懸念される企業の負担増ーマネージメント規格を問う
「マネージメントに関する国際規格という考え方が日本社会にも浸透してきた。品質管理に関するISO9000を取得した事業所数は昨年度末で4500件に達する見込みである。環境管理のISO14000も昨年末の460件から今年度末には800件まで増えそうだ。
ISO9000を取得すれば自社製品の品質が向上するか。ISO14000を取得することが環境負荷の軽減につながるか。この点については様々な意見があるし、普及し始めてから十分な時間がたっていないこともあり、結論を出すのは早計であろう。ただ、マネージメント規格という考え方自体に多くの問題が残されている。
第一の問題は、規格の細分化である。ISO9000は、産業分野によらず通用する品質管理の手法として登場した。しかし、実質的な商取引上の品質管理となると、どうしても産業分野によってそれぞれの要求が出てくる。これを満たすには、ISO9000を修正または追加することになる。これが業種による細分化である。
すでに細分化の動きが出始めている。最初に細分化の動きを見せたのが米国の自動車メーカーである。QS9000と呼ばれる独自規格に適合しなければ部品を購入しなとしている。宇宙航空分野でも業界規格が検討されているし、医療用具分野ではISOが追加事項を規格として定めた。細分化が進めば統一規格の要求は薄れる。
第二の問題はマネージメント規格の氾濫である。品質管理、環境管理が国際規格として標準化できるとすれば、これを他の分野へ広げたいと考えても不思議はない。候補として挙がったのが労働安全管理であった。規格化を進めようとする欧州に対し、米国が反対したことで当面中止になった。
しかし、労働安全管理がいつ復活してくるか分からないし、危機管理システムの規格という潜在的な動きもある。こう考えると何が規格として浮上してくるか余談を許さない。労働者の権利擁護という観点から人事管理システム、企業経営の透明化から会計管理システムなどが国際標準として取りあげられる可能性も否定しきれない。
組織管理は本来、経営の基本であり、企業文化そのものと考えることができる。もし次々にマネージメント規格ができるとなると、企業文化の否定という心配すら出てくる。しかも、9000と14000でも用語が違っているなど矛盾も指摘されている。複数の規格ができて要求が矛盾する心配もある。
第三の問題は規格に適合しているか否かを調べて、適合性を証明する認証制度である。これはマネージメント規格だけに限られたことでなく、規制の緩和や規格の国際整合性確保などから、様々な規格や標準について認証制度の整備が進んでいる。今や認証が新しいビジネスと認識され、欧州では国境を超えた認証機関同士の合併や買収が起こっている。
認証が魅力あるビジネスになるとうことは、受ける側の企業にとっての負担増を意味する。特にマネージメント規格は、企業の伝統的なやり方を変更することにつながる場合が多く、認証の取得は大きな負担になってくる。しかも、9000が第三機関による認証を要求しているのに対し、14000は社内の認証も認めている。規格ごとに認証制度が違えば混乱の原因にもつながる。
こういう状況で、規格が業種によって細分化されたり、次々と新しいマネージメント規格できるとすれば、受ける企業側に強い不満が出ることも予想される。認証制度を統合し、しかも信頼性を確保していくことも重要な課題になってくる。
QC(品質管理)活動などで世界をリードしてきた日本はほとんど関与することなくISO9000は作られた。日本は商売上の理由もあり、この規格を受け入れた。これまでの日本は、どの分野でも多かれ少なかれ受け身の姿勢であった。
前述したようにマネージメント規格は企業文化そのものに関わる問題を含んでいるし、問題を抱えているのも事実である。日本が提唱してマネージメント規格のあり方を見直す時期が来るのかもしれない。」
この記事は、6月14日付け日経新聞に掲載された、論説委員の鳥居氏による「中外時評」である。ISO規格のマネージメント・システムを導入すると企業文化を替えることが必要となる場合もあるが、それが企業業績に悪い影響を与えるとは思われない。むしろ、日本の企業文化を自ら替える必要性の方が今は求められている。よって、ISO規格の導入よる結果は良くなると考えるのが、正しい。認証取得のための経済的負担は増加することには、異議はない。しかし、経営マネージメント・システムを革新することで、効率的な経営による利益の向上があれば解決できることである。このような議論は、もっと行われるべきものと考える。受け身でなく、積極的な取り組みが最大の課題と言いたい。
日本経営品質賞とアサヒビール
「日本経営品質賞というのは、お客様の目から見て経営の品質がどれだけ向上したかということを判定される訳なんです。お客様は何を求めていらっしゃるのか、お客さまのためにどういことをすれば企業として社会に貢献できるのか、そういったことを常に考えながらやって来たことがご評価をいただいたのではないかと思っています。お客さまの考え方やニーズが変化していく中で、その変化を兆しの段階で捉え、いかにすばやく対応していくかが大切なポイントであると思います。また、そういうことをやっていなければたちまち立ち後れてしまう世の中ではないのか、と思っています。
もう一つ大事なのは会社の中に「夢」と「風通しの良さ」がないといけないと思います。会社が高い目標に挑戦していると社員にもどんどん元気がでてくるのではないでしょうか。そういった環境の中で、風通し良くどんどん言い合う、こういう会社ができればいいなぁと思って毎日仕事をしています。」
これは、アサヒビールの新聞広告で社長である瀬戸 雄三氏が「ところで、アサヒビールは「日本経営品質賞」を受賞されました。今回の受賞は経営構造改革が評価されてのことと伺っておりますが」の質問に対する答えである。まさに顧客志向と人材開発を中心に据えた経営の中身を易しく語られている。
この対談では、日本人とグローバリゼーションに関して話がされている。なかなか興味深いので、転載する。
酒井 ゆきえ氏「今後グローバリゼーションが進む中で、日本人が問題意識や危機感をあまりもたないことが大きな問題になるように思いますが、この点はいかがですか」
安藤 忠雄氏「確かに、日本人は『何とかなるんとちがうか』と思いこみがちだと思います。しかし、国際化の進展は、なんともならないぐらいにスピードもパワーもあります」
瀬戸 雄三氏「いま世界はすごいスピードで変化しているわけです。そのスピードに乗り遅れたらひとたまりもないんだという危機感を持たないといけないと思いますが、そういった認識がまだまだ少ないのではないでしょうか。心にゆとりを持ちながら、いまの危機感をどういうふうに自分で吸収して実行していくかということをやっていかなければならないと思いますが、そういう意味では『夢』というものは非常に大事なのではないでしょうか」
(途中略)
「言葉を変えて言うなら、個性化ということでしょうか。安藤さんの設計した建物を見ると、個性があふれているように思います。ユニークで、だれも真似ができないというようなもんを作っていらっしゃる。これは企業にとっても大切なことでなのです。メーカーは、オリジナリティがなくなったら存在感がなくなってしまいます。世の中で始めてのものを作り出していくのがメーカーなのです。ほかの会社が作ったものには絶対
追従しないという気概をもってやっていけば、日本の企業はもっと元気が出てくるのではないでしょうか。これは企業で働く個人にも言えると思います。個性のある人が少なくなったとよく言われます。みんなが個性と目的を持って働くようになると、日本も面白い活気のある国なるのではないでしょうか」
まったく同感である。個性の時代と言われてもあまり発揮されていないのは、社会的な懐が狭いという根本的な問題を抱えているように思う。