新規格ISO9001の解釈と対応
長い時間と多くの関係者の努力のおかげで新規格が昨年12月15日に発行された。規格の策定に携わったTC176委員会の一員であるアメリカの友人が以下のような2001新年の挨拶を送ってきた。きっと彼は新規格をすこしは自慢したかったのだろう。
新規格が正式になるとその準備に追われている企業もあれば、3年の暫定期間内にゆっくりと移行しようと考えている企業もある。しかし、米国やオーストラリアでは、規格が正式になる前から新規格への移行を積極的に進めている。オーストラリアでは1999年末にはISO9001:2000を暫定国家規格としていち早く定め、中小企業に早期に取得するよう奨励していた。アメリカでは、2000年の春頃から米国品質協会がISO9001:2000の総会を開催していた。これらの国の動きに比べ日本の指導的立場にある関係者の対応は決して適切であったとは思えない。経済不況への対応に追われている多くの日本企業にとっては新規格への移行は必ずしも優先順位は高いプロジェクトとは思えないが、中長期的な観点から新規格の長所を理解してほしい。新規格が日本企業の再生に役立つことを願って、本ホームページはISO9001品質マネージメント・システムの解説を始める。ただし、自分自身の頭の整理をすることを目的にしているので、気ままに要求事項を選んでゆく。
1 適用範囲
規格の導入部にはあまり関心を持たない人が多いが、新規格ではぜひ「序文」から読んでいただきたい。重要なことが条文になっているからだ。その一つが「1.2項 適用」である。認証の取得対象の規格がISO9001:2000のみになったことから適用の除外に関する条項が加わった。この適用除外に関してはTC176委員会が指導書を発行している。日本規格協会のホームページから日本語訳を入手してほしい。この指導書には、除外ができるケースとできないケースを明らかにするためのいろいろな企業の事例が示されている。少なくとも除外を適用することを決めた企業は是非この指導書を注意深く読んでほしい。
適用の規格文を読むと分かるが、除外できるのは「7条 製品の実現」の要求事項だけが対象であり、それ以外の「経営者の責任」、「経営資源の管理」、と「測定、分析および改善」の要求事項を除外することはできない。適用の除外を決めた企業は、顧客の理解を混乱させることのないように品質マニュアルで除外をしていることを明示することが必要である。
もしも設計業務を行っていない製造業の企業ならば、考えられる除外は設計・開発の要求事項である。といっても簡単ではない。認証の対象にする製品の範囲によって大きく影響を受ける。たとえば、金型の製造販売会社では金型の設計をしているから除外はできないが、プラスチック製品の製造を行っている企業で金型を設計・製作を外部に依頼している場合には除外しても合理性があると判断できることもあるからだ。また、製造設備の設計も要求事項の対象になることもある。このように除外は必ずしも簡単ではないだけでなく、むしろ危険である。リスク管理の観点から経営者は積極的に新規格の要求事項を取り込むことを強く推奨する。「備えあれば憂いなし」のごときである。いかなる事態が起こってもシステムがあれば、それにしたがって事を進めることができるからだ。システムがなければ何を何時だれがするのかが分からず右往左往することになる。その事例は日本で最近よく見かけた。システムを持っていても限定的に使うことにしておけばよいだけである。
一方、サービス業では顧客の所有物、識別およびトレーサビリティ、モニタリングおよび測定機器の管理などは除外できる場合が多い。同じように小規模企業でもこれらの要求事項を除外できることが多いので品質マネージメント・システムは単純化できる。
なお、監査機関は除外事項がある場合には、徹底的に監査をして除外の合理性を検証することの合意があることに留意すべきである。