品質システム
2000年版規格は、品質システムを「品質方針を具現するために必要な組織構成、手順、プロセスおよび経営資源を統一したものであり、利害関係者に利益をもたらすものでもある。」であると定義している。企業目的の中でもっとも重要な「利益」という言葉を使っていることに注目してほしい。1994年版規格では、企業業績に関してはいっさい言及されていないために品質システム導入のメリットが見えてこないという欠陥を包含している。一方、2000年版では明確な表現で企業利益につなげるマネージメント・システムであるとしている。
では、経営責任者は、利益向上のために「すばらしく機能すると共に効果的な品質マネージメント・システムを構築する」に当たっては、何を行わなくてはならないのだろうか。2000年版は、企業環境の要素に焦点を合わせて以下のような視点から品質システムを構築し、運営、維持しなけれならないとしている。すなわち、
顧客のニーズと期待を満足させる製品とサービスを提供することを通じて
顧客満足の向上と維持に努める。
組織が期待に沿って運営されている確固たる自信を株主に与えねばならない。
従業員個人の効率と効果を向上させることのみならず、従業員が仕事を通じて
満足感を味わえるようにする。
協力企業との関係が両者にとって有益であることを目指す。
地域社会と環境の両者に対するニーズに注目する。
効果的で効率的な組織であること。
すべての業務が効果的かつ効率的であることを確かめることができる
プロセスがある。
業務および製品の品質改善プログラムを設立し、実施する。
さらに、潜在する、あるいは実在する品質問題を明白にし、その予防策と是正処
置を講じる
これで明らかなように、品質システムは現時点で世界の企業が目指すべきマネージメント・システムであると言える。(参照ページ:品質マネージメント・システムのプロセス・モデル )しかも、環境マネージメント・システムの併合も容易となり、企業運営の「質」を高めるための米国国家品質賞、「マルコム・ボルドリッチ賞」へ上る階段の第一段であることは明確である。と言うと、そんなに高尚なシステムは、中小企業には必要ないと反論する経営責任者もいないとは限らない。だが、これらの目標をすべて完璧に果たす必要があるとは規格は決して要求していない。継続的な改善・向上を可能にするしくみを求めているだけである。自社の現状、実力や規模などを考慮した品質システムであればよいだけである。容易な表現をすれば、「志は高く、身丈に合った品質システムを」と言っているにすぎない。ここを誤解したために、「重厚」な品質システムを構築し、自らの首を絞めている企業もあるやに聞いている。中小企業にはそれなりの品質システムがあり、背伸びをする必要は必要ないことを強調して次に進める。
品質マニュアル
文書化された品質システムが「品質マニュアル」である。品質マニュアルの性格としてもっとも重要なのは、公開性である。すなわち、企業の利害関係者である顧客、株主や地域住民に自社の品質システムがどのようなものであるかをいつでも示すことができるという点に特異性がある。そのための文書化であることを理解すれば、ニュアルの内容をどの程度詳細に記載すればよいかが判断できる。企業の社内規定などは、一般には秘密文書、すなわち非公開を前提に作成される。したがって、外部を意識することなく業務の詳細まで記述することが多いが、品質マニュアルでは重要なプロセスの要点のみを文書化するに止めることが肝要である。ちなみに2000年版規格では、以下のように述べている。
「品質システムに記述する業務手順の適用範囲と詳細さは、業務のタイプと複雑さ、利用している手法、そして従業員が業務を行う上で必要となる技能と教育訓練の程度によって定められるべきであり、一概には言えない。
品質マニュアルは、単純であり、明白で、しかも理解しやすく記載されねばならない。一つの業務手順をどの程度詳しく記述するかは、品質マニュアルで用いられている文言の詳細さにより変わりうる。」
品質管理責任者
経営責任者は品質システムの実質的オーナーである品質管理責任者を任命することを規格は求めている。この品質管理責任者は、「他の責任に関わらず下記の事項に対して明確に規定された権限を持つひとりのメンバー」である。
1.品質マネージメント・システムの構築、実施、維持を行う責任
2.品質目標と達成度の進捗状況の監視と報告
3.改善すべき案件と機会の提言
4.顧客苦情を含む品質に関わる顧客との関係に関する監視と報告
5.内部品質監査の運営
6.明文化されていない顧客のニーズと期待の収集
これらの役割から理解できるように、品質管理責任者は、品質に関わるすべての活動に責任を持って対処する経営責任者の代行人である。今までのように付随的役割しか持たされていなかった品質保証部長や兼務で品質管理を任されていた技術部長などとは、性格が一変している。すなわち、組織のすべての部門を横断的にマネージする独立した業務である。この役割を持った責任者を組織にすえることが、品質システムのもうひとつの特徴であり、これがよろしく機能しない場合にはISO9000品質システムは、事業業績には貢献しない単なる形式面での補強に止まる危険性を包含してる。よって、品質管理責任者は、従来型の思考方法や社内慣行にとらわれることなく、広い視野からの観察、分析、発見、検証、提言を経営責任者に行うことを志すべきである。