新規格ISO9001の解釈と対応
8.3 不適合品の管理
不適合品の管理手順書が求められる要求事項である。社内で発生した不適合品をどのように処理するか、誰がその処理を決定するのか、特別採用をする場合の責任者はだれか、不適合品の識別・隔離をどうするのかなどに関する手順が求められている。さらに、不適合品を修正あるいは再加工する場合には、再検証によって適合性を確認することになる。ここまでは現行規格の4.13 「不適合品の管理」とほとんど同じ内容である。
一方、出荷または使用開始後に発生した不適合の処置に関する要求事項は新規に追加された。ただし、「その不適合の影響に関しては適切なアクションをとること」とし、不適合の重大性によって処置内容を不透明にしている。このような文言を採用した背景として考えられることは、電話で済ますことができるほど軽微な不適合から、某食品メーカーの毒素混入事件のような社会問題化するほど重大な不適合までその範囲が広いことだと推察する。それを裏付ける文言がある。「不適合品の修正に関する提案は、顧客、最終使用者、規制団体、あるいはその他の団体に対し、その許可申請のために報告されるべきとして、通常要求されるであろう」とし、顧客以外に最終使用者や自治団体まで報告義務の対象にしている。企業は、社会的責任を認識する必要性を規格文言としていることになる。しかし、規格の原文では、「shall」が使われていないことに留意すべきである。したがって、単なる示唆であり、危機管理の一つとして何らかの取り決めを品質マニュアルに記載するかどうかは企業の独自判断に基づく。
これら一連の処理に関する記録の必要性は規格で明文化されていないが、次項の「データ分析」の要求事項に「測定並びにモニタリング活動、およびその他の関連する情報源によって生成されたデータを含めること」となっているので品質記録としての扱いが必要となる。
不適合品ではなく納期遅れや請求書の誤作成など業務処理(プロセス)上の「不適合」はどのように処理するのかが問題となるが、これらは次項の「データ分析」の要求事項によって対処することになる。現行規格でこの点が明快でなかったことに起因する混乱を新規格では回避できる。
新規格への対応
認証取得済みの企業は、出荷後に発生した不適合品の回収、代替え品の納入、品質苦情処理などを不適合管理規定に追加すればよい。他方、新規に取得する企業は、以下の内容を定めた手順書を作成する。すなわち、
社内で発生した不合格品の処理に関する手順、および責任と権限
不合格品が誤って次工程に流れたり、使用されないように識別、隔離、廃棄処分
修正、再加工、特別採用、廃棄処分を決定する責任者の責任と権限
出荷後に発生した不適合品の処理手順
これら一連の処理に関する記録の管理方法
規格では「要求事項に適合しない製品の引き渡し」とのみ記載しているだけであるが、特別採用については、厳重な管理手順が望まれる。まず「製品の測定およびモニタリング」での要求事項として「顧客承認」が最低条件となっている。したがって、特別採用として不適合品を顧客に引き渡すには、不適合であることを顧客に連絡しそれでも納入してよいという同意を得ることと、企業内でも高位の管理者、時には経営者によって承認を受けることの二つの条件を満たす場合のみとするのが望まれる。営業担当者の判断に基づくなどは危険な手順で、納期を優先する担当者は安易に特別採用を認めるからだ。また、特別採用を多用することによる企業内でのモラールハザードの発生も考慮しなくてはならない。一度安直に特別採用を許すと「あのときにできたのになぜ今回は許されないのか」などということが起こり、歯止めが効かなくなることが考えられからである。