第一日目 午前 午前8時45分、前日に近くのホテルに泊まっていた審査員2名が、会社の事務所に到着した。事務員の増田さんは、これからの二日間審査員が使う会議室に案内した。会議室には、品質マニュアルと管理規定のファイルが卓上においてあった。審査員は、ファイルを目でちらりと見て、これで全部だろうかと危惧したようだ。彼らにしてみれば、いままで審査してきた大きな会社のマニュアル類に比べれば少ないと思ったのだろう。 「お飲みものは、コーヒーでよろしいでしょうか?」 社長と品質管理責任者である専務が会議室のドア−を開けて入ってきた。 「社長の米谷です。どうかよろしくお願いします。」 と云いながら名刺を審査員に渡す。 「今回お世話になる主任審査員の山田です。よろしくお願いします。こちらは一緒に審査する審査員の原山です。」 この間に、常務と工場長が入室した。名刺をだして、自己紹介をした。全員が着席して運ばれたコーヒーを飲み始めた。 しばらくして、山田主任審査員が、おもむろに立ち上がった。 「では、全員が揃われたようですから、これから米谷製作所の品質システム審査を始めたいと思います。審査は、われわれ2名によって2日間実施いたします。審査基準は、ISO9002:1994年版およびJIS Z 9902ですが、よろしいでしょうか?」 「はい」と専務が答える。 「監査対象は、ねじ一般の製造および販売でよろしいですか?」 「そのとうりです。」と専務が返事した。 「分かりました。では、事前に文書でご通知いたしました審査スケジュールを簡単にご説明させていただき、再確認さえていただきます。」 と云って、山田審査員はOHPを使って、審査スケジュールの内容を説明した。 それによると、第一日目は、品質マニュアルと規定類がISO9000の要求項目どうりに作成されているかを調べ、経営者の責任を聴取することと、契約の確認に関連した受注管理を審査することになっていた。 二日目は、製造工程、工程内検査など製品検査に関するすべて、そして購買に関連する下請け業者の管理、最後は倉庫・出荷関連部門を審査をすることが分かった。 山田主任審査員は、審査の結果判明した不適合の種類とその内容を、やはり用意されたOHPで説明し、 「カテゴリー1の不適合が判明した場合には、今回の審査はそこで中止します。」と云った。 さらに、「この審査の過程で見たすべての書類の内容を他に口外することは、一切いたしません」と云って秘密保持の誓約を行った。社長は、それを聞いて「そんな秘密にしなければならないものは、ぜんぜんないのに。」と心のなかで思った。そして、 「この二日間いろいろお手伝いをお願いすることになりますが、どなたが窓口になっていただけますでしょうか?」 二名の審査員は、品質マニュアルとその中に記載されている規定類を一つひとつ確かめて、時々ノートに何かを書き入れていた。品質システムに記載されている管理規定類がすべて作成されていることを確認しているようだった。この作業は40分ほどで終わり、主任審査員が、 「では、これから経営者の責任に関する話をしますので、こちらに社長と専務様はお掛けねがえますか。」 と云った。 経営者と審査員との問答集(クリックで問答集へ入れます) 第一日目 午後 経営者と専務に対する審査は12時を過ぎても終わらなかった。12時半を過ぎたので、社長は「昼食を用意していますので、ここで一旦中止されたらどうでしょうか」と云った。同じ会議室で、審査員は会社が用意した昼食をとった。この間、社長と専務は昼食のために席をはずした。そして、事務員にお茶をおだしするように指示した。 午後一時をすこし過ぎたころ、山田主任審査員は、 「これから午後の審査に入りますので、恐れ入りますが、社長と専務はもう一度ここでお話を聞かしていただけませんか。」と云った。 この審査が終わったのは、午後2時を過ぎていた。社長と専務は、審査員の質問が考えていた以上に長かったので、疲労感をおぼえた。審査員はすこし休憩したいと云ったので、社長と専務は部屋を出た。審査員は、いままでに判明したことをまとめるためにお互いの意見を交換しながら、審査リストにいろいろとコメントを記入していた。 2時半すぎ、山田主任審査員は、 「これから受注管理と製造指示書の作成など生産管理に関する業務の審査をいたしますので、説明をしていただくのはどのたがいいのでしょうか?」 と専務に尋ねた。専務は、 「はい、事務主任の増田です。ここに連れてきますので、暫くお待ちください。」 と返事した。 受注担当者との問答集(クリックで問答集へ入れます) 審査員はもとの部屋にもどり、専務に向かって 午後4時半に皆は集合した。そこで、山田主任審査員による今日の審査途中の講評があった。はっきりした不適合はなかったが、オブザベーションとして指摘されたのは、納期確認は口頭で行われているが文書化することが望ましいことだけだった。 全員は、この程度で第一日目が終わって安堵感を味わった。 |