日本のお家芸だった品質管理の分野でも米国はイニシァチブの回復を狙っている。
現在、品質管理の国際的な標準はISO9000シリーズだ。ISOはもともと、イギリスを中心とする欧州で始まったが、現在では日本企業をはじめとして、各国の企業が取得にしのぎを削るほどの国際標準に成長した。
ところが、すでに品質基準として世界的な覇権を確立したかに見えるISO9000に対しても、その牙城を崩そうという動きが米国で始まった。主役はビックスリーだ。94年、部品を納入する部品メーカーに対して共同でISO9000をもとにした「QS9000」という品質基準を策定した。
クライスラーは今年7月末、GMは今年末と取得期限を設定、フォードも取得までの計画を明らかにするよう一次部品メーカーに迫ったため、日系の一次部品メーカーは現在、取得に大わらわの状態だ。
ただ、自動車産業のすそ野は幅広い。現在の自動車は電子部品の塊。半導体から通信機器まで納入メーカーは多種多様だ。さらにGMなどは、QS9000の対象を二次部品メーカーにまで広げる考えを持っているといわれる。そうなれば、さらにQS9000の対象が広がる。
実際にQS9000取得の要求は、ビックスリー以外の米メーカーからも出てき始めた。デンソーの古屋嘉彦常務は「キャタピラーなどからも、QS9000取得の要求がきている」と語る。
加えて、欧州には欧州フォード、GMの子会社独オペルなど傘下の企業も多い。欧州の部品メーカーも当然QS9000になびく。日本でもフォード傘下のマツダ、GM傘下のいすゞ自動車がある。日系部品メーカーはアジアの生産拠点からもビックスリーに納入している。当然、アジアの生産子会社もQS9000の対象になりうる。
QS9000の取得は、日本企業にとってISO以上に難しそうだ。ISOの取得でも品質管理に携る責任者の権限と責任を明確化することに、日本企業は四苦八苦した。QS9000の場合、特に、経営者の責任、工程管理、取扱い・保管・包装・納入などの要求項目数が大幅に増え、生産品の承認、製造能力といった新たな要求項目が加えられ、トータルでは208もの要求項目が付加されている。また、ISOを取得するには工場と設計部門という品質に直接関わるセクションが要求を満たせばよいが、QSでは、営業部門や物流部門といってセクションまで対象になっている。米国基準のハードルは高く、これが全世界に標準化されれば日本企業にとって大きな壁となるには間違いない。
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QS9000に至っては、日本の製造業の関心はほとんど向いておらず、いまだにISO9000の取得に奔走しているというのが現状だ。
かって、戦後のキャッチアップの課程で、米国のTQCを導入し改善することによって日本型の生産システムを作り上げ、「技術立国ニッポン」を確立した。その前提となる技術の裏付けが技術士などの資格であり、日本工業規格(JIS)などの基準だった。だがそれは、「日本的経営」の上に成り立ったものであり、世界経済のボーダレス化の中で、その存立基盤が、根底から失われつつある。つまり技術水準がいくら高度でも人種や文化、価値観が違う国や地域と共通の土俵で戦わない限り、日本独自の理論は通用しないのだ。そこで見逃してはならないのが世界の共通ルールを強烈に推し進めている米国であり、急速に世界の’アメリカ化’が進展しているという事実である。
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日本だけが独自の殻にこもっていられた時代は終焉を迎えた。’アメリカ化’していく世界を生き抜くには、現状では日本自身がアメリカ化するしかなさそうだ。問題はいかにそのスピードを上げるかである。