建設業のグローバルスタンダード適合へ

 中小建設会社を含め他産業と比べ透明性と競争力が低い建築産業を向上させるために、グローバルスタンダードに適合した新しい産業システムの構築が必要と説く日経の広告紙面からの抜粋。日経が企画した広告であるが、よくまとまり教科書としても使えるだろう。

 「公共工事の入札契約制度は94年度より一般競争入札を導入した。透明性を高めた入札制度へと、90年ぶりの大改革が行われた。96年1月にはWTO(世界貿易機関)の『政府調達に関する協定』が発効し、公共工事への外国企業の参入が本格化し始めた。

 さらに、公共工事のコストに対して、政府は、昨年とりまとめた『公共工事縮減対策に関する行動指針』に基づき3ヶ年で10%のコスト縮減を目指している。

 また、今年の二月に建設省が発表した『公共工事の品質確保等のための行動指針』では、公共工事の発注者の役割を明確にし、発注者は、公正さを確保しつつ良質なモノを低廉な価格でタイムリーに調達する責任を負うとしている。この発注者責任を全うするための発注ポリシーに関する議論が四月から『発注者責任研究懇談会』で始まった。」

 「VE(バリューエンジニアリング)は、構造物の機能を低下することなく、コストを低く抑える方法である。米国では60年代から盛んに活用されている。建設省は、公共工事のコスト縮減等に向け、昨年度から設計、入札、施工の各段階でVE提案を受け付ける方式を導入した。特に、注目されるのは、今年度から導入される総合評価方式で、これまでの最低価格で応札したものを落札者とする原則に対し、価格だけでなく技術提案を含め総合的に評価し、受注者を決定するもの。また、入札時のVEの審査プロセスに発注者側との技術対話を導入することも検討されている。

 これらの方式の導入により、各企業の技術開発にインセンティブを与えるほか、入札談合を防ぐ効果が期待される。本格導入には会計法や地方自治体法による制限を緩和することが求められる。」

 「建設省は、96年度から、品質確保のためのグローバルスタンダード、ISO 9000シリーズを公共事業に適用したパイロット工事を実施している。その後コンサルタント業務なども対象に追加し、98年度はパイロット工事を建設省のすべての地方建設局で実施し手いる。欧州、アジア及び豪州でISO 9000シリーズの認証取得を入札条件とする動きも踏まえ、我が国での方向付けが注目されるところである。

 建設企業では、今年に入ってもISO 9000シリーズの導入が盛んに行われており、建設分野だけで認証取得済みの事業所数は480を超えている。これらは、自社の品質保証体制を整備し、顧客からの要求にこたえるという、企業の基本原理に戻っての行動と考える。

 公共工事への定着により@公共工事のプロセスの透明性の向上、A受注者の自己責任の強化、B権限と責任の明確化ーなどの建設事業の構造改革の進展が期待される。」

 「環境マネージメント・システム(EMS)、ISO 14001に関する取り組みも進んでいる。地球規模から身の回りに至るまで、EMSは環境問題に的確に対応するためにの有効なツールとなる。

 建設省は98年1月、EMSを構築するモデルプロジェクトを実施する六つの工事事務所を発表した。98年度には、新たに二つの工事事務所を追加した。モデルプロジェクトにおいては、工事事務所が定めた環境目的・目標の下、受注者と一体的にEMSを運用していく方針である。

 さらに、現地一品生産方式でプロジェクトごとに条件が異なる公共工事において、品質、コスト、スケジュール、リスクなど多くの要素を統合して総合的にマネージメントを行うシステム(プロジェクト・マネージメントシステム=PM)の導入が期待されている。建設省は、98年4月に、PMについての研究会を設置し、公共工事へのPM導入の検討を開始した。」

 最後のプロジェクト・マネージメントシステムがどのようなものかは知らないが、多分現役時代に使っていたシステムと似たものであろう。プロジェクトを進めるには、多くの要素を効果的にマネージメントする必要がある。そのためには、段階的にプロジェクトを進め、各段階で要素の影響度を測り、評価する法であった。この手法は、プロジェクトであれば規模の大小を問わず適用することになっている。

定年で退職した会社の社内報に、プロジェクトマネージメントシステムを実際に取り入れた事例が発表されているので、以下に転載する。

 プロジェクト管理は、われわれの業務すべてにとって絶対必要ですが、それに携わる人は非常に大きな責任を負います。エクソンの上流部門(石油探索など)マネージーにとってプロジェクト管理とは、費用が10億ドル(1400億円)以上にもなる巨大な施設の設計と建設の管理を意味します。投資額が莫大でプロジェクトの規模が大きいためには、これらの規格と実施には細心の注意が要求されます。ごくわずかな工程を改善しただけでも十数万節約できます。
エクソンのプロジェクトマネージメントでは、ごく少数の熟達したエクソン従業員を活用し、外部スタッフを結束させます。外部スタッフには販売員やエンジニア、建設労働者などが含まれます。彼らに専門技術を指示することはほとんどありません。私たちの仕事は、安全性、信頼性、費用効果性、全般的な企業目標の達成などにプラスの印象をもつよう、必要に応じて管理し、指示し、影響を与えることです。

 このシステムで有益なことの一つは、適任者を集めてきてくれることです。システムがあるだけでは不十分です。業務を遂行する人々こそが成功の鍵を握っているのです。最高レベルのプロジェクトを行うためには、プロジェクト管理機関は施設を設計し建設するために必要な技術者をタイミングよく、適当な人数集めなければなりません。エクソンの従業員だけでプロジェクトを行うことはほとんどありません。コントラクターやサプライヤーなどの第三者と効果的に協力することがプロジェクトを成功させる鍵です。

 上流部門マネージメント・チームは、操業手順、サポートセンターの役割、エクソンのマネージメントとの関係などについて定期的に見直しを行っています。現在私たちは多くの大規模プロジェクトを計画中です。プロジェクトマネージメントシステムを実施する上で、今ほど適切な時期はありません。

以上のように、プロジェクトマネージメントシステムは、従業員以外の多くの人たちと進めて行く上で必要となるシステム指向のマネージメント・システムである。逆に、大規模プロジェクトの費用効果性を高めるには、システムがなければできないとも言える。

取得ブームのISO規格

   9月5日付け朝日新聞夕刊の「ぜみなーる」欄に寺澤 荘一郎氏がISO認証取得が日本でブームになっていること、現状、今後の動向などを発表されている。内容には、特に目新しいことは述べられていない。がしかし、見逃せないことが一つある、それは、天下り役人による監査機関が生まれていることだ。

 「ただ、懸念されるのは、第三者機関として公正さが必要な認定機関を中央官庁が財団法人の形で作らせ、天下り先を確保する動きが目立つことである。」

 ISO規格は、第三者機関による監査によって品質システムの公平性を保つための重要な要素が含まれている。そもそも第三者監査は民間機関によって行われるのが本来の姿である。にもかかわらず、中央官庁が名を変えて第三者機関のごとく振る舞うとすれば、ISO規格の精神を日本の役人たちが冒涜し、汚染することである。役所自らが「官対官」あるいは「官対民」のなれあい監査を行っていると誤解されても仕方あるまい。到底このような動きは許されるものではない。「日本の仕組みは信用できない」とか「けったいな国だ」と諸外国から見られていることを自覚してないのだろうか。日本の役人の国際性のなさを如実に表しているとしか思えない。それにしても、このことを紙面にした寺澤 荘一郎氏の勇気を称えたい。

 旧ソ連時代のことであるが、モスクワ空港に降り立ったときの不愉快さを思い出した。余りにも多くの兵隊が空港内でぶらぶら歩いていることが原因だった。認証機関にまで役人が入ってくることは、モスクワ空港の風景を日本で再現するような、まことにおぞましいことではある。

 官が民の活動を支配することは、戦後の日本産業を育てる上で大きな力を発揮したことを否定はしないが、これからも同じように効果的に働くと考える人は、もう少数派である。事実、金融、石油、通信、電力などで官支配のシステムの非有効性がすでに証明されている。これからは、官のもとに成り立っていた日本のあらゆる仕組みを民に任せる方向に向かうのが正しい。なぜなら、すでに官が支配できないほど民の力は巨大化し、国際化しているからだ。このことに早く気付くべきが日本の役人たちと考えるが、如何。

建設産業の透明性と競争環境確立

   建設省は、96年度から、品質確保のためのグローバルスタンダード、ISO 9000シリーズを公共事業に適用したパイロット工事を実施している。その後コンサルタントぎょうむなども対象に追加し、98年度はパイロット工事を建設省のすべての地方建設局で実施している。欧州、アジア及び豪州でISO 9000シリーズの認証取得を入札条件とする動きを踏まえ、我が国での方向付けが注目されるところである。

 建設企業では、今年に入ってもISO 9000シリーズの導入が盛んに行われており、建設分野だけで認証取得済みの事業所数は480を越えている。これらは、自社の品質保証体制を整備し、顧客からの要求にこたえるという、企業の基本原理に戻っての行動と考えられる。

 公共工事への定着により(1)公共工事のプロセスの透明性の向上(2)受注者の自己責任の強化(3)責任と権限の明確化ーーなどの建設事業の構造改革の進展が期待される。

 環境マネージメントシステム(EMS)、ISO 14001に関する取り組みも進んでいる。地球規模から身の回りに至るまで、EMSは環境問題を的確に対応するための有効なツールとなる。

 建設省は98年1月、EMSを構築するモデルプロジェクトを六つの工事事務所を発表した。98年度には、新たに二つの工事事務所を追加した。モデルプロジェクにおいては、工事事務所が定めた環境目的・目標の下、受注者と一体的にEMSを運用していく方針である。

 さらに、現地一品生産方式でプロジェクトごとに条件が異なる公共工事において、品質、コスト、スケジュール、リスクなど多くの要素を統合して総合的にマネージメントを行うシステム(プロジェクトマネージメントシステム=PM)の導入が期待されている。建設省は、98年4月に、PMについての研究会を設置し、公共工事へのPM導入の検討を開始した。

 以上、日経新聞の広告欄からの転載記事である。プロジェクトマネージメントシステム規格ISO10006は、2000年版ISO 9004と相性がよいように思える。やはりシステム指向に基づく規格なら「統合性」が高まると言えそうだ。いずれにしろ、建設省の試みが成功することを祈りたい。

デジュール・スタンダード(公的な標準)で日本は苦しい立場

   欧米各国政府は、世界標準が自国産業の販路を拡大する武器であることに注目し、自国技術の世界標準化を目指す戦略を採用した。21世紀の主力産業に自らの技術を反映させられるかどうかが、国際競争力を左右し、雇用にも響きかねないからだ。

 日米欧ともさまざまな開発・実験の成果をISOなどの場に持ち込み、標準に採用してもらおうと、駆け引きを繰り広げている。

 欧州は、官民の共同作戦では先行してきた。デジタル携帯電話の規格では90年代初め、欧州、日本、米国の三つの方式が提唱されていたが、いち早くアジア地域などの政府に採用を働きかけた欧州方式が、技術的に優れているされた日本方式をしり目に、百カ国以上に普及。欧州の通信機器メーカーは世界市場で優位に立った。
 なにより、欧州の標準化戦略を際立たせたのは、87年にISOで制定され、90年代に世界中に広まった品質管理システムの規格「ISO 9000」だった。

 これは、製品やサービスが一定以上の品質が保てるよう企業や工場が組織的にきちんと管理されていることを示す規格で、もとは英国の国内規格だった。それをISOで世界標準に昇格させるとともに、欧州統合を控えた各国の政府調達の条件にした。
 それがアジアや東欧など他の地域にも入札や商談の基準として波及。米国や日本の企業も、自社のシステムをISO 9000に合うように変更せざるを得なくなった。

 危機感を背景に米議会技術基準局は、92年、「米国の規格開発が機能しなければ、米産業界は打撃を受ける」との報告書をまとめた。「世界標準づくりに関与することの重要性は、急速に認識されるようになった」と、米商務省標準技術局もマリー・サウンダーズ部長は言う。
 この十年間、米国はISOで分野ごとに設けられている委員会で、標準化の作業を左右する幹事国に次々と名乗りを上げた。ITS(高度道路交通システム)を担当する技術委員会の幹事国も、米国だ。

 (注:1997年時点の米国が幹事国として引き受けた新しい国際規格の数は、532である。一方、日本は、わずかに103に過ぎない。ドイツ、英国はおおよそ450、フランスでさえ290である。いかに日本が立ち後れているかが分かる。ただし、幹事は、技術委員会、分科会、作業部会の合計数。)

 先行する欧州と巻き返す米国に挟まれて、日本は苦しい立場に追い込まれている。
 次世代テレビと言われる高品位テレビ(HDTV)の開発競争では80年代末、NHKのハイビジョンが世界に先駆けて実用化された。ところが、日本勢に市場を奪われることへの警戒感などから、欧州も米国もハイビジョンを世界標準とするを拒否。ハイビジョンは日本でしか通用しない規格となってしまった。
 「日本製の品質を示すデータを出しても少しも議論が深まらず、多勢に無勢で欧州勢に押し切られてしまった。」
 コンドームなどのゴム製品メーカー、オカモトの石渡幹夫・茨城工場長は悔しがる。
 ISOは、エイズ問題の広がりを受けてコンドームの規格を制定し、厳しい検査基準を導入した。日本メーカーは薄くて丈夫な製品を作る技術にかけては世界一。だが、検査基準が厳しくなれば、薄さにも限度がある。日本国内で販売する製品を含め、それまでの0.03ミリから0.06ミリにせざるを得なくなった。

 「日本人はいつも思想はそとからくるものだと思っている」

 司馬遼太郎の「この国のかたち」はこんな引用から始まる。日本工業標準調査会の国際部会は、昨年11月の答申で、このくだりに触れ、「文中の思想が標準と書き換えられてはならない」と指摘し、国際標準への積極的な関与を呼びかけた。

以上は、9月19日付け朝日新聞の「世界システムの行方」からの抜粋である。この記事を受けて国際電気標準会議(IEC)副会長 東迎 良育氏がコメントをしている。以下に、一部を転載する。

 IECやISOと欧州の標準化機関は、作業の重複を避ける必要があるので、時には欧州の標準化が優先する場合がある。これが欧州に有利になっている面は否めない。
 決して欧州を優遇していはいないのだが、欧州は陸続きの先進国が集まっており、伝統的に話し合いによる共通化の土壌がある。ルール作りに優れているうえ、欧州統合という追い風もあって、標準化の分野でも世界をリードしている。

 これに対して、日本はルールやシステムを自ら作り上げるのは苦手だ。せっかく、世界に冠たる品質管理(QC)運動の実績を積み上げていながら、それが個別企業レベルにとどまっている。
 ISO 9000については「品質で世界最高のモノを作る国が、こんなルールに振り回される必要があるのか」という議論すら、国内にある。しかし、相手が「ISO 9000でなければだめだ」と言えば、それに合わせざるを得ない。
 言葉の壁はあるが、産業界や社会のニーズをいち早く標準化に結びつけて、国際機関の場で主体性を発揮すべきだ。そして技術力で他を圧倒するのではなく、世界の共通財産を構築する意識を持ち、特に、アジア地域の標準化に協力していくことが、日本に求められている。

東迎氏の言っていることに全面的に賛同したい。アジア地域の国々で日本人が「俺はリーダーなんだ」という態度をとりながら、お金と遅れた技術をすこしお裾分けすることしかしていない。これでは、尊敬されるリーダーにはなり得ない。たとえば、東迎氏が言っているように、国際標準化でアジア代表とどうどうと欧米と渡り合っていただきたいと思っているのは、私だけではなかろう。

この不況と日本人

   このようなホームページを発信していると、いろいろな方と情報交換ができる。そのこと自他を楽しんでいることもあるが、ひとり考えさせられることも多い。ISO 9000が世間で騒がれているが、その背景は何かが分からなくなることがある。経営者もしかり、推進者も本当の目的を理解しているのだろうかと疑問になることがある。この気持ちの整理ができなくていた時に、今日の朝日新聞の夕刊の記事が目に入った。評論家、加藤周一氏の「夕陽妄語」からの一文を転記する。

 それにしても不景気の日本社会が、迫り来る恐慌に危機を感じていないようにみえるのは、何故だろうか。たしかに誰もが先行きに不安を感じてはいる。しかし一部の失業者を除けば、現在の状況がわるいわけではない。円が弱くなっても、海外旅行者の数は減らない。失業者は増加しているが、急激にではなく、その比率は好況の米国のそれを超えず、ヨーロッパ諸国においてよりもはるかに低い。またジャーナリズムに危機を強調する論客が居ても、大衆が彼等の言説を信用しないということもあるだろう。彼らこそはしばらく前に「ジャパン・アズ・ナンバー・ワン」踊りを踊った人々にほかならないからである。日本経済は世界最強ではなかったが世界最低でもなかろう。たしかに金融業は支離滅裂だが、製造業には強い足腰がある。不況が底をつけば、また立ち上がる時があるだろうーーと敗戦直後の荒廃からたちなおった経験をもつ国民は考えているらしい。

 しかしおそらくそれだけではない。明日を思い患うこと少なく、今日を愉しもうとする態度は、遠い他界を考えず仲間内の此処に関心を集中する習慣と共に、長い日本文化の伝統である。故に明日の世界恐慌よりも今日此処での暮らしに係る。政治家は当面の政争に、役人は予算の分捕りに、週刊誌は毒殺事件に、女性雑誌は、今すぐいかにして痩せるかに、NHKは台風が今どこへ向かっているかに。そういう関心のあり方には、たしかに一種の生活の知恵がないとはいえない。しかしその限界もあるだろう、と私は思う。

 台風と不況はちがう。台風の進む方向を変えることはできないが、不況に対して有効な手を打つことは、条件次第ではできるかもしれない。此処に上陸した台風は、他国に影響しないが、今日の世界では、日本の不況は他国の経済にさまざまな影響を与える。当然国際的な責任問題が生じ、「今此処」主義に徹底するのはむずかしくなるだろう。

 日本人は、長期的な戦略や国際的な行動には不向きであるといつも思っていたが、そのように考える方がいることを知って少し安堵している。あまりにも国賊的意見で、過去には苦い思いをしたことがある。いまやっと口にすることができる時代に来たように思うが、いずれ忘れ去るのが、また日本人である。


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