NEC半導体事業グループ(第一回「日本経営品質賞」受賞)の経営革新

 12月26日付け日経新聞の広告紙面に、第一回「日本経営品質賞」の受賞企業であるNEC半導体事業グループの経営革新の内容が紹介されていたので、転載させてもらった。経営品質の観点のみならず、ISO規格認証の取得を目指したり、既に取得した企業の経営者には参考になると思う。事実、この半導体事業グループは、1994年にISO9000とISO14000の認証会社になっている。そして、1996年に「日本経営品質賞」を受賞している経緯がある。

 NEC半導体事業グループは四十年余りの歴史を持ち、国内十カ所、海外七カ所の生産拠点を通じてグローバルな事業展開をしている。メモリー、ロジック、マイコンのいずれの分野でも世界の三位以内に入っており、総合力でソリューションの提供に努めている。96年度の生産高は一兆一千億円、2000年には二兆円をめざしている。
 第一回「日本経営品質賞」を受賞したが、これまで半導体事業グループが取り組んできた経営哲学ともいえる「半歩先行」「現場100回」「対話型コミュニケーション」の三原則を基盤として間断なき経営革新活動が評価されたものと思っている。
 まず「半歩先行」は、販売、技術、設計、生産、業務支援などすべての事業活動で、他社や市場を半歩リードしていく経営原則といえる。技術のオリンピックといわれる今年のISSCCでは他社に先駆けて4GビットのDRAMを発表したが、これも技術面での半歩先行といえる。
 「現場100回」はすべての活動の原点は現場にあるとする現場重視の行動原則となっている。顧客数は約七千三百社に上るが、顧客先をはじめ現地をひんぱんに訪問することで問題を発見できると考えている。
 一方で、お客様を理解するために日常活動、顧客が発信する情報、第三者からの情報、顧客の満足度を把握するCS調査など四つの活動で情報を収集している。これらの情報は全体が共有できる顧客マップと販売情報システムにまとめている。
 「対話型コミュニケーション」は職責や階層を越えて自由、活発な意見交換の中から創造的革新的な事業活動が形成されるとの考えから実践している。

(途中略)

 また、事業環境の変化に素早く対応して事業展開することが重要であるため、販売と生産をグローバルに統合した総合情報システムを構築している。これは一面インターナルベンチマーキングの大きな力ともなっている。
 地球環境保全についても91年にはインターネット上で環境行動計画を掲載した。さらに環境中期計画と年度計画を策定し、ISO14000をすべての生産拠点でも導入し、一部で認証を取得している。
 いずれにせよ「日本経営品質賞」を受賞したことは、国際競争に打ち勝つ強い事業体質を確立していくための起点として受け止めている。ベンチマーキングを幅広くやっていくとともに、セルフアセスメントを継続して絶え間ない経営革新を続けている。
 NECは十月に「日本経営品質賞」をモデルとした「経営品質社長賞」を新設した。顧客視点に立った経営をNEC全体でしっかり取り組み、二十一世紀に向けてグローバルレベルのエクセレントカンパニーをめざしていくねらいからだ。

 まあー、「日本経営品質賞」や「マルコム・ボルドリッチ賞」のフレームワークをそのまま経営によい意味で利用しているしか言えない。この企業そのものが教科書となっている。日本で実際に実施していることを知っただけでもうれしくなった。 <戻る>

人材活用の国際化

 「人材バンク」のある企業が全面広告をしていたが、その中で興味ある文があったので、転載した。

 「人材の世界に世界標準を持ち込もうという動きも出てきた。品質管理・保証の国際規格「ISO9000」の取得である。ISOがあると、人材派遣サービスを利用する顧客企業は、派遣スタッフの技能などサービスの質と内容を第三者の客観的な認証を通じて把握できるようになる。
 外資系企業など、国際的に事業を展開する企業にとっては、いわばグローバルスタンダードにもとづいた人材とサービスの質が期待できるわけで、ISOのもつ意味はとりわけ大きい。ここにもやはり、人材活用の国際化の流れを見ることができる。」

 サービス産業の分野では、ISO9000の仕組みを早く取り入れるべきとこのページでも取り上げた。やっと、その動きがあることを知りすこし安堵した。人材派遣業、すなわちアウトソーシングは今後一層一般化し、新規参入者も増える。となれば、顧客サービスの質を競うことも自然の成り行きだろう。ISO規格導入は的を得たと言いたい。<戻る>

環境投資はペイするか?

 一般には、環境関連設備は負の投資だと言われる。本当にそうだろうか。では、三洋電機が売上高の1%を2000年度に環境関連の投資に充てると報道されたがこれをすべて負の投資とするのだろうか。この報道と二酸化炭素排出権取引がロンドンで国際市場化することと絡ませると話は変わってくる。まず、報道の要点を転記する。

 「三洋電機は、八日、2000年度を達成目標とする環境行動計画を制定したと発表した。同年度には連結売上高の1%(250億円)を環境関連に充てる。(途中省略)
 計画名は「アクションE21」。2000年度の環境投資は97年度見込みに比べて67%増やす。環境管理に関する国際規格である「ISO14001」は97年度には86の製造拠点で認証取得する見道し。さらに対象を営業・物流拠点にも広げ、2000年度には新たに100拠点で認証取得する計画。」

 この発表は、ISO14000の認証取得に伴う、製品開発の事業方針であろうが、大変立派なものである。では、もう一つの報道は何か。

 「英国政府、ロンドン国際石油取引所(IPE)は、世界の企業や政府が二酸化炭素(Co2)の排出権を自由に売買する常設取引市場を同取引所に創設する方向で動きだした。先月の地球温暖化防止京都会議で決まった主要先進国の温暖化ガス排出削減目標を達成するには、市場原理を活用して排出権の需給や価格を調節するのが効果的と判断した。」 

 この報道に関する解説の一部も紹介しておこう。

 「排出権取引は本来経済的に価値のないCo2を有価物と同じように売買するのが、特徴で、先物取引など新しいビジネスを生み出す可能性を秘めている。すでに米国などで市場づくりに向けた動きが加速している。
 具体的には国や企業ごとにCo2の排出許容枠を設定。排出量がこの枠を越えてしまった場合、ほかの国や企業から排出枠を一部を買い取るか、省エネルギーに投資するか、安上がりな方を選択できる。また排出枠を売った側は代金を新たな省エネルギー技術の開発に投資でき、市場原理に基づいてCo2削減が進むと期待されている。」

 企業が環境投資を行い他企業よりも大きな効果を挙げることができれば、その余力を排出権として売買できる可能性が高まった。ならば、売買によって生まれた利益は投資回収として算入することが出来る。三洋電機は、そこまでを勘案した上での計画ではなかろう。しかし、排出権売買が具体化すれば、一気に投資を回収出来るかもしれない。現役時代の会社、米国エクソンは、製造関連新規投資に関しては消費エネルギーをいくら削減できるかなど環境側面とその影響負荷をかならず算出していた。中小企業では、排出権を売りに出すほど大きな排出量にはならないだろうが、大企業では考えられることである。ことさように、もう環境関連投資は「負の投資」ではなくなっている。

ずいぶん昔の話だが、公害防止関連(廃棄物処理で必要な大きな埋め立て場の底面に敷くゴムシートの普及に携わった。大阪万国博覧会の人工池はテストとして使用してもらった。)の資材開発をしていたときに、公害関連投資は「負の投資」ではないとある専門雑誌に寄稿したことがある。なんだか懐かしくなり、これを今週は取り上げた。

環境投資の経済性については個人的に興味がある。日本企業の経済性に関する考え方は、米国のそれなどと比べて利益率が低いのが かつて話題になったことがある。そのとき、日本企業の経営者は、「長期的な利益を考えて経営するのが日本。米国などは短期の利益ばかりを目指している。」と言っていたことをすっかり忘れている。長期的展望の中身は、バブル経済のさなかにどこかにいってしまったのだろうか。いまこそ、「持続できる経済成長」をしっかりと見据えるべき時である。以下は、このようなことを考えさせられた追加分である。

 環境投資がペイするかどうかを議論するまでもないことがはっきりしてきた。すでにCo2を未来の商品としてとらえ大規模な投資が行われている事例を石油メジャーのロイヤル・ダッチ・シェルが植林に走り始めた。以下、日経新聞の記事を転載する。

 「英蘭系石油メジャーのロイヤル・ダッチ・シェルがチリやニュージーランドなど、南半球各地で広大な植林用地の購入を続けている。これまで手当した20万ヘクタールは、東京23区の3倍以上の広さ。その6割の12万が森林に生まれ変わった。
 世界最大の石油会社と植林の組み合わせを解くカギがCo2だ。油田開発や石油精製には膨大なエネルギーが必要で、石油自体もCo2の発生源となる。シェルが今後5年間に5億ドル(600億円)を投じ、植林や植物を燃料に使うバイオマス発電などを推進する狙いは、排出規制への対応だ。
 京都会議では、Co2の排出許容枠を売買する排出権取引導入が決まった。取引制度の詳細はこれから決まるが、Co2を吸収する森林は取引の有力な「原資」。シェルは森林のCo2吸収分を自社の油田などに課せられるだろう削減義務の相殺に使える。」

(途中略)

 「排出権取引市場は、森林のCo2吸収力を商品に変える。シェルは環境事業の運営会社設立と排出権取引は『直接の関係はない』と慎重。しかし、29万ヘクタールの森林が吸収できるCo2は年間400万トン近い(平均的な熱帯雨林の場合の試算)。手持ちの森林の吸収力が自社の必要分を上回れば、それ自体が石油や天然ガスに続く有力な商品となる。当然、余剰排出権を仲介するビジネスも成立する。」

(途中略)

 「植林事業や排出権取引では、先行して取り組む企業が新市場での優位性を確立する。多角的に進む「環境の市場化」は、温暖化対策を単なる受け身の省エネではなく、新規ビジネス創出という攻めの戦いにつなげられるかどうかの踏み絵を日本企業に迫る。」

 この記事を目にしたときの感想は、シェルのような世界規模で絶えずビジネスを展開する石油メジャーらしい発想であることだった。シェルは否定しているようだが、間違いなく植林は事業の一つに考えている。かつては、石油メジャーの一員(日本という地方のではあるが)だったので、これは容易に理解できる。石油メジャーは、原油発掘による利益が生み出せないときの事態を想定して事業展開をすることは、当然のことであるからだ。   <戻る>

病院のISO取得進む

 「病院や診療所などのISO(国際標準化機構)認証取得を支援する任意団体、ヘルスケアISO研究会(東京・渋谷、松田紘一郎・代表世話人)が発足した。ISO活動を医療機関の経営合理化やサービス向上の手法と位置づけ、病院経営者や医療関連企業からの参加を促す考えだ。
 同研究会は松田氏ら医療経営コンサルタント約10人が中心となり旗揚げした。主に品質管理のISO9000シリーズについて、事例研究や海外視察、認証取得ノウハウを 盛り込んだパソコンの販売などを計画している。会員が一定数に達した段階で組織を法人化する。」

 上記の記事は、日経新聞2月15日付けのものである。風邪気味なので、わたしは土曜日に病院に出かけた。だが、受付の女性の対応があまりにも悪く、気分を害したので、別の病院に行った。患者は、病院にとっては「お客様」であることの意識があまりにも低すぎたからだ。患者に対して「診てやる」と思っているとしか思えなかった。最近の病院経営が非常に困難になっていることは、医者の息子が言っていた。だから、いまから開業医など考えられないそうだ。当然である。高額な費用を払わせる医療制度と粗末な診療内容、しかも「顧客指向」は一切考慮されていない経営そのものが破綻していることは自明である。だから、医療経営にISO規格の仕組みとマネージメント・システムの採用はかならず改善への道を示すと主張したい。

 このように病院も「顧客指向」の経営がいま求められていると私的意見を述べてたのが、2月15日だった。ところが、全く同じ考えに基づいてすでに実践されている病院のことが、朝日新聞(2月18日)で紹介された。また、すでにここで紹介した武田病院検診センターのことも「病院が変わるー経営の視点から」の中で記事となっていた。同じ思いをしている方いるとわかり、なんだか感激してしまった。ISO14001の取得を考えられている方にはたいへん参考になるので、その記事の一部を転載した。

「吉田氏(注:経営の建て直しのために、警備サービス会社、セコムから派遣された方)が理事長に着任した1992年当時、久我山病院は年間5億円の赤字を出し、累計赤字は15億円に膨れ上がっていた。吉田氏らがみた病院は『お客さんである患者より医者の方が偉い世界』だった。改革は、あいさつの励行や廊下のごみ拾いから始まり、勤務医には患者を紹介してくれる近くの開業医へあいさつ回りを命じた。
 (途中略)
 病院の変化は、かってなら医療収入に直接結び付きそうもない環境問題への取り組みでも広がっている。
 武田病院グループの検診センターは昨年12月、国内の病院で初めて環境管理の国際規格『ISO14001』の認証を得た。小倉第一病院(北九州市)は、残飯を有機肥料に変えるため、敷地内に生ゴミ処理機を設置。リース資金は職員の通勤手当を50%カットしてひねり出した。6月には、環境を重視した病院経営マニュアルを文書化して出版する。他の病院との差別化を図り、患者を呼び込もうという狙いだ。
 こうした病院に共通するのは、患者を「顧客」と考え、経営効率の向上もねらう視点だ。『院長先生』が病院を運営する時代は終わりつつある。」

では、他日ここで記載した日経新聞の記事を転載したい。

   医療法人康生会(京都市)の武田病院検診センターは、環境管理の国際規格「ISO14001」を取得した。康生会によると、医療関連施設で同認証をするのは極めて珍しいという。検診センターだけでなく、グループ内の病院において、医療廃棄物の適正処理などへの効果を見込んでいる。
 昨年三月、検診センター内に看護、検査、放射線、事務という四部門の代表で構成する環境専門部会を設け、取得の準備を進めてきた。」

 この報道を読んで感じたことが二三ある。まず、一年足らずで取得されたことは賞賛したい。とくに、検診センターと言えども大変多忙な職場であろうにもこれほど短期間にシステム構築と実施を完成させたのには驚きを感じた。次は、エイズやB型肝炎などの感染源の大きなものは、病院からの廃棄物であるとされている。だから徹底した管理が求められる。この意味からも、認証取得は意義が大きい。ニューヨーク州の海岸に医療廃棄物が大量に放棄され、しばらく楽しみな釣りに行けなくなったことを思い出した。

 日本の病院の施設や制度についてコメントしたい。日本の病院は近代的な設備を多く装備してコスト依存型になっている。一方、米国の個人医師は自宅を診療所にしているのも多いが、高額所得者が患者である。一般人には、ショッピング・モールのように異なった専門医師が一つの診療所に入り、高額な医療機器は共同で使うことでコスト低減に対処している。このようなシステムをとるには、理由がある。それは保険制度である。日本のように、国や企業が医療費を負担するのではなく、本人が全額支払いをした後、民間の医療保険会社から医療費の還付をしてもらうのが一般化している。保険会社は、医療機関が適切な費用になっているかを厳格にチェックしているので、医師は日本のような高額医療費を請求できない。まして、大阪の安田病院のような24億円もの不正請求などは絶対に起こり得ない。ことさように、医療に限らずいろいろな分野での日本のシステムを国際標準に変える必要性は高い。ISO規格は、そのための第一歩かもしれない。


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