに関する情報ーー全ての製品とプロセスの情報が必要とする人たちに知られる効果的な手段が求められる。
 ー問題ーー欠陥が生じたならば、その問題を処理する権限を有する人に直ちに伝えられる手段が必要である。問題の内容次第では、関連する部署にも伝達されることも必要となる。
 ー進捗状況ーー管理職は、計画された事柄がどの程度進捗しているかを知らなければならない。その情報をいかに迅速かつ正確に取得するかの手段の確立が求められる。
 ー変更ーープロセスが変更されたならば、関係者に速やかに伝わる手段が必要となる。
 ー結果と測定ーー財務面での結果を含めて、品質面の実績、達成率、良いニュースと悪いニュース、そして重要なことは顧客からのフィードバックを全員に伝わることが不可欠である。
 
 ”表立った方法ではなく、非公式に伝える”ことが日本の企業文化として定着している場合がある。秘密扱いにしなければならない情報まで伝達する必要はないが、これらの情報伝達は、品質マネジメントシステムの運営には欠かせない。よきコミュニケーションがなければ、効果が生まれない。



品質マニュアル事例文言

8. サポート
7.4 コミュニケーション
当社の上級マネジメントチームは、マネジメントシステムの有効性に関して、内部的なコミュニケーションを実行する。内部的なコミュニケーションの手段には、以下(注記:適切に変更を加えると良い)が含まれる:

 a)不適合もしくは改善提案を報告するために是正処置及び予防処置のプロセスを利用する、
 b)データ分析の結果を利活用する、
 c)QMSをいろいろな側面を討議するために会議(定期的、スケジュール化されたり未予定の)を行う、
 d)内部監査の結果を活用する、
 e)定期的に行う全社を対象にした会議を行う、
 f)内部で通信されるメールを使う、
 g)社員にメモを送信する、
 h)当社の”オープンドア”の方針によって、すべての社員は、品質マネジメントシステムを改善することに関して意見を述べるために上級マネジメントチームに接触することが許されている。  


7.5 文書化された情報
7.5.1 一般


組織の品質マネジメントシステムには,次のものを含めなければならない。
  a) 本規格が要求する文書化された情報;
  b) 品質マネジメントシステムの有効性のために必要とされるとして組織が決定した文書化された情報。
 
注記 品質マネジメントシステムのための文書化された情報の範囲は,次の事由によって,それぞれの組織によって異なることがある。
 ー 組織の規模と活動,プロセス,製品及びサービスの種類
 ー プロセスとその相互作用の複雑さ
 ー 人々の業務遂行能力


解説:


品質マニュアルは要求されなくなったことすでに述べた。しかし、この条項で求められている”品質マネジメントシステムの有効性に必要であるとして組織が決定し文書化された情報”を組み合わせると品質マニュアルに限りなく近い文書になる。なぜならば、組織が決めることであったとしても、品質マネジメントシステムを運用するのに必要となる文書は、少なくとも以下があるからである。

 ー組織の背景や取り巻く環境を記述したコンテキスト
 ーマネジメントシステム規格が要求している内容を含むマネジメントシステムの範囲の説明、
 ー組織の方針と目的に関する説明文、
 ーマネジメントシステムの主要な業務プロセスとそれらの相互関係を説明している文書、
 ー業務プロセスの運用手順と関連文書への参照を含む文書、
 ー規格の条項で求められている維持されるべき”文書化された情報”、
 ー外部で作成された文書化された情報、
 ープロセスの効果的な計画、運用、およびその管理に必要な文書。

なお、上記以外にも文言”文書化された情報”がある要求事項があり、その数は34(FDISでは変わるかもしれない)にのぼっている。これで分かるように、新規格は文書化に関する要求事項は拡大させていると理解する必要がある。

品質マネジメントシステムの文書化された情報の程度と範囲は、組織の規模とその活動、プロセス、製品、およびサービスの種類によって異なるのは当然である。できうる限り、現有の文書を活用することが望ましい。文書化に重点を置くのではなく、効果的な業務の運用に役立てることを重視し軽量化した文書の集まりにすべきである。文書作成のみならず文書管理に情報通信技術を活用することは今や常識的である。組織の内外の関係者にいつでも閲覧し利用できるようにデジタル化した文書のデータベース化が理想である。

品質マニュアル事例文言

8. サポート
7.5 文書化された情報
注記: ISO9001:2015規格は、”文書化された情報”という用語を用いている。しかし、当社は、この用語を使用しない。その代わりに、混乱を避けるために、用語”文書”と”記録”を当てて用いる。この品質マニュアルでの用語は、3.0章で定義され記載されている。ここで定義されているように、文書及び記録には、さまざまな管理が行われる。

マネジメントシステムの文書化の程度は、次のことにより決められる:

a)当社の規模、
b)プロセスの複雑さと相互作用、
c)リスクと機会、
d) 従業員の業務達成能力。

マネジメントシステムに必要とされる文書は、手順書「文書管理の手順書」(未作成)に従って管理される。文書管理の目的は、スタッフが最新で承認された文書にアクセスして、古くなり無効となっている情報を使用することのないようにするためである。すべての文書は、正しく作成され、実用化され、維持管理される。

手順書「記録の管理手順書」が、文書の識別、保管、検索、保護、保管期間、および品質記録の廃棄に求められる管理を明らかにするために策定されている。また、この手順書は、供給者によって作成され、保持されている記録の管理手段についても規定している。

これらの管理は、要求事項への適合性を証明する証拠を提供する記録に適用される。すなわち、製品もしくはサービスへの要求事項、契約で決められた要求事項、手順の要求事項、あるいは法規制上の遵守事項への適合性に関する証拠となる記録である。さらに、品質記録には、マネジメントシステムの有効的な運用を証明する証拠になる記録も含まれる。


7.5.2 作成と更新


文書化された情報を作成したり、更新する際には,組織は,次のことが適切であることを確実にしなければならない:
  a) 識別及び記述(たとえば,タイトル,日付,作成者,参照番号);
  b) 書式(たとえば,言語,ソフトウェアの版,図表)および メディア(たとえば,紙,電子媒体)
  c) 適切性および妥当性に関するレビュー、並びに承認


解説:


この条項も共通の規格構成Annex SLからの採用であるが、現行規格で求められている文書の作成と更新と同じ内容のようにみえるが、大きな改定の一つである。書式に言語とソフトウエアが加わり、メディアに電子媒体が明記された。IT技術の発達により文書の作成と伝達技術が大きく変貌した。情報はインタネットを通じて伝達され、パーソナルコンピュータはもちろん、タブレッット端末やスマートフォンなど多様な機器を使って文書が閲覧される時代になった。電子図書の普及も進んでいる。紙媒体を主にしたマニュアルや管理規定などは、時代遅れであることは誰もが認識している。にもかかわらず、現行の規格は、紙媒体を想定した品質マニュアルを求めている。規格は陳腐化し、実用性が失われてた。実社会では、インターネット言語であるHTML文やPDFファイルが日常的に利用されている。これが是正されたのが、この要求事項である。

聞くところによると、第三者機関による審査には品質マニュアルを要求しているところもあるようだ、だが、大きな間違いである。審査のための紙媒体の文書は一切必要なくなった。品質マネジメントシステムを運用する組織にとってもっとも使い勝手のよい書式を採用すればよい。たとえば、このネット情報がよい事例である。新規格の要求事項を満たす文書を作成し、社内専用サーバーにアップロードすれば、社員はどこからでも種々の端末で閲覧可能となる。

更新された文書に基づいて、業務プロセスを実行しなければならないが、紙媒体ならば往往にして旧版のままで実行される問題が生じた。しかし、インターネット経由にすれば、更新版をアップロードすれば直ちに旧版は消えてしまう。ただし、インターネットの文書もプリントされて業務に使われることがある。この場合には、プリントされた文書は”使用後は無効”になることを徹底させることが重要となる。

次項の規格の注記にあるように、社内サーバーへのアクセス権は厳重に管理されなければならない。なお、次項の規格解説では、文書化に関してさらに詳細に記述しているので、組み合わせて閲覧されたい。



7.5.3 文書化された情報の管理


7.5.3.1 品質マネジメントシステムおよび本規格で要求されている文書化された情報は,次の事項を確実にするために,管理されなければならない。
 a) 必要なときに,必要なところで,入手可能かつ利用に適した状態である。
 b) 適切に保護されている(たとえば,機密性の喪失,不適切な使用、完全性の喪失)。
 

7.5.3.2 文書化された情報の管理のために,組織は,該当する場合には,次の行動に取り組まなければならない:
 a) 配付,アクセス,検索および利用;
 b) 保管及び保存、読みやすさが保たれることを含む;
 c) 変更の管理(たとえば,版の管理)
 d) 保持および廃棄
 
品質マネジメントシステムの計画策定、および運用に必要とされると組織が決定した外部からの文書化された情報は,適切に識別され,管理されなければならない。  
適合性の証拠として保持する文書化された情報は,意図しない改変から保護されなければならない。  

注記 アクセスとは,文書化された情報を閲覧するだけの許可を決定するか,又は、文書化された情報を閲覧し変更する許可に決定を下すことを意味することがある。

解説:


この条項も共通規格Annex SLからの採用であるととも、現行規格の”文書管理”に関する要求事項と何ら変わらない。むしろ新規格の方が安易な文言で表現されているので、要求内容を理解しやすい。
文書を適切に管理するとは、品質マネジメントシステムに関連するすべての文書が作成され、組織の誰にでも閲覧可能になっていること、適時にレビューされていること、また承認を受けていることを意味する。無効になっている旧版の文書が使われないことと、旧版であっても参照文書として残すことが決まられているならば厳格に保管されることに留意する。また、外部によって作成された文書はシステムの中で明らかに指摘され、これらの文書にアクセスする時の管理方法も求められる。最後に付属書にある補足説明を下に記載する。

文書化された情報
他のマネジメントシステム規格との連携部分として、"文書化された情報"についての共通する条項が、大きな変更もしくは追加することなく(本国際規格に)採用されている(7.5項参照)。適切な場合には、本国際規格のいろいろなところでの文言が、(他のマネジメントシステムの)要求事項と一致させてている。その結果、"文書化された手順"と"記録"の両方は、"文書化された情報"によって要求事項全部で置き換えられた。
ISO9001:2008が”文書化された手順”(例えば、プロセスを特定し、管理あるいは支援するために)として表現しているのは、この規格では、今回文書化された情報を維持(maintain)するための要求事項として表現されている。
ISO9001:2008が"記録"として表現しているのは、この規格では、今回文書化された情報を保持(retain)するための要求事項として表現されている。


このように現行規格での文書化された手順も記録も新規格に継承されている。文書化された情報を保持するとあるならば、記録のことである。維持と保持を区別しながら規格の文言を解読する注意が必要である。

この要求事項への対応するための活動は、次のことが必要となる:

 ー配布、アクセス、検索、および利活用、
 ー読みやすさの保存を含めて、保管と保存、
 ー変更の管理(例えば、文書版管理)
 ー保管と廃棄

外部で作成された文書についても同じような管理が必要となることも忘れてはならない。

文書を定期的に見直して最新版であることの確認も必要になる。文書の見直し作業は、関連する規格、規制、仕様、その他外部文書に変更が発生した際に実施されることになる。

これらの要求事項を理解する目的で、下の質問を用意した。何をすればよいのかを決めることに役立つと考える。:

 ー文書化された情報の発行を承認するのは誰か?
 ー文書化された情報が承認されたことをどのように知ることができるのか?
 ー文書化された情報をレビューし、最新版にし、再承認するためのプロセスのステップは決められているか?それには、このプロセスの定期的な見直しを行う責任者が誰かが含まれているか?
 ー変更を識別する方法は何か?
 ー最新版の文書であるかどうかをどのような方法で確認するのか?
 ー文書化された情報にだれがアクセスしたのか、作業現場で働いている要員が最新版の文書を使用できる方法は何か?
 ー文書化された情報にアクセスする手段は何か?(例えば、品質マネジメントシステム文書が、組織のサーバーにアップロードされているのか、それともクラウドコンピューティングなのか、紙媒体なのか)
 ー必要とされる部署に文書化された情報を誰が配布するのか?ー電子的(例えば、インターネットアクセス、添付される文書、ダウンロードするためのリンクなど)および紙媒体の両者に対して。
 ー関連規格、現行の規制、供給者からの製品仕様など外部で作成された文書をどのように管理するのか?
 ー最新版のみが使用されるために、古い文書を削除したり、廃棄したり、使われないようにするようになっているか?さらに、利用者がさいしにアクセスできるようにチェックする責任は誰なのか?
 ー保存したい古くなった文書を隔離したり、アクセスするにはどうすればいいのか?
 ー秘密扱いすべき文書はどれで、どのように管理するのか?
 ーデータを保護するために実行している情報セキュリティの手段は何か?
 
以上でも完全だとは言えないが、文書化された情報を管理する仕組みがいかに複雑であるかを理解できたと思う。ただ、デジタル情報技術とパソコンやタブレット端末を利用すれば容易になることだけは確かである。