ISO9004:2000は戦略的に取り組め

 今月のはじめのことだが、2000年版ISO9000の講演を聞くことができた。講師は、英国の経営コンサルタント社の社長である。講演の後、夕食を共にしながら、2000年版ISO9000のことを大いに語り合った。彼が言った。2000年版ISO9000を企業の戦略の一つとして採用すれば、きっと企業の業績面や従業員を含む利害関係者に大きな利益を与えることができる。1994年版のように単なる品質保証のための規格ではないとも強調していた。この考えには全面的に賛同したい。

 さて、この「戦略」という言葉は、その意味を深く考えずに盛んに使われているように思える。日経の記事にちょうどよいものがあったので紹介したい。

 「日本語・英語ともに、特定の目的の実現、資源と機能の動員、統合的・大局的な運用という高度で抽象的な性格を持っている。従って従業員に心構えを説いたり、当面の収支の改善を図ったり、目先の売れ行きを促したりといった小手先の対症療法は、戦略とは言えないのである。それらは戦術的・戦闘的(Tactics)、ないしは戦闘技術的な活動であって、戦略領域の中の"小部品"でしかないからである。

 戦略を構想し、設計する上で留意しなければならないことは、着眼の根底に常に"戦略性"を備えることである。具体的には、前述の原義を要約した、次のような思考原則を、業務の中に確立することだ。

  1.  特定の事業成果(勝利)を確実にするために、
  2.  確保すべき価値を持った事業機会(戦場)を選び、
  3.  保有する経営資源(戦力)を有機的に投入運用し、
  4.  関係組織(社内・顧客)に固有機能を発揮させる
  5.  統合的な対応策(作戦・戦術)の編成と展開計画

 ということになる。

 それをさらに要約するなら、戦略は事業成果・事業機会・経営資源・関係組織・統合運用を束ねる有機的な思考回路から設計されるとも言える。」

 渡辺 牧氏(需要開発研究所代表)の解説は、ISO9004:2000での品質マネージメント・システムの概念をまさに要約したものであり、英国人社長の主張そのものである。さらに言えば、この理解なくしては2000年版ISO9004の要求事項を満たすことはほとんど不可能であろう。

 

ISO9000:2000(DIS)はFDISとして採用されるか? 

 いま米国では、2000年版ISO9000に関してユーザーレベルでの多くの議論がなされている。このような議論ができるのは、すでに多くの方がDIS(もちろん英語)を購入し、その解釈や文言の使い方に意見を言える条件がそろっているからだ。オーストラリアとニュージーランドでは、すでに自国の暫定規格案として販売を開始している。一方、我が国では日本語訳にするのに何ヶ月もかかり、やっと二月頃に有料配布されるていたらくである。これでは日本が出遅れるのは当然で、ユーザーを無視した取り組みと非難されても仕方あるまい。

 さて、米国での議論だが、その道に精通した人がDISはFDISとして採用される可能性が高い理由を述べている。ISO規格活動の一端を紹介しよう。

 「DISであり、FDISの段階でありNOとして投票することはほとんどあり得ない。なぜならば、いろいろなCD版の議論を通じてすべての深刻な問題は解決されることが文書作成に関わりのある委員会・作業グループの義務として通常は考えられているからだ。DIS、あるいはFDISを拒否されたならば数ステップ逆戻りせざるを得ない。そんなことになれば、重要な投票のための文書作成作業は極めてお粗末であったことを示す結果になる。ISO9000セットの場合、このようなことになることはなかろう。すなわち、DISはコメントを付けて承認され、FDISへの移行も承認され、国際規格とされるであろう。

 FDISが承認されることを前提にすると、FDISへの移行は2000年第三四半期、第四四半期には国際規格として発刊されると思われる。このようなことから、2001年から始まる認証登録はこの新版を正式に使うことにある。だが、すでに94年版で取得している企業には、監査機関が新版への移行のために『優雅な』期間が与えられる。

 私はいま2001年後半に審査を受ける企業と作業を行っているので、この新規格の動きは非常に重要である。ところが、すべてを網羅する正式の品質システム(94年版でもそうだったが)を提示したいないので、何もないスクラッチから膨大な文書を作成することになる。1994年版の20の要素形式ではなく、2000年版ISO9000ではきちんとした品質システムのフォーマットがこの夏までに出来がることを望んでいる。」

 このケースは、2001年後半であるからまだよいが、もし2001年の正月とか二月に審査を受ける企業は、いまから新版に対応した品質マネージメント・システムを構築しなければ、審査は受けられない。二月に出されるDISに対して一年足らずの期間で対応するしかないとは、企業にとってこれほどの苦痛はなかろう。同情の極みである。

 一年間の移行期間のことをすっかり忘れていたので、この文章は取り消しさせていただいた。このことを気づかせたのは、今日届いた月刊誌「あいそす 2月号」で、「94年版の超法規的運用」という編集者の記事内容であった。明日は、あるところで2000年版ISO9000の講義するので大助かりでした。「あいそす」に感謝いたします。

コミットメントは固い決意を伴う約束

 昨日、あるところで2000年版ISO9000の講演をした。そのときにコミットメントとは何ぞやを説明した。その意味は、場面場面によって意味が変わり、適切な日本語がないが、決意表明とか約束の意味を含むといったが、間違いではなかった。今朝の日経新聞を見るとなんとタイミングのよくちゃんとした解説が出ていた。2000年版ISO9000の訳には「決意表明」としたがこれも正しかったようだ。記事を紹介しよう。

 If you give a commitment, you promise faithfully that you will do it. (コミットメントするということは、必ずそれを実行するという固い約束のことである)
 promiseとcommitmentは、共に「約束」という意味ですが、前者が単なる「約束」という意味であるのに対して、後者は「絶対にやり遂げるぞという固い決意を伴った約束」という感じの意味です。
Are you making a promise or a commitment? (あたたは約束しているのですか、それともコミットメントしているのですか)と、こちらの覚悟の程を迫られることがあります。
He refused to commit himself to any sort of promise.(彼はいかなる対してもコミットしようとしなかった。)(以下省略)」

 これで分かるように、「約束」という言葉以外に適当な日本語がなく、「コミット」というカタカナ表現をするしかないときもある。同じように、2000年版ISO9000での「企業の目標と経営者のコミットメント」は、経営者が企業の長期目標を表明すると同時に、何かをするという経営者の固い決意を明らかにすることである。講演で話した事例は、このホームページでも紹介しているエクソン社のものであった。これらは従来の品質方針とは別のもので、社員や株主に対する明確な経営者の意志表示である。

 オーストラリア・ニュージーランドは2000年版ISO9000(DIS)を暫定国家規格に採用

 両国は,DISを暫定(Interim)国家規格としてDISを採用した。企業の競争力を高めるために役立つのだから一刻も早く企業は対応しようと呼びかけている。それに引き替え日本の対応はなんと遅いことか。まことに嘆かわしい。

 「よく知られている品質規格のISO9000ファミリーは、現在ドラフトの段階である。2000年に最終版が発刊されることになっている。しかしながら、オーストラリア規格協会は、みなさんが先頭を走れるように暫定の形ではあるが情報を提供します。なにもみなさんは12ヶ月も待つ必要などありません。

 これらの新しい暫定規格は、ISO DIS規格の技術的に同じものです。この規格はオーストラリアの状況に合わせて策定し、オーストラリアの企業が新しいプロセス志向のモデルを取り込み早期に新認証を取得することを促進するために発刊されました。

 国際認定機関(IAF)は、審査機関による評価は最終規格が発刊される以前であっても行うことができると通達しています。だのに、みなさんは何を待とうとしているのでしょうか?」

 この報道でも分かるように、オーストラリアの国家機関がリーダーシップを発揮して企業が新しいプロセス志向モデルを導入するよう促している。このような姿勢を日本にも求めるられているのにもかかわらず、どこか分からないところでもたもたと進められている。

 オーストラリアの報道の中から「TIPS」を一つ紹介しよう。

 「品質マネージメントの新しい方向

  新しく強化された2000年版ISO9000と1994年版規格を比べると大きな違いがある。新規格の構成が変わった。新規格は、実際に行われているビジネスの業務のやり方に非常に強く関連づけたプロセス・モデルを採用している。

 ペーパー・ワークを減らし、もっとビジネスのソルーションに!新規格の文書化要求が顕著に減らされている。顧客との相互作業の必要性とともに顧客満足を監視し、重視することが強調されている。」

 新規格では、「documented procedures」という文言が8回出てくる。その中で実際に手順書を作らなくてはならないのは、6箇所だけである。品質マニュアルを入れれば、七つの文書があればよいだけである。文書よりも重要なのは、八つのクオリティ・マネージメント原則を実際に利用して企業の運営が行われているかである。

 GE社の「ブラックベルト」と2000年版ISO9000の「Competency」

 シックスシグマ活動を展開したGE社では、プロジェクト・リーダーにシックスシグマ・コンセプトの伝道師として厳しい教育を施し、見事修了できたリーダーには「ブラックベルト」の称号を与えるのだそうだ。興味深いことには、この「ブラックベルト」は、日本の武道で高段者に与える「黒帯」を語源にしていることだ。

 米国企業は、1980年代に多くのことを日本企業から学んだ。「カンバン方式」、「系列」、「改善」などである。当時、私はアメリカの中央研究所に勤務していた。ある部門の高い地位にある人が私の部屋に来て言った。「米戸さん、これを読んで意見を聞かせてくれ。実は、約二週間日本企業の視察をしてきた。その報告書がこれだ。」渡された報告書は、厚さ1センチにもなるような膨大なものであった。内容の詳細は忘れてしまったが、アメリカ人が見るとこうなるのかと私自身が感心するようなものだった。特に、分析の部分でよい点と悪い点が整理整頓されていることであった。その一つが、社員が「没個性的」になっていることや社員自身の専門能力も高いとは言えないが、チーム力でそれを補っていることなどである。このような日本的経営の分析の後しばらくして、全社的品質向上活動が開始された。しかし、日本の模倣ではなく、自分たちに必要な部分は取り入れるが、悪い点は無視していた。たとえば、社員個人の自由な発想や意見を殺すようなことはいっさい行わず、むしろもっと個人の意見や考えを社内に取り入れる仕組みを作っていた。

 さて、2000年版ISO9001には、「Competency」という言葉が何度か使われている。私は、これを「専門能力」と訳した。今朝のテレビを見ていたら、「成果を生み出す行動特性」がそれであると報道していた。あのYAHOOは、高い成果をあげている現社員の行動特性を分析して、どのような特性が自社に必要なのかを明確にし、社員採用に利用している事例が報告されていた。

 2000年版ISO9000は、社員を中心に据え、効果的かつ効率的に製品(サービスも含む)を生み出す仕組み、品質マネージメント・システムを要求している。社員、時には外部の人材も、の「Competency」を高める教育なくして企業価値を高めることはできないという思想が込められている。言い替えれば、「黒帯」の社員によって業務が行われるならば、「品質、信頼性、性能、納期、価格といった、すべての顧客が持つ物理的、機能的な要求を満たす」ことができるということだ。

 

 2000年版ISO9000で使われている英語、manage と reportについて

 このページも100才を迎えた。約3年の月日を要したが、その時々の世相を反映してよい記録になったと自負している。さて、100回目の話題は、2000年版ISO9000で使われている英語「 manage」 と 「report[」である。Monday NikkeiのEnglish Conversationからの引用から始めたい。

 「manage」には「やり繰りする」という意味もあります。Management resouce(人・金・物・情報などの経営資源)は有限であるため「Manage」が必要になります。

 上司から"Can you complete this assignment bu the end of February?"と聞かれて"Yes,I'll manage to"と言えば「何とかやってみます」ですし、"You will have to manage without help."は、「何とか一人でやらねばならない」です。"I managed to be in time. "は、「どうにか間に合った」です。

 形容詞の"manageable"は「扱いやすい」とか「処理しやすい」とう意味で使います。"You should make a point of dividing long-term goals into manageable pieces."は「長期目標は処理しやすい小単位に分けるべきだ」ということです。とてつもない大きな問題を小単位に分ける手法を"an elephant technique"と言います。大きな象もmanageableなsmall piecesに切ればゾウさなく食べられるということです。

 この記事を書いていらっしゃる方の名前は、新 将命さん(ペンネームと思われるが)ですが、新規格文を読んでいるのではないかと思われるほど要領を得た解説をしている。management(経営者や上級管理職)は、「何とかやりくりをする人」であって、人の言うことを聞いてそれをただ受け入れるだけではmanageしたとは言わない。2000年版ISO9000は、経営者のリーダーシップ発揮など八つのマネージメント原則を基盤にした仕組みづくりを要求している。この理由から特に、経営者の責任が適応される分野は広く、詳細になっている。経営者自身がその意図を理解せず、2000年版ISO9000に取り組むことには無理があると指摘したい。

 さて、経営者の代行を行う管理責任者(Management Representativeなので本当は「経営代表者」であろう。ただ、現行規格で一般的になった品質管理責任者からの継承を意識して決めた日本語。)の責任の一つとして「reporting to top management」がある。この場合、単に「報告する」と訳したが、実体験から何となく違和感を覚えた。なぜかを明白にしてくれたのが、またや新 将命さんである。

 "Mr.A is my subordinate."(Aさんは私の部下です)。米国系企業の内輪の会議で日本人社員が部下をこう紹介したところ、米国人の同僚は次のようにたしなめました。
 "There are no superious nor subordinates in this organization.We are all collegues."(この会社では上役とか下役という呼び方はありません。みんな同僚です)。時代がかった表現に驚いたというより、上司のいる席では遠慮しがちな日本人社員に積極的な発言を促す配慮が働いたのだと思われます。

 それでは「上司」や「部下」を何と言えばよいのでしょうか。上司ならば、"He is my boss.""I work for him."。部下ならば"He is my staff.","He works for me."などの言い方がありますが、"I report to Mr.A."(Aさんは私の上司です)という表現をぜひ覚えたいものです。"Direct reports"は、直属の部下を指します。

 "Reporting line"と言えば「指揮命令系統」のことで、欧米の企業で最も重要な言葉の一つです。個人の責任は特定の部署に対してではなく、特定の人に対して負うのだという意識が強く、実際は上下関係が厳しいのです。

 規格のmanagement representativeは、単に報告義務があるというのではなく経営者の直属の部下であることがこれではっきりしたでしょう。クオリティ・マネージメントを実践するために特別な権限を持った経営者の代行者である。

 最後に、「上下関係が厳しい」ということを著者は取り上げている。正直言って日本人社会ほどルーズな上下関係は欧米で見あたらない。いいか悪いかは別問題にして、高い階級の人の前に行くときには、ドアーの外で身繕いしたり、深呼吸をするぐらいであった。 


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